第3話 新しいお仕事。
春に新しい仕事が始まるまでの間、フランソワーズには何度か王城から呼び出しが来ていたが、体調が優れないと診断書まで提出してそれをかわした。
実際は…ゴロゴロしていたが、休み慣れしていない私は3日もするとゴロゴロするのも飽きてしまって、フール国の法律全集を読んで過ごした。
マティアス殿下からお見舞いも手紙も届いたが、謹んで返させていただいた。
私たちのことは新聞でデカデカと記事になり、社交界でスゴイ噂になったとお義姉様に聞いたが、3か月もすると「殿下の婚約者は誰になるのか?」に変わっていたようだ。巷の噂ではどうも私は修道院に入ったということになっているらしい。
さて、新しい仕事が始まる。
昨日のうちに職員寮に入寮して、新しく買った〈緑色じゃない〉ワンピースを何着か小さなタンスにしまい込んだ。あとはベッドと机とイス。
寮のお隣の部屋は偶然にも、私の護衛を務めてくれていたアンヌさん。騎士の女子寮が雨漏りしてしばらくこちらにいるらしい。朝、顔を洗いに行ったらばったり会って驚いた。知り合いがいるのは心強い。が、女子寮の建て替えを検討しなければいけない時期なのかもしれないな。
フランソワーズは壁に掛かった小さな鏡に少年のような髪をした自分を映して見る。それから、支給された制服に袖を通す。
白いブラウス。紺色の立ち襟のベストに紺色の長いひだスカート。機能性重視だ。男の人はスラックスになる。ヒールの低い黒の靴。
ここに、今日配属が発表になったら、その所属を示すバッジをつける。それが王城の通行証にもなる。
フランソワーズは一応希望する部署に、軍部と海外対応部、を記入しておいた。どちらもマティアスの弟君のアレクシスが任されている部署だ。元婚約者と極力接触がない方が、先方さんも良かろう、という彼女なりの配慮だった。が…。
「…あのタヌキオヤジ…」
具体的に言ってしまうと不敬罪になるので、口の中だけでフランソワーズは悪態をついた。受け取った配属先の任命書にはわざわざ陛下のハンコが押されている。まあ…部署が部署だからなのか、みんながみんなそうなのか、ただのいやがらせなのかはわからないが。
「フランソワーズ嬢、第一王子殿下の秘書室付けに任命する」
任命先が読み上げられると、ザワリッ、と集められた新入職員がざわめく。居並んだ同期の皆さんは、私が、あの、騒動を起こした本人であるとは気が付いていないようだ。髪は短いし、念のため眼鏡もかけていたし…フランソワーズなんて名前はよくある名前だし。
殿下の秘書室長のジュスタンに、あ、ジュスタン様にバッジをつけてもらう。私の不機嫌な顔と対照的に、彼は満面の笑みである。見慣れた、バラに王冠マークのバッジ。(ちなみに陛下付きは太陽に王冠マークだ)
次々と名が呼ばれて、それぞれの長からバッジをつけてもらうと、新入職員はその部署長に連れていかれる。今日は配属部署の説明や、王城内の説明なんかで終わる予定だと聞いた。
「おかえりなさいませ、フランソワーズ様」
並んで廊下を歩くジュスタンの目の下には深い隈が見て取れる。なんだか白髪も増えた。ふと顔をあげて返事をしそうになって…
「いえいえ秘書室長。様付けは不要でございます。新しい職場で、精一杯頑張らせていただきますね」
とかわした。
私にはもう逃げ場もないのだ。がんばろう、なんとかなる。そう気合を入れる。




