第13話 明かされた真実。
「…は?僕はフランのこと、初めて僕の誕生会に招いた時から好きだ」
「ふんっ。私なんかマティのこと、初めて会った時から好きでしたけど?」
翌日、出発が遅れて昼前になった。今度は隣り合って座った二人が、平和な言い争いを始めた。フランソワーズ様の目が腫れているのはご愛敬だ。
「あの調子だと、まだ一線は越えていないわね」
耳元でアンヌがくそ真面目な顔で言うので、笑うに笑えない。
昨夜は結局、泣きながら酔いつぶれたフランソワーズ様を殿下がおぶって部屋まで連れて帰った。店の人にも心配された。
「…旦那さんの浮気ですかい?上手くやらにゃあな」
お会計をした俺に店員さんが笑いながら言った。
「うちの若旦那、不器用でね。あははっ」
そう言っておいた。
視察途中の町ごとに、あの人たちはまるで付き合い始めの恋人たちの様に腕を組んで、店を覗いては笑い合ったりケンカしたりしている。
…最初からそうすりゃよかったんですよ?
俺とアンヌは二人の後をぶらぶらと歩きながら、この人たちはいつ一線を越えるかの考察と賭けをしていた。
***
「陛下、実はお願いがあってお伺いしました」
父の執務室で僕とフランソワーズは緊張の面持ちで跪いた。
僕らの提出した北部街道の報告書を読んでいた父が、書面から目を離して僕らを見つめる。今日は珍しく母も来ている。
「なんだ?改まって?」
にこやかに笑っているが、この人の笑顔は油断ならない。思わずフランと目を合わせる。うん。ここを通り抜けられなければね。
「私とフランソワーズ嬢の婚約なのですが、もう一度結び直していただきたい」
「は?」
机に頬杖を突いて、にんまりと笑う父。
隣に座った母までもが、ニヤッと笑った気がした。
「マティアス、王命においての王族の婚約が、そんなに簡単に結ばれたり、解消したりできるという認識なのかな?お前は、甘いな」
「…それは…でも!私の伴侶はフランソワーズ以外には考えられません」
「ほう。それはフランソワーズ嬢も同じ考えなのかな?」
フランソワーズはうつむいていた顔をあげて、陛下を真っすぐに見た。
「私の浅慮な行動と言動で、多くの人を巻き込んでご迷惑をかけてしまったことは深く反省いたします。私は…たとえ殿下と添えなくても、殿下を一生支えていく所存でございます」
「…フラン?」
僕はそんなことを言いだしたフランをぎょっとして見つめる。
顎髭を撫でていた父が、ほう、と面白そうにフランソワーズを眺める。
「先に申したであろう?お前の、王太子たる王子の婚約が、そんなに簡単に解消できると思っていたのか?」
「…?」
「お前たちの婚約解消は凄い噂だったから、使わせてもらった。好都合だったしな。おかげでエクトル侯爵もイリア国王もあぶりだせた。他にも噂を信じて自分の娘をお前の婚約者に、と養女まで取って推してくる家が沢山あってな。サクサクと調査に入れた。お前たち、なかなかの功績だな。よくやった」
「「え?」」
「アレクシスにも爵位と領地が用意できたしな」
「そうよ。それに、アレクのお嫁さんまで決まったしね。思ったよりいい結果でしたわ」
母が楽しそうに笑った。
「もっと早く二人で言ってくるだろうと思っていましたが、アレクの領地問題が解決するまで待ってくれたのね?フランちゃんのお部屋はマティアスの続き部屋のままよ。あなたのウエディングドレスの仮縫いも終わったの。後は微調整だけね。これから忙しくなるわよ?」
「……」
「……」
僕らは思わず目を合わせる。
「なんだ?不満か?」
「あ…いえ」
「しかしお前たちもまだまだだな。噂話は振り回されるものではなく〈使う〉ものだぞ?しかも噂なんてほんの2,3か月しか持たんものだしな」
あははっと楽しげに笑う僕の両親。
不満…ではないけど…呆れた、というか、ほっとしたというか…。
フランを見ると、目をぱちぱちさせて情報を整理しているようだ。
「ご配慮、感謝申し上げます。いい勉強になりました」
フランの手を取って、もう一度お二人に頭を下げる。
***
出てきたばかりの陛下の執務室のドアの前で、ぼーっとしているフランに声を掛ける。
「フラン?君はまた僕を諦めたね?」
「え?だって、ちゃんと言ったでしょ?たとえ結婚できなくてもあなたのお役に立つわよ、って」
「そうじゃないだろ?結婚できない前提なのおかしくないか?諦め早すぎ!」
「ずっと、一生、あなたの側にいるわよ。そう言ったでしょ?私?」
「僕は君と結婚できないんなら、誰とも結婚しない」
「だ・か・ら!私とするでしょ?」
「うん。愛してるフラン」
「こ、こ、ここで?それを言う?」
真っ赤になったフランを抱きしめてキスをする。
陛下の護衛騎士たちがそっと目を逸らしてくれている中、うちのアランとアンヌがニマニマして僕らを見ていた。




