第10話 新しい公爵領。
「ふんふん。上手くいきましたね」
フランが僕の肩越しに僕の広げた報告書を覗き込んで頷いている。
僕は自分の机でアレクシスから届いた報告書を読んでいた。
〈たまたま〉南部に遠征訓練に出ていた軍に、エクトル侯爵家は一晩で制圧された。関係した近隣の子爵家や伯爵家も力で抑え込んだ。何人かはイリアに逃げ込んだようだが、もう二度と祖国の土は踏めないだろう。
なにせ罪状は国家反逆罪だ。容赦はない。
「お前、何をしているんだ!国王陛下に面目が立たないだろう!このあばずれ!私が躾け直してやる!」
あの後、控室でアリーチェ王女殿下に呼び出されたエクトル侯爵がその彼女をののしっていた。ちょうどそこを、たまたま偶然に(いや、進行表通り?)ジュスタンに案内されて陛下御一行が通りがかった。
「へえ。お前が忠誠を誓っているのはどこの国王なんだい?」
そう声をかけた時の、振り返ったエクトル侯爵の顔は面白かった、と父上が教えてくれた。
目玉が飛び出るほど驚いた顔だったらしい。
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アレクシスはエクトル侯爵家を押さえ、国境を閉鎖してから、1000ほどの兵を連れてアリーチェ王女殿下に付き添ってイリア国入りして、イリア国王に直接面会し、伝えた。
アリーチェ王女殿下と結婚したいこと。求婚のための貢物も持参したこと。
もちろん陛下の正式な婚姻承諾書も持って行った。
うちの国内で反逆者が出てしまって国境近くに今3万の兵がいること。お騒がせして申し訳ないと謝った。
その反逆者のエクトル侯爵が、アリーチェ王女殿下に無体を働いたので処分したこと。
当のアリーチェ王女殿下の背中に古傷があるのは、身近に無礼なものがいるに違いない。婚約者として心配なので、しばらくイリアに留まること。
「僕は本気です。アリーチェを愛してしまったんです。お義父様が許して下さるまで帰れません♡」
イリア国王は王女を無事に送り届けてくれたフールの1000人もの兵の食事や、心配のあまりアリーチェ王女から離れないアレクシスの接待に正直…面食らった。
下手に動けば今、目と鼻の先に3万ものフール軍がいる。
駄々洩れのごとく情報を流してくれていたエクトル侯爵は処刑されたようだ。国境が一時的に閉鎖されていて、何の情報も入ってこない。
アレクシスはアリーチェと一緒じゃないと帰らないとだだをこねて本当に帰りそうにない。
…実際、1か月近く滞在したらしい。
1か月後、根負けしたイリア国王から持参金までもらって、アレクシスはアリーチェ王女を連れて、そのまま空っぽになっていたエクトル侯爵の屋敷に入った。
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「うんうん。これで公爵領が一つ新設されますね。結構細長くて広いですね」
壁に貼られた地図をフランがチョークで囲んで眺めている。エクトル侯爵領を中心に、イリア側についていた近隣の領地も統合すると、国境沿いはほとんどアレクシスの新しい領地になる。
「これでイリアとの国境を押さえられました。そのままアレクシス殿下が軍の訓練地になさるらしいですから、安泰ですね」
「そうだな」
小鳥亭でのみんなの楽し気な話の内容を聞かされた時は驚いたが…それにしても、ビール飲みながら何を話してるんだか。
「…アレクシス殿下って、いつからアリーチェ王女が好きだったんですかね?」
僕が手渡したアレクシスの報告書をもう一度眺めながら、フランが言った。
「ああ…そう言えばあの王女はしょっちゅううちの国の行事に来てただろう?あれは、アレクシスに会いに来てたってことかな?」
「うわっ。そう言えばそうでしたね。もじもじして可愛らしい方でした。気が付かなかったなあ…それでアレクシス殿下も今まで婚約者を選ばなかったんですねぇ。愛ですね?」
「…そうかもな」
…愛ねえ…僕は作戦遂行中に婚約者に捨てられたけどね…
僕は頬杖を突きながら、楽しそうに報告書を見直しているフランの横顔を眺めた。




