政(まつりごと)
公和党と政策で手を結んだことは、思わぬところに波紋を広げた。
「灯」は、知名度だけの新党ではない。腰を据えて政策を組み、他党とも大人の話ができる。
そう見た人たちがこちらへ目を向け始めたのだ。
権藤が旧与党を出たとき連れてきたのは衆議院の議員ばかりだった。
それは、参議院で議席を持つ議員の中には比例で議席を獲得した者もおり、そのタイミングでは声がかけられなかったからだ。
だが参議院にも、同じ思いを抱えた人がいた。
党が復古的な様相を帯びてくることに、声にならない違和感を抱いてきた、現在の非主流派議員たちである。
選挙区で選ばれた議員が、一人また一人と灯の会派に名を連ね始めた。
野党からも来た。いまの野党の執行部を、頼りなく思っていた人たちだ。
批判ばかりで対案を出せない。
数合わせに明け暮れ、暮らしを語らない。
そんな執行部に見切りをつけた議員が、灯の掲げる「足場」の話に、活路を見た。
気づけば「灯」は、参議院にも地方にも、細いながら根を張り始めていた。
大木の形をした根なし草がようやく地面をつかんだ。
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しかし、数が増えるということは、純度が薄まるということでもあった。
百人が百人、同じ志で集まるわけではない。
手弁当の頃から共に歩いてきた者もいれば、風の向きを読んで乗ろうとうする者もいる。
灯という船は、大きくなるほど、いろいろな水を船底に抱え込んでいく。
ある日、新しく加わろうとする議員たちとの顔合わせがあった。
その中に、二人私の目に留まる人物がいた。
一人は、数年前の裏金の問題で、名を取り沙汰された議員だった。
パーティー券の資金を帳簿の裏でやり取りしていた、あの騒動である。
ただ、その議員は無所属で辻立ちをして、党の公認もないまま一から選挙区で出直しをした。
もう一人は中年の弁の立つ議員だった。
彼は、自らは汚職の疑惑をかけられながら司直の手を逃れた。
「秘書は、政治家の盾だ」と言い切ったという逸話がどこからか漏れて伝わっている。
盾。
その言葉を、私は忘れられない。
かつて私は桐生さんを切らなかった。
切るくらいなら自分が前に出ると決め、彼の盾になった。
この男は、それを逆さまにした。
都合が悪くなれば秘書に罪を着せ、切り捨てる。
人を、そのための道具だと。
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その夜、私は権藤と話した。
その夜私は権藤と話した。
あの人たちを抱えていいのかと。
権藤はすぐには答えなかった。
それから低く言った。
「数は要る。聖人ばかりでは党は作れん。……だが、あの時俺がお前のところへ来たのは、お前しか新しい家を作れる人間がいなかったからだ。人が多ければ多少濁るのは止むを得ないが、濁り切ればこの党の存在意義はない」
意外な言葉だった。この老いた策士は、誰よりも濁った水の中を長く泳いできた人である。
「政治にはどうしても濁りが混じる。だがな、その濁った水の中で、あの家は芯まで腐った。理想を人に明け渡し、しまいには神輿に母屋を乗っ取られた……ああなれば、もうただの大きな入れ物だ」
彼は、湯呑みを置いた。
「……どこまで呑みどこから弾くか。その線は俺には引けん。お前の党だ。お前が引け」
私は、うなずいた。数が力であることは、分かっている。その力がなければ、佐伯くんの足場も、絵に描いた餅で終わる。
けれど、呑んでいいものと悪いものがある。
私は一晩考えて、一つの線を引いた。
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私は、あの「盾」の議員を呼んで話し合いをした
「あなたの力は認めます。弁も立つし頭も回る。……ただ、灯では秘書もスタッフも盾ではありません。都合が悪くなったら切り捨てるそういう道具ではない」
「……建前ですな」と、彼は薄く笑った。
「いいえ。これは「灯」の背骨です。ここを曲げることはできません」
彼はしばらく私を見ていた。
それから鼻で笑って去っていった。
数が一つ減った。
それでも私は、後悔しなかった。
数のために背骨を抜けば残るのは大きいだけの骨のない体だろう。
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一方で、灯は別の欠乏に突き当たっていた。
頭脳が足りない。
皮肉なことに、その理由の一つは喜ばしい出来事だった。
桐生さんも比例で議員になったのだ。
かつて彼は言った。
生きづらさの根が、法そのものの形にあるとき、解釈ではどうにもならない。ルールを作る側に回るしかない、と。その願いは叶った。
彼はもう私の秘書ではない。
並んで立つ、一人の議員だ。
嬉しかった。
けれど同時に、政策の頭脳の席が空いた。
今彼は二人分の仕事をしている。
増えていく数に、それを支える頭脳がまるで追いついていない。
ブレーンを探さねばならない。
組織を内側から作り直すときが来ていた。
数を増やすより、よほど骨の折れる仕事だ。
灯を、一つの大きな篝火に束ねるのか。それとも、たくさんの小さな灯のまま、それぞれの芯を残していくのか。答えは、まだ出ない。
それでも、縁だけは引いた。人を、人として扱う。その一線の内側でだけ、私は濁りを呑む。
窓の外の灯は、少し大きくなって、その分、揺らぎも増して見えた。大きくすることより、揺らがぬ芯を守ることのほうが、これからは、ずっと難しい。




