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聖者のお務め  作者: まちどり
205/205

205.望まれたいのはただ一人!(207~208)

 地下神殿控えの間、お互い夢の中に居た時のお話しです。




 一瞬青く次に黄色みを帯びた白い光が強く明滅して視界を埋め尽くす。


 土埃の混じった乾いた風が頬を全身を殴り、目の前には巨大な火の玉が迫る。

 一体何事か?!と驚愕する間も取らず構えた剣に気合を込め「ハァッ!」と振り抜く!


 ズシャァーー……ズドドーーンッ!!


 真っ二つに割れた火球はそれぞれ俺の斜め後方へと軌道を変えて着弾した。此処は戦場か?

 爆風で背中が押されるが剣を構え直し、目の前に佇む火の玉を放った大魔法使い、かつて同じ主に仕えていた彼の者を睨む。


 彼の薄茶色の瞳は、共に居た時は同じ色のうねりの強い長髪に隠されていたのが今はその身に纏う魔力の所為か淡い金色に光る。

 極力目立たないように、と伸ばしていた前髪で隠されていた綺麗に整ったかんばせを露わにして、彼は嬉しそうに笑った。


「素晴らしい!私の火球を切り裂くとは!やはり君は只者では無かった!」


 昔、何かの実験だかに期待以上の成果があった時にも同じ様に興奮していたなぁ。


 そして彼は俺に手を差し伸べる。

「今からでも遅くはない。私の元へ来い、ガンダロフ!」


 …は?


 相変わらず何を考えているのか解らん。ふむ、それはそうだな。

「狙って火球をつけようとする危険人物に、誰がついて行くか!」

 周囲の騒音が薄れたように、チャキッと柄を握り直す音が耳に入る。

「金輪際、俺に関心を向けるな!」


 俺の明確な拒絶は彼にとっては想定内なのか、全く動じることなく笑顔を向ける。

「あれ位の火球を退けられる力が無くば、この混乱を極めた戦場を抜け出したとて、その後生きていくことは難しかろう」

 そして改めて彼は俺に手を差し伸べる。

「私の元へ来い!ガンダロフ!!」

「断る!!」

 即答して俺は彼に斬り掛かる。


 ガキィィーーンッ!!

 振り下ろした剣は半透明の魔法障壁に阻まれ、折れた剣先は俺の頬を掠めて後方に飛び去った。俺は後方に退き彼と距離を取る。


「私は、お前が欲しい」

 彼の薄茶色の瞳が、金色に光る。

「何度でもこいねがう!」

 追い風が強く吹く。まるで彼に吸い寄せられているようだ。

「私の元へ来い!ガンダロフ!!」


 お前が欲しい。その言葉を言って欲しい相手は。

「何度でも断る!俺自身を望まれて俺が嬉しいと感じるのは」

 腹の奥からぐるぐると熱く蠢くモノが溢れて身体中を駆け巡る。

「俺の身も心も支配するのは」

 俺は追い風を受けて、彼の者に突撃して

「俺の想いを捧げるのは」

 握り直した折れた剣が、光を纏った剣へと変化して

「ただ一人!」

 俺を求めた大魔法使いもどきを一刀両断する。


「アスタロト!!」


 ファサ…と大魔法使いもどきは切られた断面から黒いもやとなって周囲を、やがて俺の視界全部を黒く埋め尽くした。


『…あるじ、主、主、主…』

 剣が何度も俺に呼び掛ける。俺は眠っているのか?目を開けているのか閉じているのか判らない暗闇の中で、右手に握った剣の存在だけがハッキリと感じられる。


「…剣、無事か?」

『主!無事だった!』

「此処は何処だ?アスタロトは無事なのか?」


 周囲を見回そうとするも、粘り気のある水の中にいるように不安定で身体が思うように動かない。呼吸は辛うじて出来るが息苦しい。


『ますたーの気配は感じる。でも外の感覚が解らない』

 剣は淡々と報告するが、外の感覚が解らない?


 どういうことかと問い質す前に、甘酸っぱい香りにふわっと包まれる。あぁ、これは…アスタロトを感じた瞬間に、心の奥から身体の隅々まで幸せな気持ちで満たされた。


 欲しい。俺の愛しいかわいい人。


 熱いモノが溢れてくる身体の奥の深い部分に、更に熱くどろりとしたモノが沸々と込み上げてくる。

 恋というのは相手を自分の意のままに扱いたいという欲望だ、と言ったのは彼の者だったか。…恋も愛も、俺には未だ区別がつかないのだが。


『ガンダロフ』


 相変わらずの闇の中、気配がアスタロトを形作る。抱きかかえられ、優しく唇を重ねる。はぁ、身体が動かないのがもどかしい。


 唇から注がれる熱い想いに、俺の身体の芯が応じて昂ぶる。ドキドキと激しい鼓動は彼のものか俺のそれか。中に這入はいってきた彼の舌は徐々に弄ぶように焦らすように俺の舌に絡み、俺もそれにこたえていく。んぁ、気持ち良さに溺れてしまいそうだ。


 唐突に、ふっ、と離れる気配に寂寥感?喪失感?魂が千切られていく激しい痛みを感じて、必死で押さえる。

 手放したくない。離さない。逃すものか。この人は俺だけの『かわいい人』。誰にも渡さない。

 だからもっと俺を求めて。もっと俺に感じさせて。

 ずっとお互いを確かめあって。


 俺のかわいい人。


 そうやってアスタロトを堪能していると、背中がバシバシと叩かれているのに気付いた。いや今良いところだから…ん?


 目を開けて絡めていた舌をほどいてお互いの口を解放する。俺、アスタロトにのしかかってた?彼を圧迫しないよう、そっと身体を浮かせる。


 荒い息遣いで言葉を発することが出来ず、無言で見つめ合う。新月の澄み渡る夜の満天の星が煌めくような彼の黒い瞳が、興奮で火照って、だが事情がわからずに呆けている俺の顔を映す。

「…アスタロト」


 俺が正気に戻ったと気が緩んだのか、アスタロトの黒い瞳が海が満ちていくように潤んで、ふぅ、と息を吐くと、ほろりと涙が零れた。


「っ?!アスタロト?!」

 泣かせた?誰だ泣かせた奴は?!俺か?!状況的に俺が原因の一つであることは間違いないぞ!なんてことするんだ、俺!!

 狼狽する俺に彼は涙目のまま端正な眉を少し下げて、俺の首に腕を回して縋り付いた。


 暖かい。甘酸っぱい香りはそのままに、アスタロトの吐息と共に安堵した気持ちが伝わってくる。


 俺はアスタロトを首にぶら下げたまま身体を離さないようにゆっくりと起こした。彼が安心するように胡座をかいて収まりの良い感じで座らせて抱き締める。

 何がどうなっているんだか解らないが、彼が静かに泣いているのは見ていて心が痛む。たぶん俺が何かやらかしてるのだろうが。凄く気持ち良かったし。

 彼が落ち着くまで背中を優しく撫でる。




 これ、書いとかないと落ち着かないなぁと。

 これから『転生魔神』の方、頑張ります!

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