204.依り代さんの国の主食(199)
薄が目立つ北の住居裏の野原で、イトくんと乗馬を楽しむ。
一番大きなリパスに相乗りして、グラナとジルが並走する。
「大きくなったら、ジルに一人で乗るんだ」
「そうか。では、お互いに良き相棒になれるよう、精進しないとな」
彼にいつか訪れる独り立ちの日に備えて、俺に出来ることは請われれば何でも教えてやりたい。一人になった時に困ることが少なくなるように。
…まだまだ先のことではあるが。
※※※※※
御飯が食べたい、とアスタロトが度々切なげに呟く。食は細いものの三食デザート付けて間食も夜食も取っているが?
よくよく聞いてみると、『御飯』というのは米を炊いた物で、依り代さんの国の主食なのだとか。
「生やせないのか?俺の知らない野菜も生やしていただろう?」
トマトも南瓜も北の大地では絶対に自生しない、とロト本人が言っていたが。
「元南方砂漠にでも試験的にやってみても良いのでは」
と提案すると、
「そうだよね、うん、そうしよう!」
曇っていた彼の表情がぱぁっと明るくなった。影を含んだ憂い顔も色香が漂い妖艶なのだが、雲間から刺す光のような明るい笑顔が彼にはよく似合う。
元南方砂漠の南側の平野部に田んぼを作るから手伝って、とアスタロトからお願いされた。
俺が背後から抱き締め、彼が力を存分に発揮出来るように、と祈る。
大地を踏み締め両腕を前方に伸ばした彼が気合を込めて
「萌えろっ!」
と吠えると、ズザザザザ……と整えられた湿原のような区画が現れた。
「これは、ササニシキ。じゃ、次、行ってみよう!」
彼は上機嫌で、次々と同じ様な区画を出現させる。
一区画約20m×50m、それが全部で6つ、目の前に出揃った。
ササニシキ、コシヒカリ、ひとめぼれ、あきたこまち、みやこがねもち、ヤマダニシキとおそらくそれぞれの品種毎に生やしたらしい。しかし
「何処も彼処も全部同じに見えるのだが」
「それがね、ビミョーに違う。用途も違うから混ぜちゃいけない」
その違いは俺には判らん。俺に出来ることは、邪魔しないことだけだな。
そしてアスタロトはその勢いのまま、稲刈りから天日干し仕様の乾燥、脱穀、籾摺りを魔法で丁寧に行う。それぞれ10俵ずつ収穫できた、と上機嫌だ。
湿原の様相の区画は今、刈り取り後の切り株が並ぶ。風が運ぶ稲藁の匂いを彼は胸いっぱいに吸い込んで、実りの秋!と満足そうに破顔した。
「お餅は直ぐにでも食べられるとして、お酒はどうしようかなぁ」
「酒?米から?」
俺は彼の肩越しに稲藁で作った大きな円筒状の容器に入った米を覗き込む。
「依り代さんの国で造る、お米の醸造酒を『日本酒』っていうの。その土地によって味が様々で奥が深い」
お米の品種も各地域で様々だものね。とロトは自身の説明に頷くが、
「でもお酒造り、醸造って、どうすれば良いのかな?」
求む、優秀な杜氏!と綺麗な眉を寄せて拳を握る。ふむ、彼の理想とする食事環境は相当な高さがあるのだな。
日本酒関連は後回しにして、主食用の品種だというササニシキ、コシヒカリ、ひとめぼれ、あきたこまちを食べ比べてみる。
それぞれを精米して土鍋で炊く。手間暇かかるものなのだな。
炊き上がると、アスタロトは俺達と眷属の分、品種毎にお皿に並んだのは、二、三口で食べられるくらいの白い粒々で出来た三角が四つ。
「三角」
「おにぎりだよ。手で握るから、おにぎり。おむすびとも言う」
「どれもこれも全部同じに見えるのだが」
果たして味の違いは判るのだろうか、俺。
いただきます!と皆で手を合わせる。
アスタロト切望の『御飯』は艶々と粒立って仄かに独特の優しい甘い香りが湯気と共に鼻腔を擽る。
そっと口に入れゆっくり咀嚼する。
柔らかすぎない僅かな弾力が噛み合わせていく中で粒が熟れ甘みが増していく。控え目な塩味が御飯独特の甘みを引き立てる。うむ、美味い。
アスタロトはというと、少し涙ぐみながらゆっくりと味わっていた。確かにこのように美味いものを毎回食していたのであれば、彼が渇望するのも頷ける。
二個目、三個目と味を見ていく。
「これは、この柔らかいが弾力のある粒々は初めての食感だ。仄かな甘みが噛む毎に口の中に広がっていく。うむ、美味い。…味の違いは…言われてみればそうかと思うが…」
そうして各2個計8個食べた結論は
「うむ、どれも美味い」
俺の結論に、アスタロトは満足したように目を細めた。
孤児院・託児所の3時のおやつの時間に合わせて、小さな塩むすびを沢山作り持って行く。
「「「「「三角がたくさんある!」」」」」
一皿に四種の塩むすびを乗せて、子ども達にも味比べしてもらった。
「なんか、違うような気がするけど、どれも美味しい!」
「うん、おいしい」
「つぶつぶやわらかい」
俺と同じで初めての味と食感だから味の違いなんて細やか過ぎて、ただ美味いのは確実に皆同じ感想だった。。
おかわりする子が続出するほど大好評だった。
「お月様、きれい」
「満月、ではないんだな。少し欠けている」
「明日は雲が多いから、今日の方が綺麗に見えるかなって」
北の住居裏の野原でお月見。俺とアスタロトとイトくんとレアンが並んで明るい月が昇ってきた東の空を見上げる。
「何かしらの祭事のようですね。供物にどの様な意味があるですか?」
長机に並べられたお団子や薄、栗や薩摩芋等をレアンが繁々と見詰める。
「収穫を喜び感謝する祭事だよ。収穫物を食べたりお供えしたり。薄は厄除けだったかな?」
アスタロトが説明するが、そのお供え物に並んでタケシが団子を両手で持ってかぶりついている。これもお供え物の一つか?
俺達の後方に置いたアスタロトとイトくんがたくさん作った念願のお月見団子を、手の空いた眷属達がひょいと摘まんで食べていく。俺達が好き勝手気儘に過ごせるのは彼等のお陰だ。感謝の意が伝わっていると良いな。
「この平穏な日々がいつまでも続くように、頑張らなくてはな」
俺は決意を新たに月を見据える。
「そうだね。無理しない程度に頑張ろうね」
横からの熱い視線に顔を向ける。と、アスタロトと目が合う。新月の夜の冴え渡る星空のような澄んだ黒い瞳に、月の光が映えて揺れる。
「お互いに、な」
麗しくて愛しい、俺のかわいい人。君の望みのままに。
一瞬目を瞠り、アスタロトが俺の太い腕にしがみついて頭をぐりぐりと擦りつけた。照れ隠しか、珍しいな。彼の身体中が火照ってその熱が伝わる。
横でイトくんが「ふわぁ~~」と溜息のような抜けた声を出してたり、レアンが「子どもの前だからこれが限界か?」と呟いているが、まぁ、彼のかわいらしさはこんなモノではないぞ!
このお話とは関係ないのですが、短編書きました。
『異世界転生ですか、そうですか。
https://ncode.syosetu.com/n7106md/』
で、『聖者』のお話しは速度を上げる為、ここは書きたい!という箇所だけ書いていこうかと思ってます。




