200.ルトーリィとの模擬戦(195)
不定期更新、書けたら上げます。
北の住居に帰宅後、遊び疲れたイトくんは晩御飯を食べたら早々に寝てしまった。
そして俺とアスタロトは寝室でゆったりとお茶を飲む。
「胡椒、ショウガ、ニンニク、ウコン、チョコレート、コーヒー、バナナ」
「何かの呪文か?」
♪パセリ、セージ、ローズマァリー アンド タァ~イム♪
初めに胡椒…彼が口遊むのは、『美味い』の呪文か?!
「差し当たり欲しい食材を並べてみました」
と彼はさらりと言うが
「殆どがマジックバッグには無い食材だな」
胡椒しかわからん!
「バッグの中には胡椒はあった。で、先日のダイザー帝国での食事にも胡椒は使われていた。だからこの大陸の何処かには胡椒はある。と思う」
俺でも知っている胡椒は、この世界でも知られた食材だ。
「では、他の食材は?」
無くても今の状態でも充分に美味いのだが、
「うん。南の海にでっかい島を造ってそこで栽培出来ればなぁって」
♪バナナン、バナナン♪
アスタロトは人差し指を立ててピコピコと上機嫌に揺らす。
「島を造る?そこからか?」
相変わらず発想が斜め上を突っ走っている。
「それで今日、南の海に行ったのか。てっきりイトくんの新しい遊びに付き合う為かと」
「本当は胡椒を探しに。でもね、海見てたらね、どうせ栽培するのであればもっと南の土地の方が適しているよね、って思って」
♪チョコ食べたいチョコ食べたい…♪
食い気が凄いな。少し呆れて、はぁ~、と俺は溜息を吐く。
「何も無いところから、島を造る。今やってる南方地域を形にしてからでなければ、美味い物を食べる前に君が過労で倒れてしまう」
口に出した事は即実行しそうだから、しっかりと釘を刺す。
「それは当然。一度には出来ないから、今は息抜きがてらちょこちょこやって、本格的には南方地域が他の人に任せられるくらいになってからだよ」
あぁ、そのうち食したいと思っている美味い物について心を馳せているのだな。
「君の作る料理は美味いから、調味料、香辛料が揃えば更に多彩な物が楽しめる、と」
「そういうこと」
二人で目を合わせて、ニヤッと笑みを交わす。彼の齎す美味い幸せ。ゆっくりと味わいたい。
※※※※※
自身の技量維持の為に聖騎士の鍛練に付き合っていたら、知らない間に『顧問』『指南役』だとかの役職が付けられていた。
「本音を言えば、聖騎士団団長に就任していただきたかったのですけど、教皇代理が「聖者様に畏れ多い」と却下されまして」
と聖騎士団団長に就任したダングが苦笑する。
「確かによくよく考えると、聖者様の御身に何かあれば大事ですものね」
「聖者様って聖女様と同格、つまり護衛対象ですよね。
けど、ガンダロフ様は聖騎士の誰よりもお強いんですよねぇ。俺、まだ一度も勝てない」
護衛騎士が護衛対象より弱いって、とジョシュアが項垂れる。
「俺が護衛対象?まぁ、イルシャ教会の建前としてはそうだろうが、実状とかけ離れ過ぎてないか?」
この世界に来てから俺が負けたのは、ラクーシルの赤黒い球と魔神捕獲網。剣技だけで言えば未だ負け無しだ。それに
「何か事が起こったときは、俺は『守る』側だしなぁ」
ラクーシルの見えない従者や黒い靄など、この者達では対処出来ないだろう。
「守る側…」
「…俺達が守られる…」
ダングとジョシュアが納得いかないような複雑な顔をした。
いろいろ考えるのは後に回して、今は自身を鍛え上げる時間だ、と訓練に勤しんでいると
「調子は如何?」
アスタロトが孤児院・託児所の子ども達・先生方を連れて見学に来た。
そう、聖騎士達の守護の対象はたぶん俺達では無く、見学に来た子ども達を初めとした無辜の民ではないか。
それに誰を、何を守るかは兎も角、技量を高めるに越したことはない。守りたい者を己の鍛練不足で失ってから悔やむのは愚か者のすることだろう?
「手合わせをお願いします!」
休憩中にルトーリィ元第一皇子と模擬戦をすることになった。
「では!いきます!」
「応、かかってこい!」
はぁっ!気合と共にルトーリィが斬り掛かる。一合、二合…と合わせて、去なしたり押し返したり躱したりと変化をつける。
観客がいる所為か、いつもより力んでいたようだが
「脇を締めろ」「切り返しは速く」「腕力だけで押し返すな」
等と言葉を掛けていくうちに打ち合いに集中してきた。うむ、よい感じだ。
「よし、ここまで!」
との合図で打ち合いは終わり。
「水分補給して身体を休ませておけ」
「ぁ、ありがとう、ございました」
ルトーリィは息を切らしながらの終了の礼の後に、ヨロヨロとしながらも長椅子まで歩いて行った。
いつもであれば五体投地するのだが、イトくんが見ているとなると流石に無様な姿を晒す訳にはいかないな。
※※※※※
「真夏の夜の夢は蝉だらけ」
アスタロトが夢の中で蝉に塗れたのだと言う。
もう真夏ではなく残暑だから、蝉も「ミーンミーン…」と眩しさを主張したものではなく、「カナカナカナカナ…」と夕方の黄色い日の光の背景が似合う声音になっている。
「日が落ちるのが早くなったな」
イトくんは大神殿から帰って晩御飯の時間まで北の住居の周りで蜻蛉を追いかけていたのが、最近は夜の帳が下りるのが早く居間で本を読んだり絵を描いたりすることが多い。
「これ、ガン様とルトー兄様!」
イトくんが描いていた絵を俺とアスタロトに見せてくれた。大男と優男が、剣を持って向かい合ってる。
午後の聖騎士団の訓練を見学した時の様子を描いたらしい。
「ガン様もルトー兄様も、かっこよかった!」
「そうか。上手く描けているな。ありがとう」
と頭を撫でる。
「ルトーリィに見せると喜ぶぞ」
「うん!明日、持って行く!」
イトくんが嬉しさではち切れんばかりの笑顔で応える。眩しい。この笑顔のために、ルトーリィにはいつまでも『自慢の兄貴』でいて欲しいものだな。




