199.大陸の南端の浜辺(194)
不定期更新です。書けたら上げます。目標は週一更新!
神官宿舎食堂。昼食後のお茶を飲みながら今後の予定の話をする。
「調味料の幅を拡げたい」
現状維持では満足できないのか、アスタロトが不機嫌そうに腕を組む。
「今でもいろいろと味わい深いと思うのだが」
「でも、マジックバッグ内の胡椒とか砂糖とかお酒とかいろいろ心許ないし」
現在、ラクーシル所有だった食材を大放出し惜しげも無く使い倒している。
「みそ、しょうゆ、酢、みりん、こんぶにかつおぶしが見当たらないし」
酢、しか知らないが、彼にとっては馴染みの物なのだろう。
「米はともかく、小麦や蕎麦、玉蜀黍、大豆とか、マジックバッグに頼らなくても備蓄できるくらいの収穫が出来るようにしなきゃ」
確かに備蓄は重要課題だ。マジックバッグにしまい込まれていたのは、バッグの中は時間経過が無く腐敗しないからだろう。
「それは今現在、南方地域で計画実施中だ。あまり焦るな」
俺は落ち着かせようと彼の頬を撫でる。だが
「そうじゃなくて、美味しい物を何時でも気兼ねなく食べられるようにしたい!」
と何故か彼は拳を握り締めて力説する。
おそらく依り代さん世界での食生活をこの世界でも日常にしたい、と彼は言っているのだ。…どれだけ豊かだったのだろうかと考えて、俺は額に手をやり項垂れる。
「君の理想は俺の想像を遙かに超えた高みにあるのだな」
「…ガンダロフには、私が美味しい!って思うものをもっと食べて欲しいなぁ…」
アスタロトのしみじみとした呟きが降り掛かる。それは俺に美味い物を食べさせて喜んで欲しい、ということか。…嬉しい。凄く嬉しい。顔がニヤける。はあぁ~…と俺は息を吐いて熱を逃しながら、火照った顔を両手で覆った。
んん゛っと咳払いをして対面に座っているレアンが
「では、教育施設については通学制と寮制、両方の設定で進めていくことでよろしいでしょうか」
と話を元に戻す。
寮制だったら毎日三食同じ献立はかわいそう、とのアスタロトの発言から脱線して今、俺が茹だって撃沈したのをレアン、マーリオ、ダング、ベルシーム、麒麟、アストをはじめ食堂にいる皆が俺に生暖かい目を向けているのを感じる。
ロトの、今日も平和だなぁ、との呟きに剣がふわん、と暖かく応えた。
食堂でレアンとルセーニョ改めルノが顔を合わせるのは気まずいかとも思ったが、レアンは元より、ルノの方ももう蟠りは無いようで、「あ、いる」程度の意識しか向けずに淡々と自分の仕事に精を出していた。レアンに執着していたことはルノにとってはもう、既に過去のことなのだろう。
※※※※※
大陸の南端の浜辺に、ピクニックを兼ねてアスタロトとイトくんと聖獣達と現地調査に来た。
晴れやかな青い空と穏やかな青い海の境界線には入道雲がもくもくと大きく湧き上がり、重苦しい灰色の空が伸し掛かる荒く冷たい冬の海との違いに少し途惑う。
♪名も知ら~ぬ~ 遠き島よ~り~
流れ寄~る椰子~の実一つ…
機嫌良さげなアスタロトの鼻歌に俺とイトくんが揃って首を傾げる。
「やしー?」
「やっしー?」
ブシャーッ、と小声で呟いてから彼は訂正する。
「椰子、だよ。何かしら南の海から流れて着いていないかなぁって。
砂が堆積しているのであれば、此処に流れ着いている物があっても良さそうなのに」
そう広くはない砂浜の漂流物は、流木に海藻に、大小様々な貝殻にこれまた大小様々な骨。
「人工物は見当たらないな」
俺が流木を蹴って転がすと、隠れていたフナムシがわらわらわらと散っていった。
小型の鹿っぽい頭蓋骨に近寄って繁々と観察するイトくんに、アスタロトが
「動かしていろいろ見てみよう」
と棒きれで突いてひっくり返す。
「うわぁ」とキラキラした瞳で見詰めるイトくんに彼がその棒を手渡すと、イトくんは嬉しそうにその棒を掲げた後、海藻を引っ掛けたり石を裏返したり、好奇心旺盛に漂流物の観察を始めた。
イトくんは白虎に、浜辺周辺の警戒は青龍と玄武に任せて、アスタロトと俺は麒麟と朱雀をそれぞれの肩に乗せて南下しつつ空の上から島影を探す。
♪松原遠く~消ゆ~る~ところ~、
白帆の~影は~浮かぶ~。…
彼は機嫌良く口遊むが。
「島影どころか船影も見えない」
一直線に飛ぶのに飽きたのか、立ち止まってぐるりと回って周囲を見渡す。
「流石にこの距離では陸から離れすぎだと思うが、そう言えば漁村も見当たらなかったな。航路が開けていないのだろうか」
今、イトくん達が留守番している浜辺には、大陸の一番南の町の神殿に転移門で移動しそれから麒麟に乗って適地を探しながら来た。
「湾岸部にはちらほらと集落は見掛けたけど、外洋に面したところは船の往き来が無いのかも。外洋に何かしら問題がある?」
彼が小首を傾げるのを
「穏やかに見えて、波が高かったり海流が複雑だったりするのかもな」
と俺はゆらゆらと光る水面を見つめながら推察する。
「もっと上から見てみよう」
との彼の提案で垂直に昇っていく。
イトくんが留守番してる浜辺が、小さく遠くに見えて、更に大陸が小さく見えて。
「周囲どころか、他に陸地は無いのではないか?」
絶海の孤島なんてものも全く見当たらず。
丸みを帯びた水平線は途切れること無く繋がり、俺達が住む大陸は大海に浮かぶ小舟のような頼りなさを感じた。




