198.打ち上げ花火(193)
更新、再開です。
唐突にアスタロトが大地の動きを止めた。地形の確認の為か全体をゆったりと眺めている。
疲れた様子は無いのだが、それはいつものこと。彼に自覚は無いようだから、やり過ぎないうちに作業を終わらせるのは俺の役目だ。
「今日はここまで。動かすのはまた明日」
と俺が告げると
「うん。今日はお終い」
彼は腰に回した俺の腕を擦って了承する。
逸ることは無い。時間を存分に使って、彼の思い描く通りに、納得いくまで造り込んで欲しい。
※※※※※
大神殿・『聖都』のある辺りは標高が高いので夏は割と涼しい筈なのだが、やはり暑い。爽やかな風が渡る小川の畔、木陰の下で涼みながらお茶をする。
「だから何かをするのであれば日が落ちてからだよね」
突拍子もなく言い出すのは慣れたのだが、何をしたいのだ?
「ということで、花火を打ち上げます!」
と彼は不敵な笑みを浮かべて宣言する。
「はなび?」
俺が首を傾げるとアスタロトは機嫌良く口遊む。
「うん。♪うち上~げ~花火~~♪」
説明になってない。
「えっと、火薬は解る?火薬を玉玉にして球の中に配置して、空に打ち上げてドッカン」
「火薬は解るが、その後の説明は解らん」
たまたま、とは?彼の説明下手はいつものことで気にはならないが。
そしてそんな俺の困惑を他所に、彼は愛おしげに目を細める。解らん。
剣に花火の説明を聞いてなんとなくは理解したが。
「打ち上げ花火といえば花火大会!夜店を出してお祭りっぽくしたい」
とアスタロトは拳を握り締める。それは直ぐに用意できるものなのか?夕餉まであと2~3時間程しか無いぞ?
「企画、設置、運営は我々にお任せ下さい」
麒麟が下命を請う。
「よし、任せた」
アスタロトの下知に麒麟は一礼し、瞬時に眷属達へ連絡が行く。屋台やお祭りっぽく等は彼等に任せて、彼は「花火を造ろう!」と大神殿奥の宮に向かった。
奥の宮のその奥、少し開けた場所でアスタロトが『花火』の製作を始める。
彼は予め用意した幾つもの木箱に飴玉大の黒い玉をゴロゴロゴロ…と出していく。
「これは…火薬の玉、か」
星というそれを紙製の半円状の容器に均等に詰める作業を、空中に浮かべて行う。器用なものだな。
そうして感心して眺めている間に彼は花火玉30個を造った。
夜店を展開する拝殿前広場から適度に離れていて誰も立ち入れないこの場所で打ち上げるのだと言う。彼は打ち上げ用の筒を5本用意して
「準備完了!夜店が一段落した辺りで打ち上げるとしよう」
映像では先程見たが、さて実物はどんな物か。彼の楽しみな様子から弥が上にも期待感が高まる。
拝殿前広場は仕事終わりの神官や職員とその子ども達、非番・休憩中の聖騎士で既に賑わっていた。
夜店は晩御飯代わりで、依り代さん世界での様々な屋台飯を提供している。焼鳥串揚げ焼そばお好み焼き焼きトウモロコシ…アスタロトが一つずつ説明するのを俺とイトくんは目を輝かせて聞いている。
「急な発案でこれだけ用意できたの、凄いね」
アスタロトが感嘆する。
「次があるのであれば、射的や金魚すくい等食べ物以外の展開を見据えております」
エプロン姿の麒麟が彼とイトくんに冷えた果実水を渡す。俺の手には冷えたエール。子ども達もいるので騒動を避ける為にお酒はお一人様2杯までとした。休憩中の聖騎士は残念ながらお預けだ。
テーブルと椅子が並べられた場所の一角に、アーリエルさんと猫ルゥさんが座っているのを目の端に捉えた。
ウメコとカナエの給仕で焼き鳥やクレープ等の屋台飯を思いのまま味わっているようだ。周囲の者達とも和やかに歓談されて、存分に楽しんでいるのが見て取れる。
「偶には外で食べ歩くのも良いものだな」
「はいっ!楽しいです!」
俺もイトくんも満面の笑みをアスタロトに向けると、楽しんでもらえて良かった、と彼も安堵した柔らかな笑みで応えた。
そしていよいよ今回の一番の目的、打ち上げ花火の鑑賞だ。
「大きな音がしたら、奥の宮の方を見上げてね」
「聖獣達が事前に告知したとは言え、大きな音に動物達が驚いて暴れなきゃ良いが」
「え、そこまで根回ししてたの?彼等は本当に優秀だね」
俺達はイトくんを白虎に預け、打ち上げ場所に移動した。
ドンッ!ヒュルルゥ~…ドンッ!
雲一つ無い夜空、大きな音と共に光の花が咲く。パアァァっと光が弾ける度に広場の方からワアァァ!!と歓声が上がる。アスタロトが上機嫌に口遊む。
♪ど~んとなった、花火がき~れいだなぁ~ 空いっぱぁいにひ~ろがって~…♪
「花火の打ち上げの由来に『慰霊と悪霊退散を祈願する』という俗説があるのだけどね、実際は花火師の憂さ晴らしを兼ねた宣伝だったとかなんとか」
「宣伝。まぁ、平和で良いのではないか」
牡丹、菊、千輪菊、小割、柳、分砲、と花火を打ち上げる度に説明が入る。そのうち2、3と続けて上げていき、白、赤、黄色、緑、青、紫と色鮮やかな大輪の花が夜空に咲き誇る。
『聖都』へも音と光が届くので見張り台等の高い所、広場等の開けた所で空を見上げて欲しい、と正式に聖都領主となったオルジオさんに伝えたから、今頃は大神殿上空、嘗て『聖樹』があった辺りを見上げているだろう。
最後に四尺玉というイトくんより大きな玉をドンッ!と打ち上げる。
ヒュルルル~……ドォーン、と光る星が大きな菊の花のように尾を引いて広がって、パラパラパラ…と散っていった。
『転生魔神』で書き損ねている描写等を細かく丁寧にガンダロフ目線で綴っていきます。




