それぞれの従者02
「してはいけないとも言われていない。主の言われた通りにするだけではだめだよベル。どのみちウィンは侵入者の彼女に事情を聞かねばならないけれど、彼女一人では決して口を割りそうにない。彼女以外の人が必要なんだと思うよウィン」
にっこり笑って再びウィンとベルを交互に見るセロ。ベルは決めあぐねてぐ、と唇を噛んで思案していたが、ウィンの決断は早かった。
「良かろう。お前の提案を採用する。それでいいな、ベル」
「は、はい……」
仕方なくベルは頷いた。
「ではレリアンが帰ってきたら部屋を変えようか」
セロは笑ってそう言った。
それからしばらくしてやってきたレリアンにウィンが事情を説明し、承諾を得て全員でいつもの部屋に向かった。
部屋に入り、並び合わせた椅子にティーナとララを座らせる。ジョックスはティーナの右側に立った。ティーナとララの向かいにウィン、セロはジョックスの向かいの壁に背を預けて腕を組んだ。ベルはウィンの指示で扉の前に立ち、扉の外にはレリアンが待機した。
「では話してもらおうか。状況は理解しているな?」
ウィンの何の感情もはらんでいない冷たい声が身体を這った。
ララはちらとティーナを見た。ティーナは優しくララの足の上に乗っていた手を握った。
ララの心が震えた。潮時だった。
「……何を話せば良いのでしょうか」
ティーナの手を握り返し、気丈な態度でララは言った。
「まず俺の屋敷に侵入した経路を話せ」
ララははい、と言って話し始めた。
「舞踏会の夜、馬車で待機していた私は会場から出て来た方々の話から人が殺されたということと、ティーナ様が容疑をかけられどこかに連れていかれたということを知りました。そこで私はティーナ様を探すため、ティーナ様を連れていった人物の捜索を始めました。様々なところに出向いて情報を集めたところ、緑がかった髪の騎士らしき男性がティーナ様を連れていったということが分かりました。……私には、緑がかった髪の騎士の心当たりは貴方様しかいらっしゃいませんでしたガーウィン様」
下を向いていたララが顔を上げてウィンを見た。ここで「さすが若くして騎士団長になった有名人は違うね」とセロが呟いたが、ウィンは無視した。
「そこで私はガーウィン様のいらっしゃるお屋敷に潜入し、ガーウィン様に直接お会いすることを考えました。ご本人様以外に話をしても相手にしてもらえないと思ったからです。私はガーウィン様のお屋敷に仕えているメイドのうち、近いうちに辞めようとしている者を探して接触しました。その者に紹介してもらい、私はガーウィン様のいらっしゃるお屋敷にメイドとして雇われることになったのです。しばらくは怪しまれないようにしていましたが、そろそろかと思い、今日、ガーウィン様に直接ティーナ様のところへ連れていってほしいとお願いしたのです」
ララが口を閉じると沈黙が降りた。
パン、パン、パン
その沈黙をセロの拍手が一瞬で払う。全員がセロに注目した。
「素晴らしい。まだ若いのに主人のために一人で考え、行動出来るなんてすごいじゃないか。しかも目的を果たしている。本当に素晴らしいよ貴方は。なんて勇敢で利口なひとだ」
セロはウィン……ガーウィンの隣に立った。ララはセロを見上げるだけで何の反応も見せなかった。セロの金色の目が細くなる。
「これは貴方の指示か?」
灰色の目をティーナに向けるガーウィン。
「いいえ。わたくしの目の届かないところでは自分で考えて行動するように言ってあるけれど、細かいことは本人次第よ」
「そうなのかい?」
金色の目がジョックスを見る。
「……言われてますよ。『わたくしの従者として相応しい行動を』と姫様は俺たちに言ってます。それだけっすよ。こういうときはあぁしろこうしろとか、何としてでも助けろとか、そういうのは言われてねぇっす」
セロはそうかと頷いた。
「貴様の目的は彼女に会うことだけか?」
今度はララに問いかけるガーウィン。冷たい灰色の目を見てもララはひるまなかった。
「はい。その他には何も望みませんでした」
「助け出そうとは思わなかったのか」
「はい。出来ることならそうしたいとも思いましたが、状況が分からなかったので保留にしました」
「こうして探し出すことが出来、会うことも出来た今、貴様は何か望むのか」
「はい。出来ることならティーナ様の解放を。それが出来ないのであれば私をティーナ様のお傍に置いてくださることを希望します」
緑の瞳は揺るがない。何か別の企みがあるにしても、この娘は話さないだろうとガーウィンは思った。単身で敵の本拠地と思われるところに潜入し、目的を果たしてみせたのだ。それだけの強さをこの娘は持っている。
「……セロ、ベル、どう思う」
ガーウィンはララから視線を動かすことなく二人に投げかけた。決めかねているというよりは、二人の意見も聞きたいというような態度だった。
二、三秒の間の後、セロは言った。
「ウィンに任せる」
「……俺も、貴方の決定に従います」
ベルもセロに続き、ガーウィンは分かった、と承諾した。
「貴様をこの牢獄に投獄する。待遇はそこの従者と同じにする」
「承知いたしました」
ララは目を伏せる。
今日の尋問はここで終わった。
ベルが扉を開け、レリアンにララの扱いを説明し、三人を牢に連れていくよう指示した。ティーナ、ララ、ジョックスは大人しくレリアンについていき、それぞれ牢に入った。ティーナはいつもの牢。ジョックスはその向かいの牢で、ララはジョックスの隣の牢に入った。
レリアンは全ての牢に鍵をかけ、さらに円形の広場との境にある鉄格子の扉にも鍵をかけて待っていた三人に合流した。
四人が揃うとガーウィンは先立って階段を登っていった。セロ、ベル、レリアンも階段を登っていく。
「ルフェール様はどこにいらっしゃるのだ」
「ユリのお部屋です。下から二つ目の通路を右に進んでください。四つ目がユリのお部屋です」
レリアンが答えるとガーウィンは分かったと呟いた。それからある程度階段を登り、再び口を開いた。
「どう思う? セロ」
名指しされたセロはふふふと笑った。
「ウィンが思っていることと大差ないだろうね。大したレディだ。ウィンがここに連れてきてくれるという確証は彼女にあったんだろうか」
「分からん。だが、殺されるかもしれないとは思っていただろうな。俺のところへ来た時、覚悟を決めたそういう目をしていた」
「さすが騎士団長様だ。そういう目には詳しい」
嫌でもな、とガーウィンは誰に対する答えでもない言葉を呟く。




