それぞれの願い事07
「……私が嫌い?」
ルフェールが首を傾げる。白い長髪がさらりと揺れて肩から落ちた。
「嫌いじゃないわ。近づきたくないだけよ」
「それは嫌いということではないのかい?」
「違うわ」
「ではなぜ逃げるのかな?」
「逃げてないわ」
ルフェールはティーナの方へ歩いた。するとティーナは横に身体をスライドさせる。もう一歩踏み出してみる。やはりティーナは一歩離れ、一定の距離を保とうとする。
じりじりとルフェールはティーナに近づく。しかしティーナはそれを避ける。それを数歩繰り返したところでついにルフェールは本格的にティーナを追いかけ始めた。ゆっくりだが足が長いので油断すると距離を詰められる。ティーナは対抗して本格的に逃げ始めた。こちらはリーチが短いので小走りである。
「どうして追いかけてくるのよ!」
軽快な音を立てて逃げるティーナ。
「貴方が逃げるから……」
優雅な足取りで追いかけるルフェール。
「わたくしはルフェールが追いかけてくるから走っているのよ! 止まったら止まるわ!」
「止まっても逃げる」
「逃げてないわ! 距離を取っているだけよ!」
二人は円形の広場をぐるぐる回る。追いかけるルフェールは捕まえようとしておらず、逃げるティーナは距離を取ろうとしているだけなので終わりが見えない。
「どうして距離を取るのかな?」
「ルフェールが距離を取るからよ!」
「私が?」
「そうよ!」
「私は貴方に近づこうとしたのに」
ルフェールのぼそりと落とした声を聞いたティーナは走る速さを緩めた。するとそれと同じようにルフェールも歩く速さを緩めた。
ティーナが止まるとルフェールも止まった。二人は広場の真ん中で向かい合って立った。一メートルくらいの距離が開いている。
「……物理的な距離じゃないわ。これは心の距離よ」
ティーナは言った。
「わたくしとルフェールの心には距離があるわ。本当はもっと離れているでしょうけれど。貴方、わたくしのことを少しも信用していないから」
しばらく沈黙してからルフェールは口を開いた。
「……私は何もしない。私はされる側だ。けれど、貴方は何もしない。何もしてくれない。貴方が私を信じないのなら、私は貴方を信じない」
赤い瞳が呟いた言葉は闇の中を漂う。
ティーナは目を細めた。
「……いいわ。それならわたくしからルフェールに近づいてあげる」
ティーナが一歩、二歩と距離を詰める。ぶつかりそうなほど近くで、ティーナはほぼ真上に顔を向けた。ルフェールは真下に顔を向ける。白く長い髪がカーテンを作り、ティーナの肩にかかった。
「後悔してもしらないわよ」
宣戦布告だった。




