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闇ギルド支部壊滅


ブラストの街の中心から外れた「裏街」。


酒場や娼館が立ち並ぶ区域。統一性のない雑多な景観で、大通りを除けば入り組んだ路地が交錯する。地元民でなければ必ず道に迷うと言われる。


昼間は閉散としているが、日が落ちれば魔道具が発するネオン光が建物を照らし、行商が通りを埋める。

金、女、食… あらゆる欲を内包したこの場所に、仕事帰りの街民や冒険者、商談を控えた商人、裏の人間が集う。


高級なバーから寂れたスナックまで客層はバラバラで、最も貧富の格差が顕著になっている。少し脇に進めばスラム街や高級住宅街が裏合わせに隣接する事から、その縮図が増長されている。


怪しげな勧誘人や泥酔した客で賑わう夜の街の中央通りを、コツコツと常人の2倍程の速さで一人歩き進める小さな風貌の人間がいた。


ハニワの様な楕円形の孔が開いた、白く輝く仮面。

シンプルでありながらキメ細かい造形と刻印により、不思議と間抜けな印象が払拭されている。

見る人によれば神々しいとすら思うかも知れない。


仮面の目元の孔からはライトシアンの瞳が淡く光る。輝きに反して無機質なその色は、深淵から覗き込まれるような感覚を与える。


仮面の裏には仄かなウェーブを描く、丁寧に切り揃えられた短髪の後頭部が垣間見える。

ホワイトを基調としたアッシュブランドの髪…白銀色とでもいうべきだろうか。神秘的な彩りを収めながらも驚く程輝きがなく、光を放つどころか吸い込んでいるようだ。


首元から足元まで全身を覆い尽くす灰がかった白い外套。地面に擦れないギリギリの高さで丈が折られている。

装飾品もなく色合いは一見して地味。袖を通しただけの雑な加工だが、識者が見ればすぐにその材質が高級品である事が解るだろう。

希少種であるBランクの魔物エルダーエイプの毛皮。魔法耐性に優れ、生半可な斬撃を受け付けないという破格の性能だけでなく、短くも艶のある触り心地の良い毛並みが品を醸し出している。


最下部に僅かに覗く使い古された革靴だけが高級ながら既製品となっており、子供らしさを僅かに主張している。


そんな彼は一体何者か?

アルフだった。


いずれ夜中に街に出てみたいと切望していた彼だが、それが叶った今はつまらなそうな表情を浮かべている。

残業を言い渡された新入社員の心持ちだった。


全身を白系統で統一された派手な装い、さらに仮面を被る小さな子供が一人風俗街を歩いているという異様さ。

嫌でも目立つ光景にしかし誰も目を留める事は無かった。


まるで無害な障害物としか認識していないかのように、通行人は彼を避けて通り過ぎて行く。


最低限の動作で人混みを交わす彼は前を塞ぐ馬車を追い抜き、影の如く足を進めた。



やがて彼は通りの奥に聳え立つ煌びやかな娼館の手前まで辿り着くと、すぐに視線をずらして斜め裏に面した細い通路を確認し、その先へ突き進んだ。


大通りと打って変わり物静かになった事で周囲の建物から響く男女の嬌声のみが耳に残る。

ゴミが散乱した石畳の路面は経年劣化が激しく全体的にひび割れており、ネズミが堂々と周囲を彷徨う。カラスような野太い鳴き声が時折空に響き、不気味な印象を受ける。


人気は少ないが所々に怪しげな風貌の男が立ち構えており、通行者へ声を掛けている。

その目つき、歪んだ口元からおよそ真っ当な人間でないコトだけは読み取れる。


目をギラつかせて周囲を監視するその男達だが、彼がすれ違っても反応すらせずに通行を許してしまう。

まさか小さ過ぎて視界に入らなかった訳でもあるまいが。


さらに細い路地を抜けると、今にも崩れそうな石造りのアパートのような建物か並ぶ。4階建てといった高さだが、この国では十分に高層の部類だろう。


その間に同じくらい寂れた酒場が数件縫うように乱立している。

明かりの灯ったうち一番左の酒場へ向かい、玄関先にいる用心棒らしき男を無視して彼は扉を開いた。


カランカラン…


玄関の鈴が鳴り響いた事で室内の喧騒が一瞬なりを潜めた。


テーブルで酒を飲み交わしていた数人の男女が一斉に表情を固め、扉の方向へ視線のみを向けて来る。


アルフが意に介さずに床を踏み入れると彼らはすぐに目を逸らして酒呑みと馬鹿話を再開するが、何か腑に落ちなかったとばかりに口がぎこちない。


音も無く、されど堂々とした足取りでカウンターへ向かい、彼は身長と比べて明らかに高い椅子へと軽く跳ねてスムーズに座った。


「らっしゃい。坊主…に出せるような酒はねえぜ」


カウンターの奥にいる店主が彼を見下ろして声を掛けた。


ヘラヘラと口を歪ませて小馬鹿にした態度だが、その表情には少なくない動揺が読み取れる。

お決まりの言葉を発したはいいが、疑問が尽きず何かを聞きたげにしていた。


「坊主」と言う時に口籠もった事からアルフが男の子なのか仮面越しには判断出来ず迷っていたのかも知れない。


「分かる?見ての通りまだ子供なんだ。本当はウイスキーを頼みたいところだけどね…それは将来の楽しみに取っておくよ。マスター、ミルクを貰えるかな」


店主の嘲りに気づかなかったかのように彼は軽い口調で言葉を返し、思いのまま注文した。

酒瓶を見つめて羨ましそうな顔を浮かべる。


「ふん、悪いがうちじゃあ酒以外は扱ってねえんだ…出直してくれ」


「そっか…水だけでもいいのだけど、まあいいか。用事を済ませたらすぐに帰るさ」


「用事ってのは…?」


「大した事じゃないよ。ここが一番『闇ギルド』に近いと聞いて、ね」


「な…っ!?」


彼の発した言葉にマスターは動揺し、布拭きしていたグラスを作業台へ滑らせてしまった。


カンッとその軽い音を契機にウエイターを含め、酒場にいた全員が弾かれたように少年へと目を向ける。

入場した時よりも明らかに剣呑な雰囲気。鋭い視線が幼い彼に突き刺さる。


「てめえ坊主…何者だ?」


店主がドスの効いた声で尋ねた。

テーブルにいた野暮ったい服装の客が数人腰を上げ、ジリジリと間を詰める素ぶりをしている。


「はぁ、俺が誰だろうと気にする必要はないよ。何せここは…今晩にでも潰れるからね」


「ほう…舐められたもんだな。てめぇら、やれ!!」


店主の指示と同時に剣を抜いた数人がアルフの元へ飛びかかった。


残りの者も後方で魔法の詠唱を始めたり、扉を押さえたりと役割を分担している。


剣が届くという位置まで迫られても最後までアルフが振り向く事は無かった。

彼はカウンターに肘を突き、退屈げにマスターを見返すだけ。


実際、彼が身体を動かす必要も無く事のすべてが終わっていた。


「なっ…なっ…!!」


全滅。


店主は一度として目を離していないにも関わらず、その場で何が起こったのか理解出来なかった。

アルフを中心として閃光が発したと思えば、瞬く間に用心棒達が崩れ落ちたのだ。


アルフは何事も無かったかの様にニッコリと笑い、硬直した彼に向かって口を開いた。


「闇ギルドの場所、教えてくれるよね?」



酒場で倒れた用心棒達に対して一人ずつ首を落とすという紆余曲折があったものの、最終的にアルフは店主から快く道を教わる事が出来た。


裏街の方面へ少し戻り、複雑な路地を何回か曲がった先に目的のアジトが見えて来た。


中規模といった大きなの商店。

それなりに立派な造りだが、壁の汚れが目立つ所為でマイナスの印象を与える。普通に考えれば客入りが悪そうだ。


正面の看板には「マイワール商会」と日落ちした文字で書かれている。


門を潜り店内へ入ると、意外にも掃除の行き届いた内装だ。

白のワイシャツとグレーのスラックスという小綺麗な服装の従業員が接客や事務仕事をしている。


彼は奥のカウンターで受付を担当する女性に近付くと、手を振り上げる様にして声をかけた。


「はーい、ごめん下さい」


「えっ、子供!?どこから…」


「ここの店長に会いたいんですけど、今居ます?」


「待って、支店長の知り合い?…いやいや、そんな訳ないわよね。仮にそうだとしても何が証明出来るものがないと取り次げないけど…そもそも坊やの名前は?」


受付嬢は突然目の前に低い身長の子供が現れた事で背を仰け反らせたが、すぐに怪しさ満面の仮面を見て警戒を露わにした。


「俺は『アール』です。単刀直入に『闇ギルド』に用がある…といえば分かるかな?」


「!?あなた、何処でそれを…。悪い事言わないわ、聞かなかった事にしてあげるから今すぐお家に帰りなさい」


「あーそういうのいいから。時間も押してるのですぐに呼んでもらえる?」


ぞんざいな返答に彼女は顔を顰めた後、自分の手に負える案件ではないと悟ったのか席を立って後方へ歩き去った。


数分もしないうちに数人の人相の悪い男が裏から出て来た。


「はぁ〜ん、マジでこのガキか?おい坊主、会長に会わせてやるからこっちに来いよ」


「はい」


奥の廊下をクイッと指差した男に対して頷き、アルフは素直に後を付いて行った。


案内される間、お互い一言も言葉を発さない。

途中何度も階段を昇り降りした末に辿り着いた部屋に入ると、そこは応接間とは程遠い埃まみれの広間。家具の類はなく、手入れのされていないテナントのようだ。


広い空間の隅に備品が積まれていて倉庫として利用している様だが、木箱に目を向けると武器や防具の類が敷き詰められている。床には赤黒い汚れが散見され物騒な場の空気を感じる。


「ここは?」


アルフが振り向くと後から入って来た男達はニヤニヤと顔を歪めて舌舐めずりをし出した。


「ゲヘヘヘ、てめぇみたいなガキを教育してやる場所だよ!」


「しかし丁度よかったぜ。これから発送って時にぬけぬけと追加の商品が転がり込んでくるとはなぁ。神様に感謝しねえと」


「なぁ坊主、その変な仮面外してみろよ。顔を隠しているが肌が綺麗すぎる。珍しい髪してるが、間違いなく上物だろうよ」


1人の男が嘲りの混じった瞳を浮かべてアルフの前に近付き、彼に装着された仮面を剥ぎ取ろうと手を伸ばした。


「グギャッ」


「おい何呆けてんだよ、さっさとその面外しちまえよ。…ん?」


だが男の手はいつまで経ってもアルフの仮面に触れる事はなく、彼はプルプルと全身を震わせたかと思えば項垂れるようにドサっと身を崩した。


「なんだ、おいっどうした!?」


「待て、血が流れてやがる…!」


異常を感じた男達は慌てて駆け寄ろうとしたが、うつ伏せに倒れた男の胴部から血が勢い良く流れ出ている事に気付き足を止めた。


その赤く染まる床の向かいには変わらず少年の姿があり、いつの間にか彼の手には血が滴り落ちる短剣が握られていた。


「ガキが…テメェの仕業かっ」


「…」


「おいおいおい、マジで冗談になってねぇぜ。手癖が悪すぎる…こりゃ無傷で売っ払うのは危険じゃねえか?」


「ああ…仕方ねえ。抵抗する元気を失くすくらい、キツめのお灸を据えてやらねーとなぁっ!!」


倒れた男は既にピクリとも動かない。


目の前の少年によって殺された、と判断した彼らはそれまでのダラシない顔を引き締め、油断を排除して少年を取り囲み、一斉に襲いかかった。



大きな都市には必ず存在すると言われる「闇ギルド」。


冒険者ギルドや傭兵ギルドが依頼を受けて解決する為の機関だとすれば、闇ギルドは裏の依頼を請け負う組織。

表沙汰に出来ない依頼を中心に、妨害工作、引いては暗殺まで犯罪に躊躇わずクエストを遂行する。

盗品の売買や金貸しに手を染める事もしばしば。


そのブルスト支部のメイン拠点である「マイワール商会」の分館。財務室として偽装された一室の奥に隠された、贅を凝らした部屋。


支店長としての表の顔、そして闇ギルドの副ギルド長という裏の顔を併せ持つベネグストは苛立ちを抑えられずにいた。


「おい、まだ報告は来ないのか?」


「最初に向かわせた者を含めて、未だ誰一人として戻って来ません」


「チッ…勘弁してくれ。こんな時にマスターは何処で呑んだくれている!」


今夜は長期依頼の最終段階として、闇ギルドでは異例の強硬策を決行していた。


公爵邸の別館に対してギルド員とも言えないような末端のギャング崩れ共を突撃させ、それを囮にギルド有数の刺客がエリザベートを暗殺、または子息を人質として強奪。


搦め手に弱い相手だった筈がここ最近の暗殺は失敗続き。さらに警戒されている中、替えの効かない貴重な精鋭を投入するというのは余りにもリスクが大きい。


だがギルドとしての面子もあり失態を取り返さない訳にいかない都合上、ここで依頼を断るのは難しい。

前金として今までと比較にならない大金も既に受け取っている。


万に一つの失敗も許されない事から、ギルドが保有する戦力の実に半数近くをブロンベルク家に差し向ける事となった。

ギルド間の戦争に等しい規模である。


直に任務成功の報が届けられるだろう、完了次第依頼人に伝達せねば。

久々の残業をする羽目になったベネグストはワインを舐めながら執務に勤しんでいた。


だが少しして彼の耳に届いたのは関連性の感じられない、全く別の内容だった。


現在この商館の中で、たった一人の少年が暴れているという。

驚く事に既に用心棒を数人始末しているようだ。ただの子供ではない。


おそらく攫ってきた子供達を救出しにでも来たのだろう。

しかしいくら実力が有ろうとも一人で闇ギルドの懐に転がり込むのは無謀で命知らずという他ない。


ここには対人に長けたギルド員が嫌という程潜んでいるのだ。

暗殺に長けた手練手管で死角から急所を狙われ続ければどんな強者でも消耗し、果てには体力切れで敗れるだろう。


大きな依頼を前に些細な事に思考を乱されて気を悪くしたベネグストは、大人気ないくらい大量のギルド員をその子供に対して投入した。


しかし不思議な事に、半刻が過ぎても少年の処理が完了したとの報告が上がらない。

ブロンベルク邸での仕事に時間が掛かっている事以上にあり得ない事だった。


そこで秘書の口から伝えられたのは、まさに耳を疑う内容。


数十人というギルド員が少年の連れていかれた「調教部屋」へ次々と向かった切り、誰も部屋から出て来ない。

扉の外から伺っていた者から聞いた話では中から怒号や剣戟音、時折断末魔が鳴り響き、数分と経たずに静かになったそうだ。


とても信じ難い事だが、全員始末された可能性が高い。誰一人として外に逃さずに、だ。


この時点でベネグストは彼を子供として捉える事をやめた。

その脅威度を高く設定し、確実にこの場で仕留める為に先程幹部と精鋭を向かわせたところだった。


「まさか幹部までやられたというのか?仮に油断したとしても奴らの実力が本物だぞ…不可解だ。強力なアーティファクト、もしくは従魔を所持しているのかも知れん」


「戦力が減っているこのタイミングを狙って攻め込んだという事は、敵対組織の刺客ではないでしょうか?」


「ああ。考えたくはないが何処かで情報が漏れたか…うちのマスターの能力にも穴があったという事か」


「いかがしましょう?正直に申しまして、被害は甚大です。街に残った戦力にも限りがありますし…」


ブロンベルク邸にはレベル30超えの猛者を複数乗り込ませている中、今回の襲撃の所為で街に残った戦力は激減している。

現在も少年は部屋から出て来ないそうだが、目的は不透明。「店長に会わせろ」と語った事から放置する事も出来ない。


ギルドの重要拠点である以上、建物ごと燃やすという手段も躊躇われる。

これ程の敵を易々と中に招き入れた用心棒を絞め殺してやりたくなった。既に殺されているだろうとは分かっていても。


「幹部を含め、すぐに連絡のつく高ランクのギルド員を全て召集しろ。マスターが不在では『緊急クエスト』は発令出来ないが、非常事態として最大限の報酬を用意する」


腹を括った彼は秘書に指令を出すと、自らも装備を整えて現場に向かう準備をした。



3人の幹部に、高レベルの精鋭20名。

彼らを引き連れてベネグストは少年のいる「調教部屋」へ向かった。


「いいか、相手はただのガキではない。既に50を超える人間がこの部屋から出て来られずにいる。あらゆる手段を想定して攻撃に備えよ。…突入次第、速やかに対象を抹殺する。行けっ」


扉を開いた瞬間、最前列にいたギルド員の首が唐突に弾き飛んだ。


危険に敏感な彼らですら反応が追いつかなかった。一瞬の硬直が生じたが、プロとしての自覚がすぐに彼らを立ち直らせた。


「止まるな!!死にたくなければ中に入って散開しろ!」


すぐに部屋の中心に佇む少年の影が目に入り、彼に向かって様々な魔法や矢が強襲した。


一方ベネグストは彼らの戦況を気にしつつも、目の前に広がる光景に目を奪われていた。


見るも惨たらしい死体の山。

少し前に送り込んだ部下の顔ばかりで、その多くが首だけになって転がっている。

何故か死体には装備品の類が見られず、裸体や下着のみの状態で積み重なっていた。


そして目の前で部下全員を相手に引けを取らない少年。


いや、これは少年なんかじゃない。人族の子供にこんな実力は持ち得ない。

この身体性能、間違いなくハーフリングだろう。しかも高レベルの。


動体視力に優れたベネグストでも殆ど捉え切れない程のスピード。

背中に目でも付いているとしか思えない程攻撃を悉く躱し、むしろ此方の方が対応出来ずに同士討ちを生む始末だ。


そして何も無い場所から現れ、意思を持つかの様に周囲を飛び交う複数の小型ナイフ。

掌よりも短いその刀身は黒く、柄らしき部分の先端には何故か輪が取り付けられている。

恐るべき速度で射出され、回避に成功したところで追尾して背後から仕留められる。アーティファクトに違いない。


加えて厄介なのが、少年の放つ魔法だ。

風魔法なのだろうか、無詠唱で連続して放たれるそれは相対する人間を問答無用で吹き飛ばす。

広範囲の上、防御すらままならない。

死角にいようがお構いないで、これでは近づく事すら困難だ。



だが彼が今すべき事はそんな悠長や分析ではなかった。

早期に撤退手段を模索すべきであったが、意識を切り替えた時には致命的に手遅れだった。


まるで夢から醒めた様に辺りを見渡すと、気付けばベネグストの手勢は壊滅。

闇ギルドが誇る強者達がその辺の雑魚の如く、有無を言わせずに惨殺された。


まだ戦闘が始まってから数分しか経っていないにも関わらず、地面に足を付けているのは少年を除いて彼のみとなっていた。


「ヒ、ヒィ…!?」


血の池を踏みしめながら少年、アルフが近寄ってくる。

あれ程の戦闘を終えながらも息を乱した様子はなく、仮面の奥の表情は一切読めない。

只々不気味だ。


場数を踏んで来たベネグストですらこんな未知の脅威は経験が無かった。彼は腰を抜かし、思わず後ずさってしまった。


「あんたで最後だな。確か副ギルド長、だったか?」


「ま、待て話し合おう!そうだ、マスターに会いたいんだろう?教えてやるから…」


「もう遅い。ギルド長の居場所は別の奴に吐かせたし、どの道ここは潰す」


アルフの言葉が終わると同時に彼の胸は苦無で貫かれていた。


「ガハッ…!」


心臓を失い、苦痛を味わいながら息を引き取ったベネグスト。


彼から視線を外すと、ほんの数秒に満たない僅かな時間。アルフは瞼を閉じ、部屋に散乱する死体に対して黙祷を捧げた。




この日、ブルストの街から闇ギルドが消滅した。




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