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闇ギルドマスターの能力


身に付着した血、室内を舞う埃汚れを『クリーン』で除去する。


闇ギルドの人間を大量虐殺し、副ギルド長の本隊を滅ぼした事で打ち止めだと考えていいだろう。

そう判断した俺は、山積みになった死体を一時放置して部屋を後にした。


日の傾きでしか判断出来ないが、商館に入ってから既に2時間近くは経過したと思われる。時計が欲しいところだ。


最初の敵を殺して以降は芋づる式に敵が向こうから来てくれたので、処理する身としては手間が省けて非常に楽だった。

それに途中乱入した…幹部を名乗る人間を尋問した結果、欲しい情報は粗方手に入れてある。


俺は上階へ駆け上がり、隠されているという書庫へと向かった。

生き延びた末端の構成員含め、商館の連中は身の危険を感じて逃げ出したのか、建物内には既に人の気配は殆どない。


壁の模様と同化した魔法陣に手を当て、魔力を大量に流し込む事で強引に破壊する。

魔法陣が消滅した事で目前に扉が現れた。

その際罠が作動したがこれは毒矢だろうか?なんなく躱し、中に浸入した。


そこは主に機密文書の保管場所となっているようで、重要書類ばかりが目につくが意外と書籍の量は少なかった。

帳簿や記帳の類に片っ端から目を通すが、決定的な書類が見つからない。


「うむむ…」


普段から読書に慣れている為速読は得意だが、これでは時間の無駄になりそうなので探し方を変える。


棚の裏や絨毯の下など隠しそうな場所を中心に探していると、部屋の角隅に置かれた台座を退かした際に如何にもな小型の金庫を発見した!


カチャ…。


二重に設けられた鍵穴に「ハンド」を使って無属性の魔力を通し、あっさりと解錠する。


出て来たのは財宝ではない。

俺が探していた、闇ギルドの機密に直結する重要書類だった。


違法な金利の借用書。密猟や麻薬の売買記録。貴族の名前が記された顧客リスト。

金庫に収められていた怪しい文書をパラパラと確認していき、やがて目的の「依頼書」を確認。


詳細については暗号化されているが、割と簡易的なものだと見える。後で頑張って解読するとして、金庫の中にあった書類をまとめて「ポケット」に収納した。


任務完了、っと。

これで概ねの目的は果たした。


残るタスクは…そうだな。禍根を断つ為に闇ギルドの根元まで潰すべきだ。


幹部の大半は殺したようだし、街には残っていないだろう。

つまり、今出来るのはギルド長の殺害くらいか?


幹部から得た情報が正しければ、確かギルド長は地下にいるらしい。宝物庫もそこにあるらしいので丁度いいだろう。


一階へと戻り、聞き出した道順を思い出しながら館内を歩き回る。

目印を辿った先で地下への入口を発見し、奥へと乗り込んだ。


硬質な壁に覆われた通路内には魔道具による明かりは数える程もなく、かなり薄暗い。念の為『感覚強化』で視力を強化して進んだ。

道は分岐して入り組んでおり、歩いた限りとても商館の土地には収まるとは思えない。


『気配察知』を頼りに複数の気配が密集した箇所へ足を向ける。

やけに弱々しい…が、その中に一際大きい気配があるようだ。


大部屋とみられる空間の手前まで辿り着くとその内側から粘質的な音が耳に響いて来た。


「あっあっ…」


「うぅ…」


異常を察して鍵を魔力で強引に解錠し、鉄製の扉を静かに開く。



まず襲って来たのは鼻を摘む程の異臭。

汗や体臭だけではない、むせ返る程の生臭さ。明らかに男女のソレだ。


加えて焚かれた香の煙が部屋を包んでおり、余計に淫靡な香りが入り混じる。

もはや刺激臭といっていい。


そこには想像を絶する…いや、ある意味で予想通りの光景が広がっていた。


10人を優に超える、衣服を何も纏っていない裸の女性が至るところに横たわっている。

人族だけでなく獣人、エルフ、触覚つき等奇妙な特徴をしているのは魔族だろうか?


いずれも若く、見た目麗しい。中には幼い少女も混じっている。


その誰もが半乾きの白濁液で肌を汚している事に眉を寄せてしまう。だがそれよりも、骨折、痣、手足が欠損し包帯を巻かれた惨状に目を奪われた。


「ヒッ…ヒグッ…!」


「ああぅ〜…」


呂律の回らない呻き声が幾つも漏れている。

見るからに痛々しい。


生気が感じられず、どの女性も表情が絶望を語っていた。

ピクリとも動かず、生きているのか怪しい者が大半だった。


未だ激しく動きを見せ続けるのは奥の一角を占領する巨大なベッドの上だけ。


ビクビクと身体を震わせて気を失っている少女の隣で、腹をでっぷりと弛ませた全裸の男が四つん這いになった女性に覆い被さり、一心不乱に腰を打ち付けていた。


「ハッ、ハッ。おらっ締まりが悪くなっているぞ!もっと首を締めて欲しいのか?」


「あっ、いやっ、お許し下さい…!」


「ククッ身体は正直だぞ?あんなに嫌がってたのになぁ、今のお前を見たら夫はなんて言うか…ああ既に死んでるんだったな!!グハハハ!」


「うう…っ、イきたくないのに…!あっ、また」


男は行為に夢中で、背面に現れた俺の存在にまるで気付いた様子はない。


抱かれている女性は嫌がるように身を捩っているが、よく見れば痙攣を繰り返しては自ら腰を振っている。


かといって合意とは思えず、床に散乱した注射器や香の煙から見るに媚薬か何かを摂取させられたのかも知れない。

快感に襲われて緩んだ彼女の横顔は涙を枯らした跡が色濃く残り、瞳だけが酷く虚ろだった。


「うっ、出すぞ!!しっかり受け止めろよ!?」


「ひ、嫌です、中でだけは…!お願いします…」


「おお、まだ抵抗する元気があるのか!まだまだ保ちそうじゃないか、ヒヒヒィ!!」



醜い。


その感情だけが俺を支配した。


すぐに殺してしまいたいところだが…、この男からは暗殺者を送り込んだ依頼人について問い質す必要がある。


「グフフ零すなよ。そろそろ精力剤を補給するか、あ…?」


ベッドの側まで近付いたところで俺は迷い無く短剣を振り、彼の片腕を肩先まで切り落とした。


腕が床に転がり落ち、男の肩から血が噴出する。


「ウギャァーーー!!?血が、い、痛いぃぃ!!!何事だっ!??」


一拍して痛みに襲われた事で後ろを振り向いた男は、そこで漸く俺の存在に気付いた。


「腕がぁぁ!!?グゥゥッ、…なっ、子供だと!?貴様の仕業かぁっ!?よ、よくも儂の腕をぉぉ!!」


「おい、アンタがここのボスだな?」


「誰かいないのかっ!?小僧…どうやってこの場所に忍び込んだ!?クソッ、この儂がギルドマスターと知っての狼藉か!」


「あー、やっぱり合ってたのね。ボスの要素が欠片も感じられないから間違えたかと思ったよ…」


ギルドマスターを名乗る目の前のデブは残った片腕で肩の切口を押さえ、痛みを堪えながらも憤怒の形相で俺を睨み付けている。


正面から見ると余計に醜悪だ。肉欲にまみれた脂ぎった顔を直視するだけでもキツい。


「グフゥ…ッ、い、生きては返さんぞ小僧…!嬲り殺すだけでは飽き足らん、貴様の親族から只の知り合いに至るまで陵辱してくれる…!!」


「ふーん、部下もいないのにどうやって?」


「ハハハ何をほざく、外には儂の手足の様に動く部下どもが幾らでも待機しているのだ!!既に呼び出しは済ませた…、今にも異常を察してこの部屋に乗り込むだろうよ」


見れば彼はベッドに備え付けられたボタンのような物を押していた。

何らかの発信機能があるのだろう…ってなんで俺はこんなクズと会話しているんだ。


さっさと尋問を始めようと彼の腹に対して剣を突き立てようと動いた。


しかし、 予想外の事が起きる。


グサッ


「は…!?」


「グハハッ…おお、なんだ?ひょっとして儂をその剣で刺そうとしたのか、おいぃ!?だとしたら残念だったなぁぁ!!!」


短剣は俺の意思に反して、俺の腹部に突き刺さっていた。

内臓を貫くには至らなかったがそれでも夥しい量の血が流出する。


外部から攻撃を受けた訳ではない。

信じ難い事に俺の腕がそれを為したのだ。


「ヒャッハハいい様だ、ハァ…どうやら他には居ないようだな」


先程まで怒り狂いながらもキョロキョロと周辺を伺って警戒していた男が、打って変わって余裕の笑みを浮かべ笑い転げている。


「クックッ、何者か知らんがまさか一人だけで攻め込むとは。最初で最期の機会を逃したなぁ?儂に気付かれる前に最初の一撃で命を奪っていれば良かったものを!!」


彼がポーションを取り出すのを見て俺は回復を防ごうと身を乗り出したが、どうにも足が前に進まない。


まさか、と思い彼を鑑定した。


=======================


名前 フリューゲル

種族 人族

性別 男

職業 首魁

年齢:47歳 

LV: 30


HP: 326

MP: 234

筋力:87

魔力:128

耐久:93

敏捷:115

器用:133

運:18


【ユニークスキル】

《危害返還》


【スキル】

火魔法Lv2 魔力操作Lv2 詐称Lv2 脅迫Lv3

誘導Lv1 鞭術Lv3 拷問Lv2 房中術Lv3 

火耐性Lv2 毒耐性Lv1 


【称号】

闇ギルド支部長 殺人者 陵辱者


=======================


「チッ…!」


迂闊だった。

頭に血が昇っていたのだろうか。初見の敵に対して分析もせずに相対してしまった。


今まで楽に倒せていたという油断もあるが、時間を短縮しようとした慢心が己の判断を鈍らせていたようだ。


…いや、後悔しても遅い。反省は後でも出来る。

久しぶりに傷を負った事に動揺してしまったが、頭を切り替えなければ。


「ユニークスキル《危害返還》。ヒャハ、この儂が無敵たる由縁よっ…!!儂に敵対した以上、もはや貴様に打つ手は無くなったのだぁぁ!!」


この男、フリューゲルはレベルの割にステータスは低めだ。

だが奴の言う通り、ユニークスキルの性能が異彩を放っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※《危害返還》… 敵対者と認識した生物の意識を操作し、保有者に危害を加えようとした行動が全て敵対者自身へと向かう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


どうやらこのスキルの効果により、俺の攻撃は自身へと返されたようだ。


本当に攻撃が出来なくなってしまったのか…?

俺は腹に刺さった剣を引いて鞘に納め、フリューゲルに対して殴りかかった。


「ぐはっ…!」


瞬間、不快な感覚に襲われた。気付けば自分の頰を殴っており、不意に転倒してしまった。


まるで予兆が掴めなかった。

加減してはいたが前傾をとって駆け出していた為に、反動が大きい。無駄にダメージを受けてしまった。


試しに俺はその場から彼の首を掴もうと腕を動かしてみた。

すると再び不快感が増し、自然な動作でいつの間にか自分の首を掴んでいる。


明確にダメージを加える意思がなくとも、害を与え得る行動全てが自分を襲う羽目になるようだ。


抵抗する余地が微塵もなかった。

これでは予想出来ていても防ぎようがない。


「フハハ…おいっ何をボサッとしている!この儂が重傷を負ったのだぞ、さっさと手当てをせんかっっ!!」


フリューゲルはポーションを肩に振りかけたかと思えば、隣で呆然と俺を見つめる女性を加減もせずに蹴り上げた。

彼女は不安げに怯えながら俯き、起き上がって床に転がった包帯と薬品を回収しに向かった。


クズめ。

だが奴が応急処置を済ませているうちに対抗策を模索せねば。


無属性魔法で拘束…

ダメだ、やはり自分を狙ってしまう。


生活魔法で攻撃…

発動前の段階で標準が自分へと向かう。

これではただの自爆だ。


しかし自爆であれば防ぎようがないのではないか。


そう予想して自分を含めた周囲へ「ランバー」で加圧してみたが、どうしてもフリューゲルの位置まで攻撃範囲が伸ばせなかった。

彼に近づけばさらに範囲が狭まり、やはり届かない。


他にも威力の低い魔法を幾つか試すが、同様の現象が起きる。

無差別に範囲攻撃をしようにも、彼にダメージが加わる可能性があれば無意識に範囲を抑制してしまうようだった。


ならばと思い疾走し、彼の視界から一瞬で逃れる。


「シッ…!!」


間合いに入る手前で足が止まり、己の脇腹に手刀が落ちる。

無理だったか。


死角から攻撃を試みたが、案の上自分の身体を叩いてしまった。彼に視認されていなくとも効果は生じるようだった。


フリューゲルを攻撃しようと意識した時点で、その矛先は例外なく自分へと跳ね返る。


こうして検証しても信じ難い。

こんなふざけた能力、攻略が可能なのか?奴が無敵と称したのも頷ける。


「クク…随分と足掻いている様だが、何をしようと無駄、無駄だ!!」


既にフリューゲルは治療を終えていたが、俺が色々と試している間もベッドから離れずニヤニヤと歪み切った嘲笑を浮かべている。


俺が自滅する様子が可笑しくて堪らないのだろう。傍から見れば自分を殴ったり魔法で自爆する様は滑稽に違いない。


愉悦の表情で手当てをさせた女性の胸を揉みながら鑑賞している。

苛つく奴だ…挑発してやがる。


「これまでも救出、復讐、裏切り…数え切れぬ程の連中が儂を殺そうと動いた。だがどんな強者であっても失敗し、儂の手に落ちたのだ。

何故か!それは貴様のように不意打ちで傷を負わせる事はあっても、儂が一度見た時点でもはや反抗出来なくなるからだ!!」


悔しいがその通りだ。

どれ程高いステータスを備えていても意味を成さない。


予め気配を完全に殺して認識すらさせなければ良かったのだが、先にスキルの情報を得て無ければ対策不能だ。


「儂に見られた時点で支配下に置けたようなもの。逆らう部下はいない、敵もいない。金も女も自由に動かせる。クフ、引いてはこの国を手中に収めるのも時間の問題よ…!」


何か穴はないのか…?

無敵なんてあり得ない。強力なスキルにも何かしら弱点がある筈だ。

だが少なくとも現状では手立てが見つからない。


どうするか、一度場を離れるか?


撤退するのは容易だ。

此方の攻撃が通じないだけで、彼自身の戦闘力は大したものではない筈。


構えはどう見ても隙だらけで、素人同然だ。

あのユニークスキルさえあれば、まともに戦闘する必要も無かったのだろうが。


彼のユニークスキルに有効範囲がある可能性も残っている。遠距離から魔法で地下を潰してしまえば殺せるかも知れない。

だがそれだと部屋にいる女性達も巻き添えになるし、奴が逃げ出す隙も与えてしまう。


奴が生き延びて万が一にも俺の素性に辿り着けば、執拗に家族の身を狙われる事は想像に難くない。

それだけは絶対に防がなくてはならない。


野放しにするのは悪手だ。なんとしてもここで決着をつけるしかないか。


「おいおい、なんだ、もう動かないのか?…どれ、そろそろ儂が直々に痛めつけてやろうではないか」


動きを止めた俺に対して焦れたフリューゲルは女性を突き飛ばして立ち上がり、壁に立て掛けられた武器を手に取った。


煌びやかな金属棒の先端に鞭が接合した、変わった形状。

紅い魔石が埋まっている事から魔道具なのだろう。


彼は得意げに詠唱を唱え、俺に向かって火魔法を打ち放った。


「ハッハァァ、『フレアウィップ』!!」


あの武器の特殊効果だろうか。

彼が魔法名を発して武器を振るった同時に、燃え盛る炎が鞭の軌道を描いて襲って来た。


だが詠唱が短いとはいえ軌道が丸分かりだ。難なく避ける。


「小癪なっ」


バヒュン!バヒュン!


魔法が当たらない事に癇癪を起こし、彼は魔法を放ち続けた。

最初の詠唱は恐らく魔道具の起動呪文だったのだろう、その後はなんと魔法名を告げるのみで連続で魔法を使用出来るようだ。


その余波で床や資材に飛び火するが、全く躊躇いがない。


「この…いい加減当たらんかぁぁ!!」


「ちょ、おい…!?」


俺が回避した先の後方には意識のない女性達が倒れている。

だがフリューゲルは気にする素振りも見せず、続けて攻撃を打ち放った。


くそっ、女に当たっても御構い無しか!


バシュッ…!


このまま避ければ彼女達に当たるのは明白だ。咄嗟に「ボード」で魔法を受け止めた。


「フッハハハ…、そうだ、女を死なせたく無ければ大人しく餌食になるが良い!!」


俺が人を庇った事に気を良くして、彼は部屋で倒れている女性をピンポイントで狙って次々と魔法を放ち始めた。


仕方なく魔法の方角に移動し、その度に「ボード」で弾いていく。


しかも嫌らしい事に俺の疲弊を狙ってか、防いだ先の逆方面に次の魔法を打ち出される。

この程度で疲れる事はないが、こうも動きながらでは対策を考える余裕が無くなってしまう。


「ほらっほらぁっ!!早く防がないと当たってしまうぞぉ?」


「クソが…!」


攻撃を避けるだけでなく、意図に反して人を守りながら戦う羽目になった。


俺は聖人ではない。

お人好しであるつもりもない。


奴の思惑に乗って見ず知らずの彼女達を無理に守る必要もないのだが。そもそも生きているのかも分からないし。


しかし条件反射とはいえ一度庇ってしまった以上、見捨てて犠牲にするのも癪だ。


幸い奴の魔法の威力は弱い。

この部屋の広さであれば「ボード」で確実に防げるし、仮に直撃したところで魔法耐性の高い外套が燃える心配はない。俺自身もこの程度では肌を焦がす事はない、と思う。


最初に自分で刺してしまった腹の傷も血が止まり、《自己回復》によって治りつつある。


この調子で魔法を打たせ続ければ、いつかは奴の魔力切れを狙う事も可能だが…こうして部屋を飛び回って女性達を守っている状態では、俺の負担もそれなりに大きい。


「なかなか粘るじゃないか。その見えない結界魔法といい、無詠唱に発動速度、媒体を使わず連発する程の魔力。貴様程強いハーフリングは見た事がない。グフフ、売れば再生薬を買ってもお釣りがくるな」


打つ手が見つからない…。

思考がまとまらないが、一度情報を整理しよう。


・フリューゲルの能力:敵対と認識した相手は彼へ攻撃する動作に入ると無意識下でその対象を自分へと誤認してしまい、己を攻撃してしまう。その際、不快感が発生する。


・一度スキルが発動すれば、恐らく二度と彼を害する手段を失う。攻勢に移った段階で自分へと跳ね返る。


・彼からの攻撃は回避可能。だが部屋の人間を守るのが困難。


解決策として、


・撤退する。有効範囲があると仮定して超遠距離から攻撃。または例えばクルトン等、敵に認知されていない第三者を用意して一撃で仕留めてもらう。

その場合部屋の人間を放置し、彼を逃がす時間を与えてしまう。


・彼の魔力切れまたは疲労を狙い、戦闘を続行。部屋の人間を守る限り自分も疲弊する。


現状はこんなところか。


今思いついた手段として、奴が魔力切れで攻撃出来なくなればその周囲を「ボード」で覆い、軟禁して置くという案がある。

その間に生きている女性達を移動させて地下通路の入口を埋め立てるのだ。


しかし魔法が使えずとも物理攻撃は出来るだろうし、それに負けない強度の「ボード」を維持するとなると魔力が莫迦にならない。


それに拘束する事が出来なかったのだ。奴の行動を妨げるだけでも「危害」だと判定されればこの計画は不可能だろう。

いずれにせよ検証が必要となる。


「ほほう、まだ保つとはとんでもない魔力量ではないか!ますます希少価値が高いぞ。それにしても遅いな…他の奴らは一体何をしておる?どうせ飲んだ暮れているだけだろうに、甘やかし過ぎたか」


しかし、その前に試したい事があったりする。


魔法も剣も通じない。

だが『鎖』なら?


無属性魔法『ハンド』で相手を拘束出来なかったのだから『鎖』でも同じ事だろうと思ったが、どうも違和感が残る。


確かにフリューゲルを拘束しようとしても反応しないのだが…、この部屋に入った瞬間から何かを訴えかけている気がするのだ。


最初は部屋の空気に毒され、苛々させられたのだと思った。

だがそうではなかった。意識してしまえば、俺は『鎖』を通じて奴に対して何かを求めているようだった。


この感覚を信じてみる事にした。


彼に攻撃が通じない。

ならば、彼自身を標的にしなければいい。



『ーー喰らえーー』


己に湧き上がる衝動に身を任せ、フリューゲルがいる方角へ『鎖』を解き放った。


直線を描いて高速で伸びたそれは、抵抗も無く彼の胸先へ突き刺さる。

そして、その内にある「何か」を確かに縛り上げた感触がした。


「なんだ…?」


フリューゲルは違和感に気づいたようだ。

彼の挙動の一切を無視し、『鎖』の拘束は強まる。


「何か」を打ち砕くように。噛み締めるように。


潰されたソレは、沁み渡るように『鎖』に飲み込まれていき、その鎖環は嚥下を繰り返しながら歓喜に打ち震えるかのように振動した。


彼の身体から抜け出したものに連動して『鎖』が少しずつ、黒く染まっていく。


「な、なんだ…この鎖は!?何処から現れた!!?」


驚いた事に、フリューゲルにもこの『鎖』が視えているようだ。

黒く染まった事が原因だろうか?


彼が動揺して『鎖』を取り払おうと武器を振り回すが、揺らがせる事すら無く摺り抜けていた。


「お…おい小僧!儂に何をした!?貴様の方から伸びているぞっ!!?」


「…」


「チッ…直ちにソレを止めろ!!このっ、女達がどうなってもいいのか!?」


彼が喚いている内に事は済んだようだ。


「何か」を全て砕き、『鎖』がそれを飲み込んだのが感じられた。

黒く染まっていたものが俺の体内へと流れ込み、程無く『鎖』からは再び色が消えて無くなった。


いつの間にか、俺の身体に生じていた不快感は消え去っていた。


身体がやけに重い。倦怠感がある。

だというのに、不思議と満たされたような充足感を得ている。


「ふー、やっと消えたか…。何をしたか分からんがよくも驚かせてくれたな!もう遊びは止めてさっさと縛り上げるか」


俺はツカツカとフリューゲルの眼前へ歩み寄る。

うん、思った通りに足が動く。


確信を持って、彼の顔に殴り掛かった。


グシャッ!!


「ギャーーー!!?エエエ、な、何故!?何故儂を殴れるぅぅ!!?」


「…お前のユニークスキルが無くなったからだよ」


「な…馬鹿なっ、そんな訳があるか!!儂の無敵のスキルだぞ…あり得ーーーん!!?」


彼を再度鑑定した事で裏付けが取れた。


そのステータスからは、《危害返還》の表記だけが消滅していた。


『鎖』で砕き、飲み干したと思われる「何か」は、なんと彼のユニークスキルそのものだったようだ。


奴の弱点は、意外な事に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という事だろうか?

尤も普通はスキルを攻撃する事など不可能に近いのだろうが。


「何故、何故だ!!儂のスキルが、いつもの発動する感覚がないっ!?可笑しい、何故なんだぁぁ!!?」


俺にも分からん。


今までこんな経験はなかったのだ。

本当にこの『鎖』については分からない事だらけだ。




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