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屋敷への侵入者



そろそろ寝ようかと訓練を終える間際、日課として探っていた気配の中におかしな動きをする反応があった。


こんな夜遅くに門から敷地に入り、別館に向かって来る人の気配。1人だけ。


少し珍しいなと思い、頑張って感知を強めて対象を監視してみる。



俺は普段から、スキルの常時発動によって屋敷周辺の気配を大まかに把握している。


これは突発的な襲撃に備えて警戒しているというのもあるが、目的の大半は訓練の為でしかない。


『気配察知』と『魔力感知』の重ね掛け。


ただでさえ気力や魔力の消耗が激しい上に、重ね掛けによって精神的にも異常に疲れが出る。


最初のうちは短時間しか継続出来なかったが、毎日休まずに根気よくスキルの発動時間を延ばしていき、段々意識しなくても自由に感知出来るようになった。


感知の精度は少し落としているが、今では食事や睡眠の時間以外は常に発動、というレベルまで成長している。

流石に寝ている間もスキルを使うのは難しい。



俺はスキルを全開にして、ターゲットの気配へと意識を集中した。


全体を把握するよりも指向性を持たせた方が、探知の精度が上がるのだ。


知覚系スキルというのは扱いが難しく、広範囲を全て把握しようとすると己の感受性が引き上げられ、必要以上に敏感になってしまう。

その為どうしても虫などの余計な気配まで拾ってしまい、膨大な情報が押し寄せて来て脳が処理し切れなくなり、とにかく気持ち悪くなりやすい。


耐性スキルがなければ、俺もここまで広範囲を把握するのはキツかったと思う。


だかスキルを熟練していくと、こうして一点集中する等指向性を持たせる事が出来るのである。



先程からうねうねと蛇行しながら近づいて来たターゲットがやっと別館まで辿り着いたと思ったら、そのまますぐに屋敷内へと侵入した。


いや、本当に何の用事だろう。


こんな時間に誰にも止められずに直接入って来るなんて、使用人だとしても不自然だ。

気配や魔力の流れから、俺の身内というわけでもなさそう。


それに、何もないところで不自然に立ち止まったり、かと思えばいきなり走り出したり…。

動きがすっごく怪しい!


ううむ、これは明らかに招かれざる客だな。


コソ泥か何かだろうか?しかし宝物庫は本館側にあるし、此方には金目のものは少ない筈だが。


絶大な権力を持つ公爵家に対して不法侵入してまで得れるものがあるとは思えない。


これはもしかしたら、相当な厄介事かも知れない。



そんな風に来館の目的を探っていると、突然ターゲットの気配が消えた!


いや、微弱だが反応は残っている。

それに魔力はそのまま感知出来るので場所は丸分かりだった。


動きながらも相手の気配がかなり弱まっているという事は、『気配遮断』かそれ系統のスキルを使ったと思われる。

俺も意識して探知を強めていなければきっと見失っていただろう。


ここまで気配を消せるのは、うちだとロバートくらいだろう。明らかにプロだ。


スパイか、もしくは暗殺者か。


せめて見知った人物かどうか確かめる必要がある。


俺は探知を継続したまま部屋を出ると、気配を薄めてターゲット、いや敵がいる方向へ向かった。


敵がこの2階まで登って来たので、接触する前に廊下の死角に隠れる。

だが此方へ向かって来る事はなく、敵はそのまま階段を上ろうとしていた。


その姿を確認するとやや小柄な男性で、あまり特徴という特徴は見つからない。

目立たないようにする為か、屋敷の小間使いに見えなくもない灰色の地味な服装をしている。


距離は離れており、相手は背中を向けている。今なら鑑定しても気付かれないだろう。



=======================


名前 ジーゼル

種族 人族

性別 男

職業 中級盗賊 

年齢 28

LV:23


HP:316

MP:45

筋力:95

魔力:54

耐久:74

敏捷:132

器用:108

運:14


【ユニークスキル】


【スキル】

土魔法Lv2 身体強化Lv1 魔力操作Lv1 

索敵Lv2 潜伏Lv4 忍び足Lv2 暗視Lv1 

解錠Lv2 短剣術Lv2 毒耐性Lv1


【称号】

 

=======================


おいおい、やっばり盗賊なのか!?


いや、職業が盗賊だからって目的が盗みとは限らないか。


それにしても潜入に打って付けのスキル構成だ。

先程気配が消えたのは『潜伏』スキルによるものだろう。


その男は3階に上がると、キョロキョロと周りを確認してから早足で廊下を進んでいく。

俺も気配を消して一定の距離を保ったまま彼の後に続いた。


この階には家財置き場があるので、確かに売れば金になる。それが狙いか?


それにしても、廊下に人が誰もいない。

普段は夜でも当番で使用人が数人控えている筈なのだが…。


彼は廊下を一周した後で地図のような羊皮紙を広げて扉の位置を確かめながら迂回し、最終的に母上の寝室の前で立ち止まった。


そして何か懐から道具を取り出すと、取っ手をカチャカチャと弄り出す。

スキルに『解錠』というものがあったし、ピッキングしようとしているとしか思えない。


まさか、彼の目的は母上か!?


彼女に危害を加えに来たのか、もしくは俺が作ったポーションの存在がバレてその調査でもしに来たのか。


何れにせよこれ以上の乱入は認められない。


急いで近くの曲がり角に身を潜めて、『鎖』を男に向かって放出する。


「うっ!?な、なんだ?」


男の身体を鎖で縛り付けた。


ステータスは半減。俺の存在に気付かない限りは弱体化が効く。

さらに無属性魔法で物理的にも固定させているので、碌に身動きが取れないだろう。


彼は何が起こったのかと驚愕して周囲を見渡すが、当然見える範囲には誰もいない。


姿を見せる訳にはいかない。

目的が不明瞭な以上敵に情報を与えるわけにはいかないし、子供が無力化したとなれば警戒されるに違いない。


となると尋問は難しい。

それに公爵家へ不法侵入という大罪だ、俺が勝手に処理していい案件じゃないと思う。


ここは一度気絶させて置くか。


動けずに踠きながらも謎の拘束に怯える男。

侵入者からしてみれば、敵地で誰にも見られていない筈なのに捕まったのだ。普通に失敗するより余程怖いんだと思う。


そんな彼を尻目に、俺はその場で潜んだまま魔法を行使した。


『スタンガン』…


『鎖』を通して遠隔で雷魔法モドキを発動。


「ガッ…!」


ビリっと振動音が発生した瞬間、彼の身体は一度だけ大きく痙攣して仰け反ると、すぐに脱力した。


ステータスの状態を確認…よし、ちゃんと「気絶」って出ているな。


そのまま『鎖』を操作し、彼の身体を引き摺る。

生物を抱えるのは魔力消費がデカい筈だが、抵抗がないからか思った程ではなかった。


では、いっちょいきますか。


そのまま速少し速度を出して、近くに飾ってある壺の元へ彼の身体を勢い良く叩きつけた。


ガシャァッ!! カァァンッ パリンパリン



壺が割れた事で騒音が発生する。

一拍し、それに気付いた周囲が慌ただしくなった。


母上も今の音で流石に起きたのか、部屋の中から気配が動いているのが分かる。


うん、これだけ騒がしくなれば間違いなく賊は捕まるだろう。後は父上が上手く調べてくれる筈だ。

仕事は済んだし、後は任せるしかない。



もう寝よう。


俺は誰にも気付かれないように自室へと戻った。




翌日、屋敷内は人の出入りが増えていた。


昨夜起こされてから動きっ放しなのか、使用人達の顔には疲れが見える。


俺は素知らぬ顔をして何があったかとリューネや母上に尋ねてみたが、「泥棒が入ったみたいですよ」と曖昧に濁すだけで事件の詳細は教えてくれなかった。


心配だからクリスと一緒にいて欲しいと頼まれたので、今日の訓練は休んで妹と遊んであげる事にした。


クリスも今日はいつも以上に俺に抱きついて来る。

屋敷内のピリピリした空気に当てられたのか、彼女も不安そうだ。


もしかしたら『生命感知』スキルで何かを感じ取っているのかも知れない。


フラッと食道楽に向かおうとするクルトンに、「怪しい者がいたら知らせて」と一応指示を出して置いた。

どこまで通じているか謎だが、プルルンッと震えてくれたのできっと大丈夫だと思う。


子供の自分が敢えて事件に関わる必要はないのだが、やはり敵の目的が何だったのか気になる。

母上が心配だし。


せめて昨日の侵入者がその後どうなったのかくらいは把握しておきたい。

別館の中だと一番情報を受け取る人物は…母上か執事長ロバートあたりだろう。


妹やクルルと戯れる一方で、俺は『聴覚強化』を働かせて彼らの動向に聞き耳を立て続けた。



盗聴を始めてから暫くして、漸くロバートのほうで昨日の事件についての話題が上がった。


ロバートとその付近の声にスキルを集中…他の音も拾ってしまうので頭がガンガンするが、我慢しながら声を聞き漏らさないように努める。


「お待たせして申し訳ありません。それで、進展はありましたでしょうか?」


「ええ、ロバートさんへ公爵様より伝言を承りました。結果から申し上げますと、賊は尋問を強化しようとした矢先に、歯に仕込んだ毒物によって自害したとの事です」


もう1人の男は確か父上の部下だろう。声になんとなく聞き覚えがある。


「自殺…そこまでして口を閉じるとは、やはり刺客でしたか!エリザベート奥様の寝室に障害なく進入した事といい、只者ではありませんね。暗殺に類する何かを目論んでいたと見ていいでしょう。

問題は誰の差し金なのか…情報がこれ以上得られなくなったのは痛いですね」


おお、ロバートが怒りを露わにしている。とてもレアだ。

それだけ母上を大事に思ってくれているのだろう。


「ええ、背後関係については未だ分からず仕舞いです。但し直前に『人物鑑定』が間に合ったのは幸いでした。

報告によればその男は“ジーゼル”という名前で、職業は“中級盗賊”と出ており、潜入捜査に特化したスキルを所持していた様です」


へー、人物鑑定なんてのがあるんだ。

たぶんステータスが見られちゃうんだよね?


俺のステータスも見られたら不味そうだし、何か隠す方法を考えないとな。


「ふむ、隠密という訳ですか…。ところでそれが何故、奥様の寝室の前で失態を犯し失神していたのかは判明致しましたか?」


「いえ…残念ながら何も分かっておりません。本人が言うには前触れもなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

我々が何もしていない事を伝えると彼はまるで怪奇現象に遭ったかのように怯えながら、『嘘を吐くな』『魔道具で罠を張っていたのだろう』と騒ぎ出す始末でした」


それ、僕の所為なんです。なんかゴメンね?


「ううむ、私どもとしては幸運でしたが、最悪の事態を防いだ要因が不明とはなんとも不可解ですね…。一体この屋敷で何が起こったのでしょう?

その時間に周囲には誰もいなかった事は確認取れています。見張りをしていた筈の執事は丁度所用で離れた所にいたと…。肝心な時に職務を疎かにするとは、上司として情けない限りです」


「ええ、それに関しては公爵様も嘆いておられました。しかし別館の警備体制が薄かった事も事実でして、今後は護衛を増やすと仰られていました」


「有難い限りです…。奥様をお守り出来なかったばかりか、お手を煩わせた事のお詫びをお伝え下さい。事態が収束するまでは私ども一同、万全の警戒を行います」


「承知しました。我々のほうでもエリザベート奥様を陥れて得をする人物を中心に、調査に当たりましょう」


会話は一旦そこで終わった。

はぁ疲れた、耳鳴りがすごい…。『感覚強化』も普段から訓練した方がいいかも。


しかし自殺、か。思ったよりガチの刺客だったんだな。

これは本当に母上の暗殺を目論んでいたのかも知れない。


念の為俺の方でも警戒は続けよう。


敵の背後は兎も角として、これだけ警備されていれば暫くは相手方も慎重になるとは思うが。



そんな予想を裏切る様に、その日の深夜、再び屋敷に向かって忍び寄る気配があった。


しかも今度は複数。3人だ。

昨夜と同様に門から進入し、蛇行しながら向かって来る。

どうやって門を素通りしているんだ?


屋敷外で見回りしている騎士や護衛兵、使用人の気配を的確に躱しながら進入した。

中に入ってもなお、誰も気付いた様子はない。


身内の警備になんとも言えない不甲斐なさを感じながら、俺は部屋を飛び出した。

このまま放って置くとまた母上の部屋まで辿り着いてしまう。


まだ寝ていなかったクルトンがピョン、と肩に引っ付いて来たが、まあ気付かれなければ構わないだろう。


早速視界に入ったので、彼らのステータスを確認…職業は昨日と同じ「盗賊」に、「暗器使い」というのが2人。


なんともあからさまである。

もはや目的が暗殺なのは明らかだ。


「アグッ!」

「ガハッ!?」

「どうしたん…うぐっ!?」


敵が3階に入ったタイミングで、昨日と同じ手口で拘束し、そのまま魔法であっさりと失神させる。


縛り付けたまま先に2階へ降りて、鎖を引っ張って彼らを階段から転がり落とした。


ドガァッ!! ガタガタガタ


一丁上がりぃ。3人も動かすのは中々疲れるな。

さっさと自室へ戻る。


すぐに音に気付いた護衛が鳴らしたベルが屋敷中に響き渡り、昨夜以上の騒ぎになった。



今回も上手く撃退出来た。


クルトンはその間何もせずに、俺の肩に張り付いて魔力をチュウチュウと吸い取っていた。かわいいヤツめ。


しかし色々と謎だらけだ。

何故警戒されている中で日を開けず、無理に暗殺を強行しようとしたのか。

そんな警戒網を突破出来た事も不自然だ。一体どうやって誰にも気付かれずに済んだのだろうか。


一体母上は誰に狙われている?



平和だった筈の公爵邸に、不穏な空気が立ち込めていた。






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