スライムをテイム
今日も山で訓練。最近は週2で通えている。
気になった素材の採取がてら、感知に引っかかった魔物を片っ端から倒す。襲い掛かってきた魔物も倒す。
あくまで狩りではなく鍛錬なので、なるべく殺さないようにした。倒れたやつはその場に放置し、逃げ出した魔物は追わない。
普通に戦うと相手にならないので、素手のみで戦う。
身長が足りないので大抵は飛び蹴りだ。
重力魔法モドキはかけていないが、スキルはなるべく使わずに!
そんな感じで積極的に魔物を狩っていない事もあり、ここ最近はレベルは上がらず、8で止まっている。
因みに、個人レベルの経験値は生物を殺す事で増えるそうだ。
直接トドメを刺さなくても、傷さえ与えれば他の人が殺した時に経験値が分配される。理由は分からない。
しかし経験値の取得量は主に敵のレベルや能力に依存するらしく、しかも自分よりもレベルが低すぎる相手だとまったく貰えないんだとか。
例えば虫を倒したところでレベル1の赤ちゃんくらいでないと経験値は入らない。しかも極小だ。
俺はレベルだけは低いからこの辺りの魔物でもまだ経験値は入って来ているが、能力差が大きいせいなのか雑魚を何百体と狩ってようやく今のレベルなのだ。
次のレベルまでどれだけ狩る必要があるか想像もしたくない。
尤も今ステータスが激増したところで持て余すだけなので、気にせずにレベルよりも技術を高める方に集中する事にしている。
この調子で素手だけで戦っていると成長が格闘技術に偏ってしまうのが難点だ。
魔物ばかりでなく、騎士相手の訓練も増やさないとな。
それにやり過ぎたのか、心なしか最近は魔物から避けられているような…?
張り合いもなくなって来たし、そろそろ活動場所を奥地に移すべきだろうか。
昼食にしようと拠点に戻っていると、小さいが魔物の反応があった。
訓練相手にもならないのでスルーしようと思ったが、なにやら不審な動き方をしているので近づいてみる。
「スライム…?」
視界に現れたのは、ただのスライム。
直径15cm程度のボールがヌメッと潰れた、水色の小さい生物だ。薄く透けており、その内部には白っぽい魔石が見える
オーソドックスなスライムには違いないのだが、先程からプルプルと震えて不規則に移動している。
大抵のスライムは群れで行動する筈だ。こいつの周りに他のスライムは見当たらないし、餌を求めて彷徨っている感じでもない。
盲目の患者の如くウロチョロし、岩や木にぶつかっては方向転換しているのだ。
まるで酔っ払っているように…。
原因が気になって目しまいの前まで近付いたのだが、反応がない。
なんとなく動きが不気味だったので直接触れる事は避けて、代わりに『鎖』を伸ばして触れてみた。
チョンチョン。
ピクッ
おお?一瞬動きが止まった。
と思ったら鎖を取り込もうとしている!正確には鎖に伸ばした俺の魔力に纏わりつこうとしていた。
移動されるのもアレなので、そのままスライムを縛り上げて宙に浮かせてみた。
これで弱体化して動く事も出来ない筈だ。
僅かに震え続けるスライムをよく観察しようとすると、なんか魔力が吸われ出した。え、吸っちゃうの?
量は少ないが俺の魔力がちょっとずつスライムへと流れていく。
すごい、こんなの初めての経験だ!
チューチューと吸われているイメージが浮かぶ。
暫くしゃがんだまま、その興味深い行動を観察した。
見た目ただのスライムなんだけどなぁ。あっそうだ、鑑定しよう。
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名前 - [ 呪い ]
種族 スライム
性別 -
職業 ローグ
年齢:0歳
LV:2
HP: 15 (30)
MP: 4 (8)
筋力:2 (4)
魔力:3 (7)
耐久:2 (24)
敏捷:5 (11)
器用:4 (9)
運:25
【ユニークスキル】
《吸収》
【スキル】
悪食Lv4 消化Lv2 再生Lv1 物理耐性Lv3
【称号】
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「うわわ、ユニーク個体だったの!?…また出たか〜」
たった1年でさらに遭遇するとは思わなかった。
スライムみたいな弱い魔物の中にもいるんだなぁ。前のと落差が激しいんじゃないかね。
しかもこいつ、他のスライムと全然見分けがつかないぞ。
実際ユニークスキルを持つものの、この山に出没するスライムよりレベル低いし、弱体化前の能力値も、その割には強いと思える程度。
なんともユニークらしさが無いやつだ。今までよく生きて来られたなぁ。
ただ、スキルの『悪食』ってのは初めて見た気がするし、状態が「呪い」になっているのも気になる。
おれの『鎖』による弱体化では、こんな表示は出ない。
鑑定された本人は相変わらずプルプル震えながら鎖に貼り付き、俺の魔力をゆっくり吸い上げている…。
MPが回復している訳じゃなさそうだが、何の意味があるんだろう。
エサなの?おいしいの?
うーん、なんだか動きも可愛く見えて来たし、まるで害意を感じないんだよなー。
恐る恐る手で触ると…どうしよう、メッチャ気持ちいい!
スライムって初めて触ったけど、思ったらより粘つかないというか、プニプニしてる!
これ、持って帰れないかな…、魔物だし難しいか。
いやしかし、魔物使いなんて職業もあるらしいし、ペットとしてならいけるはず…!
最悪、内緒で飼えない事もない!
「お前、ペットとして家に来ないか?」
プルプル
「おお、そうか!来てくれるか!!」
プルプル
「ありがとな!あ、名前つけたほうがいいか?ふむ、そうだなぁ…」
プルプル
「よし。スキルからして食いしん坊っぽいから…お前の名は『クルトン』だ!!」
プルルルル!!
ピカーッ
「ぐえ〜っ!!な、なんだ!?」
突然スライムが僅かに輝いたと思ったら、自分の魔力が一気に吸い出された。
しかも異様に気持ち悪い。魔力消費による倦怠感だけでなく、三半規管が揺れたような酩酊感が襲った。
耐えられない程ではないが、視界が定まらない。おれでは歩くのも難しそうだ。
暫く体勢を変えずに蹲り、回復するのを待った。
「はぁー、やっと収まった。なんだったんだ一体…」
ふとスライムを見て、『鎖』に縛り付けたままだったのを思い出したので、すぐに解放し地面へ降ろした。
「って、あれ…?お前、なんか変わってない?」
よく見ると先程よりも鮮やかな色合いに変化しており、全体的にやや不透明になっていた。
不思議に思い、取り敢えず再度鑑定してみる。
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名前 クルトン
種族 スライム
性別 -
職業 ローグ
年齢:0歳
LV:2
HP: 30
MP: 8
筋力:4
魔力:7
耐久:24
敏捷:11
器用:9
運:25
【ユニークスキル】
《吸収》
【スキル】
悪食Lv4 消化Lv2 再生Lv1 物理耐性Lv3
【称号】
アルフの従魔
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「おお〜、クルトンって名前がついてるよ!?」
しかも称号が俺の従魔に!
…あれ、なんでアルフレートじゃないんだ?
スライムことクルトンは、先程までの動きと打って変わってピョンピョンと飛び跳ね、俺の肩によじ登って来た。
首にすり寄ってきて、とても愛らしい。
「うはぁ、可愛いやつめ!よしよし、従魔になったという事は、これで合法的に家に持ち込めるな。これからよろしくな、クルトン!」
プルプル
俺は上機嫌でクルトンを連れて帰路に着いた。
先刻に被った謎の不調についてはすっかり忘れたまま。
*
「ふぁ〜っ、にーちゃ!なに、それなに!?」
「ふふん、この子はスライムだよ。クルトンっていうんだ、ほら挨拶して」
プルプル
「キャーッかわい〜!!ねーねー、わたし、クリスなの!よろしく!」
家に帰り、妹のクリスにクルトンを見せたら、目をキラキラさせて飛びついて来た。
俺の肩から剥がして彼女の手に抱えさせてあげる。
「わぁぁ、しゅごい〜!!くるたん、スベスベ〜!」
このクルトン、「名付け」の後に触ってみたらさらに感触がよくなったのだ!
クリスの頬っぺたとタメ張るくらいにスベスベでモチモチだ。ずっと触っていたい。
「あの、アル様。付かぬ事をお聞きしますが、そのスライムはどこで…?」
リューネが口を挟んできた。怪訝そうにしている。
「うん、訓練に行く途中で偶然見つけたんだ。何処かから紛れ込んじゃったんだね!」
「そ、そうですか。魔物が結界内に入るなど有り得ない筈ですが…いえ。
えーっとですね、アル様?そのスライムは小さくとも魔物です。人間とは相容れない生き物なのです!間違っても飼われたりしてはいけませんよ…?」
やはり家で魔物を飼う習慣はないようだ。しかし既にその対策は万全!
「大丈夫、こんなに可愛いんだよ?ほらほら、すっごく懐いてるし」
「しかしですね…」
「まあまあ。取り敢えず、はい」
満面の笑みでクルトンを撫で続けるクリスから一旦それを返してもらい、魔物の怖さを語っているリューネに手渡した。
「私に渡されたところで…」
彼女はそれを触った途端にピタッと動きが止まった。
「でも、公爵家で魔物なんて…ダメ、なんですから…!」
プルプルと震えるクルトンに目が奪われたまま、「くっ…負けません…!」とか呟いている。
あ、ギュッと抱きしめて撫で始めた。落ちたな。
*
この後家族連中は皆等しく陥落した。チョロいぜ。
父上マグナスは元冒険者なのもあってか魔物に偏見は少なく、初見でクルトンを可愛がり始めた母上を見て、世話をキチンとする条件でペットにする許可をくれた。
兄フリードは「魔物め〜、俺がやっつけてやる!」とばかりにクルトンにパンチを繰り出しているが、本気の攻撃には見えないしクルトンにも全くダメージは無さそうなので、遊んでいるだけだろう。
マリアナさんだけは距離を取って迷惑そうにしているが、別館で飼う分にはどうでもいいと反対まではしないでくれた。
「穢らわしい…」「品位が…」と呟いていたが、気の所為だと思う。
こうして家に受け入られたクルトンだが、これがまた有能なのだ。
餌は何を食べるのかと一通り試してみたが、文字通りなんでも食べる。
残飯から腐りかけの食材、ただのゴミに至るまでまで。
それどころか、クルトンが通過した場所の塵や床の汚れまでもが、綺麗に回収されていたのだ。
まさかそこまで食い意地が張っていると思わなかったが…、これには屋敷中が喜んだ。
なんでも綺麗にしてくれるという事で、それまでいい顔をしなかった使用人も彼を認め出し、今では引っ張りだこ。
クルトンも嬉々として呼ばれるがままにゴミを食べ尽くす日々だ。
そんな感じで彼は邸内を自由に行動している。
寝る時は一緒だ。俺にくっ付いて魔力を吸収しているようだ。
殆ど放任状態なのだが、俺が外出しようとするといつの間にか現れてついて来てくれるのだ。かわいい。
山に連れていけば戦力にならないものの、ピョンピョンと跳ねて魔物に体当たりをかます。
たまにダメージが与えられたのか、少しずつレベルが上がっている。
意外と能力値の伸びがいいので、成長していけば強くなるのかも知れない。
こうして一人だった俺の訓練に、新しい相棒が出来た。




