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5歳 空間魔法への挑戦



先日、5歳になった。


誕生日プレゼントは例年と似たような物だったが、父上からは「王国医学概論」と書かれた難解な本を頂いた。


本人も読んでみたが全く内容を理解出来なかったらしい。そんなもの子供に渡すなよ、読むけど。

彼は俺をどうしたいのだろうか?



一時期は「マナリジェネポーション改」の生成に掛かりきりで訓練も碌に出来なかったが、その分消費の激しかった魔力がさらに成長したお陰で、少しずつ負担が減っていった。


ポーションの改良魔法?にも慣れてきたのか省エネで済むようになり、『調合』の熟練度も上がったので効率化が進んでいる。


最初は調合の度に品質が変わり失敗する事も多かったが、今ではかなり安定した。

必要素材も溜まって来たのもあって頑張れば日に4本まとめて作れるので、そう手間でもなくなって来ているのだ。


ただ、毎日母上にポーションを渡しに行くのが面倒なので、今ある在庫をまとめて渡したいんだが…。

何故か「アルちゃんにもらうのは1日1本までなの〜っ!」と断られてしまう。


無理矢理渡そうとすると泣きそうな顔をされたので、渋々諦めた。

寂しいのかな。もっと親子の時間を取れという事かも知れない。



余裕が出来てから、ラーブラ師匠の所に顔を出した。


暫くポーション作りを手伝えなかった事を謝り、自分が作ったポーションで母の容態が良くなったと報告すると彼女は自分の事のように喜んでくれた。


普通なら教わって間もない素人が作ったものを誰かに飲ますなと叱られるところだが、彼女も随分俺の腕を認めてくれているようだ。


「それで、どんなポーションを飲ませたんだい?」


「え〜っと、マジックポーションなんだけど…」


結局突っこまれるのはそこなのだ。

さて、なんて伝えよう…まあ、師匠ならいいか。


「今から見せるけど、これについて詳しい事は何も話せないよ?師匠に教わった事を活かして自作したんだけど、かなり凄いものが出来てしまったんだ」


そう言って彼女に見せ、ポーションの名前と効能を伝えた。


彼女は呆然として暫く信じようとはしなかったが、俺の目を見て嘘をついていないと悟ると腰を抜かすほど驚いていた。

一体どうやって作ったのかと掴みかかって来たが、素材や大まかな製法だけ伝え、スキルや魔力に関する部分は断固として無言を貫いた。


「ハァ〜、なんて強情なやつだい!…まあいいさ。本来薬師のレシピってのは個人の財産だからね。誰にも言わないのは間違ってないよ」


「ごめんなさい、師匠からは沢山教えて貰ってる癖に…全部師匠のお陰で作れたのに。どうしても作る過程に秘密が多すぎて、肝心のところは教えられないんだ」


師匠の事は信頼しているが、俺はかなりチートなスキルを持っている自覚がある。


平穏の為になるべく露見は防ぎたいというのもあるが…。

ベテランの彼女に出来なかった事を自分がズルをして成功させたような負い目が口を重くしてしまうのだ。


「あ〜もういい、そんな辛気臭い顔するんじゃないよ。この話はもう終わりさね。

ところでコレ、借りてもいいかい?あんたの話が本当なら私じゃ作れる気がしないけど、成分を調べてみたいんだよ」


そういう事ならと俺は快諾した。

もし誰かに知られたら危ないかも知れないが、この婆さんならそんなヘマしないだろう。むしろ俺の方が注意しなきゃね。



今日も山でポーションの素材集めだ!

場所もいくつか把握しているので暫くは困りそうにない。


訓練がてら魔物を素手で軽く蹴散らし、水辺や洞窟等を巡っては各素材をサクッと採取。


しかし乾燥させて保存しているとはいえ、日が経つと素材の品質が劣化していくんだよなぁ。


何かいい方法ないかな。今のところ魔法袋に入れているが…ふむ、魔法袋か。


そういえば先日に本館の書斎で読ませてもらった「魔道具図鑑」によると、魔法袋や魔法鞄は「空間魔道具」というものに分類されるらしい。

これらには古代魔法とされる空間魔法の一種が付与されていると言われている。


誰も作れる人はいないが、ダンジョンの宝箱から稀に入手されるとの事だ。


その特性は“空間拡張”で、重さを感じずに沢山の物量が入るというものだが、実はもう一つある。

“時間遅延”という、内部の空間の時の進みを現実と比べて遅くするというものだ。


この2つの特性の度合いよって、空間魔道具の価値は大きく変わる。

内部の空間が広いほど、または時間の進みが遅いほど貴重で高価なのだ。


俺の持つ魔法袋は安物なので、時間の進みは現実と然程変わらない。

熱湯を注いだビーカーを入れたら、外よりも冷めるのが1分遅いかどうかだった。


もっと性能のいい魔法袋を買えば素材の保管もしやすくなるのだが、たぶん高すぎて買えない。

稼いだとしても珍しいから街に取り寄せるのも大変だ…。

ダンジョン行くか?いやいや。


「…もう一度挑戦してみようかな」


ボロい袋をジッと見つめて、俺はぼそりと呟いた。


空間魔法。

亜空間倉庫。アイテムボックス。


異世界テンプレの中で、最も便利な魔法と言って過言ではない。


どんな魔法でもイメージ次第で再現できる《生活魔法+》という万能スキルを持つ俺は、生まれて間もない赤子の内から真っ先にアイテムボックスを再現しようとした。


だが、出来なかった。


魔力が足りないのか、イメージが不足しているのか。

生活に役立つという条件は満たしている筈なのだが…。


その後も何度も試したが、発動する前兆すら見せないので当時は半ば諦めつつあった。


だが、魔力が増えて空間魔法のイメージが固まって来た今ならもしかして…?


あまり期待するとダメだった時の落胆がキツいんだが…、ここは今一度試してみるか。


そして俺は目を閉じ、集中して魔法を生み出そうとした。


…。

数分の間何度もスキルを発動しようと繰り返す。


「ハァァ、やっぱりダメか…」


どうしても発動しない。

何がいけないんだ…?やはり空間という概念が抽象的すぎるのだろうか。


「うーん」


考えながら手持ち無沙汰に魔法袋の中に手を出し入れする。

この中がどうなっているか分かればなぁ。


袋を覗き込んで中を見ようとするが、いつも通り闇が広がっているだけだ。

『感覚強化』で視力を高めても微塵も見えない。


「そうだ、鎖を…ダメか」


そういえば試した事なかったな、と『鎖』の先端を魔法袋の中へと入れてみたが、当然のように何も分からない。


「あ、でも鎖で中の物を取り出すのは便利そうかも!」


そんな思いつきで、念動力モドキを使おうと『鎖』に魔力を流した、その瞬間の事だった。


俺は自分の軽率な行動を後悔する事となった。


「うわっ!!?」


突然、視界が歪んだ。


いや、正確には眼前の景色は変わらないが、自分の感覚器官が混乱しているような。

頭が軋む。認識が狂う。なんなんだ!?


おかしい。自分が今立っている場所が本当に存在しているのか疑ってしまうくらい現実感がない。


その後すぐにそれが『鎖』から送られて来た異質な情報だと肌で理解した。

なんとも悍ましい感覚に耐えられなくなり、慌てて鎖を魔法袋から引っ込める。


「ぐぅッ、ハァ、ハァ…!」


気がつくと呼吸が乱れていた。


体もガタガタと震えている。余程恐ろしいものを体験してしまったようだ。

時間の感覚すら薄れていたが、恐らく一瞬に過ぎなかった筈だ。


アレは常軌を逸していた。まるで世界から隔絶してしまったような、途轍もない気持ち悪さだった。

まだ頭が揺れている気がする。


暫く俺は震えを止めるのに時間を要した。


居ても立っても居られず、すぐに山を下りて帰宅し、夕食も摂らずに部屋に閉じこもった。


その間は何も考えられず、現実に戻って来られた事にただ安堵した。



「やれやれ、昨日は酷い目に遭ったぜ…」


翌朝、睡眠をとった事ですっかり落ち着いた。


部屋に引きこもるなんて始めての事だったので、家族をだいぶ心配させてしまった。

風邪だったけどすぐ治った事にして謝り、普段通りに過ごす。


しかし夜になり、段々と考える余裕が出来て昨日の出来事を思い返すと…ある仮説が浮かんだ。


あれはひょっとして…?


もしまたあの感覚を味わう事を思うと、今でも猛烈な拒否感があった。


気持ち悪いなんて生易しいものではない。

生物の根源を否定されている気分にされる。


だがもしあの時叩き込まれた情報がそうだとしたら、試さずにはいられない。

一瞬じゃ殆ど分からなかったからね。


意を決してベッドから起き上がり、魔法袋を手に取る。トラウマを思い出したかのように体が震えて来た気がするが、無視だ無視。


「…フゥッ、よし来い!!」


空気を吸い込み気合いを入れると、そのまま『鎖』を袋の中に突っ込み、魔力を通した。


ぐえっ、やはりキツい!

昨日と同様にして膨大なナニカが瞬く間に脳を侵食し、己を蝕んでいく。

その冒涜さに何もかもが崩されていく。死んだほうがマシなくらいに精神を揺さぶってくる。


だが今回は身構えていたのもあってか、気が狂いそうな状況の中でも比較的冷静にそれを分析する事が出来た。


とはいえ、やはり慣れるようなものではない。

頭痛には慣れたが忌避感がすごく、筆舌に尽くし難い。

最低限の結果が得られるとすぐに魔力を切り離した。


「カハッ、ハァ…」


耐性スキルが効いてこれだ。普通の人なら発狂じゃ済まないに違いない。


「しかし成る程、これは…」


どういう原理で『鎖』から情報が流れて来るのかサッパリ分からない。

だけど送られて来たものが何だったのかは、多少なりとも理解した。


「袋の中の空間…というよりも、空間そのもの?」


袋の中に入っている素材が見えたとかではない。

おそらく、今感じたものは、袋の中の空間に働いている力そのもの。

空間の性質と言い換えてもいい。


だとすれば、空間自体を人間が知覚するのは不可能だ。


知識として空間という概念がある事を認識するだけなら誰でも出来る。

それを理論的に理解するのも、頭脳が優れてさえいれば可能だ。


だが知覚となると、人の立ち入っていい領域を超えている。

文字通り、まるで次元が違うのだ。


人間に過ぎない筈の自分が、何故、どうやってそんなものを知覚出来たのか不思議でならない。


『鎖』から受け取ったのは、果たして情報だけだろうか?何かとんでもなく異質なモノを取り込んでしまった気がする…。


若干後悔しないでもないが、既にやらかした後だし今更だろう。


「でも、たぶんこれで使えるようになった!はず」


己のユニークスキルに念じると、今まで一度として反応して来なかったその魔法が、すんなりと発動する予兆があった。


万全を期す為に、『鎖』を解放して魔力を高める。

そして適当に側にあった本に触れ、魔法を起動させた。


魔力消費が途轍もない、一気に吸い上げられる。

全部使い切ったりしないよな?と心配になりながらも、俺は考えていた魔法名を声に出す。


「『ポケット』…!」


触れていた筈の本が、フッとその場から消える。


もう一度魔法を発動すると、何事もなかったように本が元の位置へ現れた。


よしっ、イメージ通りだ。

ふふふ、アイテムボックスなるものを再現してやったぜ!



死ぬより恐ろしい体験と引き替えに、俺はこの「ポケット」と名付けた空間魔法を手に入れた。


本来知覚出来ない筈の空間を強制的に肌で感じさせられた事で、どういった力が働かせれば無から空間を創造して自分の元に繋げられるか、漠然とではあるがイメージ出来たのだ。


こんな力を操作する魔法なんて、過去の空間魔法使いはどうやって身に付けたんだろう。それこそ、神の力なのか?


この「ポケット」は完全に俺の魔力に性能が依存している。

“空間拡張”や“時間遅延”の性能も魔力次第だ。


ただし費やした分の魔力は空間を削除するまでは最大MPから削られるので、大した性能は出せないのが難点だ。

慣れれば効率化も出来て、融通は利くと思うが。


要特訓だが、今の魔力でも素材の在庫分を入れて内部空間の時間を5倍に遅らせるくらいなら余裕はある。


魔法袋よりは相当にましなので、苦労した甲斐があった。

あ〜、思い出しただけでゾワゾワする!もう二度としたくない!!



それでも切望していた魔法が手に入った事に興奮してしまったようで、その日は何度も「ポケット」を使い、魔力が切れていつもの如く気を失った。







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