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調合を覚える



朝日とともに目を覚ますと、布団の中に暖かな異物感があった。


布団を捲ると、妹のクリスが腹にぎゅーっと抱きついてスヤスヤと可愛い寝顔を晒している。

最近は離れて寝られるようになった筈だが、寒くなってきたので夜中に侵入する事が多くなった。


クリスの肩を揺らして目覚めを促すと、彼女は眠そうにしながら瞼を擦り、もう一度俺に抱きつく。


それを抱えたまま体を起こし、顔を洗いに向かった。


その後リューネから声がかかって朝食をしに食卓へ向かうと、既に席に着いた母上、エリザの姿があった。


彼女は俺達を目にすると軽く手を上げて穏やかに微笑み、おはようと挨拶を交わす。

目が覚めてきたクリスは俺から離れて母上へと抱きつき、彼女に頭を撫でられて嬉しそうに目を細めた。


クリスが俺や友達と遊んだ出来事を楽しそうに話し、今日はどんな事をするのか母上に教える。

俺も世間話を交えながら、和やかな朝食を楽しんだ。


俺が母上に毎夜『ヒール』もどきをかけるようになってから、彼女は朝だけは容態が良くなったのか朝食は食卓でとれるようになった。


マグナスも彼女の回復に喜び、最初のほうはわざわざ別館まで足を運んで朝食をともにした程だ。



あれから何度も神殿へ足を運んだが、病気を回復する魔法を使う神官には出会えなかった。


そもそも俺自身本の知識でそういう魔法があるという事しか知らないので、教会に使える人がいるのかも分からない。

焦れてきた為、中で作業していたシスターに近づき、無邪気な子供を装って話しかけた。


「病気を治せる魔法はあるのー?」と聞くと、光属性の上位である神聖魔法がそれに当たるようだ。


神聖魔法はあらゆる魔を浄化する性質を持つ為、大抵の病であれば立ち所に回復するという。


しかし、この神聖属性に適正を持った人間というのは、世界に数えるほどしかいないとの事。

その保持者は神の寵愛を一身に受けた選ばれた者として、奇跡をもって世界に貢献する為に神聖国へと誘致され、教会本部の重要人物として勤めるそうだ。


そうなると、神聖魔法の使い手は普通の町にはいない所か、神聖国にしか存在しない可能性が高い。


まさか子供の身で行けるわけもないし、行く手段があったとしてこれまでのように忍び込めるとも限らない。

教会本部ともなれば厳重な警備がされている可能性が高いからだ。


そもそもシスターに言うには治せるのは普通の病気であって、不治の病などの特殊な病気は治せないそうだ。

俺の《生活魔法+》でも結局治せない可能性が高いし、そんな希少な属性魔法を模倣出来るのかも疑問だ…。


あまりに難関が多すぎて、魔法でのアプローチは一旦諦めざるを得なかった。



そんなわけで、俺は今、街の薬剤師の婆さんの調合室へ足を運んでいた。


「あ〜、もう気が散るねぇ!そんなところで見てるんじゃないよっ」


彼女からついに声がかかった。

まだこの人の名前は知らない。入室の際に声をかけたが返事がなかったので、こうして扉の前でひっそりと見学させてもらっていたのだ。


前回と同じく、ライフポーションの調合を行なっていた。


「ふん、やる事ないんならアタシの手伝いでもしてな!あんたみたいな小っちゃいナリでも道具を運ぶくらい出来るだろ」


「え、いいの!?」


やったね、間近で作業が見れる。むしろ教えてもらうようなものかも。


「なんだい、こき使われるのに喜ぶなんで変わった坊やだね。言っておくけど駄賃はやらないよ?」


「いいよいいよ、じゃあ何からすればいい?」


それから俺は婆さんの作業を手伝いながら、ポーションの作り方を見学させてもらった。


しかもこの婆さん、ラーブラというらしいが、俺が作り方を学ぼうとしているのを悟ったのか「これは独り言だけどねえ」と言いながら道具の使い方や、調合で注意している事を勝手に語り出した。


この婆さん、最高かよ。


その日は30本以上ものポーションが生産され、作業が終了した。


常人だと10本程度しか作れないらしい事を考えれば、ラーブラさんは腕が良い上に、魔力が高い。

ポーション作りには魔力が不可欠なのだ。


「今日はありがとう、ラーブラさん!また時間が出来たら来るね」


「物好きな子だねえ。もう慣れた様だから次はもっとこき使ってやるよ!」


彼女はそう言いながらもニヤリと笑い、歓迎してくれた。



それから俺は、週に一度はラーブラさんの元へ顔を出し、助手として手伝いながら調合を学んだ。


教えてもらってばかりで悪いので、調合室の掃除や材料の仕入れなんかも手伝っている。

今では名前で呼んでもらえる様になり、俺も彼女の事を「師匠」と呼んでいる。


需要の大きい初級のライフポーションがメインだが、他にも中級のもの、マジックポーション、解毒ポーションやスタミナポーション、酔い止め、胃薬などを作る事もあり、一通り役に立ちそうなものを教わる事が出来た。


彼女は薬草や調合に関する知識が豊富で、行くたびに新しい事を教えてくれるので本当に楽しい。

母上の件がなかったとしても通い続けたいところだ。



そして二ヶ月経った現在、彼女から突然「ポーションを作ってみな」と言われた。


「いいんですか?」


「もう手順と調合の割合は頭に入ってるだろう。全部通しでやっていないだけで今までも殆どの工程は経験させてやったんだから、もう出来る筈だよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


最初の頃にポーションを作ってみたいとお願いしたら「10年早いよ!」と突っぱねていた癖に、ちゃぶ台返しの早い婆さんだぜ。


よし、やってみるか。

俺はドキドキしながら教わった手順通りに調合を開始した。


まず2種のハーブをフラスコの水に浸けて加熱、抽出する。

様子を見ながらも、その間にゴリゴリ薬草を磨り潰していく。


割合に気を付けて、薬草のハーブのエキスを魔力水が入ったビーカーの中に投入…!

この世界には計量器なんてのは高い魔道具でしか存在しないみたいなので、基本目分量なのが辛いところだ。


神経質なくらい集中して、一滴ずつ垂らしていく。液体の色合いも含めて判断し、調整を加える。


仕上げに自分の魔力を込めたら終了だ。

普通の人にはこれが中々出来ないらしく、一発で成功させたら流石の師匠も驚いていた。


魔力を込め過ぎると属性魔力が宿り品質に問題が出て来るらしいので、MPにして3程度だけ魔力が馴染むように調節する。

魔力を感知しながらなのでバッチリだ。


これで初級ライフポーションが完成した。

見た目や鑑定した限りではラーブラさんのものと遜色ないと思うが、どうだろう?


師匠は目を見開きながら、俺の作ったポーションをつぶさに持ち、色々な角度から観察した。

信じられないような顔をして終いには口に含み、味見し出した。


「驚いたね…。すぐに店で売れるレベルだよ。はっきり言って作業に関しちゃもう教える必要がないね。

まさかたった二ヶ月、いや実質は10日教えただけで物にしちまうとは思わなかったよ」


「おお、やった〜!!ありがとうございます」


ステータスを見ると、なんと『調合』スキルを習得していた!


「最初はボンクラ息子の道楽だと思ってたんだがねえ。アルフ、あんた商人なんて下らないものより薬剤師になりな!こんだけの才能を埋もれさすだなんて、世間様に申し訳ないよっ」


「あはは…、考えて置きます。他にもやりたい事があるので」


それからも散々「アタシの跡を継ぎな」と諭されたが、俺は旅をしたいのだ。片手間に薬師をするのはアリだが。

子供の道を狭めるな、可能性は無限大なんだとばかりになんとか追及を躱した。


でも俺もまだまだ師匠から教えて貰いたい事があるし、作りたい本命はマジックポーションだ。

今後も弟子として教わる事を確約して、店から出た。



そしてさらに半月後。あれから3回通っただけで、マジックポーションの生成に関しても免許皆伝をもらってしまった。


今、俺は山の拠点に来ている。

師匠から教わった知識から、オリジナルのマジックポーションに挑戦してみるのだ。


マジックポーションはマナハーブと魔力水が原料になるのだが、一般的な作り方では効能が弱い。

MPが10程しか回復しない。


効果を高めるには、他に素材を加える必要があり、調合の際により多い魔力を丁寧に込める必要がある。

その作り方も俺は教わったので、先程試してみたところMPが50程回復するマジックポーションを作る事が出来た。


既に『調合』のレベルは早くも3。

薬剤師を名乗るには十分な習熟度だ。


だが俺が作りたいものは、それでは足りない。


母上の病気が治せないなら、せめて治療法が見つかるまで進行を止めたいと思い、このマジックポーションに目を付けたのだ。


普段母上が飲んでいるものはそれなりに高価な中級のもので、MPが30程回復する。

それだけでも魔力が漏れ出た分は一時的に回復するが、あくまで一瞬だけだ。進行を防ぐには足りない。


だからといって上級のものを飲むには金がかかる上に、魔力の急激な回復を毎日繰り返しては、彼女の弱った身体に負担が生じるらしい…。それでは意味がない。


そこで俺は、「リジェネ」というHPを常時回復するポーションに希望を見出した。


MPを常時回復できる薬を作れれば、進行を押し返す事が出来るのではないか、と。


師匠に聞いたところ、理論的には作れると言われており、材料も大まかには伝わっているらしいが、その難易度から成功した事例は公には存在しないとの事。


希少な素材の調達。調合工程の複雑さと緻密さ。トータルの回復量に見合うだけの膨大な魔力の挿入。


すべての要素が普通の薬剤師には達成不可能なレベルである為、今まで研究機関以外で生成を試みた人は少ない。


だが俺ならそのうちの2つ、素材の入手と魔力についてはクリアする自信があった。


この場所はデュリス山脈。少し奥に入れば希少素材の宝庫となっている。

加えて自分にはユニークスキル《解析》がある。名前しか知らないような素材でも、目に留まりさえすれば簡単に発見出来る。


5回程山の中を必死に探し回り、紆余曲折あったがようやくすべての素材を揃える事が出来たのだ。



そうして準備が整い、これから生成を開始する。


調合の工程は最低限しか分からない。それすらも合っているか分からない。


俺は『直感』を頼りに、手探りで調合を行う。

通常のマジックポーションの手順を参考に、分量はマナハーブの色が完全に消えない程度。


仕上げに魔力を徐々に浸透させ、MPが残り1割を切るまでひたすら続ける。


長時間の作業の末、出来上がったポーションを鑑定した。


【 ※「マナリジェネ 」… 対象のMPを毎秒1回復。10分効果が持続。 】


成功した!!

トータルでMPが600も回復できる代物が出来た。


俺の魔力を2000近く注いだ割には少ないのかも知れないが、どうしても浸透の過程で魔力は減衰する。


素材のお陰だろうが、少量の液体にこれだけの魔力を込められた事が脅威的なのだ。

最上級のポーションでも500しか回復しないのだから、それを超えた事になる。


一度小屋の中で昼寝をし、魔力の回復を図る。


まだ足りない。

まだこれで完成ではないのだ。


しっかり休み、マジックポーションも飲む事で概ね回復し終えたら、再度「マナリジェネ」の前に向き直り、それを手に収めた。


息を落ち着けて、今から行うのは趣味の延長だと思い込む。


躊躇わずにユニークスキルを発動させて、完成イメージを鮮明に保ちながら全魔力を放出。

頼むぞ、《生活魔法+》っ!!


ポーションが輝きを放ちながらその色を変えていく。

茶色がかった赤から、透き通った橙へと。


上手くいったのか分からないが、ひたすら魔力を注ぐ。


…もう魔力が空になる。


俺はスキルの発動を止めると最後の力を振り絞ってそれを鑑定し、最良の結果に達した事を喜びながら気を失った。



【 ※ 「マナリジェネ改 」… 対象のMPを毎分1回復。効果は10時間持続。 】






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