表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/57

神殿と回復魔法



時間がとれるようになったアルフは、まずは半月振りに山へと出向き、拠点の無事を確認した。


食料になる素材を採取していなかった事が功を奏したのか、幸いにも魔物が小屋の中に踏み入れた形跡はなかった。


拠点は現在、室内では木板を並べただけの床に対して魔法で舐めしたダイアウルフの毛皮を敷いてあるので、それなりに快適だ。

素材が置かれているだけなので、倉庫にしか見えないが。

暇があれば増築して、居住空間と素材庫を別に分けるつもりだ。


近場で薬草や木の実を採取し、保存出来るように天日干しにする。

この日は虫型の魔物が多く出没し、剣だけで対処するのが大変だった。


その後小屋の周囲に罠を追加で設置した。

といっても知識がないので、魔法で深めの落とし穴

を作るのと、街で道具屋から購入したトラバサミくらいだ。


大型の魔物には効果は薄いが、ホーンラビットくらいは引っかかるといいなと思いながら、彼は拠点を後にした。



数日後、アルフは街へと出向いていた。

鍛冶屋のゴードンと軽く雑談を交わした後、これから行きたい場所までの道を教えてもらい、店を発つ。


目的地は教会である。


人族が多くを占めるここアトランティス大陸には、大きな街には大抵の場合5つの神殿がある。

魔法属性に因んだ火、水、風、土の神殿。そして光の神殿だ。


多くの人々は己の持つ魔法属性に対応した神殿を、各々信仰しているようだ。


魔法や属性は神から賜った奇跡とされ、よりその恩恵に預かる為に神に祈るといった側面が強い。


実用的な面として、主要都市なんかでは各神殿に魔法機関が併設されており、魔法を覚える為のサポートを行なっている。

自然と魔法を求める人の足が向かってしまうというものだ。


雷や氷の神殿は数が少ない為、その属性持ちの人は下位属性とされる風や水の神殿で祈るケースが多いとの事。

闇の神殿はあまり信仰されないが、人里離れた場所にひっそりと建てられているそうだ。


その中でも光の神殿は「クリティアス教会」と呼ばれ、属性を持っていない人々にも多く信仰されている。


この教会はクリティアス神聖国という大国の援助を受けて、他の神殿よりも豪華に建てられる為、もはや同列の神殿とは捉えられていない。

「教会」と「4つの神殿」という風に明確に区別する人が殆どだ。


その信徒の多さから教会は巨大の組織になっており、国の政治にも干渉する程の力を持っている。

神聖国がバックにいるので、王国からしてみれば他国干渉を受けているようなものだ。


そんな宗教色が強い施設だが、教会には光魔法の特権である回復魔法を使える神官達が数多く勤めている。

お布施を支払う事で誰でも回復魔法を受ける事ができるので、市政の間でも世話になった者から感謝され、広く浸透しているのだ。



そんな教会へアルフが向かったのは、回復魔法をその目で見る為である。


中に入った途端、白一色で作られた内装に眩しいまでの装飾が施された荘厳な景色が現れる。女神や聖人らしき像が立ち並び、その神々しさに圧倒される。


周囲を見渡すと信徒達が出入りする中、脇のほうで治療を望む人が列を作っているのが見えた。


列が大嫌いな彼は並ぶつもりは毛頭なく、気配を最大まで消してスルスルと奥へ進み、その最前列にいる親子連れの中に紛れ込む。

誰からも注意されなかった。


その家族とともに奥の祭壇へと入れられると、まず説法が始まる。神官から教会の素晴らしさについて延々と説かれた。


「光は古来より数多の魔を滅した」「光はその神の御技を以って我等を癒した」「光の女神様こそ至高の存在である」とそんな内容だ。

暫く光の女神を崇み讃え、教会やクリティアス神聖国の成した偉業についても陶酔した表情で語られる。


最後に「光の加護を得たければ、あなた方も祈りなさい」という言葉とともに締めくくられた。


家族の父親が神官に一礼し寄付金をさり気なく手渡した後、祭壇に向かって家族全員で膝をつき、祈り始める。

ここまでが一連の流れのようだ。


そして改めて隣の治療室へ向かい、熱を出して具合の悪そうな女の子が寝台へ寝かされる。

少女は不安そうにしながらも母親に促され、ベッドの上で仰向けになり、ギュッと目を閉じた。


演出なのか、やたらと儀礼じみた動きをして準備を整えたらしい神官は、女の子の額に手を当て、呪文を唱え始める。


その際、アルフは『魔力感知』を全力で働かせてその様子を見守り、魔力の流れや変化を注意深く観察した。


「“ヒール”」


神官が最後に魔法名を唱えた途端、彼の手先から淡い光が発生し、少女の全身を包んでいった。


数秒で光が収まると、女の子はゆっくりと起き上がり、キョロキョロと自分の身体を眺める。

そして体が軽くなった事に驚き、歓喜の声を上げた。


「すごい、そんなに辛くなくなった!神官さん、ありがとー!」


「おお、よかったなシシリー!!神官様、素晴らしき神の奇跡を賜りまことにありがとうございます!」


「いいえ、神は常に見守って下さります。きっとあなた方の祈りが届いたのでしょう」


アルフがふと女の子を見ると、確かに彼女の容態は回復したようだが、ニコニコとしながらも顔色は良くない。


少しフラついている事から、まだ体調が悪そうだ。

魔法の効き目が弱かったのだろうか。


少女の家族が神官にお礼の言葉を続けるのを横目に、彼は少女の元へひっそりと近づいた。


目の前まで近寄って肩に手を置いた事で、初めて彼女はアルフの存在に気がつく。

少女はいきなり目の前に現れた自分よりも幼い少年に吃驚して声を上げそうになったが、その姿を目にして言葉を飲み込んだ。


「きれー…。不思議な髪の毛」


「しー。みんなには内緒でね、これから君の身体を治すからね」


アルフはそういうと彼女の手を握り、少しだけ神官達から離れる。

そして戸惑っている彼女の頰に手を当て、見様見真似の「回復魔法」を行使した。


先程の神官の魔法よりも強い光が少女を飲み込み、一瞬にして収まった。


あれだけ光ったにも関わらず、周りはそれに気づいた様子はない。

『隠蔽』スキルの万能さにアルフは感謝する。


少女に目を向けると、彼女の肌はすっかり血色が良くなったようで、少し頰を赤らめつつもキラキラした目でアルフを見つめていた。


「すごい…前みたいに元気になったよ!キミは…もしかして、せーれーさん、なの!?」


「そうだよ〜、精霊さんだよ。さあ、家族に元気になった姿を見せてあげようね」


適当に頷き、彼は少女の背中を押した。


「うん!ありがと、せーれーさんっ!」


彼女は飛び上がらんばかりに家族へ駆けついて、もっと元気になったと報告する。

訝しがる彼らに“精霊さん”の事を伝えようと振り返った時には、少年の姿は消えて無くなっていた。


この後、教会内では「神の奇跡が舞い降りた」と暫く話題になったという。



「よしよし、上手く発動出来たな。少なくとも神官の『ヒール』より強力に作用したと分かっただけでも僥倖だ」


さっさと教会を離れ、家へと戻るアルフ。


歩きながら先程少女に使った「回復魔法」について考察していた。


成功したから良かったものの、一度見ただけの魔法を幼き少女を実験台にして平然と試すあたり、彼のサイコパス性が示されている。


尤も、《生活魔法+》の特性を考えれば魔法の発動という観点ではその方が都合がいいのだが。


回復魔法を「生活」に結びつけてイメージするのは難しいので、非人道的であろうとも“趣味の一環”として捉えたほうが、魔法が発動しやすいのだ。


今回の成果に満足しホクホク顔の彼は、しばらくクリスと一緒に「けん玉」をして遊んだ。



そして、夜になるのを待ってから自室を出る。

一つ上の階、彼の母エリザが眠る寝室へと急ぎ足で向かった。


アルフが部屋の扉を開いて中を伺うと、エリザの寝息が聞こえたので安心して暗い部屋の中へ入る。


彼女の側に寄ると、とても苦しそうな表情で眠っていた。やはり容態は良くないようだ。


彼はエリザの額に手を当て、覚えたばかりの「回復魔法」もどきを行使する。

ほぼ全魔力を注ぎ込んだ事で、意識が飛びそうになるがなんとか堪える。


少女の時よりも遥かに強烈な光を発した。カーテンが閉められていなければ周りに気付かれていただろう。


固唾を呑んで彼女を見守ると、心なしか顔色が良くなっている気がする。


しかし、アルフの表情は優れなかった。


《解析》で確認したところ、彼女の病気は依然として残っているのだ。


【 ※「魔力虚脱症」… 体内に魔力を留める器官が衰弱し、肉体に蓄えられた魔力が漏出やすくなる。 経過が進み全ての魔力が漏出すると発症者は死に至る】


彼がエリザの病状について詳細を知ったのは、割と最近の事だ。

今まではステータスを注視しても、その人物の状態については毒や麻痺、病気などの曖昧な判定しか分からなかった。


最近になって《解析》の熟練度が上がったのか、鑑定した「状態」について詳細を知ろうとすると、こうして内容を知る事が出来るようになったのだ。


しかし病名とその内容を知った事で、アルフは絶望した。

この病気は本で知った限り、歴史的にも完治した例のない“死の病”と恐れられているからだ。


今までエリザが平然とした態度を保っていた事もあり、そこまで厄介な病気だと思わなかったのだ。


実際、魔力が漏れる病気は他にも程度の低い「魔力衰退症」というものがあり、医師も含めて皆この病気だと誤認している。


この病気の場合は患者の最大MPが減衰するが、一定まで減ると自然と治まり、その後は普通に生活出来るらしい。

アルフもマグナスからそう聞いていたので、真相を知るまでは気遣う程度にしか心配していなかった。


しかし実際には、魔力が漏れ出る量が年々増えている。

元々魔力の高いエリザだから未だに魔力の回復と漏出が均衡を保っているが、常人であれば既に死んでいてもおかしくはない。


今まで存在した筈の魔力が減り続ける感覚というのは、精神や健康状態に至るまで支障を来すらしい。

最近は毎日MPポーションを飲んで気休めにしているようだが、相当つらい筈だ。


アルフは母を死なせてたまるかと、誰も成功した事がないにも関わらずその病気を治す方法を必死に考えた。


魔力を留める器官とはいうが、身体のどこに存在するかも分からない。

エリザの魔力を感知しても、ただ微弱な魔力が身体全体から抜け出ていく様子しか分からなかった。


何も思いつかないまま、それでも可能性のある手段を一つずつ試していこうと、まずは『ヒール』の魔法に頼ったのだ。


『ヒール』は対象のHPを回復する魔法だが、実はそれ以外にも体力や身体の抵抗力も微小に回復するので、万能な回復魔法と言われている。


アルフがそれを模倣した《生活魔法+》に全魔力を注ぎ込めば、エリザの謎の器官が回復するのではないかと期待を込めていた。


だが結果は無残にも失敗に終わった。


元々可能性が高くない事は分かっていたが、それでも落胆は大きい。


依然として彼女のMPは減っては回復してを繰り返しているが、それでも穏やかな寝顔になったので、幸いな事に苦痛を和らげる効果くらいはあったようだ。


これからは寝る前に毎日彼女に『ヒール』をかけようと決意し、部屋を後にしたアルフは次なる手段を探し求めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ