秘密基地をつくろう
別館の中が慌ただしくなって来た。
アスレチック場の宣伝が上手くいったらしく、先日から見学客が押し寄せている。
他の子達は遊び場の雰囲気を出す為に普段通り遊んでもらっているが、俺は行くのを控えている。
相手は貴族だし、顔を見られないほうがいいからね。
仮面を被ったら逆に発案者アールとして目立つ可能性もある。それはそれで父上的に良くないだろう。
むしろ家に居ないほうがバレる可能性を減らせると難癖をつけて、リューネ達が離れた隙をついて屋敷を離れる。
二度目になるデュリス山脈への出向だ。
*
今日の目的は訓練でもレベル上げでもない。
まずは山での活動拠点を作りたいと思ったのだ。
探索の為の中継地点としてもそうだが、折角だから素材を収集したいので、その為の保管庫が欲しい。
「お、この辺良さそうだな」
山の麓から3kmほど奥に進み、川から程よく離れた地点。
地形が凸凹しており、木も密集しているので、視界が通りにくい。
その奥に少しだけ開けた土地があったので、スペースを拡げる為に周りの木を伐採する。
「真空カッター」
声に出す必要はないが、ただのノリだ。
ヒュッと音が鳴ると、手前の木が5本まとめて根元の位置で切断され、轟音を鳴らし崩れ落ちる。
いや、奥の木も何本か切れていた。
風の刃。
風魔法の定番で、この世界にも似たような魔法がある。
しかしこの魔法は減圧による真空を作り出して射出するので、原理的には異なるだろう。
真空が作れるとなるとかなりチートな事が出来そうだが、今のところこの魔法以外に活用するつもりはない。
ここまで刃を薄くして切断性を上げるのには本当に苦労した。
コピー用紙で指を切ったような薄さをイメージし続け、余分な風圧を生まないように宙に浮かべた葉を吹き飛ばないように真っ二つにする。
そんな訓練を毎日のように行って来たのだ。
そして家の居間くらいの広さまでスペースがとれたら、切り株を火魔法で焼却。
「ガスバーナー」
手元から青い炎が勢いよく噴出し、瞬く間に切り株へと燃え移った。乾燥していないにも関わらず火の勢いは止まらず、次第に炭へと変わった。
当然、ガスなんて存在しない。この世界では石油が普及していないのだ。
だがそこはイメージさえあればという事で、魔素をガスの代用として使っているのだと思い込んで使っている。
次は整地を行う。地面に土魔法を浸透させ、ざっくりと均す。
「トンボ」
仕上げにこの魔法を使っただけで吃驚するほど水平に。
そして、小屋を建てる位置に当たる地面の四隅に枝を突き刺し、裁縫用の糸を張る。
広さは自室くらいでいいか。
「ユンボ」
土を精密に掘る為に考えた無駄魔法。
根切りとして、四角に囲まれた土地の外周部分を掘削。
続いて、掘った部分とその内側だけを転圧。
「ランマー」
地面に向かって強い重圧が発生し、ドドドドッと連続した音を立てながら凹ませていく。
これは一応風魔法として使っているが、少し違うジャンルな気がする。重力魔法か、圧力魔法?
個人的にはコンプレッサー魔法と一括りにしている。
一通り地業が終わったら、一旦川の方へと向かう。
歩きながら大岩を探し、その都度拠点へ持って帰る。
往復が多いので大変だ。
流石に重すぎるので、この時ばかりは『鎖』を外した。
それなりに集まってきたら、大岩に向かって魔法を発動。
「ブロック」
瞬く間に岩が変形、分離していき、一定の規格で大きな石のブロックが生み出される。
土を変形させるよりも魔力消費が格段に大きい。
次々と作成し、500個程出来上がったあたりで終了。
途中、コボルト達が襲いかかって来たので「コンプレッサー」で適当に吹き飛ばして置いた。
『鎖』でブロックを持ち上げては、土地の外周部分に慎重に積み上げていく。
じきに真四角の壁が四方に積み上がった。
「接着」
苦戦しながら壁を真っ直ぐに揃えて魔法を発動すると、石のブロックの表面だけが僅かに溶け出し、ブロック同士で結合した。
繋ぎ目が僅かに残っているので、目地のように見える。
完全に固まるまで待つか。いい時間だし昼食にしよう。
*
屋根はどうするか…片流れ屋根でいいか。
そうと決めた俺は、出来た壁の上に屋根台として斜めになるようにブロックを重ね、先刻と同じように接着。
その後、そこら辺に転がってある木に再び「真空カッター」を放ち、細い板を何枚も作成する。
長さは十分だから…繋ぎ合わせるだけ。
上手く同じ位の厚さになったものを選別し、「接着」を発動。
少し凹凸があるものの、巨大な一枚板へと加工された。
残材の上にその板を乗せて、なるべく水分を除く事を意識して乾燥風を発動。
生乾きかも知れないが即席の拠点だし、一先ずこれでいいだろう。
一枚板を壁の上にどん、と乗せる。
ブロックのちょうど角の部分を溶かし、「接着」。…上手くいったのか?
石と木の接着なので、接着が甘い気がする。
ずれ落ちないように頂上部の妻?軒天?の部分に重りとして細い板を何枚も「接着」。
うん、少なくともこれで落ちないだろう。
仕上げに、壁に対して開口部を設ける。
「ウォータージェット」
高圧高出力で放たれた水がブロック壁を削り出し、四角い穴を開けていく。
細かく切り取るには「真空カッター」よりもこっちの魔法のほうが使いやすい。
特に窓を嵌め込む訳でもないので、小さい開口部をランダムに開けていく。
最後に正面のドアに当たる部分を切り取り、軽く後片付けして完了。
ふー、やっと終わった!
これで拠点が完成した。さながら秘密基地ってやつだ。
シンプル過ぎるが、適当に開けた開口部が割といい味を出している。
意外とブロックや板作りに時間が掛かったが、なんとか1日で完成した。
魔力も大分消費して、半分を切っている。
あとは室内の床が土のままだから、枯れ草でも敷くか…。
途中でダイアウルフも返り討ちにしたから、その毛皮を敷くのもいいな。
大変だけど剥ぎ取って置いて、次回に備えるか。
今日は初めて《生活魔法+》が大活躍した。
なんだか今までの訓練が実を結んだというか、実に感慨深い。
因みにこの魔法、イメージ次第でどんな魔法でも生み出せるという、チートで万能な魔法だが、「創造魔法」と呼べないあたりに制約が存在する。
名前の由縁からして、「生活」の為の魔法でなければ発動出来ないのだ。
こじ付けでも構わないので、使用者である俺自身が「生活の為」に魔法を使っていると意識する必要がある。
生活に使う、日常的に使う、そういう「意識」を持っていないと発動しない。
しかもその意識の度合いで魔力効率が変わる。
わざわざ魔法っぼくない名前で発動しているのはその為だ。
生活や日常に少しでも紐付けされた魔法名でイメージしたほうが、ぐんと威力が増す。
何も考えずに火を灯したりも出来るが、かなりの無駄な魔力を浪費してしまうのだ。
そんなわけで、この魔法は威力が大きいながらも、完全に生産性に特化している。
戦闘では積極的に使っていないのはその為だ。
敵と戦うという意識では魔法が発動しない。
害獣や害虫を追い払う、または殺処分するという意識すれば上手くいく。
なんとも上から目線な感覚でないと発動しないのが難点だ。
戦っている相手にも失礼だろう。
だから俺はこれからも、訓練やマトモな戦闘ではこの魔法を使用するのは控えるつもりだ。
ぐっ…、しかし剥ぎ取りがキツい。
死体の気持ち悪さには慣れたが、なかなか綺麗に剥がれず、最初なんかはボロボロにしてしまった。
脂でベトベトだ…『クリーン』っと。
でもなんとか作業が終わった。
あとは毛皮と一緒に近くに持って来たポイズンサーペントの皮も中に入れて、と。
ドア部分は今日のところは岩で塞ぎ、次回にでも何か作ろうと思う。
さて、日も暮れそうだし帰るか。
魔物が近づかないように罠も仕掛けたいなぁ。
*
カンッ カンカンッ
「アルフ坊ちゃん…、なんだか強くなってません?」
「そう?動きは変わらない筈ですけど」
リチャードとの稽古。彼は暇なのか、アルフが練習場に行くと大抵顔を出して来る。
副団長なだけあって、その剣技はマグナスに引けをとらない程に鋭い。
正統剣術とは思えない読みにくい動きと多彩なフェイントでベテラン兵の猛攻すら軽く遇らわれてしまう。さらには弱点や死角を狙ってとても嫌らしい攻め方をして来る。
最初やられ放題だったアルフは模擬戦を繰り返すうちに自分の小柄な体格を活かす事を覚え、低位置で俊敏に逃げ回る事でそう簡単にやられる事はなくなった。
かといって彼はリーチが足りな過ぎるので未だリチャードに打ち込めた事は数える程もないが。
「う〜ん、速さは同じなんですが、どうも一撃が重えというんですかねえ。前までなら体重差があるんで剣を打ち合っただけで軽く崩せたんですが、何故か最近は坊ちゃんの重心がやけに重く感じるんですわ」
「あ、あはは…。受け流すのが上手くなったのかもね」
アルフはあれからも二度、山に出向いて素材の収集や魔物相手に訓練を行った。
今のところ、レベルは5から上がっていない。
しかし以前のレベル1だった頃とは身体能力が雲泥の差なので、彼は急な成長を誤魔化すのに難儀していた。
レベルを上げたなどと伝えた日には、いったい何処で上げたのかと根掘り葉堀り問い質されるだろう。
力を加減して生活するにも限界があるので、代案としてアルフは自分の身体に「重力魔法」をかける事にした。
勿論《生活魔法+》で創った魔法である。
自分を中心にGをかけるだけ。
生活と直結しているとはイメージしづらいので魔力効率は非常に悪いが、普段魔力を大量に消費する事でMPを拡張している彼にはある意味ピッタリである。
当然、ステータスの7分の1同等の動きにする程の重力を浴びるのは普通なら死ぬ程辛い事なのだが、彼は訓練と称して割り切っている。
以来、訓練時には常にこの魔法を自身にかけ続けている。
重力を調節して、なんとか以前の自分の動き程度に収まるようになった。
だが、体重が重くなった事でこうした訓練で有利になってしまう事までは想定外だったようだ。
「はぁ…そんなんじゃねえと思いやすがねえ。もう同い年で坊ちゃんに敵う子供はいねえと思いやすよ?」
「そんな事ないと思いますけど…。そういえばリチャードさんって相当強いですけど、もっと強い人ってどれくらいいるんですか?」
会話しながらも依然として変幻自在の鋭い攻撃を加えて来るリチャードは、本当に底が知れない。
「あっしですか?うーん、自分も強い方だとは思いやすが、世の中には化け物みたいなのが山ほどいやすよ、本当に。
王国騎士団でも『ナンバーズ』の連中や、冒険者のSランクって奴らはとてもじゃねえが戦う気が起きねえです」
「へえ〜そんなに!父上よりも強かったり?」
「マグナス様はタフさが売りですからねえ。純粋な戦闘力なら引き分けってとこですが、まあ搦め手を使われれば勝ち目は薄いでしょうなあ」
「あの父上に勝てるなんて、すごい人がいるんだなぁ」
最近、人間としては異常に強くなってしまったアルフ。
まだまだ強い人がいるなら、こうして鍛えている毎日が無駄にならないと嬉しくなった。
「坊ちゃんは将来、成りたいものでもあるんですかい?こんだけ剣が使えるんなら、やっぱり騎士とかですかね」
「うーん、騎士はいいかな、堅苦しそうですし。それよりは旅がしてみたいんですよね。色んな国を見て回りたい」
「ほう、いいっすねえ。なら仕事としては冒険者あたりですかい。坊ちゃんなら死にそうにねえから、きっといい旅が出来やすよ」
「ありがとう!そうですね、冒険者か旅商人あたりで頑張ってみたいです」
剣を打ち合っている状況下にも関わらず、アルフ達は将来の展望に華を咲かせた。
しかし一方で、彼は母の事が気掛かりだった。
いずれ家族との別離が訪れる事は既に割り切っているが、病床の母をこのままにしては明るい気持ちで旅立たない。
不治の病と言われるが、何か治す手立てはないのか。
その為に自分に出来る事を探し始めた。




