アスレチック完成
父上にに許可をもらった俺は、本格的に計画を推し進めた。
既に正式な計画書は作成したし、材料の手配や業者の用意も最低限は済んである。
あとは「設計士」の職を持つ業者と配置計画図の打ち合わせを行い、「製図士」に図面へと落とし込んでもらうだけだ。
「これは…なんとも斬新なイメージ図ですね。遊具のデザインもそうですが、実に興味深い」
今の俺の姿は白い仮面に派手なタキシード。
名前は「アール」と名乗っている。
外部の人間に会うという事で、職人に用意して貰った仮面を被った。
やはり今回の事業で彼が矢面に出ると良くないらしいね。
仮面は真っ白な面に一部紋様が刻まれており、両目と口の部分に楕円の穴が空いている。
どことなく間抜けな印象を与えるが、神秘的であり意外とかっこいい。
しかも頑丈で、戦闘にも防具として使えそうだ。
この仮面、気に入った!
配置計画といっても、実際はそれほど練ったものではない。
思いつく限りの遊具を書き出したが、所詮は素人。
真面目に図面を弄ったところで余計ごちゃごちゃになるに決まっている。
最もラフなスケッチで済ませて、後は設計屋に投げる事にした。
メインの遊具となる「滑り台」「ブランコ」「砂場」「ジャングルジム」を互いに遠ざけて配置。
今回は「滑り台」を総合遊具として一番巨大にする予定。
なのでそれを敷地の中心に据え、残りの3つの遊具をその周りへ三角状に配置。
そしてそれらの遊具の動線を結ぶようにして、移動距離のある遊具を配置。
平均台や雲梯、丸太吊り橋に丸太渡り、ターザンロープ等だ。
具体的な選択は設計士に任せる。
余ったスペースにシーソーや鉄棒等を設けるように頼んだ。
これだけで目的地に移動する間も遊具で楽しめる筈。
あとはクリスが魔法を打ちたくなるようなものを作って…。
そんなエスキスというべきスケッチ図の説明をして、作業手順や予定について話したら終了。
金銭的な面はロバートに委託してある。後で確認する程度だ。
打ち合わせも終わったので、残りの作業は業者に任せるだけになる。
といっても、遊具のデザインは俺が発案しているので、適宜相談は求められるようだ。
因みに、相談を受けるときはあくまでも謎の子供で、公爵の代理としてである。
その子供が発案者なのはバレバレだが。
*
ガタガタ ギーン
やる事がひと段落したので、今は呑気に建設現場を見学している。
敢えていうなら「現場監督」というやつだ。
たまに暇になれば、それっぽく指示出ししている。
顔バレできないので、仮面つけて変装しているけど。
今は敷地の立体性を持たせる為の盛り土工事が終わり、漸く基礎工事に着手した段階だ。
かなりハイピッチに進めているが、それでも最終的な完成まで三ヶ月はかかりそうだ。
え、冬が終わっちゃうからクリスの魔法問題が残るじゃないかって?
大丈夫さ。
その子、俺の隣にいるから。
「わぁ〜っ、にーちゃ、あれうるさーーい!」
初めて見る工事現場にはしゃいでいる、我が妹クリス。
変装していても、「にーちゃ」って呼ばれると兄だとバレそうで怖い。
いかん、俺はナゾの子供。何故かクリスに懐かれてしまった子供。
「今の俺はにーちゃじゃなくて『アール』だよ。
色んな重機があるね。あの魔導車で、砕石の転圧をしているんだよ。あっちはモルタルかな」
「へぇ〜っ、ぜんぜんわかんない!にーちゃ、すご〜い!!キャハハ」
実に楽しそうだ。
俺が毎日のように現場を見学するので、当然のようにクリスは付いてきた。
「ここは俺がクリスの為に用意して、みんなが頑張って作っているんだよ」と伝えると両手を上げて大喜び。
またもや俺からの盛大なプレゼントだと思ったのかも知れないね。
数ヶ月後には彼女の誕生日だからあながち間違いではないけど。
そういや俺、来週で4歳になるんだよなぁ…。
濃い1年だけど訓練してたらあっという間だった。
これだけ自由にしてても見守ってくれるし、使用人も含めてホントいい家族だよ。
旅に出るまではこうして楽しく過ごせるといいが。
まあそんなわけで、クリスは暫く自分へのプレゼントに夢中だから、使用人を相手にする余裕なんてないのだ。
それに小さい遊具から順次完成させていく予定だし。
工事完了前でもクリスが遊べるようになるから問題ない。
それに俺の芸は何も遊具デザインだけではない。
他にも様々な遊びや玩具が頭の中にインプットされているのだ。
前世知識に感謝である。
碌に遊んだ記憶もないのになんでこんなに覚えてるんだろう?
やっぱりこの体になってから頭の出来も良くなった気がする。
まあクリスが飽きて来たら、少しずつ他の遊びを教えてやればいいのだ。
まずは「あやとり」かな?
*
すべての遊具が完成した。アスレチック場フルオープンである。
「うはぁ〜!キレイなのぉ。ワクワクするぅ!!」
子供っぽさと美しさを兼ね備えたその景観に、我が家のお姫様は感動している。
昨日に完工の打ち上げを行い、今は職人達全員が二日酔いでダウンしている。
前人未踏の仕事が出来たということで、誰もが達成感のある顔つきをしていた。
起きて来るかも知れないので、念の為仮面を装着。
クリスも「ヒーローみたい!」って言ってくれたからいいのだ。
絵本だと思うが、異世界にもヒーローっているんだね。
完成したアスレチック場について説明しよう。
全体を見渡すと、各所に点在する色彩溢れる遊具。
芝生の山が唸っていて、実に立体的だ。
中心では巨大な複合遊具がシンボルのように輝いている。
そして各遊具の脇に添えられた植栽が曖昧に空間を区切り、遊びの「場」を見事に形成している。
使用人が住む区域とは簡易的な柵で区切られているので、然程景観を損なわない。
実際に正面へ向かって歩くと、目の前は広い「砂場」が出迎える。
砂場というのは地味な印象だが、これはまるで別物だ。
石垣で覆われた砂場の中に、美しく整った岩、そして芝生とともに樹木がいくつか配置されている。
砂場本体にはマイクが定期的に「波」を描いてくれており、まるで砂で出来た泉のようだ。
まさに異世界風の「枯山水」へとアレンジされている。
砂場では先日クリスと一緒に泥団子やお城を作って散々遊んだので、割愛する。
砂場の斜め左に目を向けると長い丸太の平均台があり、左奥のの「ジャングルジム」まで続いている。
いや、斜面になっている場所もあるから平均台とは呼べないかも知れない。
正面側には複合遊具の場所まで直接行ける「丸太渡り」があるが、縦に伸びたロープと丸太台を何度も伝って行くので、クリスにはまだ厳しい。
それにメインは最後に回したいので避けるのだ。
クリスは既に平均台の上を歩いている。
高さが50cm以上あるから幼児には怖い筈だが、もう何度も経験しているから慣れたものだ。
途中にはシーソーが設置してある。
暫くしてジャングルジムに到着。
クリスはその間一度も落っこちなかった。偉いから頭を撫でてあげる。
ジャングルジムは正直、一番製造が難しいと思っていた。
なんせ、鉄を溶接する機械なんてないし、現場で加工出来ないのだ。
かといって木製だと耐久性に難がある。
俺が人前で魔法を使う訳にもいかないし…。
ただしこれは、父上がなんとかしてくれた。
自ら現場に出向き、『鉄魔法』を駆使して鉄棒を接合してくれたのだ。
父上の魔力操作だとやや不恰好だったが。
高さは全体的に2m程、中心だともう少し高いという子供にもそこまで危なくない設計だが、その分広さをとっているので上った先でも動き回れる。
カラーバリエーション豊富な塗装を施しているので、子供に大人気だろう。
クリスと一緒に上って、なんとなく外の景色を見下ろした。
脇には鉄棒が設置されている。
「にーちゃ、こわ〜い!」
ニコニコとして妹が抱きついてくる。
実際は怖くないに違いないが、こうして怖がった振りをして俺に抱き付くのが最近のお気に入りらしい。
その次は、入口側から見て右奥の「ブランコ」へと続いている一本の太いロープ。「ターザンロープ」だ。
滑車から垂れ下がったロープの先端には木製のボールが吊られており、クリスを抱えたままそれに乗って勢い良く滑空する。
「キャーーー!!」
彼女は絶叫マシンに乗ったかのように喜び、俺の体をこれでもかと抱き締める。
はいはい、ちゃんと捕まっててね。
ブランコの場所に到着。
ここには普通のブランコに4台、揺り籠型のものを1台用意してある。
あと脇のほうに吊り輪がある。
鎖は危ないかも知れないのでロープ式。
高さがそれなりにあるので、大人でも楽しめる。
よくクリスが二人乗りをせがんでくるが、今日は座り乗り状態で背中から押してあげた。
そしていよいよ真打、複合遊具。
これだけはまだクリスも体験していない。既にワクワクしていらっしゃる。
道程を「丸太吊り橋」でギシギシ鳴らしながら進んでいく。
着いた先には、大きく渦状を描いた「滑り台」が特徴の、巨大複合遊具があった。
地上部分には雲梯やラダーがあり、年長の子供ならそこから上へ上がれるだろうが、それとは別に広いネットが張っており、「ネット登り」が楽しめる。
上へ登ると遊具の内側に何本もの樹木が立っていて、迷路のようにあちこちに移動出来る。
高さが3m程あるので、降りられる場所以外は柵で覆っておいた。
あとは滑り台から降りるだけだ。
滑り台も何種類か用意したが、やはり一番大きいやつだな。
「クリス、初めての滑り台だよ。一緒に滑ろうか」
「うん!!」
くるくると回りながらすべり落ちる。
彼女はかけ滑る感覚が気に入ったようで、この後場所を替えては俺と一緒に何度も滑った。
最後に向かうは、複合施設から少し離れた場所にある広大な「コンクリートクラフト」だ。
ところで、このアルカディア世界にもコンクリート自体はあった。
しかし技術が発展しておらず、ブロック塀の施工や建築には基礎部分にしか使われていないようだ。
RC造なんて存在しなかった。
このコンクリートクラフトも、セメントで固めているだけなので仕上げは粗かったが、今回は研磨師に頼んでクリスの為に一生懸命磨いてもらったのだ。
ツヤツヤだ。
ここは色とりどりの石が散りばめられた山状になっていて、普通に登っても勿論楽しめるが、その中央は中心に近づく程輪っか状に凹んでいる。
これは、クリスが魔法を使う為の「的」だ。
「クリス、ここなら自由に魔法を打っていいよ。いつものじゃなくて、氷を出してもいい」
「ほんとー?おこられない?」
「勿論。ちょっとやそっとじゃここは壊れないし、傷付いても簡単に直せるから。ここだけは、クリスが何をしてもいいんだよ」
「なんでもぉ?やった〜〜!!」
彼女は今まで打てなかった氷を射出する魔法、「アイスバレット」を嬉々として放っていく。
相変わらず無詠唱だし、昔よりも威力がかなり増している。
妹の成長は凄まじいな。
しかし、『コールドウインド』も含めての乱れ打ちだ。
そろそろ魔力も切れるんじゃ…あ、倒れた。
そんな感じで妹が盛大に喜んでくれたので、今回のアスレチック立案は一応の成功を見たといっていいだろう。
あとはモデルケースとしての客からの評価だが…そっちは正直オマケだし、俺からしても完成度が高いから十分に反響が出るだろうと思う。
こうして俺は、多くの協力者とともに半年近い期間をかけて、クリスが夢中になれる遊び場を造り上げたのだった。
ちっぽけな願いの為に多大な労力を費やしたものだが、クリスの笑顔が見れるなら満足だ。
そして、これで俺の自由時間も増えるだろう…。
ふふふ。
*
その後、アスレチックが世界中で大きな話題を呼び、予想以上の評価にその混乱の中心へと巻き込まれる事を彼はまだ知らない。




