フリード視点
俺の名はフリードリヒ・ブロンベルク。
偉大なる剣士マグナス父上の息子であり、由緒高き公爵家の嫡男、つまり次期公爵だ。
この国で最も上位である貴族の俺様は、とても偉いのだ。
生まれ持った格が違う。
平民より良いものを食べて、高級なものを身につける。
それが選ばれし者の務めだ。
そんな俺には、二人の母上がいる。
どちらも貴族で、侯爵と伯爵、つまり上級貴族だ。
1人は俺を生んでくれた母上。元モンベリアル伯爵家、マリアナ母上だ。
お茶会やパーティに出席しているので父上以上に顔を知られているらしい。
貴族作法に明るく、とても尊敬出来る母上だ。
父上とは俺の教育方針で喧嘩する事が多いが、普段はすごく仲がいい。書類仕事も偶に手伝っている。
母上は厳しくも優しく、いつも俺の話を聞いてはたくさん褒めてくれる。
そして父上のように立派な公爵になる為に貴族としての振る舞い方を教えてくれるのだ。
いっぱい勉強をさせられるのが玉に瑕だが。
「常に堂々とした態度でいなさい」とか「上等なものを持ちなさい」「下級貴族や平民とは卑しいから付き合っちゃダメ。友達になるなら上級貴族だけよ」と大変タメになるお言葉を頂いている。
それを体現する為に、俺は日々精進を重ねるのだ。
もう一人の母上は、元ドルレアン侯爵のエリザベート。
俺は「エリザさん」と呼んでいる。
この人は生みの親ではないが、俺が生まれる頃に父上の二番目の妻としてやって来たそうだ。
父上とはスタンピードでの戦いで仲良くなったそうで、彼女自身とても強い。
実際エリザさんの火魔法は素晴らしい威力で、正に俺の見本となるべき魔法だ。
家庭教師の奴よりずっとすごいので、時間がある時は彼女にお願いして魔法を教わっている。
エリザさんはとても俺を可愛がってくれる。
未だに世話を焼いては、抱っこしたり頭を撫でてくるのだ。母上でも最近はそんなにしないのに。
子供のうちはいっぱい遊んで、親に甘えなくてはいけないらしい。
母上と言っている事が違うが、なんだかくすぐったいというか、否定する気が起きない。
最近は体の調子が悪いみたいでうちの屋敷に来る事が減った。
少し寂し…心配だ。
彼女には2人の子供が出来た。
アルフレートとクリスティア。
つまり血は半分しか繋がっていないが俺の弟と妹らしい。
どちらもすごく小さい。
俺みたいに公爵になれないとはいえ、二人とも俺の大事な家族で、貴族の一員だ。
この俺が兄として偉大さや品位を見せつけて、少しでも公爵家の人間として立派に成長させてやりたい。
しかし二人は何故かうちの屋敷ではなく別館で生活しなければならず、毎日会えるわけではない。
二人が遊びに来た時か、俺が無駄な授業を抜け出して別館に行ってやった時だけだ。
だがエリザさんからも長男として彼らを見守って欲しい、立派なお兄さんになってくれと頼まれている。
だから面倒で仕方ないが、俺はアイツらと遊んでやっているのだ。
なんていったって「兄」だからな!
弟のアルフはとても変なやつだ。
髪が光ってないのも変だし、態度も変だ。
俺様が話しかけてやっても興味無さそうにするし、まるで兄を敬わない。
それどころかメイドのグレースが漏らした俺の黒歴史をネタに、彼女と一緒になって揶揄って来る。
しかしそれでいてすぐに「兄さんすごい」と俺の功績を讃えるから、どこか憎めないのだ。
普段のアイツはいつも書斎に閉じこもるか、妹のクリスの世話をするか。それ以外の時間は別館の中をウロチョロして変わった遊びをするそうだ。
この前は「鬼ごっこ」というのを教えてもらった。
鬼が他の人を追いかけて、誰かが捕まるとその人が鬼を交代するという単純な遊びだが、実際やってみるとめちゃくちゃ楽しかった。
思わず夕食の時間になるまで何度も繰り返してしまったものだ。
しかもこれは実践的な訓練だという。
鬼は敵を追跡の、逃げるほうも撤退する為の技術を養う事が出来て、さらに走る事で持久力も鍛えられるらしい。
遊んで鍛える等なんて効率のいい発想だ。アイツは中々頭が良いようだ。
俺には負けるがな!
俺は目から鱗の気分で、すぐに父上に頼んで騎士団の訓練に取り入れてもらった。
父上も面白いと思ったようで快諾してくれたのだ。
自らの部下を鍛える事も次期公爵の務めだからな。
さすが俺、いい事をしたものだ。
因みにクリスとは「かくれんぼ」という遊びをするようだ。
妹はまだ走れないから隠れまわって遊ぶらしい。
これも隠密や索敵の技術を身につけられるそうなので、同様に騎士団の訓練に取り入れてもらった。
ふふふ、これでベルンブルク家は安泰だな。
そしてアルフを鍛えてやる為に、最近は俺直々に剣の稽古をつけてやっている。
アイツは俺よりもちっちゃくてまともに木剣を当てて来られないが、やたらと動き回るので俺の剣が当てられない。
しかも意外と体力がある。
きっと小さいから当てにくいんだ。
この前も最後まで触れられなかった。くそ。
魔法も教えてやろうと思ったんだが、アイツのメイドのリューネがいうには生まれつき魔法が使えないらしい。
落ち込んでしまうから魔法は教えないで欲しいと言われた。
俺の溢れる才能を少しでも分けてやれなかった事が悔やまれる。
魔法を使えない奴は弱っちいらしいから、兄として俺が守ってやらないとな。
妹のクリスは、これまた別の意味で変な奴だ。
アルフにずっと引っ付いているのだ。
アイツはちょっとアルフから離れただけでぴーぴーうるさく泣き喚く。
父上や母上も病気ではないかと一時期心配していた。
俺もそう思った。
しかも俺が頭を撫でようとすると、その小さい手で跳ね除けようとするのだ。
かわいくない奴だ。
しかし兄なので仕方なく一緒に遊んでやっている。ふん。
どうやらクリスは、アルフと違って魔法が使えるらしい。
しかも俺の「雷魔法」と同じくらい珍しい「氷魔法」だ。
俺ほどではないが、どうやらアイツも選ばし才能を持って生まれたようだ。
恵まれた人間はその才能を磨くべきだと父上も言っていた。
もう少しアイツが大きくなったら、兄として俺直々に魔法を教えてやろう。
一番俺といる時間が長いのはメイドのグレースだ。いつも俺の傍にいる。
専属というやつだ。
風呂で俺の体を洗わせたり、服を着替えさせる為にいるのだ。
それだけの存在なのだが、アイツはいちいち俺の行動に口を挟んで来る。
俺が投げ捨てた服を畳むように注意して来るし、ナイフを使わずに肉を食べると小言を言う。
授業中には俺が抜け出さないように監視してくる。
嫌な奴だ。
父上に「もっと分を弁えたメイドに代えて下さい」と頼んだのだが、却下された。
何故だ。
しかしグレースにも良いところが少しくらいはある。
アルフに剣を当てられなくて落ち込んだ時には慰めてくれた。
あと、父上が大事にしている壺を割った事をすぐ報告しやがったが、その代わり一緒になって謝った。
俺が頼んだものをすぐに用意するし、分からない事を聞いたら口調は冷たいが何でも教えてくれる。
「フリード様はそんな事も知らないのですね」とバカにしてくるのが腹立たしいが。
そんな風に仕事自体は有能だから、嫌なヤツでも仕方なく使い続けてやっているのだ。
ふん。
今日は家庭教師の授業が「すうがく」だった。
何の役に立つか分からない数字の計算をさせられるのだ。
はっきりいって次期公爵である俺にそんなものは必要ない。計算なんて文官にやらせるものだ。
人を効率的に使う事こそ有能な貴族としての証だ。
よし、グレースがいなくなったぞ。
俺は隙を見て早々に逃げ出し、別館に行って今日もアルフと「おにごっこ」をして遊んでやった。
母上は何故か、アルフとはあまり遊ぶなという。
理由は分からないが、母上がそういうからには従ったほうがいいのだろう。
しかし俺はエリザさんからアイツの面倒を見るように言われている。
母上もエリザさんも同じくらい大好きだ。
だから間をとって「たまに」遊ぶようにしている。
父上と母上はどちらも尊敬しているが、俺に対して言う内容が違っている事が多い。
例えば母上は「平民は下等な存在。上位の存在である貴族に使われる為にいる」というが、父上は「平民を守り彼らの生活を豊かにする事が貴族としての義務だ」という。
反対の事を言っている気もするが、父上と母上の言う言葉に間違いはない。
どっちも正しいのだと思う。
だから俺は貴族、そして為政者として、彼ら平民の上に立って導く存在であり続けなければならない。
あいつらや下級貴族共をうまくこき使って、やつら自身が食っていけるように育てる。
そうすればやつらは俺の偉大さを知り、身の程を知って俺をどこまでも敬うだろう。
だから俺は今日も「鬼ごっこ」で体を鍛えて、将来に向けて努力するのだ。
勉強?頭の良い俺にはそんなもの必要ない。
俺は今7歳。
3年後には「神託の儀」でスキルと職業をもらって、王都の学園に入学してトップに立つのだ!
将来成長しまくった俺に跪く愚民どもが目に浮かぶようだ。
フハハハ、俺様の未来は明るいぜ!!




