アルフ、剣を買う
布やガラス、陶器等の工房を見学して行く。
制作過程が見れた場所もあればそうでない所もあったが、職人達は皆ぶっきらぼうに受け入れてくれて、会話するだけでも楽しかった。
魔物の素材。未知の植物を使ったもの。スキルや魔力を使った作業。
この世界の常識がない俺にはどれもが目新しく、ひと仕切り楽しんだ。
リチャードもそんな俺を微笑ましく見守りながら、いつの間にか自分も興味が湧いたのか会話に混ざって質問し出したりした。
そろそろ良い時間だ。最後に鍛冶屋へ向かってみた。
今日の目的は社会見学がメインだが、武器の購入もしたかったのだ。
お小遣いは家を出る前にもらってある。
訓練のときは木剣を借りているが、いざという時の為に自分用のちゃんとした武器が欲しい。
とはいえ3才児。子供が武器を持つ事に難色を示されるかと憂慮したが、意外にもリチャードは快諾してくれた。
まあ、フリードも4歳のときには持っていたしね。
1件目は店主がいなかったので、すれ違った人に他の店舗を尋ねてそちらを探す。
着いたようだが、なんだか店の前が騒がしい。
「ふん。あるならさっさと出せばいいものを!何度もチロル伯がご所望だと言っただろう!」
「うるせえっ!!!さっさとそれ持って帰りやがれ!」
「腕がいいと評判を聞いて来てみれば、ただの金の亡者だったとは。此度の件は伯爵にしかと伝えるからな!」
何やら身なりのいい連中が店から出て行くのが見えた。
店主らしきおっさんがいきり立って店の中へ戻って行く。
周りの喧騒がある程度落ち着いたのを確認してから、扉を静かに開けて俺達は店の中に入った。
「ごめん下さーい」
声をかけたが顔を出して来ない。
もう一度呼んだが変わらなかったので、諦めて勝手に店の中を物色する。
店内にはかなりの数の武器、一部は防具が陳列されていた。商品は丁寧に置かれているものの、道具が乱雑に散らかっており、店の内装もボロボロだ。
多くの商品は新品ではないのか、古臭い印象を与える。
しかし手入れはしっかりと施してあるようで、試しにナイフを鞘から取り出して見るとピカピカに磨かれていた。
「お、この短剣、中々良いものだね」
「どれどれ、うーん確かに切れ味も良さそうですし業物ですな。いいのに目をつけやしたね」
「たぶんそれだけじゃないですよ。これは…」
俺がリチャードに説明しようとした時、奥から物音が近づいて来た。
「なんでえ、またいいトコのやつらかよ。てめーら、いつの間に入って来やがった?」
奥から姿を見せた店主のおっさんが、睨みを聞かせながらいかにも機嫌が悪そうに此方を威圧する。
「さっきだよ。何度も声かけたんだけどね」
「ふん。どうせ剣の価値なんざ分かってねえんだ、適当に買ってさっさと帰りやがれ!…ん、そこのお前、かなり鍛えてやがるな」
おっさんは追い払うような仕草を見せながらカウンターに向かおうとしたが、同じくおっさんのリチャードを見て立ち止まった。
「ま、それなりにね。今日はこの坊っちゃんの付き添いってやつだ」
「ボンクラ坊主の護衛ってやつかい。まだ剣も持てねえようなガキじゃねえか。ちっ、何しに来やがったんだ?」
「そりゃ客なんだから剣を買いに来たんだよ、おじさん。ちなみにこの剣はいくら?」
「馬鹿言ってんじゃ…うん?お前それは…。おい坊主、てめえなんでそれを選んだ!?」
「なんとなくかな。たぶん短剣だとこれが一番頑丈だと思ったんだ」
この店に置いてある剣は、恐らくどれもが質がいい。
材料の品質も高いのだろうが、見事に打ち直され、刃を研ぎ澄まされているのが素人目にも分かる。
しかし俺がその中でもこの短剣を手に取った理由は、勿論『解析』だ。
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【頑強のショートソード】
※切れ味:E+
※硬度:C+
※耐久度:C-(D-)
※効能:〈洗浄〉〈耐久度上昇〉
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この剣、他の武器と比べても硬度がとんでもなく高かったのだ。
しかも便利な効能が書かれていた。
※〈洗浄〉:剣身に付着した汚れを除去し、錆を防ぐ。
※〈耐久度上昇〉:剣身の耐久度を1段階上昇する
なんと剣の手入れをしなくても錆びないらしい。
切れ味は劣化するのか?
この「耐久度」が上がるという事は、たぶん切れ味も含めて剣の消耗が遅くなるのかなと思う。そこまでは《解析》出来なかった。
ちなみに切れ味のEというのも十分すごい。
以前鑑定したた騎士団にあった備品の剣だと
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【ショートソード】
※切れ味:E+
※硬度:F
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これだけだった。
騎士団の剣は父上が上等なものを揃えているそうなので、十分高い品質の筈だ。
前回街に来たときに露天で売っている剣も鑑定してみたが、性能が「G」や{H}なんてザラだった。
あの時はまだ《解析》で耐久度なんて見れなかったが、この短剣の特殊効果を鑑定した事によってスキルが成長したようだ。
日々成長を実感するぜ。
「ちっ、こんなガキがいっぱしに見分けやがるとはな。見つかったもんは仕方ねえ、金貨3枚だ」
「いいの?こんなすごいの、もっと高そうだけど…」
「ダマスカス鋼を芯に使っているからな。しかも『付与つき』だ。硬さに特化したそれは、まず壊れる事はねえ。中古とはいえ、普通に買わせるならその10倍は取るとこだ」
「ありがとう!買わせてもらうよ。いいよね、リチャード?」
「ええ、そりゃもう。店主さんの言ったとおり、ダマスカス鋼を使った武器なんて金貨数枚じゃとても手に入らないもんです。是非買わせてもらうべきでさ」
保護者役のりチャードの許可も降りたので、カウンターに行って代金を渡した。
お小遣いはもしもの為に金貨5枚も受け取っていたからね。足りてよかった。
店主は短剣を手渡した後、子供用として剣を背負う革製の肩掛けをサービスで用意してくれた。言動の割には優しいおっさんだった。
「よしよし。でもおじさん、気前が良いね。なんで?」
「あー、そのボロ樽に入れてある剣は、良さに気付いた客にしか売らねえんだ。見にくいが金貨3枚って札に書かれているだろ。
てめえみたいなガキだろうが、気付いちまった以上は売るしかねえよ」
「そっか、ラッキーだったよ」
「ふん、抜かしやがる。剣も握れねえガキだと思ってたが、お前その年で随分剣を触ってやがるな。
…おい、試しにその剣を一度振ってみてみろ。どうやって使ってんのか気になって仕方がねえ」
おっさんの要望を受けて、剣を振る為に店の裏に出た。
剣に体が持っていかれないように重心を意識しながら、両手で柄をしっかり握る。
袈裟斬り、切り返しと何度か短剣を振ってみた。
シュバッと風を切るいい音がなる。うん、やはりいい剣だ。
「さすが坊っちゃん。いい剣筋ですな」
「とんでもねえ、大剣を振り回しているようなもんだ。俺の腰ほどの大きさもねえのに体が出来ちまうなんて、化物か?」
「化物はひどいや。たまに振り回していただけだよ。まだ機会があるか分からないけど、この剣は大事に使わせてもらうね」
「おう、何に使うか知らねえがその時は顔を出せ。その剣は錆びにくいが研ぎは必要だからな」
「わかった、また来るよ。おじさんの名前は?」
「ゴードンだ。他に欲しいもんがあるなら今度来るまでに用意しといてやるよ」
「本当!?じゃあ投擲用に柄の細い、短めのダガーが欲しいかな。流石に手が小さいからね、片手で握れる特注の武器が欲しかったんだ」
「そりゃそうだ、ガハハハ!!普通は両手でも握れねえよ。分かった、可愛らしいサイズのを用意しとくぜ」
出会い頭の不機嫌な顔もすっかり収まったようで、おっさんは厳つい顔を歪ませて破顔した。
その後、リチャードもここの武器が気に入ったのか自分が騎士団所属という事を明かした上で今度武器を買わせてもらう事になった。
「そういえば、俺達が来る前に騒いでいたのは何だったの?」
「ああ、あれか。どっかの貴族の使いが店に来ていきなり『この店で一番高い剣をよこせ』と宣ったんだ。
本人が来ねえだけでも腹立たしいってのに、しかも金も払わねえっていうんだぜ?」
「うわあ…」
「俺も見る目のある客に安売りする事はあるがタダで渡した事はねえ。腹が立って無理やり金をふんだくってやったよ、見栄えだけはいい低級品を売りつけてな、ガッハハハ!!」
なかなかいい性格している。
確か伯爵って言ってたよな、貴族に喧嘩売って大丈夫か?まあ剣を使わない限り騙された事にも気付かないだろう。
俺達はすぐに帰路に着いた。
いい買い物が出来たが、早く帰らないとな、クリスに泣かれてしまう。
※
屋敷までの道のりは短剣が重たく、それなりに疲れたがなんとか走り切る事ができた。
その後お風呂で。
最近は一人で風呂に入る事を許され始めた俺だが、毎度のリューネの抗議と、今日は特にクリスが抱きついて離れなかったので、断る隙もなく一緒に入る事になった。
「うふふ、やっぱりアル様が一人でお風呂に入るなんて早すぎます!10歳、いえ15歳までは一緒に入るべきですね。その後も、ア、アル様さえ責任とってもらえれば…」
数日の鬱憤が溜まったのか、暴走状態のリューネにこれでもかと体を揉みくちゃにされた。
クッ、これがあるから嫌なんだ!
うちの風呂はでかい。大浴場といった広さだ。
大理石っぽい仕上げの浴槽は、人が10人は余裕を持って入れるだろう。
石彫の獅子のような像からお湯が出ていて、豪華な見栄えである。
一昔前まで、風呂は王族くらいしか使えなかったらしい。
後にある勇者が風呂の良さを広めた事によって普及し始めたのだと教わった。
しかし風呂自体が一種の魔道具のようなもの。魔石を必要とする上に、製造にもそれなりに技術が必要らしい。
なので平民には高すぎて買えず、未だに貴族の特権のような扱いだ。
いずれ旅に出たらこの風呂も入れなくなるんだよなぁ…。
リューネに一通り洗われた後は、妹の体を洗ってあげる。
一緒に入るときは必ず俺に洗ってもらいたがるのだ。可愛い奴め。
クリスのベリーショートな銀髪に石鹸液を軽くつけ、指で丁寧に梳きながら洗っていく。
彼女は気持ち良さそうだが、石鹸が目に染みないよう必死に目を瞑っている。
「はい、終わったから1回流すよ。ジャー」
「あぅぅ。じゃーしたのぉ」
体も洗ってあげたら、最後に『クリーン』を彼女にかける。
俺やリューネにも同様だ。
この異世界の石鹸、それなりに汚れは落とせるがあまり肌によろしくないのだ。
弱酸性ならぬ強酸性ではないかというレベルだ。
実際髪が傷んでしまうし、特に俺らのような幼児の体には宜しくない。クリスのスベスベの肌が痛むのは世界の損失だ!
というわけで、一応形だけ洗いはするが最後に全身へ『クリーン』をかける事によって、本来のもち肌とツヤツヤの髪に戻している。
俺のイメージ魔法なので、もはや魔力さえ食えば何でもアリだった。
一人で風呂に入る日にも、ちゃんとクリスの入浴後に『クリーン』している。リューネはついでだ。
「にーちゃ。いなくてさみしかったぁ」
「おお、ごめんよクリス。でもリューネがいたから平気だろ?」
「んーん。にーちゃじゃないと、やー」
浴槽内の腰掛け部分に座って、ちょうど湯が肩の位置まで当たる。
クリスが俺の膝の上に甘えて来るので、頭を撫でながら一緒に湯に使った。
「クリス様、すっごく寂しがってたんですから。アル様はもっと遊んであげないとダメみたいですね〜」
「ずっと、いっそなのー」
ぎゅっとしがみついて泣きそうな顔をするクリスを見て、半日離れていただけでも相当に寂しかったんだなと分かった。
どうやら、妹から解放されるのはまだまだ先のようだ。




