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3歳 妹テイム?



僕の名はアルフレート!少し前に3歳になりました。


「クリスー、そろそろ離れようね」


「う〜!」


腰にしがみ付くは、もうすぐ2歳になる赤ちゃん、クリスティア。

イヤイヤと頭を振っている。


今は僕を睨みつけているが、それも含めてとっても可愛らしい女の子。

僕の妹ですね。



という感じで彼女クリスは、常に俺にくっついている状態だ。

トイレでも、食事でも、風呂も、お構いなしに離れようとしない。


俺が側を離れた途端に泣き出す。

寝ている隙に離れても、目が覚めて俺がいないとすぐに泣き出す。

困ったものだ。


「にーちゃ!!あそぼ〜!」


「はいはい、ちょっと待ってね」


「にーちゃ!にーちゃ!あれ!またあれやゆのーっ」


彼女は、それはもう嬉しそうにピョンピョンとせがんでくる。

もう毎度の事だ。そろそろ飽きてくれないものだろうか。


「アル様、クリス様〜!ご飯の準備出来ましたよー。

あれ、どうかしたんです?」


「ううん、何でも無い。今行くね」


メイドのリューネが呼びに来てくれた。会話の内容はさらっと追求から躱す。


「遊ぶのは後でね」と言って食卓に向かう為にクリスを背負った。


彼女は甘えるように背中に抱きつきながらも、「う〜っ、やゆの〜!」とダダを捏ねる。

俺はそれを宥めるように頭を撫でて、彼女の耳元で「後でね」と囁いた。

彼女のやっと生え揃った髪はまだ短いが、銀色にキラキラと輝いている。


クリスはくすぐったかったのか、俺の顔に頬ずりをしながら「…うん」と漸く納得してくれた。

やれやれ。


食卓に到着。

俺がクリスを赤ちゃん用の椅子に下ろし、その横の席に座ると、当然の如く彼女は這って来て、俺の膝の上に座る。


1日に1度はこれじゃないと、食べてくれないのだ。

正直そこまで身長差があるわけじゃないので、食べづらい。


彼女に「あーん」をして食べさせながら、なんとか自分の食事も進める。

クリスはリスのほっぺのようにモキュモキュさせた。とても嬉しそうだ。

何故かそれをリューネが物欲しそうに見て来る。


食事を終えると、クリスは「抱っこ〜!!」とせがむので、俺はお姫様抱っこの如く彼女を抱えあげ、部屋に戻る。


「じゃあお昼寝しようか〜」と言ってみた。


だが彼女は眠そうに瞼を少しお落としながらも、「やぁ〜!あれやゆの〜!」と俺をポカポカ叩き出した。

やれやれ、誤魔化されてくれなかったようだ。


俺はまずベッドに上がると、彼女を横に斃した状態にして、右手を彼女の頬にそっと当てる。

彼女は嬉しそうに目を細めた。

どうやらその位置に当ててもらうのがお気に入りらしい。


「じゃ、いくぞ〜」


「あい!…んっ」


クリスは1才児と思えぬ声色を発した。


「ふわぁぁ…きもちぃー…。あんっ」


ふう、何故こんな事になったのだろう。

俺は溜息をついた。


考えが足りなかった。

今では俺もそう思っている。

しかし、まさかあんな事になるとは思わなかったのだ。


俺は過去の事件を思い出していた。



生まれたばかりのクリスがアルフの部屋に移り、馴染み出した頃のあの日。


アルフは何を血迷ったか、彼女の肩に手を当てて、自分の魔力を彼女の身体に流し始めた。


「んっ。んん〜〜!」


「おーよしよし。ちょっと我慢してくれよ」


純真な目つきで、誕生したばかりの赤ん坊の体にゆっくりと魔力を浸透させていくアルフ。


自分の行動で、ひょっとしたら妹の魔力が増えるのではないかと思っている。

そこに安全性は一切考慮されていない。


普段から自分が使い続けている為か、魔力というものに恐ろしい程に無頓着なのだ。


クリスはビクッビクッと痙攣しており、どことなく辛そうだ。


「よーし、いい感じだぞ。丁寧に〜丁寧に〜」


王国、いや人族の常識として、他人に魔力を流す行為は基本的に拷問刑として扱われている。


基本的に、というのは両者の魔力が共に単一の魔法属性を持つ場合は、魔力を流しても大きな影響はない。


しかしそれ以外の者が流すと、異なる属性魔力の侵入に肉体が痛めつけられ、魔力経路を破壊してしまうのだ。

あまりの痛みに気絶も出来ず、負傷ではない為すぐに死ぬ事はない。


その為、一般的にはその行為自体を忌避されている。

尤も魔力を他人に流せる程魔力操作に長けている人自体が少ない為、私生活で見つける方が難しいが。


そんな情報など知らずに、アルフは素人考えで手を出してしまった。


今も真剣な顔つきで、まるで患者を救おうとする医師のような気持ちで“施術”に集中している。

これ以上ない程にエゴである。


10分程で、とりあえずの浸透が終了した。


「ふぃ〜終わったぞ!どうだいクリス、辛いところはあるか?」


彼はその行為の所為で相手が死ぬかもだなんて、想定すらしていない。

あくまでも彼女の魔力を鍛えたいだけなのだ。


だが、結果的には確かにそれは不要だった。


「あぅー…」


何やら疲れた顔をしたものの、何故かクリスは恍惚そうな笑みを浮かべていた。


異なる属性のアルフから魔力を送られた。普通なら間違いなく死んでいる。

だが何故か彼女は平静を保っていた。


「お…、とりあえず大丈夫そうだな。もしかして気持ちよかったか…?

俺の腕も捨てたもんじゃないな〜」


アルフは得意げな笑みを浮かべてクリスの頭をワシワシと撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細めて眠りについた。


「リューネ―、クリス寝かせたー」


「あら、ありがとうございます、坊ちゃま!いつもながらクリス様を寝かしつけるのが上手ですね〜」


アルフはなんとなく成功を噛み締め、上機嫌にクリスを寝床へ運んだ。

そして「なんで俺は坊ちゃまなのに妹は名前呼びなんだよ」と心の中で悪態をついてから魔法を放出して眠り出した。


翌朝。

アルフが目を覚ますと、何やら腹の辺りに違和感を感じた。

布団が重いのかなと思い視線を向けると、膨らみが普段より大きい。


疑問に思いめくると、かわいい寝顔の妹が彼に抱きつき、すやすやと眠っていた。


寂しくなったのかな、と思い特に気にせずに彼女の手を剥がし、ベッドから出て日課の訓練に出かける。


すると彼が部屋に戻ろうとする頃に、大きな泣き声が聞こえて来た。


発生源は彼の部屋だったようで、中に入ると号泣していた彼女が目を見開き、アルフに向かって突進してきた。


「ふえぇぇーーーん!!うぅ…グスッ」


「よしよし…。どうしたんだ、一体?」


とりあえず抱きしめ、頭を撫でてあやす。

なぜ泣いたのか分からず、先程までクリスの側でワタワタ動揺していたリューネを見上げるも、彼女も予想がつかないようで首を振るだけだった。


その後も、クリスは何故かアルフにずっとくっつく。

もう二度と離れないと言わんばかりに。


困惑するも、仕方なしに彼女を抱き上げたままアルフは一日を過ごす。

何か怖いことでもあったのかな、と軽く考えながら。


そしてその考えの甘さが彼をさらなる愚行へと導く。


怖い事を忘れさせてやろう、とその日の夜。

さらに自分の魔力をクリスに流し始めたのだ。


クリスは平気そうで、心なしか喜んでいるみたいだ。

むしろ彼女は一層せがむようにアルフの腕に抱きつき、彼の魔力を自分から受け入れて来たのだ。


それによって魔力の浸透速度が上がり、アルフもついつい予定より多めに魔力を流してしまった。


「よ〜し、もう怖く無いぞー」


「あぅー…」


魔力の受け渡しが終わったクリス。

彼女はまるで満たされたかのように、彼を掴んだまますやすやと眠り出した。


うん、これで大丈夫だろう。


しかし翌日も、クリスは彼から離れなかった。

まだ魔力が足りないのか。さらに流す。


その次の日はもっとくっついて来た。

ぐぬぬ、まだか。さらに流す!


その次の日はもっともっと…

→以下無限ループ


その頃から、毎日決まって夜に、クリスの魔力が増え続けるのをエリザは感知していた。


妹の方は魔力が増えて、兄はその後少しして魔力が消える。

彼女は涙目だったが、「うう、やっぱり変だったのね…」とどこか納得した表情で、次第にその日常へと順応していった。



気付いたときには手遅れだった。


暇を見つけては、彼女のほうから魔力をせがんで来る。

アルフの近く、つまり彼の魔力の近くにいないとそれだけで落ち着かない様子だ。


彼女に餌 (魔力) を与えてはいけなかったのだ。


クリスは、いつの間にかアルフの魔力なしには生きられない体になっていたのである。

いや、実際には生きられるが。


彼は妹の状態を依存症のようなものだと思っている。


このままでは悪化する一方なので、一度魔力をあげない日を作ろうとしたが、涙が枯れるまで暴れ続けた為、兄としては断念せざるを得なかった。

ヤク中かよ。



それからというもの、渡す魔力を減らすように色々な策を講じた。


魔力をあげる代わりに遊んだり、頭を撫でる、お古のぬいぐるみをあげる等…。

余計にクリスは懐いた気がする。


その努力の甲斐があったかはともかくとして、「魔力を流すのは1日1回だけ。クリスの魔力量の2割まで」という今の状態までやっと持って来れたのだ。

2年近くをかけて。


すべて、兄の甘さと愚かさが原因であった。



過去の過ちを嘆くアルフ。

常にくっついて魔力をせがむ妹を見て、彼は思った。


妹、テイムしちゃったよ。





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