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マグナスとエリザの出会い

魔の森のスタンピードは結局、当日の夜に起こった。


公爵家に連なる街、ブルートヴルスト。そのから1つの村を越えた先に、再建したばかりの防衛戦の砦がある。

休みも禄にとらず行軍したが、それでも半日をかけてようやく砦へ到着した。


魔物が砦に辿り着く寸前に、軍は対処する事が出来た。

しかし体勢を整える前に攻めて来られた為、禄に迎撃も出来ずに多くの兵が死んでしまった。


怒り狂ったマグナスが精鋭とともに反撃した事を切欠になんとか勢いを僅かに押し返し、やがて冒険者の援軍が到着した事で、軍を立て直した。


この3年に満たない期間で万全の対策をしていたので、少なくとも前回の氾濫に比べれば十分に対抗出来ている。だがそれも、今のペースが持てばの話だ。


行軍速度を優先した為に、折角用意した備蓄も最低限しか用意出来ていない。補充が心許ない。

後追いで送らせてはいるが、間に合うかは怪しいだろう。


それに、最初に襲ってくる魔物はまだ序の口。

徐々に強い魔物が現れる事で、防衛軍は劣勢を強いられていく。

矢や魔法薬、魔道兵器に罠と消費し、多くの魔物を屠る事が出来た。

だが未だに敵の数に終わりが見えない。



1日経ち、備蓄が切れ始め、戦えなくなった兵が続出した。

その脆くなった隙をついて、魔物は砦を破壊し出した。

魔物の残りの数は既に多くない。ざっと200体程である。

しかしそのうち2割ほどはA級やB級。A級の魔物とは、マグナスが一人で戦っても楽には勝てないレベルである。


5000人いた兵も、今戦えるのは400人ほど。正直言って勝てる見込みがない。

冒険者の被害も多く、疲労困憊である。


また、負けるというのか…。

マグナスが神に祈ったとき、援軍の知らせが入った。



ドルレアン侯爵家。

魔の森とは少し離れているが、その領地はブロンベルク領と隣接している。


マグナスは防衛の対策として、一通りの主要な貴族に援軍の打診を送っていた。

しかし殆どの家は、形だけの了承ととった。氾濫の予兆が数日前に分かったところで援軍が間に合う筈がないのだ。

かといってブロンベルク領に兵を常駐させるなんて無駄な事もしたくない。

そういった面をマグナスも理解していたので、期待はしていなかったのである。


「ドルレアン侯爵家だと…!?本当に来てくれる家があったとは。

どうやってこの期間に間に合ったのか、いや疑問は後だな」


マグナスは兵の指揮を他の騎士に任せ、面会に向かった。

するとその場にいたのは、僅か50人程度。精々が1部隊の人数である。

彼は期待してしまった分殊さらに失望したが、顔には出さずに堪えてくると、代表者が前に出てきた。


そこにはまだ10代半ばのとっていい、うら若い美少女がいた。

透き通るようなブロンドの髪を短く纏め、勝ち気そうな吊目。しかしその瞳はとても澄んでいた。

杖とローブ、それにいくつかの魔道具のみを身に着けている。


「お初にお目にかかります。ドルリアン侯爵家、次女のエリザベート・ドルリアンですわ。この度はブロンベルク公爵様からの援軍の要請に従い参上仕りました」


彼女は優雅に礼をした。

どうやらこの少女が侯爵令嬢であり、後ろの部隊の指揮官であるようだ。

だが、戦えるのか?


マグナスが動揺しながらも戦闘の状況を説明すると、エリザベートは真剣な顔で相槌を打つ。


「分かりましたわ。私の部隊は魔法使いとその護衛のみで構成されています。防衛が崩れている中で、飛距離がある程度確保できる場所に配置して頂きたいと思います」


「あ、ああ…。では最前線から南東の地点になるが…。最も激戦の場所となるが、大丈夫か?」


「ええ、お任せくださいませ」


ニコリと微笑を浮かべ、彼女は直ちに兵に指示を出して戦場に向かった。

その笑顔に一瞬目を奪われたマグナスだったが、顔を振って元の場所へと復帰した。


それからは圧巻ではあった。

エリザに控える魔法兵は巧みな戦術級魔法を放ち、高ランクの魔物を次々と屠っていった。


そしてエリザの魔法。

彼女は他の兵が放った火魔法を巻き込み、巨大な火炎の嵐を生み出して広範囲の魔物を滅却したのだ。

その威力に、Aランクの魔物でさえ何体も撃破された。


余裕が出来たマグナスの軍も集団で1体ずつ魔物を倒して行き、やがてスタンピードは収束したのであった。




この出会いを切欠に、マグナスとエリザの仲は急速に縮まっていく。


なんでも彼女は侯爵家の令嬢でありながらトップクラスの魔法の才があった。その力を役立てる為、魔法学校に通いながらも魔物退治を行い領地の治安維持に努めているようだ。

危険なので侯爵も多めに護衛を着けていたが、それを彼女は勝手に編成し直して自分の部隊へと昇華した、というエピソードがある。


あの時彼女が間に合ったのは、元々エリザ自身にスタンピードの防衛に参加したい、という思いがあったからである。


自分の住む領地ではないとはいえ、前回の氾濫の被害を知り胸を痛めていた彼女。

父が侯爵からの援軍要請に対して愚痴を零していたのを耳にし、定期的にブルートヴルストの街へと遠征していたのだ。


彼女は運がよかった。ちょうど街へ到着したときに人が少なく、慌ただしい事に気づき、氾濫が起きた事を悟ったのだ。

軍や冒険者が1日前に出発した事を知り、彼女達は支援魔法をかけながら高速で砦へと向かった次第である。


マグナスはエリザへの感謝、それに彼女自身の民への思いに感動し、彼女の美貌も相まって心を奪われていった。


エリザのほうも、以前より耳にしていた民を尊ぶマグナスの武勇伝。

それを実際に目にして想像以上の強烈な戦いぶり、噂に違わぬ慈愛を感じ、たった1日で好意を抱いてしまった。


程なくしてお互いの気持ちを知り、自然と婚約へと発展した。

エリザの父ドルレアン侯も彼女の熱愛ぶりに呆れ、快く送り出した。


問題は既に妻となっているマリアナである。

彼女もいい顔はしない、反対したかったのだが、元々公爵に妻が一人というのはあまりよろしくない。

世継ぎの関係で貴族は複数の妻を持つ事が推奨されているし、公爵であればなおさらである。今も見合い話が数え切れない程舞い込むのだ。


エリザベートに不満があれば反対もできたが、彼女はキツい顔に反して人当たりがよく、誰に対しても優しい。

行動力もある為、すぐに公爵家の人間から受け入れられた。


マリアナに対しても仲良くなろうとこれでもかと距離を詰めてきた。

生まれてきたフリードに対しても、ものすごく可愛がってくれている。


渋々マリアナも認め、エリザは学校の卒業と同時にマグナスと結婚した。



あの後、ギルドからの書状と共に姿を消した使用人は、大掛かりな捜索をしたにも関わらず見つからなかった。


原因も目的も分からず仕舞だが、マグナスはこれを教訓にして二度とこんな事が起きないように確実な連絡体制を整えた。


その使用人は、ギュンター伯爵から送られた事務官が雇った人間であった。

裏社会に生きる人間である。


伯爵はマグナスにお金を貸したが、スタンピードの防衛を成功してもらうつもりはなかった。


砦の建築、武器商人。

防衛費用が大掛かりに成る程、実は伯爵と繋がりのある商会が儲かるようになっているのだ。

とうぜん、伯爵にもかなりの利益になる。


全滅しない程度に足を引っ張る事で、次の防衛費も大金がかかるように調節したかった。


そこでマグナスの家に伯爵の息のかかった人間を送り込み、秘密裏に裏社会の人間を雇わせる。後はどうとでもなる。

今回はたまたま、書状を無くすという方法が手っ取り早かっただけだ。


しかし少しだけ誤算があった。

援軍としてエリザベートが来てしまった事だ。


おかげで次の防衛費は前回ほどにはならないだろう。

最も砦の修繕もあるので黒字ではあるが。

今回死んだ兵への慰謝料は大きい。また金を借りに来るかも知れない。


それ以上に問題なのが公爵家への影響力は減った事だ。

元々公爵夫人としてマリアナの意見に賛同するつまりモンベリアル派の人間が一定数存在する。

借金の際に伯爵が人を送り込んだ事でさらに勢いは増していた。


だが格上の侯爵令嬢エリザベートが嫁いだ事によってマリアナ派の人間の割合が減り、公爵家での影響が減衰した。

特に本館の屋敷内ではほとんどの人間がエリザを慕っている。


ギュンター伯爵は忸怩たる思いを抱えながら、エリザベートに対して悪態を覚えていた。





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