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第1章 始まりの終わり 1 神

第1章は「第46部分 第1章 霧が晴れたら見えるもの 8 天」で一旦終わっていましたが、第2章を書きはじめる前に少し全体を修正しつつ読み直していたところ、かなり尻切れトンボ感があったため、「第1章 始まりの終わり 1 神」と「第1章 始まりの終わり 2 神 (第1章 終)」を追加で書きました。


それに伴い、構成も変えるために現在投稿されている「間章 神々の転移 神」は「前章 神」として第一部分に移動しました。


よろしくお願いします。



「第1章 始まりの終わり 2 神 (第1章 終)」は今日の夜~明日午前中に推敲してから投稿します。

 かくして、人昇精霊(エフォーディア)セシリーの争奪大会はウルフギャング・コロの優勝で幕を閉じた。


 赤竜の出現により公爵家領・商業都市『水馬(ケルピー)』は多少の混乱はしていたものの、人々が恐慌状態に陥るまでは至っていなかった。


 街の人々は都市外縁部に衛兵たちの誘導で避難しており、円形闘技場のある中央部の商業地区に一般人の姿はすでにない。


 大会のために通常時より大きく増えた人々の避難をこれほどの短時間で済ませられたのは、この街が人間の動きを計算し計画的に建設された商業都市であったためだろう。

 そして、衛兵も市民を護るためによく訓練されていた。


 商業都市は市民が暮らしやすいことが一番であり、動きやすい場所でないと意味がない。


 そう公言する公爵の主義が都市設計と教育に広く反映されていた結果だろう。


 円形闘技場の周囲には()()()の事態を考えて取り囲むように騎士団が控えていた。


 しかし、騎士団の者たちの顔に不安の色はない。

 人昇精霊(エフォーディア)が事態を治める宣言をしたことはすでに通達されている。

 その言葉を疑う者はこの世界にいない。


 「セシリーちゃんとコロちゃんは遅いわねー」


 公爵夫人は呑気な口調でそう呟いた。

 その目は円形闘技場の関係者出入り口に向いている。

 

 公爵夫人は関係者出入り口の前に天幕を張るように指示すると、その下にテーブルを持ってこさせて呑気にお茶を飲んでいた。


 身体にぴったりと合った黄金に輝く全身鎧を着こみ、真っ白な毛皮のマントつけ、背後に彼女の愛剣である巨大な両手剣(グレートソード)を捧げ持つ見習い騎士を控えさせた伝説の戦乙女(バルキリー)さながらの格好をしているが、その雰囲気はティータイムを楽しむ気だるげな貴婦人そのものだった。

 

 円形闘技場からはすでに何の音も聞こえていない。


 赤竜の叫び声や、大きなものが暴れ回る激しい音が聞こえたのはわずかな時間だけだった。 

 その音が収まってから1時間は過ぎようとしているが、人昇精霊エフォーディアセシリーとウルフギャング・コロはまだ円形闘技場から出てこなかった。


 騎士団長のアランは確認に人を送り込もうとしたが、それも結界で阻まれてしまう。

 斥候能力に長けたものや魔法師、魔道具までをも使って侵入させようようともしたが、人昇精霊(エフォーディア)の結界にはまったく手出しができず、アランは公爵夫人のようにゆっくり待つのが正解だと思い知らされただけだった。


 「これは……戦いで燃え上がっちゃって()()()()()()()わね」


 「おまえなー」


 サイラスがテーブルに突っ伏す。


 サイラスは相変わらずのだらしない平民服で、帯剣すらしていなかった。


 テーブルについているのは公爵夫人とサイラスの2人。

 その背後に騎士団長のアランが立ち、天幕の周囲を多数の騎士団員たちが固めていた。


 公爵は避難誘導などの総指揮をとるため、非戦闘員である執事やメイドたちと公爵邸に戻りこの場にはいない。

 騎士団の指揮は公爵夫人に任され、偶然ながらその場にいたサイラスもそれにくっ付いてきた形になっていた。


 通常であれば最前線ともいえる場に公爵夫人と、元騎士団長とはいえ現在は平民のサイラスがいることなどありえないが、特殊すぎる2人の立場がそれを許していた。


 「もうちょっと、緊張感を持てよ。ドラゴンが出たんだぞ?街の脅威だぞ?お前の大事な娘が立ち向かって行って、まだ帰ってきてないんだぞ?心配しろよ?心配だよな?

 よりにもよって『ヤッちゃってる』ってなんだよ?あいつらだって時と場所くらいわきまえるだろ。

 そりゃ、戦いの後に血がたぎって戦場でそういう感情になったことが無いとは言わないけどよ。つうかお前に押し倒されたこともあ……」


 途中まで言いかけて、サイラスは今の状況を思い出して言葉を止める。

 失言に気が付いたのだろう。

 突っ伏していた顔を上げ、周囲に立つ騎士団員たちを軽く見回すとニヤリと笑った。


 それだけで、目すら合わせていない騎士団員たちの背中に冷たい物が走り、今の発言は聞かなかったことにしようと決心させた。

 少しでも他人に今のことを話せば殺される。サイラスの笑みと発した気配は、そう思わせるのに十分すぎた。


 「心配する必要あるかしら?

 赤竜ってラングレーくんと一緒に3人で倒した青竜と同じくらいの強さなんでしょ?

 セシリーちゃんとコロちゃんなら大丈夫よ。

 実際、もう何の音も聞こえてこないもの。

 とっくにドラゴンは討伐されて、2人でいちゃいちゃしてると思った方が正解じゃないかしら?

 それにね、精霊の加護があれば最悪でも死ぬことはないと思うから、ドラゴンが討伐されてなくても私とサイラスと騎士団で処理すれば問題ないでしょ」


 「こいつらじゃ、ラングレーの代わりにならないぞ。

 ちょっと殺気を撒いただけでビビりやがってよ。騎士団も質が下がったな。こんな連中じゃ、ドラゴンを討伐し終えるまでに大半は死ぬぞ。

 どんな腑抜けた訓練してやがんだよ」


 悠長に会話をする2人の後ろで、騎士団長のアランは大汗をかいていた。

 2人の会話に不穏な単語が混ざり、その矛先が間違いなく自分たち騎士団に向いてきているからだった。


 公爵夫人とサイラスを基準にすると、確かに騎士団では力が足りないのかもしれない。

 しかしそれはこの国の1位と2位の剣士であり、竜殺し(ドラゴンバスター)の称号すら持っている二人を基準としているからだ。


 公爵家の騎士団は王都の王国騎士団に匹敵する精鋭ぞろいであり、この国のあこがれの存在だった。

 比較するものが悪いだけで、決して訓練不足でも実力不足でもない。


 確かにサイラスが騎士団長をしていた時代は伝説と言っていいほどの強さを誇っていたが、あれはただ恐怖による支配によって死に物狂いになっていただけで、鍛錬の成果ではなかった。

 目の前の敵を死に物狂いで倒すか、敵に負けた後に騎士団長によって死も許されない地獄を見せられるかを選択させられた場合、前者の方が少しだけマシだったというだけだった。


 「コロちゃんが独り立ちしたんだから、サイラスはうちの騎士団に戻ってくるつもりかしら?」


 現騎士団長(アラン)は公爵夫人の質問にビクリと身体を震わせる。

 そしてそんな反応をしてしまったことに後悔する。絶対にサイラスに気が付かれた。

 そう思い冷や汗が止まらない。


 アランはサイラスが騎士団に戻ってくることに恐怖していたが、それをサイラスに悟られるのはさらなる地獄へ落ちることでしかない。


 サイラスはアランの方を振り向き、ニヤリと笑う。

 公爵夫人は冷や汗を流して固まっている現騎士団長(アラン)と楽しそうに獣じみた笑みを浮かべるサイラスを眺めつつ、優雅にお茶を飲み干す。


 「そのつもりはねーよ」


 サイラスの言葉にアランはゆっくりと息を吐いた。

 公爵夫人はその言葉を予測していたのか、メイド代わりに控えていた見習い騎士にお茶のお代わりを優雅に指示しただけで反応は示さなかった。


 「じゃあ、私から依頼したいことがあるのだけど、いいかしら?」


 「あいつらの旅に同行しろってんだろ?」


 「察しが良いのね。サイラスの癖に」


 「うっせ。オレも考えてたからな。

 とりあえず、王国騎士団から指南役にならないかと誘いを受けてるから、王都までは一緒に行動してやるわ。

 そこから先はその時の状況次第だな。

 でも王都にはウインディのやつがいるからあまり定住はしたくないんだよな。

 この街は良い街なんだが、いい加減おまえの下から逃げ出したいしな、かといってウインディがいる王都に住むのも抵抗あるんだよな。あの変態メス猫に付き合ってるとおまえと一緒にいるのと同じくらい頭がおかしくなってくるからな。

 それならあいつらにくっ付いて旅してた方が気楽で面白いんじゃないかと思い始めてる。

 そもそもオレが冒険者にあこがれたの覚えてるだろ?

 おまえのせいでなりたくもない騎士になんかになっちまって、そこから抜け出せなくなっっちまったからな。

 人昇精霊(エフォーディア)に同行して護衛と監視をするという理由なら、お偉いさんたちも納得してくれるんだろ?」


 「そうね」


 サイラスは公爵家の騎士団を退団し、公的には市井に下って平民になったということになっているが、王国の上層部ではそういう認識はされていない。


 公爵夫人の依頼により、有望な少年を育てるために長い休暇を取っている。そういった認識をされていた。

 そのため、公爵領に住み続ける限りは公爵家の家臣と同等の扱いとして王家や他の貴族たちからの勧誘は控えられていたが、その依頼が終わろうとしている現在は激しい勧誘合戦が繰り広げられていた。

 運が良ければ王国有数の戦力を囲い込めるのだ。必死になるのは当然だろう。


 しかし人昇精霊(エフォーディア)に同行することになれば、再び自由な平民生活が約束される。

 しかも旅生活すら許される自由だ。

 その機会をサイラスが逃がすはずはなかった。


 「出てきました!!!」


 誰の声だったのだろうか、包囲している騎士団の一角から声が上がった。


 その声に促されるように円形闘技場の関係者出入り口を見ると、ウルフギャング・コロと人昇精霊(エフォーディア)セシリーの姿があった。


 2人は無傷だった。

 治癒、修復された後なのか、防具や衣服にも汚れすらない。


 ウルフギャング・コロが先を歩き、その数メートル後ろを人昇精霊(エフォーディア)セシリーが追従して歩いていた。

 2人ともに腹の前で両掌を重ね、なにやら背中を丸めてコソコソと歩いている。


 茹であがったように顔が赤く、耳まで真っ赤に染めており、ウルフギャング・コロはいつもの不機嫌そうな表情ながら、そのシッポは足の間に潜り込みそうなほど不安げに丸まっていた。


 「コロちゃん!」


 公爵夫人が飛びつかんばかりに駆け寄ると、ウルフギャング・コロは駆け出して逃げようとしたが、あっさりと公爵夫人に捕獲され抱き上げられてしまった。

 人昇精霊(エフォーディア)の加護によってその身体能力は格段に上がっているにも関わらず、公爵夫人にはまったく通じなかったようだ。


 なおも足を大きく動かし公爵夫人の腕から逃げ出そうとするものの、それさえも通じない。

 両手を使って逃げ出そうとすればもう少しは抵抗ができるのだろうが、ウルフギャング・コロの両手は出入り口から出てきたときと同じく不自然に重ねられたままだった。


 「……おまえ、何隠してるんだ?」


 「……!」


 明らかに不審な、重ねられた掌を見てサイラスがその手を掴み、重ねられた掌を解こうとするが、尋常ではない力でそれは阻止される。


 人昇精霊(エフォーディア)の加護によって身体能力が強化されている結果なのだが、それを知らず、今まで力負けなどしたことが無いサイラスは意地になってしまい、さらに本気で力を込める。

 

 「見せやがれ!師匠命令だ!!」


 「コロちゃーん。何を隠してるのかしら?この熊には見せなくていいから、私に見せてね」


 「嫌です!!」


 ウルフギャング・コロの赤くなっていた顔色は一気に血の気が引き、今では青くなってしまっている。

 珍しく必死な表情で歯を食いしばり、目には涙まで浮かんでいた。


 いきなり繰り広げられる訳の分からない状況に、周囲を取り囲んでいた騎士たちは呆然と見ていた。

 

 じゃれ合いにしか見えないながらも人類上位の力を持つ聖騎士2人と人昇精霊(エフォーディア)のパートナーの争いである。

 騎士と言えど常人が巻き込まれれば大ケガすることは間違いない。

 

 ただただ、見守るしかできなかった。


 「あの……精霊様」


 「ひゃぃ!」


 あちらが手出しできない状況になってしまったため、騎士団長(アラン)は騎士たちと同じく呆然と事態を見守っていた人昇精霊(エフォーディア)セシリーに声をかけた。


 こちらも明らかに様子がおかしい。


 真っ赤な顔で、アランが声をかけても目を合わせようとしない。

 ウルフギャング・コロと同じく、両の掌を重ねあわせ、必死に手元を隠そうとしていた。


 堂々としたいつもの、公爵令嬢にして人昇精霊(エフォーディア)たる態度とは大きく違っていた。

 背中を丸めてモジモジと恥ずかしげにしており、成人したばかりの可愛らしい少女と言って良い態度だった。


 「その、ドラゴンは退治されたのでしょうか?」


 騎士団はドラゴンの脅威に対応するために集められていた。

 2人の様子から非常事態が継続しているとは思えなかったが、確認せずに済ますわけにはいかなかった。


 「……はい。討伐されました。

 もう危険はありません……」


 「おお!さすがはせいれ」


 「ゆびわ!!!!!」


 騎士団長(アラン)が言いかけた言葉は、公爵夫人の叫びによって掻き消された。

 その場にいる全ての人間の目が、その声の方に向く。


 サイラスによって掲げられたウルフギャング・コロの左手の薬指に、シンプルな金色の指輪が光っているのをその場にいる全員が確認した。


 それと同時に、人昇精霊(エフォーディア)セシリーは崩れるようにその場で膝を折り、地面に突っ伏した。

 恥ずかしさが限界を超えたらしい。


 「指輪よ!指輪!!」


 「こりゃ、結婚指輪じゃねぇか!!おまえら、オレたちが心配して待ってる間に何やってたんだよ!って、()()やってたのか!最低だな!

 コロ!オレはおまえがそんな度胸のある……じゃねぇや、不謹慎なやつだとは思わなかったぞ!それで初体験(はじめて)はどうだったよ?4年間オアズケくらった後だから最高だったろ!?それにしても、だったらよ?早過ぎねぇか?タマってたから早撃ちになったのか!?バカだな、早撃ちになっちまったら回数で勝負するんだよ!若いんだから余裕だろうが!」


 「これでコロちゃんも私の息子ね!一緒にお風呂入りましょ!一緒に寝ましょう!

 あと息子なら許されることって何があるかしら?オッパイ飲ますのはダメよね?もう出ないものね」


 嬉々とした爆笑混じりのサイラスの下品な叫びにも、成人した息子との行動を大きく勘違いしている公爵夫人の言葉にも誰もツッコミを入れることはできない。


 周囲を取り囲む騎士団員たちは呆然と見守ることを継続するしかなかった。


 公爵夫人の腕の中では、抱きしめられたウルフギャング・コロがぐったりとしていた。

 踊るように楽しげに動きまわる公爵夫人の動きに合わせて、力を無くした四肢とシッポがプラプラと揺れている。

 完全に魂が抜けたような表情で、その目は開かれているもののどこにも焦点が合っていなかった。


 「やってません!」


 人昇精霊(エフォーディア)セシリーが地面に突っ伏したままで突然叫んだ。

 その声で、サイラスと公爵夫人の動きも止まる。


 「そこまではやってません!キスしただけです!!!」


 人昇精霊(エフォーディア)セシリーの絶叫だけがむなしく響いた。

読んでいただきありがとうございます。


第47部分までも少し変更しました。

基本的な話はまったく変わっていません。


よろしくお願いします。

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