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第1章 霧が晴れたら見えるもの 3 地

 決勝が始まった。


 睨みあいはしない。したところでオレにとって利益は何もないだろう。


 いつも通りオレは開始の合図と同時に動き出す。

 狙いは足首だ。牽制には妥当だろう。

 咄嗟に短剣(ショートソード)で受けることができる位置ではなく、斬りつけたナタをあの神代の短剣(ショートソード)で破壊される可能性も少ないだろう。


 足首を斬りつけようとしたオレのナタは、予想通りに長剣(ロングソード)に軽く受け流させる。


 アマデウスは片手で剣を握っていたためそれほど力が入らず、完全な受け流しはできなかったようだが、わずかに届いた刃も鎧の脛当てに弾かれてわずかに傷をつけた程度だった。

 そのままの勢いで軸足を蹴り飛ばしてみようとしたが、それは跳びあがられてあっさりと避けられた。


 「やるな!」


 アマデウスが叫ぶ。

 こいつ、戦いの最中に話しかけるのか。芝居がかってると思ってたけど予想以上だな。

 一度距離を取って仕切り直す。


 アマデウスが斬りかかってくるが、それをオレは長剣(ロングソード)の間合いに限定して受け続ける。間合いを詰められたら短剣(ショートソード)が飛んでくるからな。


 極力、短剣(ショートソード)が届かないギリギリの間合いにしておく必要がある。

 幸い、アマデウスは二刀流に慣れていないのか、動きは思ったより遅い。


 オレに対しての対策で二刀流にしたんだろうが、それで慣れないことをするのは得策じゃないよな。それほどヤツは焦っているのか?それともこの期に及んで見下していたのか?


 どっちもだろうな。


 焦って、二刀流にすれば熟練していなくても問題ないと判断してしまったんだろう。

 自分の剣の型を信じられないやつは、師匠にぶん殴られるぞ。


 「くっ!とどけ!」


 間合いが詰め切れず、アマデウスが叫ぶ。


 しかし、間合いが詰められないということはオレも相手を倒せないということだ。

 重心が崩れてくれないかと思い左右に攻撃を振り分けて揺さぶってみたが、流石と言うかそんな安易には崩れてくれそうになかった。


 「クソ!」


 焦って叫んでいるのはアマデウスだが、攻めあぐねているのはオレの方だ。ただ、体力的にはオレの方がありそうだ。

 少なくとも、全身鎧(フルプレートメイル)のように装備してるだけで体力を削りそうなものを付けて戦っているだけ、アマデウスの方が体力的には不利だ。


 持久戦ではオレの方が有利だろう。


 オレは完全に持久戦を覚悟する。

 4年に比べたらほんのわずかな時間だ。それくらい、ちゃんと集中力を持たせてみせる。


 時間が経つにつれ、アマデウスの攻撃が雑になってきた。

 オレが長剣(ロングソード)は届くが短剣(ショートソード)は届かない間合いを保っているのに、無理やり短剣(ショートソード)を捻じ込もうとしてくる。


 アマデウスは短剣(ショートソード)が届きさえすれば、オレを倒せると考えているんだろう。なんでも切り裂く短剣(ショートソード)に頼りすぎている。


 アマデウスが飛び掛かるように間合いを詰めてくるが、オレはそれを避け、間合いを広げる。そんなやり取りの繰り返しになりつつあった。

 飛び掛かってきたときにカウンターで追撃することもできるが、オレはそれをしない。


 短剣(ショートソード)の間合いに入る不利益に比べたら、無理して追撃して得られるものなんてないに等しい。


 「クソっ、時間が!」


 アマデウスの攻撃が雑になってきたしばらくして、そんなことを言いだした。


 『時間』?何の時間だ?


 これが『魔力』ならわかる。あの短剣(ショートソード)は魔道具だろう。

 そうでなければあの切れ味はありえない。オレでは短剣(ショートソード)に魔力なんて全く感じられないが、それは間違いないだろう。


 魔道具を使うならもちろん『魔力』を使うわけで、魔力切れの心配をしているなら理解できる。


 しかし、『時間』?


 時間制限?そんな魔道具あるのか?ありそうだな。


 もし時間制限があるのなら、それはオレにとって有利だ。

 ますます長期戦の構えを崩すわけにいかないな。


 そうか、いつも最初から短剣(ショートソード)を出さずに長剣(ロングソード)で戦っていたのは、時間制限があるからか。

 それなら理解できる。


 どれくらい時間が過ぎたのだろう?


 キラキラと輝くようだったアマデウスの顔が歪み、舌打ちの音がやけに鮮明に聞こえた。

 まだ体力はありそうに見える。つまり、時間切れだろう。


 アマデウスは後ろに跳び、オレと十分な間合いを取ろうとするが、オレはそれを追撃する。しかし、間合いは今までと同じ。


 どういった条件かはわからないが、時間切れで短剣(ショートソード)のあの切れ味が鈍るのなら、アマデウスの邪魔をする値打ちがある。

 アマデウスは一度短剣(ショートソード)を鞘に戻そうとしていたが、オレが追撃をしたことで鞘に戻せずに終わった。


 切れ味を維持する条件は『鞘に戻すこと』かな?鞘から抜いてからしばらくだけあの切れ味が維持されるのだろう。


 今はもう、あの赤い柄の短剣(ショートソード)は普通の短剣(ショートソード)と変わらない切れ味になっているのだろうか?知りたい。しかし、試すわけにいかない。


 なおもアマデウスは距離を取ろうとする。

 アマデウスは焦っている。騙されてくれるか?いけるか?


 オレはあえて、追撃を1拍ほど遅らせた。


 その1拍を好機と見たか、アマデウスは鞘に短剣(ショートソード)を戻そうとした。オレはその瞬間を狙う。

 可能な限りの早さで。


 アマデウスの長剣(ロングソード)をナタで払って潜り抜け、さらにナタを振るう。

 アマデウスの鎧の弱いところを狙うことも考えたが、体制が不完全で銀色の鎧を割るまではできないだろう。


 狙いは短剣(ショートソード)


 短剣(ショートソード)の切れ味がどうなっているか分からないため、その刃にナタを当てることはしない。柄を狙い、弾き飛ばす。


 いけた。


 オレの狙い通り短剣(ショートソード)がナタに弾かれ宙を舞う。


 さらにオマケでアマデウスの籠手が裂け、指が数本吹っ飛んだ。そしてオマケはまだあった。

 短剣(ショートソード)の切っ先が鞘に収まりかけていたのか、短剣(ショートソード)が弾き飛ばされた勢いでその鞘すら吹っ飛んでいた。


 短剣(ショートソード)はあらぬ方向に飛んで行ったが、鞘は間合いを空け直すために後ろに跳んだオレの頭上に飛んでくる。

 短剣(ショートソード)の方を処理したかったが、飛んできたものを放置しておく理由もない。

 

 オレはナタを軽く振るい、飛んできた鞘を頭上で叩き割った。


 カンと、軽い音がして鞘は真っ二つに割れる。


 魔獣の角か骨だろうか?神代のもので劣化していたのか思ったよりもあっさりと割れた。


 割れた鞘は、オレの背後に転がった。


 オレの予測通りなら、これで短剣(ショートソード)はあの切れ味を維持できなくなっただろう。

 もし切れ味の秘密が鞘にあるという予測が間違っていたとしても、短剣(ショートソード)自体を取りに行かせなければ怖くはない。


 長剣(ロングソード)は残っているが、アマデウスの指は数本吹っ飛ばせた。

 後はオレが攻めるだけだ。


 オレは大きく息を吸って、呼吸を整え直す。

 間合いは十分にとっている。息を整えるくらいの間はいきなり斬りつけられることはないだろう。

 アマデウスは指を失った痛みを無言で耐えていた。


 「……ば……」


 アマデウスの口から呻きの様な声が漏れた。


 「……馬鹿者っ!!そ……それが何か分かっているのか!」


 その叫びに観客席の歓声すら止んだ。


 『それが何か』と言われても、武器だろ?


 神代の短剣(ショートソード)だと言っても、武器として使っていればいずれは破損することもある。


 それが嫌なら箱に入れて大切にしまっておけよ。

 見た目からして剣士らしくないと思ってはいたが、まるで収集家の様な発言だな。


 「それは……赤竜の……」


 そう叫ぶアマデウスを見ていると視界が赤く濁る。

 いや、ちがう。オレがその原因に思い当たり背後をちらりと見ると、鞘が赤い煙を上げていた。

 鞘の方が魔道具だったのか?破損して誤動作してる?

 隙を見せているわけにいかないので、すぐにアマデウスの方を向く。


 アマデウスの顔が醜く歪んでいた。

 何かに怯えてる?

 バケモノでも見たような顔だ。

 まさか、あの煙は毒煙か?


 「あ……」


 その視線はオレの背後だ。


 「うわ……」


 アマデウスが長剣(ロングソード)を放り出す。


 「うわぁああああっ!!」


 悲鳴を上げて、アマデウスが後ろを向いて走り出す。

 何かから必死に逃げるように、時々足をもつれさせながらも全力で走り去っていく。

 そして、円形闘技場から出て行ってしまった。


 観客も審判も……全ての人が声1つもらさず呆然とその姿を見送った。


 は?


 今のオレは間の抜けた顔をしていると思う。


 なんだこれ?どうして、逃げ出す必要がある?

 意味が分からない。


 「勝者!ウルフギャング・コロ!」


 オレの勝利が告げられた。しかし、それを告げたのは審判ではなく貴賓席の公爵様だった。

 オレが貴賓席を見ると、セシリーが飛び降りてくるところだった。


 何が起こってるんだ?


 「皆の者、逃げろ!退避だ!」


 公爵様の声が響いた。


 え?

 逃げる?


 その声とほぼ同時に、観客席で悲鳴が上がる。

 あの鞘はそんなに危ないものなのか?

 オレは背後に振り向く。


 そこに、竜がいた。

読んでいただきありがとうございます。

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