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第1章 霧が晴れたら見えるもの 2 地

 オレは控室でベッドの縁に座り、ブランカを撫でていた。


 もう防具は身に付け、ナタとナイフも腰に下げている。


 もうすぐ、決勝が始まる。


 ブランカはオレの膝の上で丸まり、眠っている。

 オレのシッポを引き寄せて前足で握りしめて頭の下に敷いていた。どんな夢を見ているのか、時々オレのシッポを舐めている。


 ここまで来れるなんて思っていなかった。

 アイツが『祝福の病』に侵されたと知った時、オレがアイツに言った一言。


 オレがお前のパートナーになってやる。だから、オレの誕生日まで頑張ってくれ。


 ガキだったんだろうと思う。


 その時のオレは10歳だった。

 誕生日にはまだ数か月あった。


 人昇精霊(エフォーディア)になるために神々の世界で学べる最長期間は4年。

 そして、パートナーになれる権利は15歳にならないと発生しない。


 その時点のオレではアイツが帰ってきたときにパートナーになれる可能性は皆無だった。


 だから、オレが11歳になるまで、4年経てばパートナーになれる権利が発生する誕生日まで神々の世界に旅立つのを待ってくれと言ったのだ。


 そしてアイツは死に至る病の『祝福の病』をオレの11歳の誕生日まで耐えて、そして神々の世界に旅立っていった。


 アイツは約束を守ってくれた。

 押し寄せる死の苦痛に耐えて、オレを信じてくれた。

 そして、きっちり4年経ったオレの15歳の誕生日に人昇精霊(エフォーディア)になって帰ってきた。


 だから、オレも約束を守らないといけない。


 あと一勝。


 だから、勝たないと。


 弟子をとらない師匠が鍛えてくれた4年間。

 師匠がどうしてオレを弟子にしてくれたのか、今でもよくわからない。でも、あの地獄のようで、しかし充実した日々は事実だ。


 師匠に応えるためにも勝たないといけない。

 母さんだって、店をほとんど手伝えなくなったのに文句ひとつ言わずに応援してくれた。


 オレはテーブルの上の箱に目を向ける。


 カツサンド……。


 もちろん、母さんが作ってくれたものだ。

 悩んだ末、試合後に食べることにしたものだ。

 アイツと、食べよう。


 「ウルフギャング様。お時間です」


 軽く扉が叩かれ、声をかけられる。

 この大会中、何度も繰り返された呼び出しだ。


 オレは眠っているブランカをそっとベッドの上に移動させたが、ブランカは目を覚ました。


 キュウ。


 オレを見上げ、ひと声鳴く。

 『行ってらっしゃい』と言ってるとしか思えない。経験上、自分がここで待たないといけないことは分かっているらしい。


 「行ってくる」


 オレはそれだけ言うと、控室を出た。


 扉を開けて外に出ると案内の者が待っていた。

 それについて歩き、オレは円形闘技場の中へと入る。

 観客席の歓声が降り注いでくる。


 青空。


 今日も良い天気だ。


 そう言えば、この大会の期間は一度も雨が降らなかったな。雨が降ってもアイツの張った結界で問題はないらしいが、天気についても何か魔法で操作されているのかもしれない。

 天気を操作する大魔法があると聞いたことがある。


 円形闘技場の反対側の出入り口から、対戦相手が入ってくる。


 アマデウス……元ミリアム国の騎士らしい。赤竜騎士と呼ばれているそうだ。


 その名前の由来は分かっていない。召喚や従魔というわけではないらしい。

 アマデウスは魔法は使わない。

 まあ、例によって隠していた場合は別だが、この期に及んで隠し切れているとは思えない。そんな生易しい大会ではなかった。


 注意すべきは赤い柄の短剣(ショートソード)

 神代の物らしく、なんでも簡単に切り裂き防御不可能と言われていた。


 オレの前に立つアマデウスは鞘から剣を抜き両手に握った。

 長剣(ロングソード)短剣(ショートソード)の二刀流。


 今までは試合開始時は長剣(ロングソード)で補助的に短剣(ショートソード)を使っていたみたいだが、オレの戦い方への対策なのだろう。

 まあ、そうなるだろうな。


 オレの戦い方は極端に速度重視だ。そして、防御が薄い。


 同じく速度で対抗する手段として二刀流を選んだのだろう。そして、剣を片手で振るだけでもオレに致命傷を与えられる自信があるに違いない。


 オレには盾の魔法(シールド)もあるが、あの短剣(ショートソード)ならオレの盾の魔法(シールド)も簡単に斬り飛ばせるだろう。下手に盾を持つより二刀流で、短剣(ショートソード)で攻める方が有効だ。


 オレはいつも通りナタを両手で握る。


 オレの力と体重では片手ではアマデウスの銀色の鎧を切り裂くことはできない。両手で握っても、致命傷には至らないだろう。狙うのは兜を被っていないむき出しの頭部。

 そこしかない。


 開始の合図が告げられるまでの間、オレはアマデウスを観察して何通りかの攻め方を考える。しかし、どれも通りそうもないな。

 しかし、やるしかない。


 「私が勝つ!!」


 アマデウスが観客に宣言するように吠えた。


 芝居がかったやつだな。

 その声によってさらに湧きあがった歓声に、オレはさらに自分の感情が冷めていくのを感じた。

 焦りはない。

 今までの試合で一番冷静になれていると思う。


 そして、試合の開始が告げられた。

読んでいただきありがとうございます。


時間が無くて短いものばかりになってしまってます。すいません。

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