第1章 霧が晴れたら見えるもの 1 天
決勝の前の式典が始まる。
式典と言っているけど、結局は娯楽のためのものだから。
今日の午後に決勝が行われるため、最後の賭けの前に再度顔見せをして民衆の賭けへの意欲を盛り上げようと計画されたものだった。
つまり、儲けを増やすための式典ね。
神殿の依頼で行われているため、式典のための衣装……マントだけらしいけど……も神殿の予算で準備されていた。
今回は私も円形闘技場の中心に設えられた壇上に上がる。
決勝の前に2人の戦士を激励する予定だった。
できるだけ派手にという依頼だったけど、威厳も示して欲しいと言われたのであまり変なことはできないよね。
それに今の私は結界の魔法と治癒の魔法以外はたいしたことができない。その範囲となると派手にできることはあまりないんだよね。
コロが円形闘技場に入ってきた。
観客たちが一斉に拍手と歓声を上げる。
中には『緊張すんなよー』とかの声も混ざっているけど、批判的な雰囲気はまったくない。
ここまで勝ち残ってきたコロの強さを皆讃えている。
コロはいつもの防具に光沢織のマントを着けていた。
腰くらいまでの短めのマントで色はは濃緑、シッポが丸見えになっている。
シッポはまた、緊張で股の間に挟まりそうなほど萎縮して丸まっていた。
ホント、こういう場が苦手だよね。
戦いになれば周りなんて見えなくなるくせに、顔を出すだけの場だと緊張で動きさえぎこちなくなっちゃうんだから。
試合に比べたら全然楽なことだと思うんだけど、コロの中では何かが違うんだろう。
そしてもう1人。
自称・赤竜騎士のアマデウス。
お母様の予想ではここまで残るとは思われていなかった。
兜も被らない舐めきった姿勢で、すぐに消えると思ってたけど、対戦相手に恵まれたこともあって勝ち残っていた。
特に、あの赤い柄の短剣の効果が凄かった。
神代の剣らしくて、相手と打ち合うと相手の剣を折ってしまっていた。
武器の検査を通ってるんだからアマデウス自身の魔力を使う魔道具だろうけど、いったいどういう作りになってるんだろう?
アマデウスもそれほど魔力があるようには見えないし、余程効率が良い魔法式が組んであるに違いない。
機会があったら、調べてみたいな。
自称・赤竜騎士は相変わらずの胡散臭いキラキラで、片手を上げて歓声にこたえていた。コロとは対極にいるような人だね。
本当に舞台役者にでもなれば良かったのに。
こちらは真っ白な毛皮のマント。
フワフワと動く度に揺れている。暑くないのかな?
金の装飾のある銀色の甲冑との相乗効果で、異常なほど派手な見た目になっていた。
目に痛い。
2人は壇上に上がると観客に向かって一礼した。
さて、私の出番。
私は貴賓席から飛び降りる。
大会中に何度か治癒のために貴賓席から飛び降りたけど、それのウケが観客にやたら良くて今回も貴賓席から飛んで壇上に移動することになった。
いかにも精霊様と言う印象があっていいらしいんだよね。
私は浮遊で円形闘技場の上空に行くと、結界の魔法を中途半端に発動し、光を反射する結界の破片を舞わせる。
雪のように、できるだけ小さく。
実は普通に結界を作るより遥かに魔力を使うんだけどね。しかもただキラキラと光を反射するだけでまったく無意味だし。
キラキラと光を反射して舞う結界の破片。
それは私が見ても美しかった。
それらが舞う動きに合わせて、私は壇上の二人の前に降り立つ。
コロが珍しく、顔を赤くして私を真っ直ぐに見てくれている。
その顔を見れただけでも、やった甲斐があるよね。もう少し、過剰演出でも良かったかな?
「お2人に祝福を与えます。最後まで全力を出し切って戦ってください」
こういう時の言葉は短い方が良いとお母様に言われたので、本当に短く済ます。
その方が威厳があるように見えるんだとか。さすが、長年王女をやって現役の公爵夫人をやってるだけあるよね。
威厳とか威圧とかハッタリとかはお母様を見習うとだいたい上手くいくよね。
それだけ言うと私はまた浮遊で浮かび上がり、隠匿で姿を消す。観客には私が突然消えたように見えたと思う。
ちょっとした演出をしてみた。
さて、私の役目はこれだけ。
私は貴賓席に戻って魔法をすべて解除する。
「お疲れ様でした」
騎士団長が声をかけてくる。アラン、そういうのはメイドや執事の役目だから。
アランの鎧からは蛇の妖精が顔を出していた。
鎧の中に潜り込んでいるからよくわからないけど、また大きくなってる気がする。順調に成長してるよね。
「お疲れ様」
お父様もアランの声につられたように声をかけてきた。
「ありがとうございます。労っていただけるほどのことはしておりませんが」
お父様は、どことなく寂しそうだった。
「試合が終われば、あの二人の内のどちらかと旅に出てしまうのだな」
パートナーが決まれば私は『試しの旅』に出かけることになる。その期間はこの街に短時間立ち寄ることはできるけど、暮らすことはできない。
一度王都にも挨拶に行く必要もありそうだし、どちらにしてもしばらくはお父様たちとも会えないだろう。
「あら、あの二人の内どちらかじゃないわ。
コロちゃんか、私のどちらかね」
お母様。それは今は禁句だと思う。
お父様はまた頭を抱えて黙ってしまった。
本当に、コロに勝ってもらわないといけないよね。お父様のためにも。
「でも、コロちゃんが勝と思うわ。
あの短剣はやっかいだけど、アマデウスは試合開始時には必ず長剣を使うから、コロちゃんなら短剣を出させる前に決着をつけると思うわ。
魔法師の魔法を封じてたのと同じね」
「そうですね」
そう、信じたい。
お母様の言う通りの展開になれば、コロは勝てると思う。
でも、アマデウスも対策をとってくる可能性は高いだろう。
あと一勝すれば目的は達成されるんだから、なりふり構わずに攻めてくると思う。
コロに勝ってほしい。
本当ならこういう場合、神に祈るものなんだよね。
でも、私はあの神々の正体を知っている。
神々は今も天からこの情景を見て楽しんでいるんだろう。そして、賭けを楽しんでいるに違いない。
私はゆっくりと天を見上げた。
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