第1章 柔らかさの意味 6 地
準決勝。
オレの目の前に立っているのはマイラというトカゲの獣人の女槍士。毒を使った攻撃もするらしい。
トカゲ獣人じゃなくて、毒トカゲ獣人だな。
あと2つ。
あと2つ試合をこなせば手が届く。
そうすればオレは約束を果たせる。
手が震えてくる。焦るな。オレは自分自身に言い聞かせながら前を向く。
焦って歯を食いしばるくらいなら、大口を開けて笑ってこなせ。
師匠の教えだな。
バカげた言葉だけど、今はこれが真実だと分かる。たぶん、適当に言った言葉なんだろうけどな。
剣と槍なら槍の方が間合いが広い分、有利だと言われている。
俺みたいな小さな者相手でも間合いが広い分、攻撃しやすい。
そして得物が長い分、槍先の速度も速い。
基本は突きでの攻撃だが、当然横なぎもできるし、本体は防御ができるし、石突でも攻撃可能。
オレみたいな速さを生かして懐に入って攻撃する人間には鬼門のような武器だ。
オレにとっては魔法師よりもはるかに質が悪い。
盾の魔法を併用してなんとかできるか?
オレの魔力は少ない。
盾の魔法に頼ったところですぐに魔力切れを起こしてしまう。
咄嗟の回避か、明確な攻撃のための布石ぐらいにしか使えない。その点の使い勝手の悪さでは『隠し玉』と大差が無い。
速さ。やっぱりそれだけがオレの武器だ。
作戦は考えたが、結局はそれで挑むしかない。
開始の合図が響く。
オレは女槍士と睨みあう。
今まではすぐに動いていたが、さすがにそれはできない。下手に動けば串刺しだ。
今までの試合の情報では魔法を使ったという話は無いみたいだが、魔法槍士じゃないという判断は早急だろう。誰でも手の内は簡単にさらしたくはない。オレだってそうだった。でも、まだ動けない。
女槍士が動いた。
鋭い槍での突き。しかし、本気ではないだろう。
オレはナタで受け流す。
ナタを槍に沿わすように間合いを詰めてみようとしたが、槍が素早く引かれ、石突……槍の尻が飛んできて間合いを詰めさせてもらえない。
オレが後ろに跳ぶと、また同じ間合いだ。
こちらから間合いを詰めるためにナタを振るってみても、鋭い槍の突きの連発が壁のよう繰り出され遮られてしまう。
完全にオレの間合いに入れる気はないみたいだ。
オレも今までの試合で何度か『隠し玉』……セシリー曰く『盾の魔法の刃』を使っているから、そちらも警戒されているのかもしれない。
警戒されてもあんなもの、こんなに素早く動ける槍士に使えるわけがない。
当たらなければその時点で終わりなんだから。
今までだって確実に仕留められる時にしか使ってない。
相手が攻撃する瞬間で動きが完全に読めてる時や、目潰しを仕掛けてきて相手もすぐには動かないと考えられる時くらいだ。
オレはナタを片手で持ち、腰のナイフを抜く。
両手持ち。
威力は減るが、どちらでも槍を弾くくらいはできる。
槍の突きをナタで弾く。
ほとんど同時に弾いた力を利用して逆側から槍の石突が飛んでくる。それをナイフで受け止め、流す。間合いを詰め、女槍士の正面からナタを振るう。
女槍士はナタを両手の間、しっかり握られた槍の本体で受け止めた。
間合いを詰められただけ、さっきより進展したかな?
槍ごと押され、オレはまた元の間合いに戻された。
オレはそれなりに力はあると思う。しかし、圧倒的に体重が足りない。
力はあっても体重が少なければ押し合いには負けてしまう。それは多少のコツでなんとかなるものではない。
体重の軽さはオレに速さを与えてくれるが、押し合い……力比べなると弱点になる。
女槍士の槍は騎士のようなキレイな形のある戦いかただ。
何か流れが崩せるようなことがあれば、決着をつける切っ掛けが作れるかもしれない。しかし、どうするか……。
騎士のような戦い方ということは、それはしっかりとした訓練をひたすら繰り返して作り出したものだ。一朝一夕で崩せるようなものじゃない。
解決策の手掛かりを探すために、もう一度同じ行動を繰り返してみるか?。
繰り返してリズムを作り、それをあえて崩してみて隙を誘うことも考えたが、それは逆手に取られる可能性も高いよな。
槍の突きをナイフで弾く。
上から落ちるように飛んでくる槍をナタで捌き、流す。
間合いを詰め、女槍士の下段からナタを振り上げる。
やはり、女槍士はしっかりと両手で握られた槍の本体で受け止めた。
受け止めた女槍士の力が上から抑え込まれるようにかかるので、先ほどより踏ん張りは利く。
しかし、どうせまた押されてオレは後退するしかないのだろう。
そう思っていたが、女槍士が少し口元を緩めたのを見てオレはそうじゃないことを悟った。
毒か!
ビュッと、口先から液体が飛び出した。
女槍士は毒の間合いでオレの動きが止まる時を探していたのか。
やばい!
オレは飛んでくる毒を避けるために身体を動かそうとするが、上から押さえつけれれているので動けない。力を抜いて潰される覚悟で地面に転がるか?いや、それは悪手過ぎるな。毒は避けられない。
毒を食らった上に立ち上がるまで隙だらけになる。
槍は剣で突くより転がる人間に振るうのが容易だ。オレは目だけでも守ろうと目を固く閉じる。
毒を食らうのを覚悟したが、そうはならなかった。
盾の魔法が発動していた。
あれ?オレ、盾の魔法なんて使ってないぞ?無詠唱でも間に合う可能性は無かったはずだ。
驚いている間はない。驚いているのは相手も同じはずだ。毒が盾の魔法で防げたなら、それは好機でしかない。
オレは踏ん張っていた腕を緩め、身体を前に押し出す。
頭突きのような姿勢だ。
わずかな動きで、本来なら身長差のある女槍士に届く距離ではないが、今はオレと女槍士の顔の間には盾の魔法がある。
盾の魔法が女槍士の頭にぶち当たった。
盾強打の変形だな。盾頭突きとでも呼ぶか?
女槍士が身体を仰け反らせた瞬間を狙い、オレはその腕の狙って斬る。
ナタは狙い通りにその手首を切り落とした。
固く握られていたためだろう、手首から先はまだ槍をしっかりと握っている。腕とは、繋がっていないが。
蹴りで足を払う。
転がった女槍士の喉に、オレはナイフを寸止めで突き立てた。
「勝者、ウルフギャング・コロ!」
オレの勝利が告げられた。
なんとか勝てたな。
毒を飛ばされた瞬間は本当に終わったと思った。
そうでなくても、槍の技術だけで攻められていたらオレは負けていたかもしれない。
運が良かった。それ以上でも以下でもない。
しかし、どうして盾の魔法が発動したんだろう?
盾の魔法は防衛本能に直結している魔法だから無詠唱と相性が良いとは聞いていたが、身を守ろうとしただけで発動するなんて聞いたことが無い。
それにあの発動速度は速すぎる。
オレが知っている無詠唱魔法の発動速度を遥かに超えている。
なんだったんだろう?
しかし、まあ、救われた。
あと、1つ。
もうすぐ手が届く。
オレは貴賓席を見上げた。
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