第1章 強者たちの狂宴 7 天
「ククルお願いね」
私は騎士団長の魔道具に使役されている蛇のような妖精に話しかけた。
妖精は小さく頷くと身体をくねらせながら、空中を泳ぐように飛んで目的地に向かう。
『ククル』というのは騎士団長が妖精に名付けた名前だった。
『ククルカン』から取って『ククル』らしい。
私が妖精に指示を出してる間に必死に考えたようで、思いついた時には興奮したように駆け寄ってきた。
どうも、見えている今の内に考えておかないと妖精と意思疎通ができなくなると思っていたらしい。
そんなに慌てなくてよかったのにね。
妖精自身も喜んでその名前を受けたから、私に文句はない。
ただ、『ククルカン』って伝説の蛇の魔獣だよね?大地を創造するときに神々が使った一匹と言われる亜神と言っても良い魔獣だよね?
そんな立派な名前が由来だと、あの子は妖精としての格がさらに上がりそうな気がする。
妖精は人間から向けられる好意でその能力を向上させる。
騎士団長のあの様子だと『ククル』という名前も含めて身近な人間に妖精の話をするだろうし、今この場にいて見ていた使用人たちもその話を噂話として流すだろう。
公爵家で働いている者たちや、下手をしたらこの街全体の噂になるかもしれない。
そして騎士団長が魔道具で妖精の力を使う度にそれが事実として認識されていくだろう。
その時に『ククルカン』との同一視みたいなものがわずかでもあれば、『騎士団長の魔道具が使役している妖精』じゃなくて個体として好意や尊敬を集めないだろうか?
杞憂かなー?
まあ、悪い事じゃないよね。
好意や尊敬を集めて魔力が上がって使える能力も増えてたなら、その時にその能力を魔道具として使えるようにするかは私が判断すればいい話だしね。
妖精を使役する魔道具はそれを作れるだけの基礎がないと改造はできないだろうから、どうせ私が改造することになるんだろうしね。
このピアスの魔道具は本当に品質が良くて、今の妖精の能力を全て使えるようにしてもまだまだ魔法式を書きこむ余裕はあると思う。
使われた素材も最上位のもので、悪意探索だけの魔道具にしておくにはもったいな過ぎる魔道具だ。
この無駄さ加減が、実にあることを予想させるんだよね。
……神代の魔道具なのは間違いないと思っていたけど、神々自身が作った可能性が高いよね。
あの神たちは本当に色々余裕があり過ぎてもったいない事を平気でするからなー。
妖精が目的地についた。
目的はもちろん、商人のところの鳥かご。
妖精が鳥かごに取り付くと、イタチのようなものは鼻先を少し上げた。
その反応で私は確信する。
あれは魔獣だわ。動物であれば人間と同じように妖精に何か反応を示すなんてことはしないし、できない。
この時点で使役されていない魔獣を持ちこんだとして没収できるんだけど、今更指示を変更したりできない。
妖精はイタチの魔獣に治癒をかける。イタチの魔獣の身体が少し光ったけど、誰も気が付く者はいなかった。
妖精は鳥かごの扉の留め金を外そうとするけど、近付けない。
逃がさないように結界がかけられているらしい。
私はそれに干渉して結界を解除する。
それを確認すると同時に妖精は鳥かごの扉の留め金を外した。
妖精は姿を見せるのと同じで、やろうと思えば物を動かすこともできる。普段はやる必要性がないからやらないだけ。簡単な留め金で良かった。
鳥かごが開くと、治癒が効いていたイタチの魔獣は開いた扉にすぐに気が付き、流れるような速さで鳥かごの外に出て、人々の足元に消えて行った。
それに気が付く者はいない。
みんな円形闘技場で始まろうとしてる試合に気を取られていた。
妖精のおかげで実に簡単なお仕事だった。
これでイタチの魔獣はどこかへ逃げていくだろう。
発見されたらまた誰かに捕まるかもしれないけど、それはあれの運次第だよね。そこまで面倒を見る気はないわ。
コロが気にしていたからやっただけの気まぐれだった。
妖精はすぐに戻ってくると思ったけど、イタチの魔獣を追いかけて行ってしまった。
助けた相手が気になって逃げきるまで見張る気かもしれない。
妖精を使役しているピアスの魔道具は私の手元にあるし、気がすんだら帰ってくるだろう。
これだけの人がいたら妖精を見える者もいるかもしれないけど、それほどの力があったら使役されている妖精だと気が付くだろうから心配することもないだろう。
私は気が済んだので円形闘技場の試合観戦に戻ることにした。
読んでいただきありがとうございます。
長くなりそうなので前話と分割したのですが、予想より短く終わってしまいました。




