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第1章 強者たちの狂宴 5 地

 8日目。


 オレの4回戦目の日。


 ……オレは昨日の記憶が無かった。


 きっと、昨日は何もなかったに違いない。

 うん。何もなかった。

 今聞こえてる歓声に変な掛け声が混ざってるのも気のせいだ。

 目の前の相手に集中しよう。


 今日の相手はエルフのルシンダ。

 昨日、派手なドレスを着ていた女魔法師だ。

 昨日出された枠順に従ってトーナメント方式で対戦相手が決まるため、昨日の時点で分かっていた。


 今までの試合の組み合わせは強い者同士が潰し合わないように意図的に操作されていたらしいが、今日からは固定されている。

 1枠から順番に隣の数字の枠の者と順次戦っていくわけだ。

 オレは8枠なので、今日の対戦相手は7枠。明日は5枠と6枠が戦った勝利者と戦うことになる。


 ルシンダは昨日の派手なドレス姿と違って、今日は普通の魔法師のローブを着ている。

 手には魔法師が良く持っている杖の魔道具。


 あれは大きな魔法の制御をしやすくするための補助をするものらしい。殴ればこん棒と同じくらいの攻撃力はあるだろうけど、武器としてはあまり使えるものじゃなさそうだ。

 実際、あれを武器として使ってる魔法師なんて見たことない。


 杖を持っていたら魔法での後方支援専門の目印と言われているくらいだ。

 オレなんかの考えだと、あんなものを持つより武器を魔道具化して同様の機能を持たせた方がいいんじゃないかと思えるんだが、そういうものではないらしい。

 伝統とか矜持とかなのかね?


 ローブも後方支援用の装備だ。

 打撃にも強く燃えない素材でできているらしいが、その代りにかなり分厚く重い素材でできている。

 魔獣の毛や革で作られることがほとんどで、ルシンダが着ているのは織物だから魔獣の毛だろう。身体をすっぽり覆うようなローブなので、手足は動かしにくいし素早くも動けないだろう。


 近い距離で1対1で戦う場合は、純粋な魔法師が剣士に勝てることはまず無い。反応速度がまったく違うからだ。


 試合のように同時に開始した場合、たとえ無詠唱でも魔法が発動するまでに剣士は相手を斬り殺すことができる。

 たとえ反応速度を強化する強化系の魔法を使おうとしても、結局発動前にやられれば結果は同じだ。

 この大会の条件はただの魔法師には不利過ぎた。

 

 ただ、ここまで勝ち残ってきた以上は何らかの対策はあるだろう。

 油断はできない。


 ルシンダは今までの試合は卑怯とも取られかねないくらいの計略重視の戦いをしていたそうで、本当の実力はまったく見せていないそうだ。

 何をしてくるかまったく分からない。


 あのローブの中に武器が隠れていて、実は魔法剣士だったなんてこともありうる。

 昨日公表された簡単な情報もほとんど自己申請だ。自分の持っている技術を隠していたとしても罰せられることもない。


 自分の技術を全て知られることが命に関わることも多いから仕方ない。


 審判が試合開始を告げようとする。

 開始が告げられる瞬間に。


 「『うるふゅぎゃんく』ですって」


 小さくルシンダが呟いた。


 「始め!」


 審判の声と共にオレは動いていた。

 隠し玉はあるものの魔法師に対してのオレの最強の武器は速さ。

 詠唱の隙など与えない速さで動くしかない。


 ルシンダは動かない。

 詠唱をしているのか?

 オレは隙だらけのルシンダを横なぎに斬った。


 ルシンダの身体が吹っ飛ぶ。

 あっさりした手応え。何か罠か?


 吹っ飛んだ方に目を向けたが、ルシンダは倒れて動かない。

 杖を握っていた左腕を杖ごと切り落としていた。


 ローブは大きく裂けているが、体重が軽くてすぐに吹っ飛んでしまったためか、胴体は無事だ。

 めくれたローブの中には簡素な革鎧を着けているのが見えるから、そのおかげもあるだろう。


 ローブのフードで隠されて、その顔は見えない。


 何か企んでいる可能性もあるのですぐに追撃しようとしたが、審判に止められた。


 審判がルシンダの顔を覗きこむ。


 「勝者、ウルフギャング・コロ!」


 あっさりと、勝利が告げられた。

 ルシンダは気絶していたらしい。


 今までは色で呼ばれていたが、今日からの勝利の宣言は名前をちゃんと読んでもらえる。


 拍子抜けだ。


 でも、魔法が使えない状況の魔法師だとこんなものかもしれない。

 あっさり勝てるように素早く動いたのだから、目的を達成した結果だと思おう。


 円形闘技場には勝利をたたえてくれる歓声が響いている。


 その歓声に交じって『このカミカミ野郎!よくもルシンダちゃんを!』という怒号が聞こえて、オレはようやくルシンダが何をしようとしてたのか思い至った。

 開始の瞬間に呟いた『『うるふゅぎゃんく』ですって』という言葉は、オレの動揺を狙ってたのか。


 オレが動揺した隙に詠唱して攻撃しようとしてたのだろう。

 その目論見が完全に外れた形になって、あんなにあっさりやられたんだな。


 それ以外に活路はなかったのかもしれないけど、なんて無駄な事をするんだろう。


 戦いの場で、あの程度の言葉で、動揺するほど未熟に見えたんだろうか?


 戦いの最中の精神攻撃なんて、師匠からさんざんやられて慣れてしまっている。

 もっとエグくてネチネチとした死にたくなるようなやつを。


 もう上位16人の戦いなんだ。小手先の小細工が通用する段階じゃないのに。

読んでいただきありがとうございます。

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