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第1章 強者たちの狂宴 4 天

 私は今日も観覧席から円形闘技場を眺めていた。


 昨日までの試合で上位16人が決まり、その紹介がもうすぐ始まる。

 この紹介は重大な意味がある。


 賭けが行われるからだ。


 この賭けは人昇精霊(エフォーディア)のパートナー選びの時に毎回行われているらしい。

 『らしい』というのは実際に見た人はこの街には誰もいないものの王都の記録に残っていて、神殿の方からも慣例として行う様に指示が来たからだ。


 賭けの胴元は神殿。


 円形闘技場の観客席の入場料が公爵家の取り分で、賭けの収益は神殿の取り分だった。


 一番配当が高いのが、今日の夕刻で締め切りとなる16人の中から優勝者を選ぶ賭けだけど、それ以外にも色々なパターンで細かく賭けが行われるそうだ。

 昨日までよりさらに盛り上がることは間違いないだろう。


 この話を聞いた時、私はあの神々(ひとたち)なら当然やりそうだなと思った。


 今頃みんなで集まって、わいわい言いながら賭けをしてるんだろう。

 真の胴元は神々だった。


 「お母様。これって、お母様が書かれたんじゃないですか?」


 私は上位16人の名簿を眺めていた。

 これは魔法で複製されて街中に配られたものと同じものだ。


 「あら、よく分かったわね」


 「分かりますよ……」


 配布用の粗悪な紙には以下のように書かれていた。

 


 1枠 ヒースコート 冒険者

大きな身体と角が素敵な野牛獣人さん 力と突進力が素晴らしい 賞金稼ぎとしても優秀な結果を残している


 2枠 ジェイク 冒険者

 熱い戦いをするのに氷魔法が得意な魔法剣士 詠唱は少し苦手みたい 舌足らずな詠唱が可愛い


 3枠 エイブ 冒険者

 いぶし銀の護衛団のリーダー お髭が素敵 神代の剣の所持者


 4枠 マイラ 槍士

 銀色の鱗が素敵な蜥蜴獣人さん 基本に忠実な女槍士 傭兵として多数の戦闘に参加している


 5枠 マクシミリアン 元・宮廷魔法師

 多彩な魔法の使い手 無詠唱魔法も多数操る


 6枠 オルガ・サヨコ 冒険者

 死霊魔法を使う異質な女魔法師 死霊が多く眠る円形闘技場では凶悪 幽鬼じみた白い肌が美しい


 7枠 ルシンダ 魔法研究家

 外見の利点を生かした卑怯な技も躊躇しない鉄壁の精神の女魔法師 花のような幼い外見が可愛い


 8枠 ウルフギャング・コロ 料理人

 小さな身体とシッポまで可愛い今大会のマスコット 


 9枠 ランス 道場主

 武器を使わない魔法闘士 身体強化魔法で斬りつけられた剣も折る鍛えられた鋼鉄の肉体


 10枠 ロクサンナ 冒険者

 元・光の神殿の騎士 元騎士らしくない荒ぶる剣を使う女剣士


 11枠 ミルトン・バルカン 猟師 

 エルフながら魔法は使わない 魔獣との戦いで鍛えたナイフと弓の技術は脅威


 12枠 パージバル 冒険者

 回避技術は天下一品 剣と詠唱短縮の魔法槍を併用する魔法剣士 ダンジョン踏破パーティーの1人


 13枠 セルマ 猟師

 広域魔法で獲物をしとめる一撃必中の魔法猟師 モリが似合うしなやかな痩身


 14枠 アマデウス 元・騎士

 自称・赤竜騎士 神代の剣の所持者 キラキラ輝く剣士


 15枠 サロメ 探索者

 遺跡探索で鍛えた危険察知能力の持ち主 不意打ちも回避する美しい実力者


 16枠 ジュニアス 冒険者

 若いながらも確かな腕を持つ期待の剣士 爽やかな笑顔が素敵 傭兵経験もあり

 


 控えめながら、身内にはわかるくらいにはお母様らしさが滲み出ている内容だった。

 特にコロについての部分は酷いよね。


 「コロが読んだら怒りますよ?そもそも料理人ってなんですか?」


 『小さな身体とシッポまで可愛い今大会のマスコット』という言葉にはコロが嫌う要素が凝縮されているよね。

 戦闘力について何も書かれてないし、あえて嫌がらせで書いたとしか思えない。

 事実そうなんだろうけど。


 「あら、コロちゃんは料理人じゃない?」


 お母様は全く悪びれない。今日は試合が無いので不謹慎には当たらないと思っているのだろう、ワインを嗜みながら二人掛けのソファーに半ば寝そべり、参加者の紹介が始まるのを待っていた。


 「ちゃんと冒険者の資格も取ったと聞いていますが?」


 成人前まではサイラスの見習いパーティーメンバーとして活動して、成人と同時にほぼ自動的に正規の資格を得ていると聞いていた。

 サイラスと組んでいたなら、そんじょそこらの駆け出し冒険者なんて比べ物にならないくらいの実績はすでにあってもおかしくない。

 妖精竜(ピクシードラゴン)の討伐にも行ったと言ってたしね。


 ちなみに、妖精竜(ピクシードラゴン)を討伐しても竜殺し(ドラゴンバスター)の称号はもらえない。

 竜とはいえ、そこはやはり壁があって、他の竜種より格段に弱く、人数を揃えて対応すれば一般兵士でも討伐できる妖精竜(ピクシードラゴン)飛竜(ワイバーン)などは称号の対象にならないからだ。

 飛竜(ワイバーン)なんて一部の国じゃ飼いならされて馬代わりにされていたりするらしいしね。


 「そうなんだけどねー。昨日の祝宴でコロちゃんがちょっとやらかしちゃって。料理人にしておいた方が良さそうだったから」


 「はい?」


 何をしたというんだろう?


 「お兄様が話しかけても料理に夢中でほとんど無視してたみたいでね、お兄様のご機嫌が悪くなっちゃったのよね。

 それで『コロちゃんは料理人だから料理に集中するのは仕方ないの』って私がとりなしたのよ」


 お母様が言う『お兄様』というのは王太子殿下のことだ。


 ああ、それはダメ過ぎるなー。

 無視していたというより、話しかけられても料理に夢中で聞いていなかったんだろう。


 そもそもコロは話しかけられてもあまり相手をしようとしない。

 あの外見だからまったく知らない人間に話しかけられることが多くて、知らない人間の言葉は無視するのが習い癖になっちゃっている。


 特に何かに集中しているときは酷くて、そんな時に話しかけられても返事を返す相手は極少数しかいないだろう。


 さらにそんな状態の時にまともに受け答えをする相手なんて、私と、コロのお母さん、私のお父様とお母様、サイラス、セバスチャンくらいかな?

 特にお父様とセバスチャン相手だと、私がビックリするくらいちゃんと会話しているのを何度か見たことがある。


 コロはお父さんがいないからか、()()()()()()目上の大人の男性には弱いんだよね。

 今はサイラスとも師弟関係だから普通に会話してそうだよね。

 まあ、サイラスだからわからないけど。


 ただ、お母さんのお店では別ね。接客になると少し愛想がよくなるらしいから。本当に少しらしいけど。


 なるほど、そうなると王太子殿下の手前、職業を料理人にしておかないとマズイだろうなー……と一瞬考えてから思い直す。


 お母様の詭弁に騙されちゃいけない。

 お母様が王太子殿下に配慮なんてするわけがない。王太子殿下と言ってもお母様にとってはからかいがいのある身内でしかないんだから。


 きっと、ただ面白いからだろう。


 なんにしてもこの説明であの見た目だから、賭けでのコロの人気は下がって配当はかなり上がりそうだよね。

 それも狙ってるのかな?


 この賭けには当然ながら貴族たちも参加するので、盛り上がれば盛り上がるほど大きな金額が動くし、上手く利用すれば政治的な力関係すら操作できるだろう。

 お父様とお母様がそういったことに利用しないわけがない。

 コロはあえて作り出された番狂わせ(ダークホース)なんだろう。


 昨日行われた祝宴はこの賭けのために貴族に参加者を紹介する意味もあった。


 ん?そう考えると、昨日コロが王太子殿下を無視するような状況をあえて作り出したなんてことは……考えすぎだよね?珍しい料理を並べておけばコロが集中して話しかけてくる人みんなを無視することは簡単に予測できるけど、まさかね。


 暇に任せて考えを巡らせて、なんだか微妙に怖い考えになったころに円形闘技場に参加者たちが出てきた。


 昨日までと同じ防具を武器の人もいれば、今日はこの紹介だけだからか正装やドレスを着ている者も混ざっている。


 ドレスを着ているのはわざとコケて相手の油断を誘って勝利した、少女のような見た目をしたエルフの魔法師のルシンダだ。

 レースをふんだんに使った、スカートが大きく膨らんだドレスで、今時舞踏会でも着てないような少女趣味な派手なドレスだった。

 あの人、エルフだから実年齢は……考えないでおこう。


 コロは……ああ、緊張してるなー。


 シッポが股の間に挟まりそうなほど萎縮してる。

 歩きにくそう。

 表情はいつも通りの不機嫌顔だけど、遠目に見ても顔色が悪く見える。


 コロはこういう場が本当に嫌いだからなー。

 不機嫌になってるのはともかく、緊張しまくっているんだろう。


 円形闘技場の真ん中に設えた壇上に16人が横並びに勢ぞろいし、そこでラッパが吹き鳴らされた。


 「これより、上位16名の紹介を行います」


 風の魔法で声が全体に拡散されて響いている。


 この声はさらに遠くまで、この街の半分ぐらいには届いている予定だった。

 円形闘技場の客席に入れないものも多数出ていて、その者たちにも声を届かせるための処置だった。


 現在、この街には国内あらゆるところから人が集まっていて、宿屋からあふれて広間にテントを張ったり、さらには街の外で野営している人までいるらしい。


 街の外には魔獣がいるから危ないんだけどね。危険を冒してでも見たい、もしくは賭けに参加したい人がいるのだろう。

 なにせ配当次第では一攫千金の機会でもあるんだよね。

 

 大規模な賭けなんてものは滅多に行われない。

 しかも神殿が胴元なので民間のように不正が起こる危険も無く、払戻金も確実に払われるから安全確実に楽しめる賭けだった。

 普段賭け事なんてしない人達も楽しみにしていると聞いていた。


 そういや、公爵邸の使用人や出入りしている騎士たちも裏でコソコソと相談したりしてたな。さすがに私に尋ねてくる人はいなかったけど。


 「1枠・ヒースコート殿」


 紹介が始まる。


 最初に付けられている枠番は、賭けのための番号。

 この街は商業都市の性質上他の街より識字率が高いとはいえ、文字が読めないものもまだまだ多い。

 ただ、生活に必要なだけあって数字だけはなんとか読める人がほとんどなため、数字で指定して賭けをする事になっていた。

 文字が読めないと参加者の名前などうろ覚えになるからやりとりが面倒だしね。


 名前を呼ばれた者が壇上の前に出て軽く礼をする。

 最初は野牛の獣人だった。大きいな。


 それに合わせて司会が簡単な紹介を始めた。

 この紹介文は本人の了承を得て作られたものらしいから、お母様の変な工作は入っていないだろう。まったく普通の紹介だった。

 神殿が関わっているから、ひょっとしたらタグから読み取ったデータを元に作られている紹介文なのかもしれない。


 ほんと、タグは便利だよね。

 その本人の了承が無いと閲覧できないけど、その人に関わる基本的な記録や能力値(ステータス)や、希望すれば色々なことを書きこむことができる。しかも紛失することもない。


 今回の賭けで誰に幾ら賭けたのかも、このタグを利用して管理するそうだ。

 そんな使い方ができるものだと今回初めて知った人も多いだろう。


 平民どころか貴族でもタグの機能を使う機会なんてほとんど無いからね。

 神殿が絡む公式試合などに出たことがあれば戦績などを記録されたことがある人もいるかもしれないけど、その程度。

 そもそもタグの内容を閲覧できる設備すら神殿か主要施設くらいにしかない。

 神殿が……というより神々が胴元だからこそできる荒業だった。


 「……最後に、ご本人から一言お願いします」


 紹介が終わり、司会がそう言うと、壇上の前にいた巨大な野牛の獣人がまた軽く礼をした。


 「ヒースコートと言う!絶対勝つ!!」


 腕を天に振り上げ、吠える様に一言だけ言った。

 その声は大きく響き渡った。


 それに答えるように観客席からは歓声が上がった。


 これをコロもするのかー。


 映像記録を撮っとこうかな。


 記録の魔道具なんてものは神代の代物しか存在しないから、そういった魔法が個人で使えるなんて誰も思わないだろうけど、私はかなり自由に使えるんだよね。


 今までのコロの試合も実はこそっと記録してたんだよね。誰にも言わないけど。

 昨日の祝宴ではコロはタキシードを着ていたらしいんだけど、記録できなかったのが悔しいよね。

 能力が制限されてなかったら、妖精を飛ばして記録できたんだけどな。

 今の私には自分が見たものしか記録できない。残念。


 順番に紹介が進んでいく。


 偽ドジっ娘エルフのルシンダが壇上でクルッと回ってから挨拶した時に観客席からちょっと毛色の変わった歓声が上がった以外は、特に何事もなく順調に進んでいった。

 ルシンダ人気あるなー。お母様も気に入ったみたいであの子……あの人が負けたら公爵家に仕官させる気満々だ。お母様と気が合いそうだもんね。


 次はコロだ。


 「8枠・ウルフギャング・コロ殿」


 声がかかるとコロが前に進む。すでに動きがぎこちなくておかしい。シッポなんて完全に委縮してる。

 昨日まであれだけ大舞台で戦いをしてたのに、なんでこの程度の場であそこまで緊張するのかな?


 「コロちゃんカチコチだわ。かわいい。コロちゃんも昨日のタキシード着てくればもっと可愛かったのに」


 お母様も熱い視線を向けている。


 コロの紹介がされていく。コロは成人したばかりなので他に比べてやけに短い。

 ほとんど言うことが無いのか、すぐに終わってしまう。


 「……最後に、ご本人から一言お願いします」


 そう言われた瞬間、ビクリとコロの肩がすくんだ。


 コロはすぐには話さなかった。

 あれは緊張で固まってるね。

 観客席からざわめきが起こり始めた頃、やっと口を開いた。


 「うるふゅぎゃんく・ころれす!よろしくおねがいしましゅ!!」


 あ、盛大に噛んだ。

 コロがぺこりと頭を下げると、爆笑と黄色い歓声が円形闘技場に響いた。

読んでいただきありがとうございます。

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