表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/54

第1章 暗躍の人々 8 天

 私が治癒室のドアを開けると、治癒師たちがぞろりと並んでいた。


 この人たち、絶対ドアに耳を付けて中の会話を聞こうとしてたよね?

 まあ、私は聞こえない程度に声を押さえてたし、コロは普段は大声を出さないから聞こえなかっただろうけど。

 最後に背中を叩いた音は聞こえたかな?


 「終わりました。もう少しゆっくりさせて様子を見てから帰してあげてください」


 様子なんて見なくても問題ないのは分かってるけど、こういう時の定番の台詞だよね?


 「お疲れ様でした、精霊様」


 一番地位が高いらしい者が言うと、全員が一斉に深い礼をする。

 私はそれを受けると、その場を離れた。


 「よ!」


 貴賓席に戻ろうと数歩進んだところで、声がかかった。


 「コロの武器を受け取ってきてやったんだけどよ。コロは中だよな?」


 「あ、大丈夫ですから」


 サイラスだった。

 私が声をかけたのは治癒魔法師に対して。

 鬼人(オーガ)みたいな男がいきなり私に声をかけたせいで、治癒魔法師たちに緊張が走ったから。


 治癒魔法師たちは不審に思ってるみたいだけど、私が大丈夫だと言った手前、仕方なさそうに治癒室の中に戻って行った。


 それにしてもサイラスはこの円形闘技場の関係者以外立ち入り禁止区域の中を勝手にウロウロしてるみたいだけど大丈夫なんだろうか?

 立場的には今はただの平民だよね?

 コロのナタとナイフを剥き出しで両手に持ってるから、見た目はただの危ない人だよ?


 サイラスは今日は貴賓席に来ていなかったけど、どこかでコロの試合を見ていたのだろう。

 すぐに武器を回収して治癒室まで駆けつけられたということは、関係者席のどこかにいたのかもしれない。

 なにかそういった伝手があるのかな?


 「よく誰にも止められずに来れましたね、どう贔屓目に見ても殺人鬼にしか見えませんよ?」


 「ん?ああ、鞘がないんだから仕方ないだろ。適当な布も、血をぬぐったら無くなってな。それでコロは中にいるんだよな?」


 悪びれもせずに言う。

 まったく、この狂乱殺人鬼(バーサーカー)は。


 「ええ、中にいます。治療も終わってます」


 そう言いながら私はサイラスの道を塞いだ。


 「なんだ?」


 露骨に道を塞いだ私に、サイラスが不審な目を向けた。


 「コロに会わせないとかか?コロのやつが疲れてるからオレの相手をさせないように気を使ってるとかかよ?いや、いくら俺でもちゃんとわきまえてるぞ?嬢ちゃんが完璧に治したんだろけどよ、死にそうな大ケガしたりして治してもらうとよ、体調が完璧に戻っても微妙に疲れのカスみたいな違和感が残るんだよな。寝過ぎた後みたいな変な違和感だな。だからちゃんとコロの得物を返してやったらすぐに帰るつもりだったぞ?」


 いや、そんなこと私一言も言ってないから。


 なおもサイラスは面白いことを思いついたように、無精ヒゲだらけの口元を歪めて白い歯を見せてニヤリと笑う。


 「それとも何か?治癒魔法師たちを外に出してたみたいだからよ、ついでに中でコロに人に言えないようなことでもしてやったのか?コロのやつは表情に出にくいから治癒魔法師には気付かれないだろうけど、長い付き合いのオレだとバレそうでしばらく会わせたくないとか?

 あれか、大人の階段か?登ったのか?若いっていいよなー。青春だよな。俺なんか相手が……いや、忘れてくれ。思い出したくない」


 私が何も言わない内に勝手に想像して、勝手に苦い思い出に至ったらしい。

 楽しげに話していたのに、急に私から目を逸らして暗い表情であらぬ方向を見つめ始めた。


 サイラスはどうも女性関係に苦い思い出を抱えまくっているみたいなんだよねー。

 詮索したら聞きたくない話を確実に聞かされそうだから、私は無視することにしてるけどね。


 「いやいやいや。私、何も言ってないじゃないですか。

 私はコロのナイフを見せてもらいたいと思っただけです。

 ()()()()はそのナイフが関係してますよね?」


 ()()()()とはもちろん、コロが試合で相手にトドメを刺した魔法だ。

 お母様も指摘していたけど、私にもあれの発動形式は盾の魔法(シールド)にしか見えなかった。

 でも、効果と形状は大きな刃だったんだよね。盾の魔法(シールド)にあんな効果はない。というかあんな風に使えるものじゃない。


 「お、コロの『隠し玉』か!公式には初公開だぞ!といってもコロは公式試合自体が初体験(はじめて)だけどな!」


 サイラスはまた明るく笑うと、器用に片手でナイフを反転させ、指で刃の部分を摘まむと柄を私に向けて差し出した。

 私はそれを受け取る。


 見た目はどこにでもあるナイフだ。

 魔道具にすら見えない。相手に気付かれないように丁寧に偽装したんだろう。

 偽装してあれば疑われずにフェイントに使えるからね。


 柄の部分は魔物のツノを加工してあるらしく、石のような光沢のある見た目なのに吸いつくように手になじむ。刃も丁寧に研がれていて堅固化の魔法が丁寧にかけられている。普通のナイフとしても逸品だろう。


 「魔石は柄の内側に仕込んであるんですか?」


 「ああ、なにせ『隠し玉』だからな。見た目は普通のナイフに見えるようにしてあるんだよ」


 「魔法式を見ていいですか?」


 「は?いや、いいけどよ、時間は大丈夫なのかよ?」


 私は可能な限り試合に立ち会わないといけない。たとえ見ていなくても貴賓席にいることが重要な役目なのだ。長時間貴賓席を離れて大丈夫かという意味で言っているのだろう。

 普通は魔法式を見るなんてことはやたら時間がかかるからね。


 「大丈夫ですよ。このまま見れますから」


 私は副画面(メモ)を立ち上げる。他人からは見えない、私だけに見える魔法の表示だ。


 「そのまま?魔石を露出させなくていいのか?表示の巻物(スクロール)もいらないのかよ?」


 サイラスが驚いている。


 普通、魔石に記録させてある魔法式を見るには魔石の表面に魔法式表示用に調整された巻物(スクロール)を当てて表示させる。


 魔法師であれば調整すらされていない巻物(スクロール)を自分の魔力で調整しながら見ることもできるけど、それはかなりの慣れが必要になってくる。

 どちらにしても視覚で確認するためには、巻物(スクロール)が必要で、確認には魔石が露出した状態にしないといけない事には変わりない。


 でも私はそれを自分の能力だけで見ることができる。魔法防御がかかってなければ魔石を取り出す必要もない。

 これは魔法ではなくて人昇精霊(エフォーディア)の基本能力みたいなもの。


 とりあえず、驚いているサイラスは放置で。


 副画面(メモ)に魔法式を表示させると。


 「どれだけ複雑なのを組んでるんですか??え?このサイズの柄に高圧縮の魔石二つ?あ、並行処理させてある。この魔石、小さいのにすごい。よくこんなの手に入りましたね??」


 今度は私が驚かせられる番だった。

 妖精を使役するタイプの魔道具ならもっと単純に小型化が可能だろうけど、コロのナイフは機械式の魔道具だ。それでこのサイズにこの機能を詰め込むのは神業に近い。


 「だろ?妖精竜(ピクシードラゴン)の魔石だ。コロと、もう一人ちょっとした知り合いの魔法師と一緒に狩りに行ったんだぞ。掌サイズのクセにバカみたいに強いやつだったな。ちょっと苦労した」


 ちょっとね。

 普通なら討伐に中隊規模の人数が必要な魔獣なんだよなー。

 それでも死者が出る可能性があるとか。

 掌サイズでも一応は竜だしね。普通の竜より格段に弱いけど、そのサイズに似合わない親指の先くらいの魔石を持っていて、竜と呼ばれるに相応しい魔力を蓄えている。

 この魔物じみた男(サイラス)はともかく、その同行した魔法師もバケモノクラスだね。


 妖精竜(ピクシードラゴン)の魔石なら納得だわ。

 小型なのに異常に能力が高い魔石だからね。これを売ればこの街に豪邸が買えるんじゃないかな?

 それを2個、並列処理させてるとかどれだけ無茶なんだか。

 そりゃ、コロの全魔力も簡単に吸い取られちゃうわ。


 「ああ、複数の魔法式が入ってますね。普通の盾の魔法(シールド)を無詠唱で使うための補助ですね。

 それとこっちが……ああ、盾の魔法(シールド)を刃状に変換する魔法式?バカですか……?」


 何考えてるんだろう。

 ハッキリ言って無茶苦茶だわ。

 私は副画面(メモ)画面を見ながらため息をつく。


 「すげーな。ちらっと見てそんなことまで分かるのかよ。オレの魔道具制作の師匠に手伝ってもらってやっと組んだ魔法式だぞ。オレだって自分で組んでなきゃ何の魔法式なのか見分ける自信が無い。

 バカってな、それを言い出したのはコロだからな。

 コロは一応、魔法の適正はあったんだがな、盾の魔法(シールド)にしか適性が無くてな。

 確かに盾の魔法(シールド)も戦いでは有効なんだが、コロの戦い方ではそれほど意味がないだろ?それでなんとかしたくて一撃必殺の目的で考えやがった『隠し玉』だ。

 あいつ酷いんだぞ?『こんなことできますか?』とか言い出した癖に、ほとんどオレに丸投げだぞ?師匠をなんだと思ってるんだろうな?そこまでさせておいて、いまだにシッポを触ると本気で嫌な顔しやがるんだぞ?頭は素直に撫でさせやがるけど、あきらかに嫌なのを耐えてやがるしよ」


 いや、そんな愚痴はいらないから。


 盾の魔法(シールド)はその名の通り魔法の盾を作り出す魔法ね。

 自分の身体の周囲の任意の位置に魔力の壁を作り出すだけ。

 強さは魔法師の能力で変化するけど、普通は金属の盾よりちょっと弱いくらい。物理防御より魔法防御に優れている。


 自身の身体の防御という人間の本能に従った魔法だから、たいした訓練も無く無詠唱にできるのが利点かな。


 作り出した魔力の壁は自分の身体を起点として作れる方向やサイズは自由だけど、形はそれほど自由には変えられない。

 ほとんどの人はイメージしやすい四角や丸型ね。

 そしてなにより自分の身体を起点としているので、自由に位置を変えることもできない。出した位置に消すまで存在し続けるだけ。位置を変えるには一度消して出し直す必要がある。


 例えば目の前に(シールド)を出したら、どんなに動こうが消すまで目の前に出した時の距離を保ってずっと残りづづける。

 その特性を利用した盾強打(シールドバッシュ)という、(シールド)ごと体当たりをする技まであるくらい。


 そんな盾の魔法(シールド)を剣のように使うためにバカみたいな魔法式を組んで魔力を一気に食わせて制御させるとかバカとしか言いようがないじゃない。


 普通の人ならその魔道具を作るためのお金で良い武器を買ったり、別の魔道具を買うだろう。

 コロの体型や魔法の能力や戦い方、そして大会の規定に合わせて考えた苦肉の策なんだろうけど、逆に言えばコロがこの大会で使うしか使い道が無い魔道具だよね。


 ナイフと連動して動くようにして、形状を刃の形にして、任意の大きさに変化できるようにして、無詠唱で発動できるようにして……。無駄過ぎる。


 これなら使用者自身の魔力を使わない完全自立発動型の魔法剣を買った方がいい。でもそれは大会規定違反なんだよね。

 この大会は武器や魔法はOKだけど自分が振る武器か、自分が発動させる魔法、つまり自分の魔力を基礎とした魔法限定だから。


 「うーん。これ、サイラスには悪いけど魔法式いじりたいなー。そもそも美しくない魔法式だなー。サイラスの性格が出てるなー」


 私は延々と表示される魔法式を眺めながら呟く。


 「おまえ、無意識でオレをくさしてるだろ?オレの魔道具作りの師匠もよく言うんだけどよ、『美しい魔法式』ってなんだよ?」


 「単純に言えば、誰でも理解しやすい魔法式ですね。

 サイラスのは思いつきで作ってるとしか思えなくて乱暴で独りよがりで……なんというか最初は一途なのに、行き着くところまで行ったら浮気に走る感じ?」


 「おまえ、本当に公爵夫人(あいつ)に似て来たな。つか、おまえはオレをそんな風にみてたのかよ……」


 「今、その話はどうでもいいです」


 「ひでぇ……」


 だって、本当にどうでもいい。


 うーん。

 今この魔法式を修正することは時間が無さすぎる。それにコロはこの魔法式で慣れてるからいざというときに魔法が発動しないなんて事態になったら困るから修正は無理。


 ただ、盾の魔法(シールド)を無詠唱で使うための補助の魔法式ならなんとかなるかな?

 サイラスらしさがまったく無いから一般的なものを使ってあるみたいだし。


 「盾の魔法(シールド)を無詠唱で使うための補助の魔法式を修正していいですか?これは一般的なものだから問題が出ないように修正できますから」


 「ん?それはオレの魔道具の師匠(ししょう)が既存のをコロ用に修正して書いてくれただけだからいいけどよ。今できるのか?」


 「すぐできますよー」


 私はサイラスにも作業が分かるように、副画面(メモ)を他人にも見える様に可視化する。そして私のと同調させた副画面(メモ)をサイラスの目の前に出した。


 「うぉ!なんだよこれ?」


 おおげさだなー。


 「魔力だけで作った巻物(スクロール)みたいなものです。魔道具無しで魔石の魔法式を呼び出したり書いたり消したりできます。

 サイラスが作ったものだからサイラスにも作業を見ておいてもらおうと思って出したんです。私が作業してるものがそのままそちらにも表示されます」


 そう言いながら、私はすでに作業にかかってる。


 「ごっそり単純化しちゃいますねー」


 そう言いながら魔法式を書き換えていく。


 「ところどころ見たことのない言葉に書き換えられてるんだけどよ?なんだこれ?」


 「神々由来のものじゃないかな?私は地上では学んでないから比較して説明できないんですが、違いがあるとすればそれくらいしか理由が思いつきません。

 これくらいなら規制にもひっかからないはずですし、また時間のある時に教えますね。

 とりあえずはその言葉のおかげでごっそり必要な魔法式が減っていってると思ってください」


 「わかった。絶対教えてくれよ」


 「はい終了」


 「どんだけ早いんだよ?めちゃくちゃだな」


 サイラスが引き気味の声で言う。それはそうだろう。数日かかる様な作業をちょっと会話する間にやってしまったのだから。

 まあ私の技術だけの話じゃなくて、魔道具を使って書き換える通常の作業がやたら時間がかかるせいなんだけど。


 「精霊様ですから。これで魔石に少し空きができたので、空いた部分を魔力槽(マギタンク)に加工しますね」


 魔力槽(マギタンク)は魔石のもう一つの能力……というか、本来の能力だ。

 魔力を溜めておける。

 

 火の魔道具、水の魔道具なんかの単純な魔道具は、魔法式を書きこんで制御するという能力より、魔力槽(マギタンク)としての意味合いが高い。

 溜めてある魔力を使って極単純な魔法式を発動させて、魔法を使えない人でも魔法を使うのと同じ効果を得る事ができる。


 ただ、魔力補充ができる人間なんてほとんどいないので、一般的な魔道具は書きこまれた魔法式を魔法師の魔力を使って発動させるか、溜まっている魔力を使い切ったら捨てられるかのどちらかだ。

 だから魔道具というのは高価になってしまう。

 

 まあ元々魔石には魔力を自然に吸収する機能があるんだけどね。それは魔道具にするときに加工して壊されている。壊しておかないと魔力を吸収して魔石が魔獣化してしまうからだ。


 いま加工した魔力槽(マギタンク)の部分には私が魔力補充する。

 私が居ると今まで使い捨てていた魔道具も再利用できて便利だろうけど、結局は私自身の魔力を魔石に譲渡してるだけだからそれほど意味はないよね。


 「作った魔力槽(マギタンク)に魔力を入れてと、これで終了です。

 規約違反になるといけないので、魔力槽(マギタンク)は一時封印しちゃいますね」


 「なんというか、すごいな。治癒魔法もでたらめだと思ったけどよ、こういう部分に格の違いが出るな。そういや、今も円形闘技場全体に結界魔法も張ってるままなんだよな?でたらめだな」


 サイラスは完全にあきれている。


 「今は普通の盾の魔法(シールド)だけですが、発動速度とコロの負担も減ってるはずです。

 あのでたらめな盾の魔法の刃(バカまほう)の方は今は無理です。でもあんな魔法を使えば修正してあってもほんのちょっと発動してられる時間が伸びるだけですけどね。すぐに魔力切れを起こすのはどうにもなりません」


 少しだけ。ほんの少しだけだけどこれでコロの戦いの役に立ったかな?

 

 

読んでいただきありがとうございます。


ここでやっと1章の折り返し地点です。1月中に1章を終わらせようと思ってましたが、終わらせられない可能性が高くなってきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ