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第1章 暗躍の人々 6 天

 「馬鹿者!動くなっ!」


 お父様に怒鳴られ、私は自分のしようとしていることに気が付いた。


 コロが獅子の獣人の爪で切り裂かれた瞬間、私の頭は真っ白になっていた。


 助けなきゃ。


 それだけが頭を占めた。

 気が付いたら椅子から立ち上がっていた。

 お父様に怒鳴られなかったら、貴賓席から飛び降りコロのところに駆け寄って治療をしていただろう。


 「お前がウルフギャングを助けると、その時点で負けになる。分かってるな」


 お父様は静かに言った。


 「セシリー。コロちゃんはまだ負けてないわよ」


 お母様はいつもと変わらず微笑んでいる。

 しかし、その目は真剣だった。


 「死に物狂いの訓練をしていたのよ、あの程度のケガならなんとかできるわ」


 私が居ない間にコロがどれだけ訓練をしていたかを知っているのだろう。その訓練の成果をお母様は信じている。その言葉には迷いが無い。

 コロがどれだけ訓練をしていたか、私はそれを知らない。

 でも、コロ本人のことなら知っている。


 私は訓練ではなく、コロ本人を信じよう。


 気を落ち着かせ、私は椅子に腰かけ直す。


 コロは左肩を防具ごと引き裂かれていた。

 コロのスピードを生かすために軽量化された薄い防具。

 しかしそれは獣人の爪だけなら引き裂かれたとしても、なんとか防具としての役には立ってくれたはずだ。

 しかし現状は違う。


 コロの肩が引き裂かれたのは獅子の獣人が発動した魔法の所為だった。


 一瞬だけど獣人の爪に沿う様に魔法の爪が出現していた。

 エメラルドのような、透明感がある緑の爪。

 それはコロの肩を防具ごと引き裂くのに十分な長さと鋭さがあった。


 コロは右手てナタを持って立っていた。

 左腕はだらりと垂れさがっている。動かないんだろう。

 血があふれ、あっという間にコロの半身を赤く染めていた。

 あの出血じゃ、長くは持たないだろう。


 「コロちゃん、仕掛ける気ね。

 でも、どうするつもりかしら?コロちゃんの力じゃ片手でナタは振れてもあの獅子獣人(らいおんさん)は倒せないわよね」


 コロの目は威圧するように真っ直ぐに獅子の獣人を見ている。

 あの目はあきらめてはいない。 


 でも本当にどうするつもりなんだろう?

 お母様の言うとおり獅子の獣人を倒しきるだけの手段はなさそうだ。

 そもそも、コロの両腕が健在でも倒せるかどうかわからない相手だろう。


 コロの体格からして、相手次第でこういった状況になる可能性は容易に想像できるよね。

 その対策をコロとサイラスの二人が考えてないわけがないと思うんだけど……。

 口ぶりからしてお母様もそれを予測すらできないみたいだよね?


 コロが動く。

 獅子の獣人もそれと同時に動いていた。


 間合いが詰まったところでコロは獅子の獣人に飛び掛かるようにナタを振るった。


 右手一本で振られたナタは、あっさりと獅子の獣人に緑の爪に弾かれた。

 これはコロにも予測できていたことなんだろう、ナタが弾かれた勢いに合わせてコロ自身も跳んでいた。


 ナタだけが遠くへ弾き飛んでいく。


 手から離れた?いや、放した?

 コロは跳んだ位置からすぐに反転していた。

 手にはすでに腰に下げていたナイフを握っていた。


 ナイフに持ち替えるためのに、あえてナタを弾き飛ばされたんだろうか?


 片手しか動かない状態でナタからナイフに持ち返るには、どうしても武器を持たない隙のある瞬間ができてしまう。

 例え一瞬の隙だったとしても獅子の獣人はそれを見逃さないだろう。

 弾き飛ばされた時点で追撃される可能性もあっただろうけど、そのリスクを最小限にするためにあえて追撃されにくい方向に自ら跳んだのかな?

 

 あんな小さなナイフでどうするつもりだろう?

 片腕が動かない今のコロに、目などの急所を攻撃できるほどの動きができるとは思えない。


 反転して向かってくるコロに、獅子の獣人は魔法の緑の爪を振り下ろした。


 一瞬だった。


 緑の爪がコロに当たったと思った瞬間だった。

 私はコロが引き裂かれる恐怖に目をつぶりそうになるのに耐えてそれを見ていた。


 それは光の刃だった。

 なにあれ?コロってあんな魔法使えるの?


(シールド)……みたいね?」


 お母様がぽつりと呟く。

 確かにあれは盾の魔法(シールド)に見える。でも形状は刃。


 コロの身長と変わらないくらいの大きな光の刃は、コロを斬り殺そうとしていた獅子の獣人の手首を切り落とし、その首をも裂いていた。


 獅子の獣人はよろめき、一瞬耐えていたようだけど、そのまま倒れ込んだ。


 「勝者!赤!」


 コロの勝利が告げられる。

 それと同時にコロもゆっくりと膝を折り、ナイフを放り出して右手で左肩を押さえながら大地に突っ伏した。

 状況からして、あの光の刃を使うために全魔力を使い切ったんだろう。


 「行きます」


 私は貴賓席から浮遊(レビテト)を使い飛び降りる。


 コロの勝利に対しての歓声とは別に、飛び降りた私に対しても歓声が上がった。

 もう何回も同じような事してるのに、みんな飽きずに歓声を上げるんだよね。


 コロのところに先に行きたいけど、順番は間違えられない。

 優先しないといけないのは獅子の獣人の方。首を切られていて、どう見ても瀕死だ。

 コロの方は肩のケガは酷いけど、あれだけ動けたんだからすぐにどうにかなることはない。突っ伏してそのまま動けなくなったみたいだけど、あれは魔力切れだから問題なし。


 私は獅子の獣人のところに行くと、手早く治癒の魔法をかけた。

 獅子の獣人の身体が一瞬だけ光り、首の傷がふさがる。

 もし死んでいたらこの現象は起こらない。


 次は手首だけど……。


 「手首を拾って傷口同士をくっつけて持っていてくださるかしら?」


 近くにいた審判の1人に声をかけた。

 

 いや、血まみれだったから持つのが嫌だっただけなんだけどねー。浮遊(レビテト)でも運べるけど審判に頼む方が手っ取り早そうだったし。


 私に言われた審判は血の海になっているあたりから獅子の獣人の手首を拾うと、言われたとおりに傷口にくっつけた。

 私はそれを確認すると治癒をかける。

 そして、血の海になってる周囲と獅子の獣人と審判をまとめて清浄化(クリーニング)をかける。


 これで大丈夫。

 獅子の獣人はまだ目が覚めず動く気配はないけど、気絶しているだけ。

 簡単に処理したように見えるけど、無詠唱で使える範囲ながら超位の治癒魔法を使ってる。死んでさえいなければ全て元に戻せる、人間ではまず到達できないレベルの魔法だった。


 私はコロの方を見る。


 コロは担架に乗せられるところだった。

 円形闘技場の治癒魔法師たちも緊急性はないと判断したんだろう。治癒室に運び込んでゆっくりとしっかり治癒をほどこすことに決めたみたいね。


 コロは担架の上で亀のようにうつ伏せで丸くなっていた。


 そうじゃないと痛みや体調に不調に耐えられないのだろう。うめき声すら上げてないけど、並の人間が耐えられる苦痛じゃないはずだ。意識を失ってないだけでもすごい。

 シッポなんて完全に股の間に挟まって微動だにしない。

 

 魔力切れの苦痛に耐えられるのは、何度もその状態を繰り返した人間だけと言われている。

 慣れるしか耐えれる手段が無いからだ。


 魔法を使うために無茶苦茶な訓練をしてたんだろうな……。


 復活するには魔力が回復するまで耐え続けるか、魔力回復薬を使うか、魔力回復魔法をかけてもらうかになる。

 魔力回復魔法を使える魔法師は少ないから、訓練中は魔力回復薬で復活してたのかな?


 サイラスなら苦痛に慣れさせるために耐え続けさせた可能性もあるなー。

 苦痛になれていたら、魔力切れ後にできることの選択肢ができる。そうすれば、生き残れる可能性がふえるからね。


 この場で治癒してあげたいけど、あまり他の治癒魔法師たちの立場を無くすような行動はとらない方がいいかな?

 治癒魔法師たちが治癒室に運び込むという判断をしてしまった後だからね。

 コロにはもう少しだけ我慢してもらおう。

 

読んでいただきありがとうございました。

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