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第1章 暗躍の人々 4 天

 争奪戦5日目。


 夕方になってもうそろそろ最終の試合が始まろうかという時間になってから、サイラスが貴賓席に顔を出した。


 コロの試合もないし今日は来ないと思ってたのに。

 やけに可愛い花柄の、似合わない鞄を手に持っていた。


 「よう!オレなりに調べてみたんだがよ」


 来ていきなりそう言いだしたので、誰も反応を返せない。


 「あれ?コイツから聞いてないのか?」


 護衛に立っている騎士団長(アラン)を指さして言うのを聞いて、やっと私たちは理解できた。

 昨日、騎士団長(アラン)から聞いた私を誘拐するという計画について調べてきてくれたのだろう。


 「あの話か。何か分かったのかね?」


 お父様が尋ねる。

 誘拐計画については騎士団や街の衛兵にも調査をさせているみたいだけど、何の報告も上がってきていなかった。


 サイラスは昨日と同じソファーに腰掛けると、身体を身を乗り出すようにしながら話始める。


 「はい。オレ……私なりに調査しましたところ、あれを行おうとしている者たちは『ニンジャ』だそうです」


 「あら?ニンジャ?」


 「ああ。珍しい連中が出てきてオレも驚い……私も驚いたのですが、小隊規模のニンジャの集団がこの街に忍び込み秘密裏に行動しているらしく、それがどうも精霊様の誘拐計画である可能性が高いと判断できます」


 お母様とお父様の間で視線をウロウロさせているため、サイラスの口調が安定しない。

 前日のやりとりのこともあるので、あえて口調を統一させないように頑張っているのだろう。

 

 それにしても『ニンジャ』かー。


 神々の戦いの時に斥候や撹乱、暗殺などを担当していた種族。


 外見はヒト種とまったく変わらないものの身体能力は極端に高く、武器や魔道具の扱いにも長けているとか。

 偽装や隠密行動に特化しているため、居場所や人数などはまったく把握できず、今でも本当に存在してるのかすら分からない、謎の多い、伝説の存在と言ってもいい種族だった。


 「他国ですかね?」


 「それは分からないな。この国にもニンジャの傭兵団が存在するという噂は聞いている」


 私の呟きをお父様が否定する。

 この国にもニンジャはいるのかー。そんなのは他国の話だと思ってたわ。


 「ニンジャとなると、我々も知らない神代の魔道具を持っている可能性もあるな。我々以上に伝統や伝来というものを重んじており、失われた技術も持つと聞いているしな」


 「あの人たちは特殊よね。潜入工作を当たり前のようにやっちゃうし。変装の魔道具も持ってるのよ。

 長年勤めてた侍女がいきなり首にナイフを突きつけてきたときはビックリしたわ。変装だってまったく気が付かなかったんだもの」


 「「え?」」


 お母様がさらっと言った言葉に私とお父様は思わず声を上げた。


 「お前は刺される前に気が付いて投げ飛ばしたからまだいいだろ。オレは腹を刺されて死にかけたんだぞ?」


 「「え?」」


 さらにお父様と声を重ねてしまった。


 「お、お前たちはニンジャに会ったことがあるのか!?」


 「……なんと言っていいか……さすがですね」


 今、私とお父様は間の抜けた顔をしているに違いない。


 「会ったというか、殺されかけました。

 サイラスが人間相手に立ち上がれないほどのケガを負った、唯一の出来事ですからよく覚えてますよ」


 お母様はいつもと変わらない笑みをうかべ、まるで楽しい思い出のように言ってのけた。

 サイラスが大ケガ?それは珍しい。


 私とお父様が驚いた表情をしているのに気が付いたのか、なにやら照れたようにサイラスは頭を掻いた。

 心なしか、顔が赤い。


 「オレもまだ若かったからな。姫様の侍女に首に手を回されて……えーと、その、なんだ、身体を近づけた状態でブスッと腹を刺されたら避けようがないわな」


 「鎧どころか、服も着てなったものね」


 「おい!今言う必要のない事だろ!!」


 「しかも、侍女に化けてたけど、男だったのよね。

 何に腰振ってたんだか」


 「腰振る前に刺されたんだよ……」


 大きな掌で顔を覆うと、サイラスはうつむいてしまった。

 なるほど、サイラスにとって最悪の記憶で、お母様にとって面白い思い出なのか。


 サイラスの名誉のために、()()()()()()にしておこう。

 本当のところはサイラスの表情を見るに微妙なところだと思うけど。


 サイラスは私たちは大きな身体から魔獣とか言ってるけど、見た目はそんなに悪くない。平均より上くらいの顔はしてると思う。

 騎士団長時代はその役職の効果もあってそれなりにモテていたと思う。

 でも壊滅的に女運が無いんだよね。

 まあ、一番の原因はお母様なんだろうけど。


 後ろに控えている騎士団長(アラン)は微動だにせずに気配を消している。今までの話を聞いていたことをサイラスに気付かれると後が怖いからだろう。


 「でもそのおかげで私は気が付けたのよね。ニンジャの手から血の臭いがしたから」


 なるほど。

 手から血の臭いがするのが分かる距離から首を刺されかけても避けられるお母様は異常です。


 「……つまりだ。それほどまでに完璧な変装を使う連中だということだな……」


 復帰できないサイラスを横目にお父様は話をまとめようとしたが、お母様がさらに話を続ける。


 「それだけじゃないのよ。私が投げ飛ばしてから追い詰めたら、そのニンジャは自爆したの」


 「自爆?」


 「そうよ。どかーーーんと爆発したの」


 掌を上に向けて開き、どかーーーんと巻き上がる砂塵の手振りをする。


 「あれはよ!」


 あ、サイラスが復活してきた。

 過去にも何度か繰り返された話題なのか、復活が早い。


 「オレは今でも偽装だと思ってるんだよ。爆発で粉々になった死体があったらしいけどよ、怪しすぎるだろ。絶対、どこかから持ってきた死体を爆破しただけだぞ。アイツは爆発で周りが騒いでる間に逃げたんだよ。おかげで誰が暗殺依頼をしたのかも分からずじまいで終わっちまったよな」


 「サイラスはずっとそう主張してるんだけどねー。

 何一つ証拠もないから真実はわからないの」


 なんというか、噂以上にニンジャはとんでもない者たちみたい。


 私も神々の世界で色々な知識を授けてもらっているけど、それよりも怪しい存在に変化してるみたいなだなー。


 神々の知識は種族を作った時の基本設計に過ぎないから、その後でどう変化したのか分からないんだよね。

 特殊技能があるため堅固な命令系統と命令への絶対服従設定があったみたいだけど、それが色々影響を与えたんだろうな。


 「なんにしてもかなり面倒な人たちのようですね。

 サイラス様、私たちのために手間をかけていただきありがとうございます」


 私はできるだけ丁寧にサイラスに対して頭を下げる。

 それだけ価値のある情報だと思ったからだ。

 お父様の……公爵家の情報網を使っても調べられなかった情報を持ってきてくれたのだから当然だろう。


 「ところで、後学のためにお尋ねしたいのですが、どうやって情報を集められたのでしょうか?」


 これは純粋な好奇心。

 もう騎士団に所属しておらず平民に過ぎないサイラスがどうやって調べたのか興味があった。


 「ん?まあな、4年も市井にいるとな、独自の情報網ができてくるんだよ。

 それを手繰って行ったらなんとか集まったんだわ。

 この街は面白いぞ。商業都市だけあってどんな人間でも独自の情報網を持ってるんだよ。しかも底辺の人間の方が売るものが少ないだけあって情報の価値というものを知ってやがる。路地裏に座り込んでるようなガキでも、()()()()()()()相手と騎士団崩れの平民、どちらに話すのが金になるか知ってやがるんだよ」


 なるほど。騎士団は公務だから情報に対して金を出すような真似はしないし、他者に得た情報を与えるようなこともしない。だけど平民となったサイラスなら情報を金を出して買ってくれるし、場合によっては他の情報も与えてくれる正当な取引相手になるということか。


 「ニンジャと言っても飯も食うしどこかで寝るし武器も買うだろ?1人ならともかく集団で来ている以上は情報交換も必要になる。仕事でどれだけ偽装に長けてて完璧に近く気を付けられる人間でも、生活すべてがそうはいかないもんだ。どこかでボロがでるもんだよな。そしてそれを見て、聞いてるのはそいつらが石ころみたいに気にもかけないどこにでもいる平民たちというわけだ」


 「なるほどな」


 お父様が深く息を吐いた。


 「あら、サイラスが()()()()()()()()()()を言ってるわ」


 冗談めかして言うけど、お母様も感心しているのが感じ取れる。


 「褒めてくれていいんだぞ?つうか、お前はたまにはオレを褒めろ。感謝しろ。元王女で騎士で公爵夫人とか人を見下すのに慣れてるやつなんて嫌われるだけだぞ。ちゃんと感謝すべき時は感謝しろ。特にオレに感謝しろ。ちゃんと感謝出来たら良いものやるぞ」


 「嫌よ、気持ち悪いから。

 良いものって、その可愛い袋かしら?」


 お母様がサイラスが持っている花柄のかわいい鞄を指した。


 それ、私も気になってたんだよね。

 サイラスに花柄とか似合わなさすぎて逆に目を引く。


 「じゃあ、お前にはやらない。元々嬢ちゃんに持ってきたもんだしな」


 「私にですか?」


 サイラスは私に向けて花柄の鞄を差し出してきた。

 私はそれを受け取る。


 「セシリーちゃん。気を付けてね」


 「ええ、気を付けます」


 「お前らはオレをくささないと気が済まないのかよ?変なもんじゃないぞ」


 「見てもよろしいですか?」


 「ああ」


 サイラスの声を受けて、私は鞄を開ける。開けた途端に、冷たい空気があふれ出した。


 「保冷の魔道具が付けてあるんだよ。オレの作品な。中身が漏れるらしいから傾ないように出してくれ」


 こんな可愛い花柄のものをサイラスが作ったんだろうか?


 中身は蓋つきの器だった。


 それがいくつか積み重ねるように入っている。

 一つ取り出し、蓋を開けると中身は料理だった。

 酢の香りがする。野菜と……これは生の魚かな?……マリネだろうか?


 「昨日、このバカがコロの前で嬢ちゃんの誘拐の話をしやがってよ」


 サイラスがそちらを見ないで騎士団長(アラン)を指さした。


 アランの身体が一瞬、強張る。

 耳に巻きついている蛇の妖精がアランの首の後ろに隠れた。

 魔道具のピアスで使役してる妖精でアラン自身にも見えてないだろうけど、妖精にしては感情豊かな子だよね。


 「あいつ、その後ずっと気にしてるみたいだからよ、鍛錬で身体を動かさせたんだが、それでもスッキリしないみたいだから晩メシを作らせたんだよ。

 しってるか?コロは料理するのが一番気分転換になるみたいだぞ。まあオレが食いたかったのもあるんだけどよ、昨日はチキンナンバンだった。いいよなチキンナンバン。甘辛いタレつけてさらにタルタルソース付けるとか、神々の料理は手が込んでて美味いよな。マヨネーズもいいけどタルタルソースにするとさらに美味くなるのもいいよな。あ、マヨネーズも自家製のやつがその中に入ってるらしいぞ。

 でな、やっとスッキリしたみたいだったんだが、メシの途中でオレが余計なことを言っちまってまた落ち込ませたもんでな、それでそれを作らせた」


 ちょっと待って。聞きたいことは色々あるけど、つまりこれって。


 「コロちゃんの手作り!?」


 私より先に叫んだのはお母様だった。

 私はその声で叫びそこなってしまった…。


 「いや、おまえにはやらないからな。一応、オレの今日の晩飯用ということにして作らせたんだけどよ、嬢ちゃんも普通にしてるように見えるけど、露骨に悪意を向けられるのは気分のいいもんじゃないだろ?だから持ってきてやった」


 気を使ってくれたということか……。


 「ありがとうございます」


 私はニンジャの情報の礼よりも、さらに深く長く頭を下げた。

読んでいただいてありがとうございます。


コロが作ったのは、鱒の燻製スモークサーモンもどきと野菜のマリネ、鶏ハム(マヨネーズ添え)、キノコの甘辛醤油煮になります。腐りにくい、温め直す必要が無いことが前提の選択です。

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