第1章 暗躍の人々 2 天
「誘拐?」
何を言っているのか分からなかった。
「えーと?私をですか?今の私を?」
お父様に聞き返したが、お父様も呆れたように頷く。
夕刻。
談話室の窓は西日で赤く染まっている。
「えーと、今の私ですが、物理攻撃は無効です。精霊ですから。
魔法攻撃は有効ですが、並みの人間が使える魔法ではダメージを与えることはできません。もし私が意識を失うようなダメージを負った場合は一旦地上よりこの肉体は消えうせ、意識が復活した後に再構成されます。
実質的に意識を失わせて何かをするというのは不可能ですね。
攻撃は誘拐という目的には合わないかと。
そうなると魔法障壁での捕獲、もしくは洗脳、従属系の魔法ですが、今の私は結界魔法が超位まで使えるので他者の結界魔法へ干渉して解除も可能ですし、洗脳系の魔法は私は神々の創造物でもありますから元より無効、従属系は人昇精霊の契約術式の制限によって自動的に解除されます。
残る手段は身内を害すると脅して言うことを聞かせて誘拐するくらいですが……」
私はお母様の方をちらりと見る。
「……私の身内を害することの方が難しいのでは……?護衛もいますし、試合の結果が出るまではお父様はお母様と一緒に行動されるご予定ですね?」
「そうだ。護衛も明日からはこの報告を受けて騎士団長が担当してくれる。そうだな?」
「はい」
お父様の言葉を受けて、傍に控えていた騎士団長が頷いた。
騎士団長は騎士団の制服を着て控えていた。
短い赤毛に口元まで隠す立派な口髭の男。
左耳に光っている青い石のピアスは悪意探索の魔道具かな?極限まで小型化されているので神代の品だろう。家宝か何かかな?
私の目には彼の耳に小さな青い蛇のような妖精が絡みついているのが見えるけど、これを見える人は滅多にいないだろう。
その蛇の妖精は騎士団長の額を癒すようにペロペロと舐めていた。
魔道具には機械的に動作するだけの魔道具と、妖精を自動的に使役するタイプの魔道具がある。
妖精を使役するタイプは宝石と見間違えるような美しさがあり、小型化が可能になるので装身具にされていることが多い。
通常は指輪やネックレス。
小型化と言っても今の技術では指先程度のサイズにはなってしまうので、そういった装身具になるのが普通だった。
騎士団長のピアスのような超小型化ができるのは神代に使われていた技術によるものだ。
私も能力限定されてなければ作れるんだけどね。
妖精を使役するタイプの魔道具を作るにはドワーフが得意としているような加工系の魔法が必要になるため、ヒト種で作れる人間は稀だろう。
「それならば、私の誘拐を心配することすら無駄だと思うのですが」
「私もそう思うのだがな、あくまで念のためだ。
市井の臣たちには人昇精霊の知識が我々ほどない。
ただ大会中は人昇精霊の能力が制限されているという噂は流れているらしくてな、それによってかなり誤った知識で計画しているのだろうというのが我々の見解だ」
「まあ、それ以外ないですよね。
計画の内容についてはまったく分からないのですか?」
私はアランに対して尋ねた。
アランの額を必死に舐めている蛇の妖精が気になるなー。
「はい。捕縛した冒険者は知り合いに誘われただけで、誰が計画者であるのかすらまだ知らなかったようです。
厳しく尋問してみましたが、答えは変わりませんでした。
誘った者も、すぐに命令を出しましたがすでに逃走しており、今のところまだ捕縛に至っておりません」
「そうですが。仕方ないですね。気にかけてはおきます。何も起こらないと思いますけど」
計画者も計画内容もわからない、しかも到底成功するとも思えない計画なんて気にするだけ無駄のような気がするけどね。
「もし私たちに何かしてセシリーに言うことを聞かせる計画なら楽しめそうよね」
お母様が楽しそうに、不穏なことを言う。
「その時は、アラン、邪魔しちゃダメよ?」
「え?あ、はい…」
と、アランは了解しかけて。
「いえ!それは困ります!」
と慌てて叫んだ。
お母様の言葉の意味が『私たちに賊が接触してきたら私がやっつけるから手を出すな』という意味だと理解したのだろう。
護衛対象が護衛より強いというのはやりにくいだろうなー。
「すべて、それがし共にお任せください。万が一のことがあっては困ります」
アランは真面目な顔で言うが、その額を蛇の妖精がペロペロ舐めていて間が抜けて見えるんだよね。
あれは怪我でもしたのかな?見た目はまったく傷が無いけど、治癒魔法で治した後なんだろうか?
本人には見えてないだろうけど、やけになつかれてるよね。
そもそもアランは堅いんだよね。
お母様の加虐趣味を増長させそう。
「アラン。お母様の冗談に真面目に付き合っていると疲れますよ?
お父様とお母様には護身の結界よりもはるかに堅固な結界を私が張っていますから大丈夫です。ドラゴンが現れても問題ありません。
なんでしたら、あえて隙を作って賊を誘い込んでもいいくらいです。安心してください」
「そ…そうですか。しかし、それがし共にも立場というものがありまして……」
助け舟を出すつもりでいった言葉だったが、アランはさらに困惑した表情になってしまった。
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