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第1章 波乱の戦い 5 天

 私が貴賓席に入ると大きな影があった。


 鬼人(オーガ)のような大きな身体を、私、お父様、お母様用の席より一段後ろの席に押し込めている。

 2人掛けのソファーなのにぴったりサイズに見える。

 貴賓席に似合わないだらしない格好で、顔には無精ヒゲが浮いてる。


 サイラスだ。


 いや、今は家臣じゃないからサイラス()()と言うべきなのかな?


 サイラス()()はお母様と談笑していたが、私が貴賓席に入ったのに気が付くと立ち上がり礼をした。

 臣下の礼ではなくて普通の礼だった。


 「ごきげんよう。サイラス()()


 「じょ…公爵令……セシリーさ………精霊様もご機嫌麗しく」


 今の私は呼び方に悩むよね。私はどんな呼び方でもいいんだけどねー。


 「あら、『嬢ちゃん』でいいですよ?ここは公の場とはいえ、私たちしかいませんから。

 口調も昔に訓練場で教えていただいてた時の口調がありがたいですわ。

 よろしいですわよね?お父様?」


 一応、ここで一番の権力者に断りを入れておく。

 サイラスは畏まった口調で話そうとすると口数が極端に減るから面白くないんだよね。


 「ああ、かまわない」


 なぜかお父様がニヤニヤと笑っている。

 「…たく、オレが礼を尽くしてるのに母娘(おやこ)で同じこといいやがる」


 ああ、お母様と同じようなやり取りがすでにあったのか。


 「だって、気持ち悪いもの」


 お母様がぽつりと呟く。


 「らしくないですよ。今は主従の関係というわけでもないのに前より畏まるなんて変です」


 私も追い討ちをかける。


 「いや、公爵様の前だしよ。昔もちゃんとやってたろ?」


 「私の前でもヘンリエッタとセシリーを『おまえ』や『嬢ちゃん』呼ばわりしていたがな?」


 お父様も追い討ち。


 「それは時々口が滑ってたといいますか……ああ、もういいや。

 じゃあよ、嬢ちゃんもサイラス()()はやめてくれや。ガラじゃない」


 ガシガシと頭を掻く。どうも照れているらしい。

 熊の毛繕いにしか見えないよ……。


 「ではサイラス。今日はコロを見に来たんですか?」


 サイラスは畏まった場所と言うのは好まない人間だ。用もなく貴賓室などという場所に近寄るとは思えないんだよね。


 「いや、まあそれもあるんだけどな。

 コロのやつを見るために朝一で観覧席の良い場所を取ろうと闘技場に来たらよ、派手な捕り物に巻き込まれちまってよ。5人ほどぶちのめしたらアランのやつにここに連れ込まれた」


 「捕り物?」


 話がまったく見えない。


 「話を要約し過ぎだな。

 捕り物は私が手配した、出場者に混ざっている犯罪者の捕縛を目的としたものだ」


 お父様が補足をする。


 「なるほど、お父様の努力が実を結んだのですね。5人もいたのですか?」


 「いや、今日、この場に来た犯罪者は3人だ。

 ただ、サイラスにのされた5人の内に犯罪者は2人だけだった」


 「残りは?」


 「うちの騎士だ。勘違いでサイラスを犯罪者の仲間と思ったらしい。まだ騎士団に入ったばかりでな、サイラスの顔を知らなかったらしい。

 騎士団長が『人を見かけで判断するな』と説教をしておいたそうだ」


 お父様がそう言うと、サイラスが渋い顔をした。


 「アランのやつ……」


 アランと言うのが今の公爵家の騎士団長ね。サイラスが辞めたことで副団長から昇格した人物だ。

 サイラスと違い、古くから公爵家の家臣をしていた家系の出身で堅苦しい性格をしてる。

 それにしても人昇精霊(わたし)の争奪戦に参加するような戦士と騎士団員合わせて5人相手に無傷で済ますとか、サイラスもバケモノ過ぎるよね。

 しかも今も帯剣してないところを見ると、素手での対応だったんだろう。


 「犯罪者はまだまだ捕まるぞ。今の時点で判明しているのは7人だ。

 ここのに来た3人はすでに捕まり、他も同時進行で捕縛に向かっている。もうすぐ報告が上がってくるだろう」


 だからお父様は昨日までとは一転して上機嫌なのか。

 お母様に離婚されないように必死になってたからなー。


 「そうそう、1人はウルフギャングが協力して捕えたそうだぞ?アランから報告が上がっている」


 「え?」


 何やってるんだ、この師弟は?


 「あら、コロちゃんも関わってるの?

 サイラスと師弟関係を結んで行動が似ちゃったんじゃない?嫌だわ。汚されちゃった気分だわ」


 「相変わらずひでぇ言われようだな。オレをなんだと思ってるんだよ?おまえの下で近衛兵と騎士団長までやった人間だぞ?」


 「私じゃなくて、お父様と旦那様の下よ。

 それに昔だって騎士団長の実務は今の騎士団長(アラン)に押し付けてバカみたいに実力行使をしてただけじゃないの。私も剣の腕は評価しても人格は評価してなかったわよ?」


 「いや、オレだってやることはやってたぞ?」


 「お酒を飲んで暴れてただけでしょ?

 やることやってたって……あら、これはセシリーの前では言えないわ」


 お母様とサイラスが楽しそうにじゃれ合っている。

 この2人は昔に色々あったらしいけど、本当に仲がいい。

 元々お母様と知り合いで、お母様の口添えで近衛兵になり、それからお母様が結婚してこの公爵領に来る時に公爵家の騎士団に名指しで引き抜いてきたと聞いている。

 元王女と元平民出身の騎士。

 昔のことはほとんど教えてくれないけど、私とコロみたいな関係だったんだろうか?


 お父様もニコニコと笑って二人を見ている。

 お父様は色々知っているらしいけど、この二人の関係を見るのが好きなんだろう。


 「お母様、私ももう成人していますよ?」


 「あら、そうよね。じゃあ言っても……」


 「成人と言えばよ!!!」


 サイラスが大声を上げて強引に割り込んだ。


 「騎士団に入団したての女騎士とサイラスが」


 「コロのやつも成人したから初めて酒を飲みに連れて行ったんだよ!」


 サイラスの強引な割り込みを無視してお母様はサイラスの昔話を続けようとしたけど、コロの話題だったので素直に口を閉じる。


 「最初の数杯はいつもの仏頂面で無言で飲んでやがったから酒は合わないのかと思ったんだけどよ、途中からシッポがぶんぶん動き始めてよ。

 気が付いたら笑顔で飲んでやがったんだよ!

 ニコッと笑うとかじゃねぇぞ?ずーっとニヤニヤ笑ってやがってよ。まあいつも通り無言なんだけどな。そんなの初めて見るからオレも面白くなってきて、がんがん飲ましてたら顔色が悪くなってきてよ。慌てて抱え込んで便所で吐かしたら楽になったのかすぐ寝ちまいやがって、それでもずっと寝たままニヤニヤ笑ってやがってよ。

 膝にのせて抱きかかえてコネクリ回しながら飲んでても笑いながら寝て起きやがらねーんだよ。オレ、シッポ触りまくっても頭撫でまくっても嫌な顔されなかったの初めてだったわ。あいつ寝ててもオレが触ると嫌な顔しやがるからよ」


 「「ズルい!」」


 お母様とハモってしまった。


 「ズルいって言われてもな。ちゃんと支払いもオレで家まで送り届けたんだぞ?ただの役得だろ?

 まあ、オレもかなり飲んでたみたいでアイツのお袋さんの店に送り届けてそこで寝ちまったみたいなんだがよ。起きたらお袋さんに笑顔で睨まれたわ。

 あそこのお袋さんも笑顔が怖いよな。オレがコロを抱き枕にして寝てたらしーんだが、今後それだけはやめてくれって言われたな」


 「「ズルい!」」


 またお母様とハモる。


 「コロちゃん汚されちゃったわ。こんな熊に……」


 「私だってそんな姿見たことないのに、こんな鬼人(オーガ)に……」


 「おまえら酷いぞ?」


 酷いのはサイラスよね。コロの貴重な姿を独り占めするとか。抱き枕にするとか。


 「お母様。こうなったらコロにお酒を飲ませましょう」


 「そうね、酔わせて眠らせて抱き枕にしたいわ」


 お母様と私の利害が一致した。ただ、抱き枕権は私のものだと思うの。

 うふふ…と笑い合う。


 「ホント怖いぞおまえら。だからこんな()()()()に来るのは嫌だったんだよ……」


 なにか口汚く話している()()がいるわね。


 「あら、こんなところに鬼人(オーガ)がいるわ」


 「熊よ。言葉を話しているから上位の熊の魔獣ね」


 「討伐対象ですね」


 「どうしてこんなところにいるのかしら?」


 「おまえが呼んだんだろうが!」


 サイラスの叫びに疑問が浮かんだ。


 「お母様が呼ばれたんですか?」


 「そうよ。騎士団長(アラン)からサイラスが来ていると聞いたのでね。昨日話していた魔道具を作ってもらおうかと思って騎士団長(アラン)に連れてきてもらったの」


 「オレは来るんじゃなかったと後悔してる」


 昨日話していた魔道具と言うのは、昨日の試合で自称・赤竜騎士(アマデウス)の対戦相手だった中年剣士が使っていた魔法を付与した魔道具のことだ。

 私が試合後にあの魔法なら魔道具化できるんじゃないかと話したところ、あの魔法を気に入っていたお母様が誰かに作ってもらおうかと話していた。


 「サイラスって、魔道具を作れるんですか?」


 初耳だった。


 「こう見えても今は魔道具製造でメシを食ってる。評判良いんだぞ?

 それでどんな魔道具なんだ?あんまり複雑なものは無理だぞ?」


 「はい。剣に風を纏わせる魔道具で、剣の柄に仕込めるサイズになればと。詳しくは注文書(オーダー)を出しますので」


 「剣の柄は難しいんだよ。魔力が高圧縮された小型の魔石は前に使った残りがあったはずだが……魔法式が組み込めるかどうか」


 「無理なら魔法式は私が組みます。その場合は基礎さえしっかり作ってもらえれば大丈夫です」


 「人昇精霊(エフォーディア)が組む魔法式か。どんなものか見てみたいけどよ。とりあえず自分で組んでみるわ。2、3日で見極めるからちょっと待ってくれ」


 珍しく真面目な顔のサイラスに、私はちょっとだけ彼の評価を変えた。


 「おまえたち、そろそろウルフギャングの試合だぞ」


 お父様に言われて、やっと私たちは試合をまったく見ていないことに気が付いた。

 もう今日の第一試合は終わっていたらしい。思ったより話し込んじゃってたみたい。


 コロが円形闘技場の中心に向かって歩いていくのが見える。


 「あっ、あれはダメだな」


 急にサイラスが声を上げた。

 目がコロとは反対側に向けられている。


 「あれはキツそうだな」


 お父様も渋い顔で言う。

 二人の目はコロの対戦相手に向けられていた。


 ああ、言いたいことは分かったわ。

 コロの対戦相手は、女剣士だった。

 要所だけが金属で作られた鎧を着けていて、兜の首元からは見事な金髪が覗いている。

 胸部は『それどこで作れるの?』と聞きたくなる、金属なのに胸の形に沿った形になっていて、巨乳をあえて強調してあるらしい。

 そして美人。


 私、あの人の神託名を当てる自信あるわ。

 きっとクッコロというに違いない。

読んでいただきありがとうございます。

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