第1章 波乱の戦い 3 天
争奪戦3日目。
今日で一回戦はすべて終わる。
昨日までで引き分けになっていた人たちの再戦も今日行われ、今日もし引き分けになったら明日の朝から行うのだとか。
昨日は夕刻に近づいたころにお父様が覚醒して大変だった。
突然『犯罪者は排除だ!』と叫びだしたと思ったら、貴賓席に使用人を呼び集めてその場で何やら書類を大量に作成すると指示を与えていた。
犯罪行為に手を染めていたものを調べ上げて捕縛して、争奪戦から排除するのだろう。
試合に参加できなければ自動的に不戦敗になるからね。
ホント頑張ってもらいたい。
お母様も私もニコニコしながらその姿を見守っていた。
ただ、やり過ぎたら国王からも神殿からもお叱りを受けて仕切り直しになり、全てが無駄になるから、明確な犯罪者だけにしてくれと釘を刺すのも忘れなかったけど。
一応は全て神殿が確認して参加を許可した人間だからね。
昨日の死亡者はなし。
全身丸焼けになった人もいたけど、なんとか間に合い火傷はすべて治せた。
ただ、丸焼けになる恐怖は心を傷つけるのに十分だったらしく、立ち直るには時間がかかるだろう。
治癒魔法では心の傷は治せないんだよね。
別の方法もあるにはあるけど、能力が制限されてる今の私には無理。
悲しいけど、自分の選んだ戦いの結果だから受け入れて欲しい。
今日は開始間際から観客席の方で妙な魔力を感じていた。
誰か八百長をしようとしてるのかな?
私が超級の結界を張ってるから、外部から魔法で試合に干渉することは不可能なのに。
かなり念入りに偽装しているらしくて位置特定まではできないし、何の目的の魔法かも特定できない。
魔力のムラが少ないので魔法師ではなくて魔道具だろう。
念のためメイドの一人に耳打ちして、観客席を警備している兵士に注意をしてもらうよう伝えておいた。
領域検索をしていたらどこかでボロをだすかな?と考えて、とりあえず領域検索を常駐している。今のところ何もつかめていない。
能力限定されている状態じゃなけりゃ、他の手段も盛りだくさんにあるんだけどな。
夕焼けが見え始めた頃、例の自称・赤竜騎士の試合始まった。
ひょっとしたら謎の魔力もコイツが関係しているのかもしれないなー。
自称・赤竜騎士はすらりとした長身で金の装飾のある銀に光る甲冑を着こんでいて、舞台役者みたいな胡散臭い感じの美形だった。
長めの金髪を顔の前に垂らしていて、さらに胡散臭い。
やたらキラキラしてる。
お母様もやたらキラキラしてる人だけど、お母様は威厳と裏付けがある。絶対的強者のキラキラ。
この人は薄っぺらい。
見ていると『殴っていいかな?』と言いたくなるタイプ。
そもそも銀色の重そうな、やたら動きにくそうな派手な全身甲冑を着けているのに、なんで兜を着けていないんだろう?盾も持ってないじゃん。
『顔が隠れると女の子たちが悲しむじゃないか』とか言い出しそうな外見だけど、まさかそれは無いはず。無いと思いたい。
歩く姿も、立ち姿も、剣をかまえる姿も芝居がかった雰囲気があって本当に胡散臭いんだよね。
そこまで観察して、ふと思い出した。
そういや、元ミリアム国の騎士だったよね。
そもそもあの国自体がかなり胡散臭いんだよねー。
妖精に愛された国ミリアム。
妖精国と言われ、妖精の巫女なんてものもいる国。
妖精の巫女は王族から出ることが多いらしいんだけど、先代の妖精の巫女は王弟だったらしい。
王弟はもちろん男。
でも巫女。
性別を超越した美形だったらしく、吟遊詩人の歌にもなってる。
しかも大男の親衛隊の隊長と恋仲だという噂も流れていたらしい。
意味が分からないよね。妖精の神とも言われて妖精のまとめ役をしている光の神がそっち方面推奨だからと言ってもね……。
そんな国の騎士だったら、胡散臭さが通常営業でもありえない話じゃないか……。
変な納得をして、私は試合を見つめる。
開始の声はかかったのに二人とも剣をかまえて動かない。
相手はいぶし銀な雰囲気の中年剣士だった。長剣と小さ目の金属盾を持っている。
兜で表情はしっかり見えないけど、動作がイラついているように見える。
まあ、あんなのが目の前にいたら、普通の人はイライラするよね。
中年剣士の剣が風を纏う。
魔法剣士だったのか。
魔法使いの場合はなかなか難しいけど、魔法剣士の場合はこうやって睨みあい合い、間合いの取り合いで魔法を発動させるまでの時間稼ぎをすることができるのでかなり有利だ。
それほど強い魔法じゃないみたいだけど、小さな魔力で効果的な運用を試行錯誤した結果なんだろう。薄く剣に渦を巻くように纏わせている。
あれなら魔力量が少ない人でも魔力切れを起こさずに戦いきれると思う。
自称・赤竜騎士はまだ動かない。
魔法を発動されたせいで、完全に切りこむタイミングを計りかねているらしい。
開始すぐに切りこまなかったことを後悔してるんじゃないかな?
中年剣士の方は剣に纏う風に塵を舞い込ませていく。チリチリと小さく発光しはじめていた。
雷系の魔法じゃない。塵の摩擦で静電気が発生しているのだろう。
上手いなー。
色々と魔法剣士の利点を生かしてる。
中年だけはあるわ。
「あら、良いわね、あの魔法。彼のオリジナルかしら」
お母様もあれがどういう魔法か分かったらしい。
「魔力消費は少ないですけど、かなり高度な制御が必要になる魔法ですね」
お父様はまた何やら書類を作成していて見てさえいない。
まあ、立会人としてこの場に居さえすれば問題ないからいいんだけどね。どうせ観客もこちらを見ていないだろうし。
中年剣士が斬り込んでいく、あまり速くなく様子見目的の切り込みだろう。
自称・赤竜騎士が長剣でそれを受けた。
火花が飛ぶ。
同時に、耳障りな音が響く。
私の予測にも反した甲高い悲鳴にも似た音。もっとガリガリとヤスリをかけるような音かと思ったのに。
この音は剣を合わせている間、中年剣士の剣に纏った魔法が自称・赤竜騎士の長剣を削っているからだ。
纏った風の中で高速で動いている塵が剣にぶつかり、ヤスリのように剣を削り続け火花と耳障りな音を発し続けていた。
ふと、近くで魔力を感じたので横を見ると、お母様がペンを軸にして風を纏わせる練習をしていた。
お母様が火の魔法を使うのは見たことあるけど、風の魔法も使えたんだ?
もちろん中年剣士と同じどころか弱い風をペンに沿って纏わせることすらできていない。魔力量が少なくて済みそうな魔法なので自分でもできるかと試してみたんだろう。
お母様も簡単な魔法は使えるけど、戦闘で有効に使えるほどの魔力がなかったんだよね。
でもあの魔法、ひょっとしたら魔道具で再現できるんじゃないかな?
魔力は手頃なサイズの魔石でまかなえる程度だし、魔法式で固定した魔力制御の方が向いている気がする。
削り続ける衝撃に負けたのか、自称・赤竜騎士の剣が弾き飛ばされる。
仕切り直し?
いや、衝撃で自称・赤竜騎士の身体が大きく開いてしまう。
それを見逃すわけが無く中年剣士がさらに剣を叩きこんだ。
「甘いわねー」
お母様が呟く。
ペンに風を纏わせるのはあきらめたらしい。
「頭を狙わなくちゃ」
中年剣士は肩から胴を斜めに切りつけていた。
確かに。
あのむき出しの頭を狙えば一発で終わったのに。
位置的にも十分に狙えたのに。
「『騎士道精神』というやつですかね?」
あの中年剣士もどこかに所属していた元騎士だったんだろうか?
騎士団に所属していると騎士道精神というか、正々堂々と戦う精神を叩きこまれることが多い。
住民たちの代表だから恥ずかしい行いをしないようにという理由があるんだろうけどね。
「でしょうねー。そんなもの犬に食わせてしまえばいいのに。勝たなきゃ意味ないわ」
お母様なら間違いなく首をはねとばしていただろう。
お母様は護りたいものや助けたい人、手に入れたいものがあるならどんなに卑怯でも勝たなきゃ意味が無いと考えるタイプだ。プライドや見栄で戦いを選ぶなどということはしない。
相手に弱点があるなら最優先で狙う。
中年剣士に切りつけられた自称・赤竜騎士の銀キラ鎧は大きく削れていたけど、攻撃を防いでいた。
自称・赤竜騎士はよろめいたけど、それだけ。倒れも怯んでもいない。
大振りで切りつけたせいで、中年剣士も一瞬だけ動きが止まり、それを狙って自称・赤竜騎士が片手で剣を握り上段から切りつける。
それと同時に空いた手を腰に回していた。
中年剣士は盾で剣を防いだ。
それは自称・赤竜騎士の狙い通りだよね。
とっさに反応してしまったんだろうけど。
自称・赤竜騎士は盾の死角にうまく位置を取ると切りつけた勢いのまま剣から手を離し、盾に体当たりをくらわせた。
それだけじゃない。腰から抜いていた短剣を引き抜いている。
流れるような動きで、勢いが殺されてない。
自称・赤竜騎士と中年剣士はもつれるように倒れ込んだ。
「あら、あの剣士は見た目に反して泥臭い戦いもできるのね」
これは自称・赤竜騎士に対してのお母様流の賞賛だ。
中年剣士は盾を挟んで自称・赤竜騎士の下敷きになった。
「終わっちゃったかな?」
お母様がにこやかに言っているけど、これは中年剣士をバカにしているんだろう。
勝つチャンスを捨ててプライドを優先したことに対して。
あ、あの短剣すごい。
気が付いた時には短剣が盾ごと中年剣士を貫いていた。
金属盾に根元までしっかり食い込んでいて、中年剣士の身体も貫通してそう。
身体が密着しているから腕の力だけで刺したんだろうけど、腕力だけでなんとかなるものじゃない。間違いなく剣の性能だなー。
刺さるという確信が無けりゃ、金属盾に短剣を突き立てるなんてバカなことはしないだろうし。
赤い柄の短剣。
あの切れ味は神代の剣かな?
「勝者、赤っ!」
自称・赤竜騎士の勝利が告げられた。
読んでいただいてありがとうございます。
妖精の巫女王子ティティステリアン・ディオグランス・ミリアムと近衛騎士オルテステリア・ミライオス・イラムの話は気が向いたら書きます。




