ろく 面倒臭い
「ラステムさんは、ご職業は?」
「作家だよ。売れない、な」
まあでも、時間の経過もあるのだろうが、俺の名前もそこそこ世に広まってきてくれているらしく、最近の本の売れ行き具合は極めて良好だ。
コアな読者とでも言うのだろうか、一定数だけは必ず買われているようである。
子供の頃からの夢。
その言い方だけで、もうどこか気持ちの悪いものを感じるが、実際その通りなわけだし。
小説書いて、金稼いで、死ぬまでに、存分に遊びてえなあ。
「最終目的が不純ですね。不純物が混じってますね」
「遊びたいと願う心を不純と呼ぶなよ。それを不純と呼ぶにしたって、人なんてだいたいそんなモンだよ。ただ、小説に対する俺の感情は本物だぜ」
最終目的はあくまでオマケみたいなものだ。
ヒット作を生み出したい。
それこそ一番の夢である。
「でも小説家なんて、それだけで素敵ですね」
「ありがとよ。それを聞くと、もしかしたら俺は、お前みたいな可愛いガキに『素敵ですね』と言われる、そのために作品を書いているのではないかと、そんな気がしてくる」
「それは気持ち悪いです」
ああ、否定はしない。
というか冗談だよ。
間にうけられたらコッチが困る。
「困るって言われても、それだって、失言の後の言い訳にしか聞こえませんね」
「じゃあ、忘れてくれ。お前の前では、もう二度と冗談を言わないことにする」
「お前の前では。ですか。クスクスクス」
こいつ、笑いやがる。
揚げてもいない揚げ足を取って。
……そう言えば、こいつが笑うところを見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。
今まではほとんど無表情だったし。
何より、俺はこいつのことを、ユウへグのことを、暗くて性根の腐り切ったやつと思っていた。
思っていたというか、思っている。
現在進行形で。
だから、何というか、新鮮だ。
こいつに表情筋がちゃんとあったことにも、ひとまず安心。
いや、それも冗談として。
「クスクスクスクスクスクス」
「いつまで笑ってんだよ」
「失礼致しました」
うわ、こいつ、笑いを急に止めやがった。
どんな表情筋と感性をしているんだ。
「どんなも何も、私は最初から笑ってなどいませんでした」
「なんだと」
「一ミリメートルも面白くありませんでした」
「笑いを取ろうともしてねえよ、俺は」
「それだって、見っともない言い訳に聞こえます」
こいつ、面倒臭い性格をしてやがるな……。
「そして、誰が一ミリメートルの身長ですか」
「……お前、面倒臭い性格をしてやがるな……」
後で思えば、彼女の『私は最初から笑ってなどいませんでした』という台詞にしたって、不覚にも笑ってしまった後の言い訳に、聞こえなくもない。




