ごー 奴隷でいたい
ユウへグが来訪してからまだほんの一時間程度しか経っていないが、それでも、ユウへグの有能さは溢れんばかりに膨大であることが分かった。
分かったというか、見せつけられた。
これ見よがしに。
まず彼女は、頼まれたお使いを一秒以内で完遂する。
済ませてしまう。
いや、訂正。
完遂はしない。
金の扱い方にまだ慣れていないようなので、『完』という言葉にはまだ一歩足りていない。
が。
一秒以内は紛れもない事実であった。
恐ろしいことに、紛れもない事実であった。
次に。
彼女は、家の掃除を二秒以内で終わらせた。
彼女の掃除姿を、いかにも使用人らしい掃除姿を、二秒以上観察することは不可能であった。
二秒経ったら、家が見違えているのだ。
こんな家でも、ここまで綺麗になれば、いいもなのかもしれないなあ、なんて思わされたりもした。
どこを見ても、ピカピカ。
彼女に三秒を与えれば、洗濯もやってのけた。
俺と彼女の計二人分の衣類が、気が付けば、全て外に干されている。
十秒という(感覚が狂いそうだが、どう考えても長くはない)時間を与えようものなら、もう、俺の家にある全ての食材よりも明らかに多い品数の料理が出来上がっているのだ。
それがまた実に美味しい。
美味しいのなんの。
プロ顔負けとはきっと、こういうことを言うのだろう。
「お褒めにあずかり光栄の至りでございます」
「お前、ホント、何者だよ」
「いえいえ。ただの、宇宙人ですよ」
「確かに納得がいくかもしれないが、サラリと嘘をつくんじゃない」
「間違えました。ただの奴隷ですよ」
「……いや」
首を横に振って、俺はそれをも否定した。
ユウへグはキョトンとした表情を浮かべている。
「いや、って。これでも何か、ご不満がおありなのですか? 『ただの吸血鬼ですよ』と言ってほしいのですか?」
「『ただの吸血鬼ですよ』とも言ってほしくはないが、それと同じくらいに、お前には、自分が奴隷だとも言ってほしくないな」
「どうしてですか」
「お前がどう思っているのかは知らんが、奴隷という単語に、俺はあまり良い響きを感じない。『お手伝いちゃん』でいいじゃねえか」
「誰がお手伝いちゃんですか」
「誰が奴隷だ」
彼女は黙ってしまった。
強く言いすぎたかなと、俺は少しだけ後悔した。
しばらく沈黙が続く。
やがて口を開いたのは、彼女の方だった。
「私は、奴隷でいたいと考えます」
奴隷でいたい。
そんな文章を聞かされる日が来ようとは、誰が予想できただろうか。
まさか、そんな意見を持っているやつがいたとは……。
「じゃ、強要はしねえよ。無理強いはしねえよ。ユウへグは奴隷だ」
「いえい」
そんな喜び方をするのであった。




