しー お使い
「ここがお前の部屋で、ここが台所で、これが掃除用具を仕舞う場所だ。分かったな?」
あいにく我が家はみすぼらしいので、間取りの説明もそんなもので済んでしまった。
我ながらみすぼらしい家だ。
悲しくなる。
「分かりました。私も悲しんでおきますね」
「お前は悲しまなくていい。『こんなにも素晴らしい家に住まわせてもらえて光栄です』と三回復唱し、泣いて喜べ」
「ご冗談を」
と、アッサリ、キッパリ、俺の言葉を突っぱねる彼女。
冗談と言われて何も言い返せないのが余計に悲しい。
それも、こんな少女に言われているのだ。
こんな少女に。
こんな。
「こんなって言うな」
「おい、今までは一応敬語だったろ。そして俺は、『こんな』と声に出して言った覚えはない。謎の力で俺の心を読むな」
「失礼しました。しかしそれ以上に、『こんな』という表現が気に食わなかったのです」
「悪かったよ。それは、確かに、差別的な表現だったな。まだお前のことを、よく知りもしないのに」
「私って、あなたが思う、その百億万倍は凄いんですよ」
「その倍数表現から、凄みが感じられないのだが」
数学には通じていないらしい。
大丈夫だろうか。
お使いを頼むのは控えた方がよさそうだった。
「何言ってるんですか。天下のユウへグさんですよ? お使いなんて、それこそ、お茶の子さいさいですよ」
自信ありげである。
ほほう、言うじゃねえか。
それなら、最初の仕事はお使いだ。
俺はポケットから銀貨を取り出す。
「これでパンを買ってこい。ここに来る途中、店があったはずだ。そこで、パンを一つ買ってこい」
「はい、買ってきました」
最初の仕事としてはまさにうってつけなのではないだろうか。
お使いなんて、まさに使用人らしい仕事だ。
この一仕事を皮切りに、こいつにも上下の関係というものをちゃんと……。
……え。
「え」
「はい?」
「え」
「はい、買ってきました」
そう言う彼女の手の平には、確かに、一人分のパンが乗っていた。
「え……」
「何回『え』って言うんですか。ほら、受け取ってください。私の初仕事は、こうして、完璧に遂行されたのです」
「いやいやいや、待て待て待て」
「そんなに待て待て言わなくたって、パンは逃げませんよ。急いで食べようとしないでください。食いしん坊さん」
「断じてそういう話ではない」
いやいや、こいつ、今の一瞬で何をしたんだ?
瞬間移動か?
テレポーテーションというやつか?
そんな超人ワザを、今、こいつはしたのか?
「いえ、普通に」
普通に。
あっけらかんとそう答える彼女。
「……そうか、普通にか。そうか……。そうだよな」
何が『そう』なのかは、俺にも分からない。
ただ、本当に、今の子供って凄いらしい。
しっかりしているというか。
俺の時代じゃあ、考えられなかったな……。
「……って、おい、お釣りが少ねえぞ。どういうことだ」
「えっ」
数学に通じていなかったしっかり者の彼女は、しっかりとぼられていた。




