表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

しー お使い

「ここがお前の部屋で、ここが台所で、これが掃除用具を仕舞う場所だ。分かったな?」


 あいにく我が家はみすぼらしいので、間取りの説明もそんなもので済んでしまった。


 我ながらみすぼらしい家だ。


 悲しくなる。


「分かりました。私も悲しんでおきますね」


「お前は悲しまなくていい。『こんなにも素晴らしい家に住まわせてもらえて光栄です』と三回復唱し、泣いて喜べ」


「ご冗談を」


 と、アッサリ、キッパリ、俺の言葉を突っぱねる彼女。


 冗談と言われて何も言い返せないのが余計に悲しい。


 それも、こんな少女に言われているのだ。


 こんな少女に。


 こんな。


「こんなって言うな」


「おい、今までは一応敬語だったろ。そして俺は、『こんな』と声に出して言った覚えはない。謎の力で俺の心を読むな」


「失礼しました。しかしそれ以上に、『こんな』という表現が気に食わなかったのです」


「悪かったよ。それは、確かに、差別的な表現だったな。まだお前のことを、よく知りもしないのに」


「私って、あなたが思う、その百億万倍は凄いんですよ」


「その倍数表現から、凄みが感じられないのだが」


 数学には通じていないらしい。


 大丈夫だろうか。


 お使いを頼むのは控えた方がよさそうだった。


「何言ってるんですか。天下のユウへグさんですよ? お使いなんて、それこそ、お茶の子さいさいですよ」


 自信ありげである。


 ほほう、言うじゃねえか。


 それなら、最初の仕事はお使いだ。


 俺はポケットから銀貨を取り出す。


「これでパンを買ってこい。ここに来る途中、店があったはずだ。そこで、パンを一つ買ってこい」


「はい、買ってきました」


 最初の仕事としてはまさにうってつけなのではないだろうか。


 お使いなんて、まさに使用人らしい仕事だ。


 この一仕事を皮切りに、こいつにも上下の関係というものをちゃんと……。


 ……え。


「え」


「はい?」


「え」


「はい、買ってきました」


 そう言う彼女の手の平には、確かに、一人分のパンが乗っていた。


「え……」


「何回『え』って言うんですか。ほら、受け取ってください。私の初仕事は、こうして、完璧に遂行されたのです」


「いやいやいや、待て待て待て」


「そんなに待て待て言わなくたって、パンは逃げませんよ。急いで食べようとしないでください。食いしん坊さん」


「断じてそういう話ではない」


 いやいや、こいつ、今の一瞬で何をしたんだ?


 瞬間移動か?


 テレポーテーションというやつか?


 そんな超人ワザを、今、こいつはしたのか?


「いえ、普通に」


 普通に。


 あっけらかんとそう答える彼女。


「……そうか、普通にか。そうか……。そうだよな」


 何が『そう』なのかは、俺にも分からない。


 ただ、本当に、今の子供って凄いらしい。


 しっかりしているというか。


 俺の時代じゃあ、考えられなかったな……。


「……って、おい、お釣りが少ねえぞ。どういうことだ」


「えっ」


 数学に通じていなかったしっかり者の彼女は、しっかりとぼられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ