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にじゅういち 知らない男

 ひとまず、到着はした。


 昨日、ユウへグがユウへグらしくねえ挙動をした、例の場所。


 昨日と同じく、通りは人で溢れている。


 これでもかというほどに溢れている。


 が。


 一見、怪しい人物はいない。


 人物に限らないでも、怪しいポイントはない。


 『怖い人』らしき人物がいないのなら、今朝の俺の早起きは無駄に終わったことになる。


 まあ、そもそも、昨日ここにいたかもしれない人間が、今日もここに来ているなんて保証もない。


 「今日もいるかもしれない」という可能性にすぎないことを前提で俺は今日、ここに赴いたわけなのだし。


 いなければ、いないで、仕方がない。


 これから俺が選べる選択肢は、ざっと三つ。


 その一、ここで、『怖い人』なる人物が来るのを待つ。


 この場合、俺の今日分の仕事は、後回しになる。


 その二、もう家に帰って、別のアプローチを試みる。


 たとえば、本人に訊いてみる、とか。


 その三、もう家に帰って、昨日今日のアレコレをなかったことにする。


 面倒そうなことは忘れてしまおう、精神。


 以上、三つの選択肢。


 選択できるのは一つだけ。


 突出した決断力を持たない俺の、突出していない決断力が試されている。


 さて、どうするか。


「その四、私の話を聞く。なんていうのもありますがね」


 なに?


 その四?


 なんだ、その四って。


 俺はそんなの考えていないぞ。


 もしや、俺の思考がついに俺のコントロール下に存在し続けることを拒んだか。


「少なくとも私としては、その四をお勧めするのですけどね」


 俺政権に反抗した思考が俺にお勧めしている。


 どういうことだ。


 俺は気が狂ってしまったのか?


 なんたることだ。


「じゃ、ねーよ」


「おや、やっとこちらを向いてくれた」


 いつの間にやら、知らない男が、いつの間にやら、俺の隣に立っていた。


 一切気配を感じなかったのはおそらく、俺が馬鹿な頭の回転をさせていたからではないだろう。


「何か、用ですか」


「はい、用があって声をかけさせていただきました」


 どこからどう見ても、やっぱり知らない男だ。


 俺と同世代くらいの、知らない男だ。


 貴族かよ、と言いたくなるくらい、高価そうなコートを着ている。


 ホント、貴族かよ。


「貴金属かよ?」


「そんなレアでメタリックな突っ込みはしていない」


 というかそれ以前の話、俺は『貴族かよ』とも口にしていない。


 どうして聞いてもいない台詞の聞き違いができるのだ。


 読心術でも使っ……。


 …………。


「お前、何者だ?」


「とりあえず、どこか入りましょう。そうだ、この近くに喫茶店があります。話はとりあえず、それからということで」

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