じゅうはち 大通り
大通りは、さすが大通りというだけあって賑やかだ。
多くの人が行き来し、多くの会話が為され、多くの物資が運ばれている。
まさに、大通り。
「私、こういうところ、好きです」
「それは良かった。気晴らしという目的も、無事に達成されそうだな」
俺も、賑やかな場所は好きだ。
活き活きとしている場所は見ていて気持ちがいい。
普段は家で執筆三昧だから、時にはこういうのも、悪かねえぜ。
「『悪かねえぜ』って、悪役が言いそうな台詞ですね。悪役なんですか?」
「俺は善良な市民だ。お前と違ってな」
「誰が善良じゃない市民ですか」
お前だ。
生意気娘。
「生意気娘じゃなくて、ユウへグです」
「そうだった」
「そうだった、って」
生返事。
「それで、どこまで行くよ? 散歩つっても、短めの散歩と眺めの散歩、二種類あるぜ。どっちか選べよ」
「そうですね、記念すべき第一回目のお散歩なのですし、ここは堅実に、短めでどうでしょう」
「そうか。ああ、いいと思う。堅実は、俺の好きな言葉だ」
「好きな言葉は『ユウへグ』だったのでは?」
はて、どうだったかな、それは嫌いな言葉に分類されるべきものな気がする。
聞くだけでおぞましい。
誰だ、それ。
「私だ」
「知っとるわ。そして、お前のその『~だ』は違和感しかねえな」
そう考えると、生意気娘と名高いこいつも、普段はしっかり敬語を使っているんだなと思い知らされる。
意外や意外。
「略していがいが」
「止めろ、略すな」
喉の悪い状態みたいになってしまっている。
というか、『生意気娘と名高い』とか、『思い知らされる』という言いぐさには触れないのかよ。
それらを押しのけてまで『いがいが』を取るな。
「思いついてしまったので仕方ないですね」
「思いついたことを即言うタイプなのか」
それで今まで会話していたのか。
いや、もしかして、歩きながらの喋りができないという彼女の言葉が実は伏線で、今はゼロ思考で喋っているとか。
ありそうだ。
「お前、もしかしてそれ、さっきのが伏せ……」
……あれ。
さっきまで横で歩いていた、彼女がいない。
あれ。
どこいった。
まさか、迷子?
これ、迷子?
迷子の流れ?
……ああ、よかった、そういうワケではないようだった。
俺が後ろを振り返ると、すぐそこに彼女は、ユウへグはいた。
どうやらただ単に、そこで立ち止まっただけなようだった。
迷子でなくてよかった。
……しかし、何故。
「おい、どうした、ユウ。まさか、失禁したか」
「…………」
……反応がない。
依然として、彼女は立ち止まったままだ。
「おい、どうしたんだよ。お前……」
いつまでも動こうとしないので、俺が近寄ると、彼女はハッとして、そして慌てた様子で、俺の身体にくっついてきた。
「どうしたん……」
待て。
何故、彼女は怯えている。
「だよ。お前」
「……い……と……」
「何だって?」
ここは大通り。
大通りは、さすが大通りというだけあって賑やかだ。
小さい声は、周囲の声にかき消されてしまう。
そんな中で、俺は、彼女の声が聞こえなかった。
「こ……ひ……」
「分かんねえよ。もう少し大きな声で頼む」
そうして、彼女が言ったのは。
「こわい……ひと……いた……」
怖い人、いた。
どういうことだ?




