意味と参戦
エープリルフールらしい事何も考えていなかった……
参戦を決めたナツメ先生は男子達とは拳を突き合わせたり、女子達とは肩を組んだりして士気を高めていた。
そんなナツメ先生の顔には一点の曇りがない、明るく輝くような満面の笑みが浮かべられていた。
僕とアーサーはそんな光景を見て、内心でハイタッチを交わした。
「上手くいったな」
「シャー」
──こうして静かに喜んでいるように、僕達はこの状況に持っていきたかったのだ。
ルークソン君に「意地悪」と表現された、『生徒達を危険に晒すか、それとも成長の目を摘むか』というナツメ先生への問い。
その問いは、教師である彼女を果てのない迷宮に迷わせた。
それはナツメ先生の教師観を捻じ曲げるかもしれないものであり、ただの生徒である僕がするべきではなかった問い。
だが、それでも僕は決断を迫った。
何故なら──今のように吹っ切れてほしかったのだ。
生徒達を危ない戦場に投げ込むか否か、それを僕が決めてしまったら、きっとナツメ先生の中で気分が晴れないままになっていただろう。
実際に、僕と対面した時からナツメ先生は確実に悩みとして負の感情を生み出していた──それはアーサーの耳打ちで分かっていた。
クラスメイト達の参戦の可否は正直どちらでも良い……というか、どちらにせよ参戦すると思っていたのだが──一つでも大きな戦力が欲しい僕からしたら、ナツメ先生が悩みに陥るのは望ましい事ではなかった。
だって、ナツメ先生は学院長が勇者として活動していた──メリカ大陸が魔王に支配されていた時、仲間として戦っていたのだ。
こうした荒事に豊富な経験は確実に持っていて、また僕の予想からすると仮面なしに匹敵するかそれよりも高い戦闘力を保持している。
──そんな戦力を悩みという悪影響を背負ったまま戦わせたくなかった。
悩みとして引きずらせずに、ナツメ先生に百パーセント力を発揮させたい。
その為に──『ナツメ先生に圧力をかけて決断させようとする』という小芝居を打ったという訳だった。
ナツメ先生は気付いていなかったようだが、僕やアーサーはクラスメイト達の存在にも気付いていた。
故に、限界まで追い込んだ──彼らが支えに入ってくれると信じて。
その結果、こうしてうまく行ったという訳だった。
「──イティラ、宜しくな!」
「ああ、宜しく。ただ、これは訓練とかじゃない。死ぬ可能性もある──その事を頭に入れていてほしい」
僕の肩に腕を回して組んできたリアス君。普段は関わりがないというのに、ここまでの行動を見せるとは少しテンションが上がり過ぎている。
だから、敢えて僕は彼を含めた全員に聞こえる声で、あたかも冷水をぶっ掛けるようにそう忠告した。
僕の声が旅館の玄関に響いた瞬間、それまでわいわいとしていた雰囲気が一瞬にして引いていった。
折角の空気を何ぶち壊してくれてんだ──そう思われたとしても、僕はやらなければならなかった。
「僕らは最も容易く死ぬ。斬殺、絞殺、撲殺、毒殺……死ぬ要因は数え出したらキリがない」
「「「…………」」」
「今回の作戦で誰か一人でも死んでしまったら、誰が一番悲しみ、一生思い悩む事になる?」
「……ナツメ先生」
「そう、先生だ」
今回、『ゴースト』討伐戦に参戦させると決断したのはナツメ先生だ。これで誰かが死んだら先生は確実に自分の選択を悩む。
勿論、死なせるつもりはない。より良い配置を考え、安全性を考え……万が一があったとしても【魂の転移】で救う。
それでも、万が一の万が一が起こってしまうかもしれない。
だから──
「一人一人が肝に刻んでおいてほしい──自分の命を最優先に行動する事を。決して、無茶をしないと」
僕は静かだが、はっきりとした声でそう告げた。
だが、滅茶苦茶バカ真面目に語った事が途端に恥ずかしくなってきた。
「……とまあ、修羅場を潜ってきた僕からの忠言でしたが……どうですか?」
気恥ずかしさからそんな保険を掛けるような言葉を付け加えたのだが、クラスメイト達は──
「──おうっ! 任せとけ!」
「流石、我がクラスの勇者様。言葉の重みが違うねぇ」
「絶対に守る、ナツメ先生を悲しませたくはないもん。というか、死にたくなんてないもんっ!」
──僕の言葉を真剣に受け入れてくれていた。
これならば万が一の万が一は絶対に起こらないなと確信して、僕は安堵した。
というか、何言ってんだコイツ……とか言われたら恥ずかし過ぎて死んでたから良かった。
「俺たちに任せとけ。超逃げ回りながら超役に立ってやる!」
「……まあもっと言うと、学院交流で関わった悪魔達にも協力してほしいんだけど」
あの悪魔達も高い戦闘力を有している。
各地の構成員を潰すのは打ってつけなのだが……まあ無理──
「──その言葉、待っておりましたわっ!」
「へっ?!」
彼らの強力を取り付けるのは無理だろう。
そう思った瞬間──頭上から聞き覚えのある声が響いてきた。
今まで一切気配を感じていなくて、まさに完全に不意打ちだった声。
その声の主の方へと視線を向けると──
「──ドーラ……! それにキャラ達も……」
──ドーラ率いる、あの学院の悪魔達が階段の上に勢揃いしていたのだった。
キャラちゃん、覚えています?




