イルビィと覇気
(俺は何をしているんだ……。自分から戦いたいと突っ込んでいって、力の差を見せつけられた結果、戦意を喪失して。挙句、前の敵にまで怒られて、本当に何をしているんだ。格上だからどうした、自分の永遠の可能性をただ信じて突き進むのが俺だっただろう)
強敵を前にして諦める癖がついたのはいつからだったか──魔王と戦った時だ。イティラ達を守ると戦いに入り、魔王の圧倒的な力の前に屈し負けた。あの時から格上には勝てないと思い込んでしまう癖がついてしまったんだ。
対して昔の俺はどうだったか。圧倒的な力の差を前にしても馬鹿正直に突っ込んで、勝ちを握ってきただろう。十四の時に出た大会だって、戦うのが本職な者を相手にした時に自分の非力を認めながら勝ったじゃないか。
過去の俺が今の俺を見たらどう思うだろうか。
「ハハッ、みっともねぇ。そうだな、今の俺はみっともないよ」
(みっともない。みっともない。みっともない。みっともない。だったら──)
「挽回しなくちゃなあぁ」
「ほう、その意気だアレン。そのまま、全力を以って立ち向かえ」
「おうよ」
イルビィに猪口才な手はもう通じない。だからこそ俺は真正面から馬鹿正直に突っ込んだ。
「キラレタショウゲキデ、バカニデモナッタカ」
さっきの様に下段に構えて俺を向かい討とうとするイルビィ。択は二つ、そのまま斬り上げか、薙ぎ払い。
「そうかもなあ」
激しい剣戟が辺りに響き渡る。俺は読み勝った、いや予知した。イルビィの肉体に備わる仮想の筋肉の収縮、仮想の心臓の鼓動、息遣い、全てを知覚して一手を予知した。予知していたからそれに対して有効な一手を構築出来る。
「『操氷』」
小型の氷山がイルビィの背後から伸びていき、彼の腹を貫いた。
「ガッッ」
「ははは、上手くいって良かったぜ」
イルビィを避けられない状態に固定して氷山で貫く、それが突っ込んでいる最中に思いついた作戦だ。ただ、俺は魔力適性がないせいで大きな事は出来ない、だからイルビィが下段からの斬り上げを行ってくると予知をした時から魔力を練り始めていた。氷山を創造する感覚はさっき暴走した時のを覚えている。
合を打ち合い始めたら作戦開始。結果、上手くいってくれた。
腹を氷山の先端で貫かれたイルビィは苦しそうに悶えている。俺がイルビィの剣に押し負けなければその腹に氷山は刺さりっぱなしであるし、円錐型であるから押していけば、イルビィは氷山の根元で刺される事になり、傷は広がっていく。
俺はイルビィの足元に薄く氷を張り、踏み切れなにくくした。すると狙い通りにズブズブとイルビィは氷山の根元に向かって刺さっていく。
(このままならいける)
そう思い油断したのが、詰めの甘さだった。まさかの自分の張った氷の膜を自分で踏んで滑り、すっ転んだ。そのせいでイルビィに抜けられてしまった。
「ハアハアハア。オマエ」
イルビィが物凄い目つきでこちらを睨んでくる。そういえば、痛覚とかはどうなっているのだろうか。苦しんではいたが……。
俺は直ぐに起き上がって、イルビィに接近する。腹の穴は塞がっていない。回復する力はなさそうだ。
「二の翼──真空斬」
腹に風穴が空いているのであれば、そこを中心にして胴体を真っ二つに斬り離せば俺が勝てるはずだ。
そう思って剣技を放ったが、イルビィには目的を気付かれている様だ。腹を守る様に守りを展開して、確実に防いできた。が、少し守りが過剰で他が疎かになった。
それを読み、さっきされた様に傷口を蹴り込むと苦しそうに耐えていた。だが、耐えるだけで反撃はしてこない。腹の守りに精一杯なのだ。
──腹の穴一つでこちらが大きく優勢になった。
腹の傷を守ろうとするイルビィは攻めが非常に弱くなり、こちらが一方的に攻める事が出来た。しかし、長くは続かなかった。
「ハァ。モウヤメダ、コンナノハツマラナイ」
そう言って上段に剣を構えて、腹を隙だらけにさせた。俺はその機会を逃さずに斬ろうと思って近付くが、近付けなかった。
大地が割れて大気が震えている。俺の全身が謎の恐怖に包まれる。それらは全てイルビィの覇気によるものだった。
集中を練り上げたイルビィからは強力な覇気が発せられて、誰にも近付かれない領域を創り上げた。その中でイルビィはただ集中に集中を重ねている。
(動け、動け俺の身体。マズイ攻撃がくる)
イルビィがやろうとしているのは明らかにオワリノ型だった。あの勢いの虎翼流のオワリノ型を放たれたら、俺を含めたここで戦う全ての生徒が消え去る。
「動けえええええ」
そう叫ぶと背後からポンと押された。振り向くとそこにはファントムが立っていた。
「俺も手助けをする。絶対に止めるぞ」
そう言うとファントムは鬼の様な姿になった。『理性破壊』を使ったのだ。
(ちょっと待てよ。敵をさらに増やすつもりか……)
理性破壊はその名の通り理性を破壊して強力な魔力を得る魔法だ。理性を失えば当然、皆獣の様に暴れ狂う。
「大丈夫だ。そんな顔をするな、俺は敵にならない」
理性を破壊したファントムがそう言った。
「何故……?」
「そんな事は後でもいいだろう。とりあえず、目の前の奴を止める」
ファントムに導かれてイルビィに視線を飛ばすと、もう集中が限界ギリギリまで高まり、尋常じゃないほどのは気が溢れ出していた。
「おうよ。力を貸してくれ、ファントム」
(あれを止められなければ俺達は死ぬ。絶対に負けられねえ、この場にいる全員の命が俺たちにかかっているのだから。
オーラで出来たイルビィは呼吸や鼓動はしていますが、血液が通っていなければ空気も吸わないので形だけのものです。




