アレンと戦意喪失
「『バクレツ』」
視線を交わし合っていると突然、イルビィは魔法を行使してきた。
見つめ合い、動きを見ていた俺はいくら何でもそれに気付き、回避行動を取った。イルビィは爆炎に隠れながらこちらに飛び寄ってきていて、上空から剣が振り下ろしてきた。
「あっぶね」
さっきから段々とイルビィが知恵をつけてきていて、攻撃が狡猾になってきている。直接的な攻撃は殆どなくなった。氷像の攻撃も通じなくなり、破壊された。
「五の翼──神如翔崩剣」
振り下ろしを外して距離を取ろうとするイルビィに張り付いて、俺は剣技を放った。あと少しで当たるというところでイルビィは魔弾を発現させて自らの身を守ってきた。
「二の翼──真空斬」
横薙ぎ払いを行うと垂直跳びで避けて、空中から蹴りを放ってきた。
(時間が経てば経つほど、倒すのがキツくなっていく)
オーラで出来ているから本物ほど強くはないが、時間が経てば経つほど本来の力を取り戻していっている様に思う。思考、攻撃、回避、そのどれもが本当に磨かれてきている。
しかし──
「一の翼──三段袈裟斬り、三連」
魔弾を斬り伏せ
「二の翼──真空斬」
攻撃を受け止めて
「おっと、危ない」
爆破を避けて
「五の翼──神如翔崩剣」
浅くても何度も何度も攻撃を与えれば、必ず勝てる。
こちらが攻撃を食らわず、相手だけ食らう。それを続ければ相手はいつか膝を折る。アホみたいな作戦だが、今の俺がイルビィを倒すにはそれしかない。
「メンドウクサイ。イティラトタタカワセロ」
初めてイルビィが話しかけてきた。やはり、徐々に知能が上がっている。
「それは断る。お前を倒す事こそが今の俺に与えられた使命なんだからな」
「オレハイティラヲコロセレバ、ソレデヨイ。ムダナチヲナガスヒツヨウハナイ」
無差別に殺そうとしているのではなく、あくまでイティラだけが標的なのか。そういえば、初めて襲ってきた時にイティラだけを狙って、他の生徒には一切危害が加えられなかったと聞いていたが、それが理由か。
「貴方のダチは傷つけますが、他の人は傷つけないので許してください、って言っている様なもんだぞ。許可するわけないじゃないか」
「ソウカ……。ナラバヒトリヒトリコロシテイコウ」
そう言うとキョウカの方を向いて、気付けないほどの超速で彼女に接近した。そのまま、大剣でキョウカの片口から腰までを綺麗に斬った。
キョウカから血が溢れ出す、それはもう多量に。手当てしなければすぐに死んでしまう。
そう思っている間にイルビィはロニエの方に接近していて、同様に袈裟斬りを放った。身構えていたおかげで致命傷にはならなかったが、ロニエも十分大きな傷を負ってしまった。
「ちっくしょう、やられた」
まさかこの数瞬で二人がやられてしまうとは……。このままでは本当に他の生徒も皆んな殺される。
「ドウスル?オレヲイティラノモトニムカワセルキニナッタカ?」
「いいや、なっていないね」
「イイノカ?ハヤクテアテシナイト、アノフタリホントウニシヌゾ」
「いいや、大丈夫だ。彼女たちは強い。きっと耐えてくれるはずだ」
俺の視界の端で赤髪をほんの少ししか揺らさずに移動するロニエが映っている。彼女が向かう先はキョウカの所。キョウカを回収して保険医のところに向かうつもりだろう。だったら、イルビィの気を引きつけておいて逃げられる様にするべき。
「セメテモノナサケダッタガ、ムゲニスルトハナ。ナラバ、シネ」
イルビィが高速で接近して来ていて、下段からの斬り上げをしようとしている。
俺はその場でじっと立ち、イルビィが間合いに入ったタイミングで上段からの振り下ろしを行った。
「なっ!?」
俺は完璧なタイミングで攻撃したと思っていた。しかし、俺の手には何の感触もなく、俺の腹には裂かれる様な鋭い痛みが走っていた。
──読みを外した。イルビィが行ったのは斬り上げに見せかけて、薙ぎ払い。低い体勢からの攻撃は俺の斬撃を避けて、俺に斬撃を加えた。
そのまま、傷口を蹴られた俺は吹き飛ばされた。
「グハッっっ。カハッッッ」
血が溢れ出す。頭がぼーっとしてくる。イルビィを倒すという事が頭から離れていく。
「オワリカ。トテモヤッカイダッタゾ。シカシ、オレニハカナワナイ」
「……」
俺は敵を目の前にして初めて目を瞑った。多量に出血と届かない力。何故だか、ポッキリと戦意が折れてしまった。
「シネ」
イルビィから剣が振り下ろされる。
──その瞬間、キイィィンと頭上から甲高い音が響いた。
「オマエハ……」
「アレン・ジェネウス、みっともないぞ。あの時の威勢はどうした。今のお前が所有者ではその剣も泣いてしまう」
俺はその声に目を開き、その姿を確認すると──
あの時戦った九位階の五、ファントムがイルビィの剣を受け止めて、睨む様にこちらを見ていた。
「アレン、お前ならばコイツを倒せる。勇気を振り絞れ、戦意を固めろ、男を見せろ」
かつての敵に情けない俺は叱咤されていた。
まさかのファントム。彼は何故、アレンを助けたのか……。




