剣と気
「んで、どうするの。近付けば近付くほど恐ろしいんだけど」
「策が思いつかない。とにかく攻撃してみて、確認しない事には始まらない」
もし仮に魔王の強さがあの時と同じであれば、僕も強くなっているし勝算はある。けど、ハーツの強さに魔王の力が上乗せされているのだとしたら分からない。
「了解。私は駆け回りながら隙を突いて攻撃する。トロムは正面からお願い」
「分かった。四の塵──性質変化・剛。『身体強化III』」
強化技を使い、肉体と魂の結び付きは暴走一歩手前の最大限にする。クロエはもう飛び出していった。
まずは雷轟で馬鹿正直に突っ込んで動きを確認する。魔法で受け止めてくるかと思っていたが、いつの間にかハーツの手には見覚えのある禍々しい剣が握られていた。
「おっと、危ない」
ハーツは僕の剣を正面から受け止めようとしていたが、僕は近場にあった死骸の口に足を突っ込んで、雷轟の勢いを止めた。
(魔王の持っていた剣は当たるとこちらの剣が使い物にならなくなったはずだ。絶対にアレに触れてはならない)
僕の剣を受け止めるために前方に体重を掛けていたハーツは空振り、大きな隙を見せた。
僕はその隙を逃さず、再び雷轟で接近して顔面に蹴りを入れた。後方からはクロエが斬撃を入れて、消えた。
(ハーツは剣を習った事がない。剣を使うに魔王の記憶か何かを頼りにしている感じがする。そこが狙い目か……)
魔王の力を得たからといってそれを扱えなければ意味がない。使いこなされる前に攻めまくる。
「『針山』」
口角を上げたハーツは僕だけを狙って、細かな針を至る所から射出してきた。
僕は魔獣の亡骸を四面に蹴り上げて盾にして、無数の針から身を守った。針から守ってくれた亡骸は見るに耐えない姿となってしまったが、元は魔王が生み出したものと割り切るしか今の僕には出来なかった。
魔獣の管理のために止まっているハーツに突き、蹴りを連打するがまるで聞いている様子がない。何より攻撃していて手応えがない。
「何故、俺がここから動かないのか分かるか?」
いきなりハーツが喋り出した。赤黒くなった眼をこちらに向けて睨みつけるように。
「分からないなッ」
勢いをつけて、腰の入った蹴り。これは決まった、と思ったが──
「なッ!?」
蹴られた衝撃で黒の外套が剥がれ、飛んでいった。その下に見えたのは生を感じられないのにギョロギョロと動く目やアギト、牙だった。
「俺はこの死んだ魔獣を取り込み、自らの守りとした。お前の攻撃は効かない」
(そう言う事だったのか……。異常なまでの手応えのなさは魔獣の肉体の所為で、それに守られていたからか。それを知って僕はどうする。何をすればあの装甲を抜ける?)
生半可な攻撃じゃ通じない。一か八かを賭けて剣による攻撃しかない。
「五の塵──豪剣連斬」
僕はハーツの剣を避けて、その胴に斬りかかった。初めは良かった、十分にその魔獣の肉体を斬り込めていた。が、途中から歯の入りが悪くなっていった。非常に嫌な予感が脳裏を過る。
「はっはっはっは、お前は馬鹿だなあ。一度、魔王と戦った事があるんだろ。なら気づけよ、お前が嫌がっている『纏気』、これは魔法だぞ」
僕は自分の剣を見た。そこには魔王の気が刃を覆うように付いていた。
(纏気を身体に使用しただと……。畜生、やられた)
ハーツの背後でクロエも困惑している。
「更なる絶望をお前にあげよう。ハアアアアア、ハアッ」
ハーツが気合を入れて声を上げると彼の背後から再び赤黒いオーラが飛び出してきて、それは九つに分かれた。それぞれがそれぞれの形を成していき、やがてまた見覚えのある九人となった。
「九位階……」
「ははは、魔王の手駒の中で特に強力な配下九名。それすらも今の俺には再現可能だ」
(本当にまずい。魔王の力を得たハーツに加えて更に九位階だと……。どうすればいいんだ)
本気の手詰まり。この事態を収集する術が無いッ……。
今はクロエが二刀のうちのもう一つを駆使して何とかしてくれているが時間の問題だろう。
「イティラ!本気で困っている時は助けて、って言うもんだぜ」
「そうよ。何度も人を救ったからって言ったって貴方はまだ子供なんだから。何でも一人で抱え込んで解決出来るわけないでしょ。って言っている私も一つしか変わらないけどね」
セキグ先輩達五人、だけじゃない。数多くの先輩方が立って、こちらを見つめていた。
「けど、今回の敵は……」
話に聞いた限り、九位階の一人に歯が立ったのはセキグ先輩達五人だけだと。
「いつまでもイティラに甘えていたら先輩失格だからな。偶には格好付けさせてくれ。協力すれば何とかなるはずだ」
「それに、ここには俺たちだけじゃない。他の学院の生徒だっている。こんな事態だ、皆んなで協力しないとな」
先輩方が顔を見合わせて頷き合う。それは他学院の生徒もそうだった。
「先輩方……。そうですね、九位階は任せます。だから僕は絶対にハーツを」
「うん、任せたわよ。イティラ君、剣を渡してみて」
僕が剣を手渡すと付いていた魔王の気が剥がれた。先輩の魔法による効果だった。
「これでよし。これで攻撃しても同じ事にはならないわ。あそこの子の剣も直すから交代してきて」
「分かりました。ありがとうございます」
「イティラ、絶対に勝てよ」
「はい」
セキグ先輩の力強い言葉は僕の背を押し、悩んでいた頭はすっかり元通りにしてくれた。
「クロエ、代わってあの先輩の所に」
「ふむ、剣を直されたか。まあいい、串刺しにしてやるよ」
ハーツが手を振りかざして、僅か一瞬にして魔法の発動を行ってきた。
頼りになる先輩達。




