イティラとハーツ
(ハーツの魔法は雷電、泥岩、爆裂と拘束が判明している。まだ他に何かあるか分からないけど、速攻で突っ込んだほうが良さそうだ)
そう思い、開幕の鐘と同時に雷轟でハーツ向かって飛び蹴りをした。こちらが強化技をすると思っていたのだろう、ハーツは魔法の発動準備段階で無防備であったから鳩尾に綺麗に刺さった。
「くふっ」
飛び蹴りの衝撃のままにハーツは後方に吹き飛び、更なる隙を晒した。僕はそれを逃さない。
「一の閃──雷轟、三の塵──五月雨斬り」
僕は地面スレスレを飛ぶ様に移動して連斬をくらわせた。ハーツが仕掛けた地雷の様な魔法もしっかり避けた。
魔法発動の隙すら与えず、僕は攻撃を仕掛け続けた。ハーツは魔導師、魔法以外の攻撃手段は使えない。一方的な試合であった。
「これで終わりだ」
踵落としのために足を振り上げた。あと数瞬で当たるという時、僕の腕が身体に固定された、謎の緑色の輪によって。
しかし、手を縛りつけたって足が止まるわけではない。僕の踵がハーツの肩に刺さった。それと同時にハーツの身体が背後に蹌踉めく、そう思っていたが違かった。
僕の踵と肩の間に泥岩を発現させて、衝撃を受け止めてきた。念動力系の魔法も使える様だ。
「くくく、はっはっは。私の勝ちです」
着地と同時に足も緑の輪によって縛られてしまった。
「手足を縛られて貴方はもう身動きを取れません。なす術なくあなたは私の手によって敗北を突きつけられる。『雷電』」
正面に飛び込んで避けたが、手足が使えないのは動きづらい。上手く立ち上がることが出来なかった。
「手足を縛ればお仕舞い。故に剣士は弱いのです」
僕の背に足を乗せて魔法を打ち込んでくる。手加減しているのだろう、痛みは少ないが傷がどんどんと増えていく。
「この輪っか、やっぱり僕を拘束したのは君だったか」
「それがバレた所で今更何の問題もないのです。貴方は私に負ける、その運命が決したのであれば。『雷電』」
「くっっ、くう」
拘束魔法は外部からの衝撃に弱い。故にさっきから雷電しか使ってこないのだろう。ハーツの魔法を輪に当てることさえ出来れば、拘束は外せるが……。至難の業だ。多分、そうさせない為に僕の背中に足を置いて固定しているのだろう。どうしたものか。
『また、肩を外せばいいじゃないか』
(……!?!?生存本能、眠りについたんじゃないのか)
『そのつもりだったが、度々の電流のせいで寝られるものも寝れん。不愉快だ』
生存本能は何かかなり怒った様子でそう言った。
(けど、片方を外すって言ったって……また痛いのは嫌だよ)
さっきの痛みは治ったが、幻視痛の様にジクジクと脳内で蝕んでいる。
『一度、強引に外したから次は外しやすくなっているはずだ。あまり何回もやるのは良くないが、二回ぐらいなら大丈夫であろう』
(本当かな……)
そう離している間にもハーツの攻撃が降り注いでいる。特に黙り込んだから体力の限界が近いと思ったのか、さっきよりも激しくなっている。
『さあ、今度は自分でやってみろ』
言われた通りにやってみるとゴキっという嫌な音と共に痛みが襲ってきたが──
(痛っ……いけど痛くない。)
『そうだろう。さあ、もう片方も』
こちらもゴキっという痛々しい音と共に痛みが走ったがさっき程ではなかった。
そのまま、緑色の輪をすり抜けて無理矢理ハーツの足から脱出した。
「ほう。なるほど」
ハーツのその言葉を背に超回復で肩を治し、足の拘束を解いた。これで完全に自由になった。
「自分で肩を外して脱出とは、やはり剣士は野蛮だ。美しくないッ」
手をバッと広げて何やら熱弁をしだすハーツ。ペラペラと魔導師の素晴らしさを説くハーツの周囲には独特の空気が形成されて、近付きがたくなった。
「つまり、この世に剣士なんて要らないのですよ。よって、目の前の不要なものは排除しなけええばなりません」
急に話が飛躍した様に思えるが、話半分で自分の治療を行っていた僕には確かめる術はなかった。
「これで消えなさい。『爆裂』付与『泥岩』付与『雷電』」
遠距離に離れたハーツは僕の周りに爆破の包囲網が敷いた。逃げ場はない上に攻撃が届かない。彼方此方に転がった破裂すれば強力な電流も発される。絶体絶命に思えるが、僕にとってはハーツがしたのは僕に攻撃手段をくれただけだった。
僕は近場にある土の塊を掴んでハーツに放り投げた。すると、衝撃によってハーツの近くで破裂したそれが電流を発してハーツを襲った。
──決着は一瞬だった。
追加で数個投げて隙を作った僕は雷轟で接近して、今度こそ踵落としを決めた。ただ、その簡単な事だけでハーツは倒れ、僕が試合に勝った。
『勝者イティラ選手。途中は非常にピンチな状況となり、私もついに負けてしまうのかと思いました。が、最後の瞬間に機転を効かした行動によってハーツ選手を撃破、無敗の名に傷をつけない、イティラ選手の強さを示す戦いでした』
(進行がどちらかに偏っているのは良いのだろうか……)
「イティラ、お疲れ様」
観客席に戻ってきて早々、今日だけで何度聞いたか分からない言葉をかけられた。
「なんか物凄くヌルッと勝ったな」
「アレンの言いたいことは分かるよ」
自分でも今回の勝利はあっけなかったと思う。毎回、何か衝撃的な事があるとは思っていないけど、もしかしたら僕はそういう事を求めているのかもしれない。
ヌルッとした勝利……。




