イティラと拘束
「マズイッッ」
今まで踏ん張っていた足場が壊れてしまって体勢が崩れた。受け止めきれない。当たったら即死の砲撃が僕の全身を包んで、焼き尽くす──。
前に砲が急に消滅した。突然の事に何が起こったのか分からなかった。
ふと、僕はメギガのいた方を向くと彼は後方に倒れるところだった。雷轟で彼の後方に回り、その背を支えた。倒れた時に当たりどころによっては死んでしまう可能性もあったからだ。
『勝者イティラ選手。最後のメギガ選手の代名詞とも言われる砲撃魔法をイティラ選手は防ぎ切った。流石は勇者学院随一の実力者、流石は魔王を撃退させた者。彼の快進撃をを止められる者はこの会場に存在するのか!?』
(何とか勝てた。最後の砲が消滅した理由は魔力切れだろう。最初の種目から隠密、死神の鎌などを多用していたとなると普通の人なら魔力が切れてしまうのが当然だ。飛翔斬に麻痺を付与したのを何度も放った上に隠密と空気昇りを使ってピンピンしているキョウカがおかしいのだ)
当のキョウカは観客席でご飯を黙々と食べているわけだが……。栄養が脂肪ではなく魔力に行くのだろうか?
観客席に向かう途中、身体がふらつき始めた。最後の無理矢理強化したのが身体にまた響いてしまったのだろう。全身の痛みと疲労感に包まれた僕は膝をついて休憩をする。
「おやおや、随分とお疲れですねえ。そんなお疲れな貴方にはこの魔法をプレゼントです」
背後から何者かの気配がすると思ったら、急に眠気が襲ってきて──。
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「遅い、遅い。イティラはまだか」
'俺'はイティラの試合が終了後、あいつの帰りを待っていた。が、一向に帰って来なかった。
まだ、それだけなら良かったが、もうあと一、二試合でイティラの試合が始まってしまう。それなのにアイツは現れない。
「イティラ君は絶対に逃げる様な人ではないですからね。何かに巻き込まれてしまっているのかもしれません」
「その線が硬いよな」
もしかして強化の反動や砲撃魔法の影響で、どこかで動けなくなっているのかもと思って、会場中を探したがいなかった。学院長も知らなかった。
イティラがいなくてもこの種目は俺が勝利に導くが、アイツが的前で逃げたと思われるのは好敵手として、友として嫌だった。
「どこに行ったんだ、アイツは」
会場は人が多すぎてイティラの気配は掴めない。キョウカにも魔力で探してもらったが、同様の理由でダメだった。
『さて、試合はどんどん進んでいき、再び彼の出番がやって参りました。ここまで負けなしのイティラ選手。彼については説明不要、圧倒的な強さの前に彼の前に立つ者は敗北者にしかなることが出来ない。それに対するはハーツ選手。最初の種目で裏切りを働き、皆からの信頼を地に貶めたがその実力によって回復させた者。イティラ選手を前にどんな試合を展開してくれるでしょうか……って、イティラ選手がいませんね。イティラ選手、出番ですよ』
会場がざわつき始めた。イティラの試合は注目を集めてきたせいで、余計に場内に現れない事が目立つ。
「ふっ、この私を前に逃げ出したのではないのですか」
そう声を上げたのはイティラの相手のハーツ。黒い外套をはためかせて右手を大きく広げている。
「いえいえ、彼を責めないであげてください。逃げてしまうのは当然なのです。圧倒的強者を目の前にして、弱者が取る行動は二つ、賢き者は逃げ、愚かな者は無謀にも立ち向かう。そう、イティラ選手は賢き判断をしたのです。逃げる事は恥ではない、どうか彼を責めないであげてください」
ハーツがペラペラと言葉を並び連ねる。怪しい、絶対に何か知っているな……。
ハーツがその場を去ろうとした時、反対の入り口から人影が飛び込んできた。
「すみませーん。遅れました」
「やっと来たか」
バタバタと走りながらイティラが会場に飛び込んできた。本当にイティラは何をしていたんだか。
「ふむ、貴方は私が思っていたよりも愚かでしたね。まさか来てしまうなんて」
「僕を拘束したのは君だよね。声や口調がそっくりだ」
拘束されていたのか、イティラ。それから誰の手も借りずに脱したとなるとイティラはやはりすごいな。
「はっ、何を言っているのかさっぱりです。それよりもここに現れたのなら私にやられる覚悟は出来ていますよね」
「出来ていないよ、絶対に勝つ。ズルをする君を僕は許しておけない、ここで改心させてあげる」
珍しくイティラが勝気だ。イティラも割と正義感が強めな方だからハーツの行動は気に掛かるのだろう。
『さあ、両者、出揃いました。勝利の女神が微笑むのはイティラ選手なのかハーツ選手なのか。それでは開始です』
開幕の鐘が鳴り響いたと同時にハーツが魔法の行使を準備するとイティラは強化技なしに速攻、突っ込んだ。
そのまま飛び蹴りへと移行したイティラはハーツの方に飛び込んでいって──。
イティラサイドでは何があったのか。




