人間観察とフィオナ
一頻り賞賛を受けた後、僕はアルガレムの治癒を行った。最後の瞬間、彼の筋肉を断ち斬ったからだ。
超回復を掛けているとアルガレムが目が開き、倒れてから間もないのに起き上がった。
起き上がったかと思ったらまた横になって呟くように言った。
「俺は負けたのか……」
そう言っているのに何故かアルガレムは気持ちの良い笑顔を浮かべていた。
「イティラ、お前は強い。散々、失礼な事を言ってすまなかった」
「いいや、別に良いさ。アルガレムも強かった、今まで戦ってきた者の中でも上位に入る」
「そうか……。俺は今まで一対一の戦いにおいて負けたことがなかった。だからこれからも勝つものだと、勝つことが当然だと思っていた。けど、それではいけない。勝てる試合を前にして人は最低限の努力しかしなくなってしまう。自分よりも強い奴はいくらでもいるのにな。それをイティラは思い出させてくれた。ありがとう」
さっきの笑顔はそういう事だったのか。負けなしの人生、それはそれで大変だと思う。まあ、負けばかりの人生だって大変なんだけど、僕が保証する。
「君の役に立てたなら良かったよ。僕だって君との戦いの中で学ばせてもらったこともあったし。これからもよろしく」
「ああ。よろしく」
僕はアルガレムの巨体を引っ張って立ち上がらせると改めて固い握手を交わした。彼とはこれから先、多くの関わりがあるような気がする。
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「お疲れ、イティラ」
待機場に行くと入り口の所にアレンが待ち構えていた。
「本当に疲れたよ」
「もしかしたら、イティラが負けるかもと思ったけど、全然そんな事はなかったな。お前も相手も凄え試合だった」
「俺もいつかあいつと戦いてえ」
アルガレムは本当に強かった。その事実はアレンにも伝わったのだろう。ましてや。同じ虎翼流だ。何か感じる事もあったのだろう。彼が戦いたくなるほどなのだから。
「僕はしばらくはいいや。ものすごく大変だったからね」
あの戦いをすぐにもう一回やってくれと言われても体力が保たない。それに──
「おい、大丈夫か!?」
僕は膝を折って、その場に屈み込んだ。
身体に適さない、遥かに限界を上回った強化技を使用していた。激しい痛みを感じていたし、その状態でアルガレムの相手をしていたのだから当然、身体もダメになる。
「う、うん。何とかね。やっぱりもっと身体を鍛えないとダメだね」
力の許容限界は恐らくだが、身体の丈夫さに依存する。僕のひ弱な身体だからこうして今、動けなくなっているのだと思う。
「いや、玉のような汗もかいているし明らかに大丈夫じゃないだろ。誰か読んでくるか?」
「だったら、椅子まで運んでくれないかな。次の試合まで時間があるし、ゆっくり休んでいれば治るよ」
身体の使用権が奪われた時のように自分の意思では身体が動かない。運んでもらえるのが一番嬉しい。
「本当に大丈夫かよ、それ」
大事に抱えて運んでくれるアレンからは優しさを感じた。普段は超回復で何でも治せてしまうから、何だか新鮮だった。
魔剣士学校にいた頃は怪我をした時、父さんにこうしてよく運んでもらっていたっけな。
「あれ、イティラ君。どうしたんですか」
アレンに運ばれていった先にはロニエとフィオナさんがいた。キョウカは次の試合の出場準備に言ってそうだ。
「熱くなりすぎて最高出力で身体強化をしたそうだ。勝ったけど身体が動かないらしいから面倒を見てくれ。俺は試合に行ってくる」
「そうだったんですか!連れて来てくれてありがとうございます。行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
「イティラ君が暴れていたなんて知りませんでした。第一試合だったので見られなくて……」
キョウカは落ち込んだ様子で「私も見たかったです」と呟いた。
「いや、暴れてたって……」
「だから言ったじゃん。イティラ、凄かったって」
フィオナさんは見ていたようだ。確かロニエと同じブロックだったか。何故、呼び捨てなのだろうか。
「それなのに凄いのはいつもの事です、って聞く耳を持たないし」
ロニエがそんな態度を取るなんてあの連れ去った後、何をしたんだ。というか、かなり打ち解けたなぁ。
「ところでロニエちゃん。イティラ、身動き取れないんだってよ。今なら何でもやり放題だよ」
「何もしません」
「と言いながら膝枕をしてあげているの精細感が凄いよね。積極的なのか、奥手なのかよく分からない」
やれやれ、といった様に頭をゆっくり振って呆れた顔をした。
「動けないのなら横になった方が楽ですけど、この石で出来た椅子では硬いです。だから、膝を貸しているんです。別に変な意味があって膝枕をしているんじゃありません。」
「ふーん。イティラはどうなの?こんなに可愛いロニエちゃんに膝枕されて……好きになっちゃう?」
フィオナさんによって爆弾は突然投げ落とされた。
「な、何をいっているんだ、フィオナさんは」
「さん付けなんてやめてよ、呼び捨てでいいよ」
「ああ。分かった、フィオナ。んでさっきの──」
「あー、もう言わなくてもいいよ。大体分かったから」
フィオナは僕の言葉に重ねる様にして手を振りながらそう言った。
「分かったって、何が……」
何となくだが、知られたらまずい部分が彼女に勘付かれた気がする。
「んー、何だと思う?まあ、一つ教えてあげると私、前は他の人からは見えていなかったから至近距離で人間観察が出来ていたんだよ」
「……」
「多分、イティラ君が隠していたい事を気付かれてしまいましたよ。この子、思いの外性格が悪いです」
はあ、とため息をついて暗い表情を浮かべるロニエ。
「性格が悪いだなんてそんなそんな。ただ、知られたくない所を突いて楽しんでいるだけよ。それにイティラに言わないであげているでしょ」
「くうぅぅ。この子……」
人を揶揄うのを例外を除いて是としないロニエと嬉々として弄るフィオナははとことん性格がが合わないのだろう。
「って、寒」
急に試合会場から冷気が吹き込んできた。
会場に視線を飛ばすとDブロックから氷山が生えていた、それは九位階のヘイルを思い出させた。
その会場にはアレンと氷山の中に顔以外を固められた試合相手が立っていた。
「熱い」
アレンの方の氷山のせいで寒いと思ったら今度はBブロックの方で極太の火柱が上がった。
「何があったんだ……」
アレン達に何が?




